1205:ボス戦のお手伝い
「なるほど、指輪ガン積みの防御力に、魔法の弾幕とスケルトンネクロマンサー召喚ですか。二段階召喚で手数を増やしていくタイプみたいですね」
「そっちは人数いるから召喚に関しては一人一殺でも一人あまるんで、その間に指輪を外しに行くのもアリだと思うよ。指輪さえ全部外してやれば後は普通のスケルトンネクロマンサーと大差ないから、そこまで行く時間をいかに短くするかが大事だと思う」
「参考にします。確実に勝てるのが一番なので」
横田さんはぶつぶつ言いながら戦略を立てている様子。七人パーティーなので俺と横田さんはボス情報について話ながら、残りは結衣さんの指示の元でモンスターを倒しに行く。
「そういえば結衣さん達はお昼どうするの? また一端五十六層に戻って食事な感じ? 」
確認を取っておく。こっちはいつものところで食事の予定だが、結衣さん達は途中で戻るという可能性もあるからな。
「今日は深くまで潜る予定だからサンドイッチを大量に用意したわ。なのでそっちがいつも食べてる場所でお世話になってもいいかしら」
準備はちゃんとしてあるらしい。人数分の椅子はあるし問題はないかな。
「じゃあゆっくりいつものところで食べる感じでいこう。こっちも手早く動けるようにサンドイッチなんだ。具は違うものの料理が被ってしまったな」
「それまではずっと一緒に行動する感じなんですかね。それぞれで別れた方がより利益は大きいと思いますが」
芽生さん的には稼ぐことを優先したいらしい。
「じゃあ、お昼……十二時をめどに再集合する感じで別れましょう。そのほうがお互い稼げるし、そろそろスキルオーブもドロップするかもしれないから分配でああだのこうだのにならなくて済みそうだし」
「というわけで、また後で」
十分ほどの共同戦果を横田さんに渡しつつ、別れて行動することになった。そのほうが稼げるのは確かだし、ここのマップは六十層を除けば各階層に三パーティーぐらいいても問題ないぐらいモンスターは湧いてくれている。しっかり戦ってお腹を空かせてから行く方が色々と経済的だな。
「さあ、私たちは私たちで稼ぎましょう。今日の稼ぎは今日の稼ぎとして確保しないといけませんからね」
そういう芽生さんは新しい武器が何処までモンスターに通じるが試してみたいらしい。精々頑張ってもらおうかな。
◇◆◇◆◇◆◇
一時間半ほど経ち、そろそろお昼に集合しましょうという時間になったのでいつもの回廊の場所へ行くと、既に結衣さん達は到着していた。
「待たせたかな? 」
「五分ぐらいだしちょうど休憩してたから問題ないわよ」
早速人数分の机と椅子を出し、盛大に昼食を食べ始める。結衣さんのバッグから大量の食料と水が出される。水だけでは面白くないかもしれないのでこちらからコーラとかサイダーとかバリキドリンクの提供を行った。
「午前中の稼ぎはどんなもんでしたか」
横田さんから質問を受けたので、保管庫の中身を覗きながら大体の金額を告げる。
「なるほど……二等分で済むだけ一人あたりの稼ぎが多いってのは良いところですね。その分大変ではありますが」
「もう慣れたよ。今から仮にパーティーメンバーが増えたとして、どういう動きを担当してもらうのかってのもあるし、何よりメンバー募集をかけたところでモノになるまで時間がかかるからその間の稼ぎをどうするかってのもあるしね。確実にこれより先には行けない、と感じるまではこのまま二人で行こうかなって」
「メンバーの加入タイミングを逃したって感じですか。でも二人だからこそここまで来れたっていう部分もあったのでは? 」
「うーん……仲たがいする機会がなかったからかも? お互いに利用し利用されの関係はまだ続いてるし、なんだかんだで芽生さん居てくれると気分が楽だしね。一人で潜る時にふと、今いてくれたらどんなリアクションを返してくれてたか、なんてことを思う程度には依存してるんじゃないかな」
サンドイッチをパクつきながら感想を述べ始める俺。耳でしっかりこっちの会話を聞いて少し赤くなっている芽生さんが見える。
「とりあえず、午後は少し付き合ってくれるってことでもいいのかしら? 具体的には六十層ボス部屋までの案内ということで」
「それなら六十一層の階段まで地図を作っておいて、それから六十層のボス退治って流れのほうがいいかもね。ここで稼ぎ続けることもできるけど先には進みたいだろうし」
「それは、そうね。じゃあそこまで案内よろしくお願いするわ」
「その分戦闘きっちりこなしてこっちの分け前があるなら承諾しようかな」
食べ終わって水分を取りながらぼんやりとつぶやいておく。せっかく芽生さんが新しい装備で暴れたがっているのだ、出来るだけご希望には応えないといけない。ここまできておいて一緒だから利益も等分、では納得しないだろうしな。
◇◆◇◆◇◆◇
しっかり休憩を取った後、六十層へ向けて歩みを進める。そう言えば六十層まで潜り込むのは久しぶりか。五十九層までの地図は大体頭に入っているから問題はないと言えばないが、六十一層への階段の場所はちょっとうろ覚えだ。六十層まで下りたら一度確認をしよう。
道中は稼ぎたがりの芽生さんをふんだんに使っていく。平田さんもボスに向けて体を温めていきたいらしいので、メインアタッカーはこの二人、残りは三匹出た時にそれぞれ対処するという形で戦っていく。
戦いついでに解った事だが、どうやら以前うっかり入手して村田さんが覚えることになった【爆破】は物理攻撃ではなく魔法攻撃扱いになっているらしく、ガーゴイルにはほとんど効果がないことを教えてもらった。スキルは全部魔法耐性準拠の扱いなのかな。
リビングアーマーに近寄りタッチしてタッチしたところを爆破。素早く動いてリビングアーマーを仕留めていく様子は中々形になっている。撮れ高がある、というところか。爆破も中々派手で良いな。次落ちるか手に入れる機会があったら是非使ってみたいところだが、保管庫の中から射出したアイテムに爆破要素を取り込ませることができるかどうか、覚えてみないと解らないのもそうだが、もし射出されたゴブ剣が爆破を用いれる場合は、使い捨ての爆発兵器としての用途が新たに生まれることになる。これはちょっと見てみたいかもしれない。
芽生さんがちょっと疲れて来たらしく前衛交代の要請が来たので俺が前衛に回って、芽生さんには少し休みながらだらだらと体力を回復してもらう。念のためにドライフルーツも食べさせて疲れを抜いてもらっておく。強行軍できたためその分疲労がたまっているかもしれないからな。
「ふー……やっぱりドライフルーツは癖になりますねえ」
「さて、ここからは俺のダイエットの時間だな」
いっちょやりますか、と圧切を手に戦闘に入る。リビングアーマーを雷撃でまとめて処理し、ガーゴイルは近づいた傍からスパスパと切り裂いていく。石像は平田さんが【硬化】をうまく使って防御も攻撃も問題なく往なしている。これは結構楽にボスまで行けそうだな。
六十層に下りる。ここからは必ずモンスターのグループに石像が入り込む面倒くさいゾーンである。
「ここからは石像必ず出てくるから注意ね」
「一度来たことがあるので大丈夫です。平田さんにそのまま任せます」
「ボス戦前に休みがもらえるなら引き続きやりまっせ」
モンスターそれぞれに役割分担が出来ているので、俺だけ石像ばっかり相手にしている、という不満はこのパーティーでは上がらないようだ。
六十層をまずボス部屋前まで掃除しながら歩いた後、地図を確認。六十一層の階段までの道筋を進んで階段の場所を確認した後、ボス部屋前まで戻ってきた。
「さて、ボスでんな」
「さすがにちょっと緊張するね」
「攻略法は教えてもらってるし、うまく噛みあうと良いんだけど」
「安村さん、一応ドライフルーツ貰っていいですか」
「ちょっと休んでから行きましょ。出来るだけ万全な態勢で行きたいわ」
ドライフルーツを全員に配り、ウォッシュをかける。気分的な問題だが、体も気持ちいいほうが楽に戦えるだろう。
「安村さん、ウォッシュの腕前上がりましたね。前より素早く心地よくなった気がします」
「散々使ってるからかな? 」
生活魔法が二重化しているのはまだ芽生さんにも打ち明けてない。使い続けて上手くなったことにしておこう。
五分ほど休憩した後、ヨシと声を上げて立ち上がると、一同が中へ入っていく。今回は観客として乱入するのもなしだ。ただ純粋に外で応援する側に回ろう。
「うまくいきますかね」
「ダメージさえ受けなければチャンスは何回でもあるし、最良なら数分で終わるボスだからなあ。早めに出て来ることを祈るしかないかな。向こうのスキル構成を全部知ってるわけじゃないから一言でこれならいける、と言い切れるほどのものじゃないけどそこそこは苦戦する可能性はある。魔法乱射をうまくよけきれずにダメージ、ぐらいは予想しておこう」
◇◆◇◆◇◆◇
十五分ほどして、中からみんなが出てきた。結衣さんのほうを見ると、Vサインをしてきたので無事に討伐は終わったらしい。が、所々ダメージを受けているのは間違いないらしい。
「思ったより魔法が強力だったから苦戦したわ。魔法耐性一枚じゃ足りなかったみたい」
よく結衣さんを観察すると、レザーアーマーの所々が焼けている。避けようとして失敗したのか、試しに喰らってみてこれはヤバイと鎮火したのかまでは解らないが、よく見ると平田さんも軽くやけどを負っている。
横田さんが杖のようなものを持ちながら最後に出てきた。どうやら向こうのドロップ品は杖だったらしい。
「ボス攻略の印ってこれで良いんですかね」
「俺達の時はマントだったから何種類かあるのかもしれないな。もしかしたらだけど、リッチの所持品のうちどれかがドロップ品、ということになるのかも。指輪は回収した? 多分確定で一個落とすと思うんだけど」
「それは回収しましたね。ということは六十層のボスにはコレクション要素があるのかもしれません。もしかしたら王冠もドロップするかもしれませんね」
ボス周回して全部集めたら何事かあるのかもしれないが、そこまでは現状では解らないし、ダンジョンマスターに質問して変な答えが返ってきても困る、ここは素直にボス撃破を喜んで解散するところだろうな。
とりあえず全員に再びドライフルーツを配りウォッシュ。流石にドライフルーツでは回復しきれない精神的な疲れはどうしようもないので、少し休憩した後そのまま一旦五十六層まで見送る流れになった。
俺と芽生さんで先陣を切ってモンスターを叩き壊していく。後の五人は時々手伝う感じで進んでいくため、ドロップは基本的にこっちのものとすることが出来た。
結衣さん達はボスを無事に倒す、という目的を達成したことで満足したらしく、帰りの分は倒した人が倒した分だけ持ち帰ろうということで合意が取れたのでこっちの収入は充分に増える。道中で指輪もきっちり拾って収入は確保。金額的にはそれほど大きなものにはなってないにせよ、こっちの稼ぎは稼ぎでちゃんと確保させてもらえてるのは悪い話ではない。
五十六層まで戻ってきたところで結衣さん達と別れる。ボロボロの状態だが、とりあえずこのまま反省会をした後装備の見直しやら何やらを行うらしい。身内感覚とは言え他所のパーティーのあれこれに口を出すのは憚られるのでここで別れてこっちの二人は五十七層へ再突入。時間いっぱいまで稼いで帰ることにする。
ここからは延長戦だ。時間ギリギリまで稼いで帰るぞ。まだ二時間ほど余裕がある。ギリギリまで粘って稼いで、今日一日で三億という目標達成は難しくなったが、近いところまでは稼いでおきたい。
「もうちょっと……もうちょっと……」
芽生さんのほうは完全に体に馴染んだらしく、俺に当たらないように槍をグルグル回しながら次のモンスターを探しに高速で五十七層を走り回る。俺もそれについていく。ガーゴイルはあっという間に鱠斬りにされ、リビングアーマーも芽生さんの複合魔法で見る影もない形にされていく。これもう芽生さん一人でもいけるんじゃないかな。
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