1201:ダンジョン誘致調整会議 一回目 2/2
side:ダンジョン庁外務省国交省ダンジョン誘致対策会議
「では、改めて資料の十二ページだ。現在我が国の周囲にいてくれている元ダンジョンマスターは二名。白馬神城ダンジョンのダンジョンマスターであるリーン氏……見た目は小さな子供らしく、ダンジョン管理のために作られた人工生命体であることは確認されているし、ダンジョン内をうろついているところを発見されたこともあるからして、精神年齢はそれほど高くないと考えられる。それと先日会談に応じてくれたセノ氏、こちらは話がしやすくお互いに意思疎通もできたことは先日の会談で確認済み。彼らの今後の活動にも関わっているとは思うが、ダンジョン建設候補地をどこに持っていくかで話が変わってくる。熊本第二ダンジョンみたいに同じ場所に建て直してもらうのが一番面倒が無くて良いのだが、セノ氏の場合は去年になって発見されるほどの過疎地帯にダンジョンを建てていて今年無理矢理踏破したダンジョンだ。同じ場所に作ったとしても探索者を送り込める可能性はゼロに近い。そこで、国交省や企業とも相談した上でダンジョンに探索者を送り込むための施設を建造してそこにレッドカーペットを敷いてダンジョンをご招待願いたい、というのが今会議の主目的だ」
真中がざっくり説明する。要はダンジョンを作りたい、作らせたい、ぜひここにという場所を作って、そこを中心にインフラを再整備するという案が浮上する。
「この場合、各自治体に働き掛けてショッピングモールを誘致するようなイメージで良いのか? もちろん宿泊設備やそこを訪れるまでの公共交通機関の手配なんかも考えると結構大規模な話になる」
「ショッピングモールは勝手についてきてくれるものとこの際思ってくれていい。探索者は金を持っているからな。探索のついでに店によって買い物をして帰ってくれれば御の字ってところだろう。確実に必要なのは現場までの交通手段と住居やホテル、それから銭湯あたりかな。規模は……ダンジョンの広さに比例するから何とも言えないが少なくとも百台二百台程度の駐車場ではすぐにパンクしてしまって限られた人数しか潜れないことになるので、その際の交通手段としてのバスや鉄道が必要になってくるだろう」
「確かにな。大手ダンジョンだと千台分ぐらいは確保しているらしいし、そこに並ぶまでとは言わずとも半分ぐらいは欲しい所だな。さしずめダンジョンタウンってところか? 」
「ダンジョンだの探索者だの言っているが、ぶっちゃけていうとこれは大企業の工場誘致とあまり大差がない。大きな職場が出来るからその職場の周りに住宅や便利な施設が出来ていく、という流れで説明すれば納得してもらえるかな? 」
「なるほど、その企業誘致の場所をどこにするかって話なら他にも説明が付けやすいな。さすがファンタジー好きは発想の転換が利いてる」
久多良はなるほど、企業誘致か、それならそう難しい話ではないな、と独り言を漏らす。
「しかもただの企業誘致で済む話ではない。ダンジョンのドロップ品の査定額は全国共通だ。つまり探索者における同じ作業についての賃金格差はゼロに等しい。そして、日本の財政が許す限り金を吐き出し続けるシステムになっている。財務省あたりが苦言を漏らすぐらいはするかもしれないが、この企業誘致の成功は極めて高い段階にある。むしろ向こうからやってくれと言われているのが実情だ。出来るだけ早く企業誘致に入る場所を決めることで、より有利な形で話し合いに持ち込める公算が高い。これをゆったり待たせて手が回らない内に、今度は逆に海外から日本のダンジョンマスターに対してアプローチを仕掛けてくるということも考えられるから早急に候補地を見繕ってもらいたいところなんだ」
「この話、表に出していいのか? 今真中の言ったことをほぼそのままで」
「むしろ出すことで手早く決まる可能性もある。都心部に限らず、地方都市でも問題ない。ショッピングモールが廃墟になっているなら、そのショッピングモールをそのままダンジョンにしてしまうなんてこともアリだからな」
真中の鼻息は荒く、非常に興奮している。久多良は落ち着けよ、と真中を抑えつつ、自分なりに解釈した意見を出す。
「つまり、現状で全国の自治体や企業に訴えるわけだな。ケツ持ちを国家がやってくれる商売があるので一口乗りませんか? 多分儲かりますよ? と」
「そういうわけだ。面白いだろ? 」
「面白いが、せっかくなら経産省も巻き込んでダンジョン経済政策として一枚噛ませてやるぐらいはやっておいても良いと思うぞ。こっちがタッグを組めば財務省の横やりが入ってもこっちが折れないように取り計らう事だってできるかもしれない。それに、通訳をしていたのは四十代の実質おじさんだ。おじさんでも活躍できる仕事内容と来れば、仕事がないと言い張る連中にも雇用を促進させることができる。これで厚労省も一枚噛ませられる。かなり規模の大きい話をぶち上げられるということになる。日本経済の立て直しの中核としてダンジョン式経済を回すってのも難しくない話には持ち上げられるだろうな。ただ、その為にはいくつか条件がある」
久多良は真中を落ち着かせると咳ばらいを一つしてから落ち着いて話す。
「まず、書類にあるようにダンジョン一つにつきダンジョンマスターは一人だ。ということは現状は二ヶ所しか誘致できないということになる。それが第一の問題、第二の問題は、まだ一般に広くダンジョンが危険なものなのではないか? という不安が払しょくし切れていないということだ。ここは努力して説き伏せるしかない。ダンジョンマスターのアーカイブ配信をみんなで見てそれで納得してもらうぐらいしか解決法がない。第三の問題は、それによって探索者が増えるのか? という疑問だ」
真中は冷静になったのか、襟もとをただすとなるほど、という顔をする。
「確かに探索者の人口が増えるかどうかはまだ解らない所だ。ただ、場所によっては探索者が過密過ぎてモンスターに中々ありつけない場所もある。そういう所の近くの自治体にもう一個ダンジョン作りますか? と持っていくならどうだ」
「それならありうる話かもしれんな。ダンジョン庁から各ダンジョンの広さと人口密度に関する情報を提供してもらってから検討に入る、というのが筋道だろうな。それによってダンジョン誘致の候補地を絞っていくのはありかもしれん。だが二ヶ所だけというのは少々規模として小さい。それに、資料によればダンジョンマスターはダンジョン間の移動をするためにはダンジョンが手持ちに無い状態である必要があると書いてある。外務省としては、常にフリーのダンジョンマスターを確保しておきたいところではないのか? しかもちゃんと話が出来る奴を」
小林はようやく話についてこれる段階になったのか、はっと気が付いたように座りなおした。
「そうですね。話を聞いている限りですとセノ氏には引き続き橋渡し係になってもらうか、特定のダンジョンの特定の地域で常に出会えるような体制であることが希望するところです」
「そうなるとダンジョン候補地は今のところ一か所しかない、ということになる。この問題に対してどう対応していくか、そこを何とかしてほしいのよ小林君」
「え、僕ですか? 」
真中と久多良が同時に頷く。
「今こそさっき作ったばかりのホットラインを使うのさ。海外で踏破されて現在ダンジョンを作っていない、暇な元ダンジョンマスターをこちらに引き抜いてくることができるかどうかをセノ氏に確認してもらうんだよ。もしセノ氏が海外の元ダンジョンマスターの興味を引くことが出来れば、こちらの手ごまは増えるし日本のダンジョンの数も増える。職場は多いに越したことは無いからね」
「なるほど、あっちでは二桁人数のダンジョンマスターが暇している可能性が高いですから、こっちのいい様にダンジョンを作ってもらえないかと勧誘するわけですか。で、その苦情は外務省で処理しろとそういうわけですか」
「大体そんな感じ。まず、やってみる所から始めようか。ちゃんと外務省もダンジョン庁に対して一枚噛んでいてその分の対外的利益……この際ダンジョンに対してでも良い、利益を出す方法を提供することで君もちゃんと仕事した、と胸を張ることができる」
「他の職員の手が忙しいことにはなるでしょうが、外交官としてはちゃんと仕事をしたことにはなりますね」
小林は納得がいくようないかないような微妙な表情をしている。なんだか、真中と久多良にいい様に扱われているような気がしてきたところだ。
「というわけで、資料の十五ページ、第一段階として土地の選定、第二段階としてダンジョンの構造……これは私の担当するところだな。どんなダンジョンを作るのかというものについて、探索者に要らない危険が及ばない範囲でどんなダンジョンを作っていくことにするのか、というのを意見としてダンジョンマスター側に進呈する作業だ。それが終わり次第第三段階の実際にその土地にダンジョンを建ててもらうというものになる。第四段階が、その後で周りがどう発展していくのかを実際に肌で感じてもらって周辺地域が変わっていくさまを観察する。この四段階のプランで行こうと思う」
真中は胸を張って資料の最終ページの今後のダンジョン運営についてと書かれた資料をバンバンと叩き、自信があることをアピールしている。
「とりあえず俺はダンジョン庁から追加の資料をもらって何処のダンジョンに人が集まっているのかと、人口に対する売上比なんかを見極める作業から入ることにするか。ところで、その新しいダンジョンってのは通信は出来るんだよな? 」
「おそらくできるようにはなっていると思うし、第二段階の構造プランの作成、プレゼンの段階ですべてのダンジョンに通信機能を持たせたものを用意してもらうことになっているはずだ。もし頑固なダンジョンマスターが居てそう言ったものは好きじゃないと言われたらその限りではないが、まあ主目的を受け入れるという意味では気安く受け止めてくれることになるんじゃないかと予想している」
真中としては、エレベーター付き通信付きという二段構えのダンジョンを今更断るダンジョンマスターは今のところ居ないと考えている。もしこれを断るなら、エレベーター無しで未だに黙々とダンジョンを作り続ける作業をしているのではないだろうかと考えている。
「厚労省と経産省と外務省と……結局ほとんどの省庁巻き込んだ騒ぎになるのはこの際仕方ないのかな? 」
「まあ、やりたいことを自由にやろうとしたらそのぐらいは巻き込んで精々世間を賑わせてダンジョンを賑わせてみんなで幸せになろうじゃないの」
「真中さん、活き活きとしてますね」
「本人はやりたいことをやってるんだからそりゃ楽しいだろうさ。俺達に出来るのは暴走する前に知恵を入れて適度に冷やしてやることと、精々こき使われてやることぐらいだろう。小林君も災難だね、こんなのが先輩で」
そう言われるが、小林もそう悪いことではないと考え始めている。ダンジョンについて今後数百年から数千年の長期にわたる現象の最初期に立ち会えて自分がベースを作ることになることについては認識してはいたものの、こんな頭イカレ先輩の付き合いで始まってしまった大事も乗り切ることが出来たならそれこそ一つ階級も上がって部下もつくかもしれない。そう、悪いことではないのだと考えることにした。
「海外のダンジョンマスターのスカウトが上手くいけばこれもうまく回ってくれると嬉しいんだけどね。まずはそこで躓いたらまずいし、この手のやりくりは海外のほうが手が早かったりするからな。出来るだけ早めに、今すぐ安村さんに伝えるぐらいしないとな。よし、すぐやろう」
真中はウキウキで安村に連絡を入れる。が、まだダンジョンの中らしく通話は出来なかった。仕方がないので次は安村がまだ地上に居そうな時に連絡を入れることにしようと考えた。
この暴走を止められそうな人材は、今のところ出張で別の場所に行っている。多田野さん早く帰ってこないかな、と考える小林であった。
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