1195:家に着いて
ダンジョンで潮干狩りを
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帰還勇者の内事六課異能録
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早速家に着いてスーツケースを保管庫から取り出すと、着替えをまとめて洗濯してスーツを脱いで部屋着に着替える。三日間のお仕事無事に終了。まだ夕飯には早いので少しボーっとしたいところではある。
「通訳のお仕事お疲れ様でした」
ソファーに座るとちょこんと真横までにじり寄ってきて、腕を組みだす芽生さん。
「なんだ、妙に今日は近いじゃないの。しばらく会ってないから寂しかったとかそういうのか? 」
「それもあるかもしれませんが、テレビに出るほどの有名人が隣にいると思うとちょっとだけ優越感みたいなものがありますね」
素直に白状したので頭をなでて褒めてやる。笑顔で気持ちよさそうにしているのでヨシ。
「中々ニュースになってますよ。やはり世界初の会談ということで色んなメディアも注目していたらしいですが、入り口で追い出されたメディアも複数いたらしいです」
「ああ、俺も間近で見た。そりゃ、あらかじめ探索者証持って来いよと注意されていたにもかかわらず持ってこなかったメディアと、普段からそういう所につながりを持たなかったのが全ての敗因だな。ダンジョン研究家の弦間さんはちゃんと前線でスタンバイしてて俺に個人的な取材まで申し込んできたというのに」
「弦間さんって時々テレビで見る人ですよね。実物はどうでしたか」
「飯奢ってもらった。やはり奢りの飯は美味いな。店のチョイスも中々素晴らしいものがあった。最前線で報道やってる人にはああいう人材が必要なんだなとちょっと思ったよ」
お土産を順番にローテーブルに積み上げながら出来事を話す。結局消え物のお土産は十種類ほど買ってくることになってしまった。若干芽生さんも呆れている。
「いっぱい買ってきましたねえ。いくら保管庫持ちとは言え、これだけのものを毎回保管庫に入れてたらバレてたんじゃないんですか」
「そこはそれ、一挙一動を監視されてたならともかく、列車に飛び乗った直後とか角を曲がった直後とか、そういうタイミングで少しずつ荷物を減らしていった。具体的には袋だけ外に出しておいて中身は保管庫の中に入れるとか。色々手品のタネはある」
「なるほど、袋に入れてもらってそのままぶら下げていれば、中身も当然入ってると周りは思いますからね。そこから中身だけ消して楽してるなんて風に思う人はそうそう居ないでしょう、それこそ【保管庫】の存在を疑ってる探索者でもない限りは見逃すでしょうね」
「結衣さんが来たら分配をやろう。それまでは……精々この感触を楽しませてもらうか」
芽生さんに抱き着く。胸の柔らかいところが俺の顔を包み込んでくれる。うむ、シレオーネさんも中々のものだったがこちらも負けてない。そして文字通り手に届く場所にある分こちらのほうに分がある。
「もしかして、大分お疲れですか? 色んな意味で」
「そうだな……人の多い所に出て疲れたのと、俺自身もいくつか質問を受けたのにこたえるために神経をちょっとすり減らしたのと、弦間さんに個人情報が及ばない範囲で情報提供したのと……まあ、色々あったよ。あと、鬼ころしの本店にも行ってきた。品ぞろえ凄かったなあ」
「その辺は結衣さんが来てからまとめて話してもらいますかねえ。とりあえず、よしよし、頑張った頑張った」
今度は逆に頭を撫でられる格好になった。いい歳こいて恥ずかしいとも思わないのは、純粋にまだ疲れてる証拠なんだろうな。しばらくそのままいちゃいちゃしていたらガレージのシャッターの音が鳴る。結衣さん来たかな?
「結衣さんかも、ちょっと出て来る」
玄関へ行くと、予想通り結衣さんが到着していた。
「おかえり、結衣さん」
「おかえり、安村さん。見てたわよ中継」
そのまま中へ連れ込み、芽生さんと結衣さんの間に俺が挟まる形でソファーに座る。
「とりあえず忘れないうちに、お土産の分配しようか。食べてみたいものもあったんだ」
お土産を順番に開封しつつ、人数分で小分けしていく。本当にいろいろ買ってきたな俺。チーズケーキとか和洋折衷されたお菓子とか、サンドクッキーやフィナンシェ、基本中の基本の東京ばな奈とか様々だ。小分けに出来る形のものを買ってきたので数でもめることは少ないだろう。後、明日ダンジョンに行く予定なのでギルド向けのお土産も一つ開封せずに置いた。これはギルド向け、と。
「むぐむぐ……やはり定番は外さない味ですねえ」
「あむ……みんなの分はみんなの分として残しておいて、余りが出る分は今食べても問題ないわよね」
「もぐ……そっちで分配したいだろう物は個数買ってきたから適当に人数分持ってって。夕食は夕食で買ってきたからおやつにはちょうどいいな」
それぞれお土産を早速食べながら、自分の分はそれとして確保し、剰余分をこの時間のおやつとして胃袋に納めていく。
「で、どうでしたか高輪ゲートウェイ官民総合利用ダンジョンは」
「何と言っても広いな。一層であの広さなら下層へもぐりこんでいくのが大変なのがよく解る場所だ。そりゃ小西ダンジョンで先に潜るのが楽なのはわかる、ってぐらいの広さだった。実際に会場にした広場っぽい所まで歩くにも十五分ぐらいかかったし、結構なガヤが入り込んでいたのにそれでもまだスペースがあったのがその証拠だな。よくあんな広い所に無線通信設備を導入しようとしたなと感心したよ」
ばな奈の新味を試す。これも中々美味い。冷えてるともっと美味しいんだろうな。ちょっと残りは冷蔵庫に入れておいてちまちま食べるか。
「とりあえず今日は何するんですか? さすがに今から潜りに行くということはなさそうですけど」
「そうだなあ、スマホではちょっと確認しづらかった世の中の反応というのと、俺がどのぐらいまでバレてるのかは気になる所だな。後、放送がアーカイブされてるらしいからどんな感じなのか見ておきたいところだな」
パソコンを起動してネットにつなぎ、早速ダンジョン関連のニュースから、アーカイブにつなぐ。放送を横目にしつつ、お菓子の消費と雑談で過ごす。
「あ、今チラッと映りましたね」
「どれどれ……あ、ほんとだ。ちゃんと映ってるな」
「そろそろマイクチェック入りますよマイクチェック」
マイクチェックに失敗し、俺がマイクを奪い取ってマイクチェックを通すシーンになった。
「俺、こんな声なのかあ」
「カラオケでもその気になれば聞けますけど、自分が発音してると思ってる声と実際に出てる声は違うそうですからね。違和感があっても仕方がないという奴です」
「私たちが惚れてる声だから気にしなくていいと思うわよ」
そう言われるとこの声に納得しておく必要があるだろうな。ここから色々と質疑応答が始まる。コメントもアーカイブされていたので横で流れているコメントを見ながら再生しているが、やはりというかなんというか、通訳なら女性使えとかオッサンの声は良いから彼女たちの声が聞きたいというコメントが殺到している。
「やっぱり要らない子だったかもな。真中長官にそのまま通訳してもらった方が良かったのかもしれんな」
「それだと発言の正当性が担保されませんからね。それにしばらく後で言ってましたけど、信用できる探索者に通訳を頼んだとまで言われてるんだからちゃんと仕事をしたと胸を張っていいと思いますよ」
うむ……そうか……それならばよし! としておこう。
自分の声もそうだが、セノやシレオーネさんの声、つまり翻訳を通さない地声はこんな感じなのか、という感想を抱きつつ、自分の通訳が引っかかっていたりしないかどうか、自己反省の意味も含めてチェックしていく。
「ミルコ君もこんな感じで、よく解らない音声で喋っているんでしょうか」
「そういうことになるだろうな。その内言語学者か何かが乗り込んできて、ダンジョンマスターにあいうえおを順番に言わせて言語の解析から言葉の意味なんかを理解していくという手順を踏む事にもなるんだろうな。それはそれで交流として大事なことだとは思うが、そんな学者が探索者やってるかはまた別の話になるか。やはりこちらの世界にある言葉の壁ってのは結構厚い。向こうの文明は共通語一つでやりくりしてるようだからその点で言語的壁は比較的簡単に取り除かれそうな気がするな」
流れてくるコメントにいくつか気になる点が出てきた。何で現代火器がモンスターに効力が及ばないのかとか、エレベーターの位置はどうやって決めているのかとか、たしかに質問として考えてないところがいくつもあるな。ダンジョン庁も抜けてるのか、それともダンジョンでは現代兵器が効果がないという先入観が最初にあるのでもうそういうものなんだと納得してしまっているのか。
ダンジョンだから不思議はない、というそのコメントに対してのレスが付いている部分もあり、この数多いコメントの中では埋もれてしまったが、たしかに気になる所ではある。今度思い出したら聞いてみるのも一興だな。もしかしたら人類側の肉体を通して浄化という効果に変わっているとか、それなりに理由があって現代兵器が効かないという設定になっているのかもしれない。とりあえずメモっておくか。
「そういえば、今回の会談って結局何が目的だったんですか? イマイチその辺が確認できなくて。ほら、私たちにとってはもう当たり前の情報じゃないですか。それを再履修させられただけのような気がしますが」
「それは、ダンジョン関連の仕事をしてない一般人に対しても、ダンジョンというのはこういう仕組みで出来ていて、ダンジョンマスターというダンジョンを管理する人が居て、彼らはこういう背景があってこの星にやってきてダンジョンを建設した。そう言う話を広く一般に知らしめるため、というのが一つだな。ダンジョン知らない人にとってはダンジョン何それ美味しいので終わる話だけど、実際に彼らの口からそれを語ってもらった、というのが何よりの証拠ということになる」
「ふむふむ」
「マスコミを大々的に呼んで発表したのもその一端ということになる。本来ならこんな短時間に気軽にやることではないんだろうけど、異文明とのコンタクトを取っていました、今までこっそり交流してて黙っててゴメンという意味もあるんだろうけど……お、セノが人化したな。こういう視覚的なギミックも取り入れることによって明らかに我々とは違う摂理で行動できる人たちがいる、というのはインパクトとしても充分捉えることが出来たと言えるな」
やった価値は確かにあった、と思う。テレビのニュースでもまだダンジョンについてのニュースがお茶の間を賑わせてはいるし、ダンジョンに一切かかわってこなかった人にも伝わったという意味では大事な会談だったろう。
「探索者関係以外で見てる人居るんですかねえ。コメントを流し読みすると探索者ばっかりにも見えますが」
「どこかの配信者が同時配信してたりするんじゃないか? 探索者じゃなくても話題に乗っかって自分の視聴者数を稼ごうとするのも居るだろうし、そういうのも探してみようや」
流石に実況スレはもう落ちてるか。話題は実況スレから探索者総合スレに移ってそうだな。ネットの書き込みを探すならそっちの方がいいだろう。小西ダンジョンスレも眺めてみるが……うん、まあ、今はそっとしておいてくれって感じだ。声からバレるだろうことは予想していたし、時々チラッと映るスーツ姿で特定されるのは時間の問題でもあったし、日々顔を合わせてる人たちにはバレバレだっただろうことは予想済みだ。
後は……ダンジョンマスター妄想スレだが、妄想が何処まで現実になったのかは気になる所ではあるが、覗いたら負けだと思っているので覗かない、ただスレ数が伸びているので、セノの登場でケモ派が大歓喜したのであろうなということは伝わってきた。やはり業が深いスレなのか、総合スレからも盛んにそっちの話がしたいなら妄想スレへ行けと誘導されている。
スライムを入口へ投げつけ続けてダンジョンからモンスターが溢れないかどうかを監視するスレだが、今回の会談ではっきりモンスターが飛び出すことはないと明言されたことで、スレ落ちを機に解散するらしい。今までお疲れ様。地味だが君らの安全の担保はダンジョンの活動については大事な試験だったよ。その努力と日々の書き込みには大いに称賛の声を送りたいと思う。
後はなんだろう……なるようになれ、かな。ここまで露出して今更小西ダンジョンで細々と潜ってました、これからも細々と頑張りますでは通らなくなるだろうし、多少ダンジョンに潜るのに余計な茶々が入ったりする可能性はある。それをどうはねのけていくか、そこにかかってくるな。一丁気合を入れて頑張ることにするか。
作者からのお願い
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後毎度の誤字修正、感謝しております。