1194:再・鬼ころし本店 2
ワイバーン以外にも色々見て回ったが、インパクトではやはりワイバーンの装備に敵う物はなかった。ただ、廉価品としてワイバーンの鱗で急所中の急所は覆いつつ、他の部分はカメレオンダンジョンリザードの革で覆う、といったものもあった。買う予定は一切ないとは言え、これだけの商品があるんだから存分に見て回ってインスピレーションを得て、何処かの誰かに提案を求めて製品を作ってもらう、というのも手だろう。
ダンジョニウム合金の小手も展示されていた。流石に全身防具にダンジョニウム合金を使うのはもったいないのか、それともまだ防具に適した合金配合が生み出されてはいないのかまでは解らないが、ダンジョニウムブレストプレート的なものはその内開発されて世の中に出回るだろう。もしかしたらほかの店では既にあるが、たまたまここでは取り扱っていない、という可能性もある。
圧切だってまだ一般的に出回っている商品ではないし、もうちょっと時間が必要なのかもしれないな。しかし、肘当てぐらいは仕込んでおいて最悪のタイミングでモンスターと近寄った時に肘撃ちして怯ませるぐらいのことはできるんじゃないか、程度の考えは思いついた。効果がありそうなのは肘撃ち、膝蹴り、つま先蹴り、あたりか。深層では役に立ちそうにないものの、そこまで行く過程でのモンスターには充分効果的ではないかとは考えている。
階段を下りて五階へ。五階は靴と手袋のコーナー。やはり人間の足のサイズが色々ある分、靴売り場は広い。そして靴売り場でちょっとかっこいいと思ってしまったのが、つま先からナイフが飛び出るタイプの靴だ。安全靴の隙間にナイフを仕込んであり、特定の動作を靴に与えることでカシンっとナイフが飛び出てつま先蹴りの威力を担保してくれるものらしい。男の子の血が騒ぐな。
ナイフの中身も選べるようになっており、ただのナイフからダンジョニウム合金のナイフまで様々。靴のサイズと中の刃のサイズ、材質で値段が変わるらしい。
個人的にはものすごくほしい一品ではあるが、誤動作が怖いのと、メンテナンスする為にはまたここまで来なくてはいけないのではないか、というのが頭に引っかかってくれたおかげで散財をしなくて済んだ。
つま先からナイフ……いいよね。
手袋のコーナーに来た。材質は色々。カメレオン革の手袋もあったが、ちょっと肌触りがお好みではないな。色々試してみる。ダンジョン材質だけではなく、ガラス職人が使ってるような厚手のものから薄手だがダンジョン素材で着けてないような気分の内側にダンジョンスパイダーの糸で編んだ内布を張り付けた手袋もある。
今の俺はボア革のみの手袋を使っている。手袋か……より手に馴染むようなら交換してみるのも悪くはない。手袋ぐらいなら清州店にも陳列されているだろうし、ここで入手してみて使い心地を確かめてみるのも悪くはないな。
外からの手触りは中々に良い。ちょっとはめさせてもらって……うん、肌触りも悪くない。今着てるワイシャツもそうだが、絹布をまとっているようだ。この手袋は……四万か。高いのか安いのかでいえば高いが、より効率的に体を動かしたりちょっとした動作が早くなったり、手の握りなんかを確認し、そして手袋を軽く引っ張ってみる。うむ、引っ張り強度も悪くない。手袋をはめたままぐーぱーしてみたがそれも違和感がない。
これは、買いなのでは? 普段頑張ってる俺への御褒美として、より肌触りが良く、それでいて滑らないならこれも一つ手袋を買い替えてみたということで、経費でも落とせるし有りなのでは?
ちょっと試し遣いということで一つ……いや、二つ買って帰ろう。気に入った時に使いまわすための二つだ。使わなければ今まで通りボア革の手袋、手に馴染んでしっかり戦果を挙げてくれるならダンジョンスパイダー手袋。それぞれ試してみるのも悪くない。よし、決めた、これ買おう。サイズは少し小さめのものにしておいて、手に馴染む間に少しずつ伸びていくのでそれでちょうどいい感じになるはずだ。
税込み八万円お買い上げ。鬼ころしは税込み価格で全部表示してくれてあるので非常にわかりやすくていい。
そのまま階段を下りて四階、火の周りだが……最近はダンジョンで料理をしないのでパス。一度見て回ったし、今のところで欲しいと思ったものは特に見当たらなかった。そういう階層もある。後日、あそこであれ買っておけばよかったと後悔する可能性もあるが、それは今インスピレーションが浮かばなければ意味がない。
最近はめっきりダンジョン内で料理をしなくなったおかげで、自宅料理が捗る。そして自宅料理用のアイテムはそのへんの一般雑貨店や、時々テレビの特集なんかでやる便利グッズを参考にすることで事足りてしまっている。今の俺に必要なのはこの階層じゃないな、と階段をもう一つ下りる。
三階も四階とほぼ同じ理由でパス。一回通ってお、これは? と思う商品に出会わなかった昨日を考えると、ここも同じ理由でインスピレーションを仕入れられるようなものはないと判断。次へ行こう。
二階はアウトドアショップ。ダンジョンでアウトドアするのは食事の時と仮眠の時だけになってしまっている現状を考えるとここもあまり見回ったところでピンとくるものはないだろう。が、一応見回るだけ見回ってみる。
釣竿みたいな細いロッドが四本と綺麗に折りたたんだ防水シートだけで作れる簡易テントが売れ筋の模様。確かに、風を遮れて視界をシャットアウトできればいい、という仮眠だけのダンジョンにはこれはちょうどいいかもしれない。ロッドも金属製でそこそこのしなりと強さを保持しており、ポン立てテントよりも強度も広さもある。むしろいい商品だとは思うし、だからこその売れ筋商品なんだろう。だが、保管庫からまとめてポンと組み立て済みのテントを出せる今の俺にはあまり必要がないものではある。
テント以外には空気で膨らませるタイプの布団というものもあった。極限まで薄くした布団に空気の層を含ませることで温かさを保持しつつ、適度な重さを両立させることが出来ているらしい。流石に試し寝というわけにはいかないだろうが、これも保管庫のダーククロウスノーオウル布団で解決してしまう。
こう考えるとつくづく保管庫のチートっぷりがよく解る。重量換算最大千トン、その気になればキャンピングカーをそのまま持ってきてそこで寝る、というパワープレイどころか、コンテナハウスごと持ってきても問題ないぐらいの威力を誇るのだ。
寝床は出来るだけ同じ方が寝慣れた感じがでて良い。それに、ここでいいものを手に入れてしまったら清州店にお願いして本店でこういう商品があったので取り寄せで買わせてもらいたいと伝えて取り寄せの形で購入という手間がかかることになる。テントの買い替えは今後も地元のホームセンターで、だな。
一層まで下りてきた、最後に回した理由は至極簡単な理由で、ここで一番買い物をしてしまいそうだからである。消耗品やお土産、探索グッズに限らずダンジョン産の肉の加工品等、多岐にわたる商品がかなりの量陳列されている。俺の料理レシピもここでインスピレーションを得て数と練度もグッと上がる可能性がある。さあ、しっかり見て行こう。
◇◆◇◆◇◆◇
いやあ、買った買った。なんだかんだで色々買いすぎた。カニ缶が販売されているであろうことは想像してたが、まさかエンペラの加工品まで売っているとは思わなかった。このエンペラは俺が取ってきてギルドに査定にかけた一品であることは現在のダンジョンの踏破状況から考えても間違いはない。一周回って帰ってきてくれた感じだ。お帰りエンペラ、後で美味しく頂くからな。
お値段はどっちもそれなりに高いが、俺の札束の前では安い範疇に入る。特にエンペラの加工品は今後エンペラ料理として小鉢品を作る際に非常に役に立つだろう。どんな味付けになっているのか非常に気になる所ではあるが、ツナ缶サイズで三千円したのはさすがに高級食材というところだろう。まだまだ希少品ではあるので、今後俺がエンペラを取りに回らない、という話になればこの商品も消えてしまうことになるわけだ。ちょっと責任感が湧いてきたな。たまには六十三層にも行こう。
手にぶら下げた買い物袋を地下鉄の階段を下りながら、中身を保管庫に少しずつ移動させていく。最終的に各袋に一つずつしか入っていないような形まで圧縮すると、両手の重さは非常に軽くなった。後は昼食を色々買いあさって保管庫に詰め込んでいこう。
手近にある店を検索しながら、地元にはないチェーン店のバーガーショップを順番に回っていく。一番売れ筋っぽいバーガーを頼んでいけば間違いはないだろう。一番オーソドックスな奴と売れ筋のバーガーを見繕うと、それぞれの店舗で注文し受け取り、受け取った先から見られないように保管庫に収納。
百倍時間が長持ちするのだから、美味しく食べられる時間が一時間しかなかったとしても、これで四日分ぐらいは担保することになる。もし冷めちゃったと感じてもレンジで温めて食べ直せばいいのでいつまでもとはいかないが十数軒回って買いに走ることにする。
よし、次は隣のドーナツに行こう。ここも自宅周辺にはないお店だ。気に入ったチョコレート系のドーナツを三つ買うと、店から出て次の店へ。歩いてる間に人が見てないであろうスキをついて保管庫へそっと移動。袋だけの状態にしてコンビニのゴミ箱にシュート。これで保管庫に放り込んだ商品に関しては目隠しが出来た。まさか俺の後ろを常につけ続けていたような人物がいるわけでもなく、そんな人物がいたらそもそもの目的として真っ先に声をかけられる状況ではあるので心配もなし。
これを繰り返して何日か分の食事を確保した。さて、実際の昼飯だが、シンプルにここもこっちにしかないチェーン店のそば屋へ。かけそばを注文してずるっと一気に啜ると味わう暇もなく次へ行く。なんか今日は忙しい休養日になったな。
東京駅まで行って、後はお土産を色々買いあさって帰るだけ。さて……東京駅で買えるお土産ランキングを見ながら、並ばなくて済みそうな商品をピックアップ。ピックアップした店のお土産を適当に選んで購入すると、中々の量になった。ギルドに一個、自分用に三個、芽生さんに一個、結衣さん達に二つ……これは人数を勘案してのことだ、恋人へのえこひいきではない。
一番早く出発して一番早く名古屋に到着するチケットを買うとそのまま数分後に発車するらしいので急いでホームへ。車両番号と席を確認すると、後ろに誰も居ないことを確認して飛び乗った瞬間に手に持っていた荷物を保管庫へ一気に引っ張り上げる。なんか万引きのテクニックを披露しているみたいになっている今日だが、ほぼ手ぶらで帰れるのは良いことである。
ちゃんと全ての荷物ではなくボディバッグは装備しているし、一部の賞味期限の長い商品は全部外に出してあるので何も持たずに新幹線で東京を立つ、という見た目にはなっていない。
帰りの席も窓際を選択しておいた。窓の外を眺めて、いつになったらこの都会の景色が途切れるのか……ということを考えていると、若干の睡魔に襲われ始めた。昼飯も食ったし腹が膨れているし、おみやげもので食物ばかり買ったからな。満足感で疲れが出始めているのかもしれない。ちょっと眠るか。
◇◆◇◆◇◆◇
ハッと気が付いて起きたらすでに名古屋到着のアナウンスが流れつつあった。危ない危ない、もうちょっとで京都まで直行するところだった。ギリセーフという奴だな。
名古屋駅で無事に降りたところでようやく地元に帰ってきたなあという空気を得ることが出来た。そして同時に思った。名古屋のほうが若干暑い。
自宅最寄り駅までそのまま電車で移動しつつ、芽生さんと結衣さんに送信。
「恥ずかしながら帰ってまいりました。現在名古屋より帰宅途中。お土産色々あるよ」
「おかえり、お土産取りに行く」
「私も」
今から来ることになったらしい。泊まっていくかはともかく、夕食はジャンクなバーガーがいっぱいあるからそれをみんなで分けながら食べるのも悪くないな。
家に到着して鍵を開けようとすると、既に開いていた。どうやら俺より先に到着した誰かが居るらしい。靴を脱いでリビングに上がると、芽生さんが一足先に到着していたようだ。
「おかえりなさい、お仕事お疲れ様」
「ただいま、ちょっとした新婚さん気分だな」
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