1190:宴会は続く
「なるほどな。多重化も大事だが複数属性をパーティーで持ち合うことも大事か。そろそろこっちの探索も頭打ちになりそうではあるし、何か解決法はあるか? 」
竜也君達は五十七層までは潜っているのは前に聞いたな。リッチは倒せたんだろうか。それともそこまではいけない状態なんだろうか。
「五十七層から六十層にかけては耐性スキルが落ちやすいからそこでスキルオーブを拾っていくのもアリじゃないかな。後は特殊なスキルオーブも落ちたな。【硬化】って言って体の一部を硬化させて物理特化として殴り合える、もしくは硬化させて防御に使うなんかの応用が利かせられるらしい」
「らしい、ってことは自分では覚えなかったのか」
「知り合いの探索者に拳で戦うタイプの探索者が居まして。彼にぴったりだなということでギルドをちゃんと通して売買契約をしました」
「新しいスキル系は情報が少ないからな。それ、どのモンスターが落とすんだ? 」
竜也君のメンバーの中にも拳闘系のメンバーが居るのだろうか。だとしたらちょうどいいスキルとして扱うことができるだろう。
「五十九層まで潜ったならわかるけど、白い石像居るじゃない。あれが落とした」
「あいつか……あいつスキル全然効かないんだよな」
「武器の替え時かもね。ダンジョニウム合金の装備も増えてきたみたいだし、予想収入から考えたら充分に効果を発揮してくれると思うよ。今年から武器も備品扱いで何年かかけて減価償却で全額経費で落とせるようになったみたいだし、いいタイミングだとは思うよ」
山盛りポテトが届いた。ちゃんと山盛りだ、ここは良い店だな。お値段はともかく、山盛りポテトをちゃんと山盛りで用意してくれる店はいいことだ。
「ふむ……安村さんはその様子だと武器を替えたみたいだが? 」
「あぁ、自分で取ってきたダンジョニウムインゴットを鍛冶やってる店に直接持ち込んで、何とかやってもらった。ついでにパーティーメンバーの武器も……そういえばそろそろ出来上がってる頃か。次に会う時には見せてもらえるかもしれないな。どのぐらい切れ味が鋭くなったのか見せてもらうのが楽しみだな」
ポテトをひたすらサクサク食べる。横からもにゅっと手が出て来る。那美さんが縦にサクサクとひたすら食べ始める。酒が回り始めて更に寡黙になったのか、ひたすら山盛りポテトを口にしていく。
「橋本さん達は現状困ってるのは【毒耐性】以外では何かある? 」
今日のメインは橋本さん達だ。俺の話ばかりしているのは悪いからな。あちらもあちらで悩みや相談事があるだろうし、アドバイスが出来ればそれに越したことはない。
「そうだなー……スキルオーブがなかなか出ないぐらいかな。竜也さんが作ってくれたマップのおかげで迷うことはないんだけど、あそこをキュアポーション無しで潜り抜けるのは難しいし、抜けた後ガビガビの装備で五十三層から先を抜けていくのは厳しいだろうから、ここはやはり【生活魔法】を何処かで入手するのが一番いいのかな」
「生活魔法一つあると便利だよ。その気になれば多分、ダンジョンのゴミ問題も解決できるし何より気持ちいい姿で探索が出来るのは大きい。なにより、他の探索者に甘い臭いをかがせながら地上に戻ってくる、ということがないのが一番大きいかな。後は装備のメンテナンスにも使えるし」
橋本さんはなるほど……と聞き入っている。
「しかし、【毒耐性】は今後値上がりしていくんだろうな。四層分丸々【毒耐性】が必要になってくるマップがあるという環境型の毒散布は二十一層から二十四層に比べてダメージを受けなくても毒の可能性があるって点がばれたら【索敵】並に値上がりする可能性がある」
「キュアポーションで代用することは出来るけど、【生活魔法】のほうもつられて値上がりしそうな気がするんだよね。その前に二重化してしまって、何処までゴミを処理できるようになるか試して見たい気持ちはあるな」
しかし、金を払ってまで【生活魔法】の二重化を実行したいかと言われるとまだ微妙なライン。実は【火魔法】のほうが多重化させた方が使いようがあるのではないだろうか。
ただ、金があるからと言ってあちこちのスキルオーブを買いあさっていくのも少し気が引ける。他の探索者だって自分の欲しいスキルオーブはあるはずだし、俺一人が強くなってどんどん深い階層で金稼ぎをすれば全体の効率としては上がるかもしれないが、誰かの成長の機会を奪うことでもある。やはり必要なスキルオーブをピンポイントで狙うか、自力で取るのが確実だろうな。
「しかし、安村さんが会談参加者であることは解ってたものの、ダンジョンマスターの通訳なんて仕事をするとまでは思わなかったよ」
「以前、地元のダンジョンマスターと会談した時に文字と言葉は別のものを利用していて、翻訳スキルみたいなものを介して言葉のやり取りをしてるという話を聞いてたからね。だからダンジョン庁が大々的にやろうって話をする場合、録音機械を通すと言葉が通じなくなる可能性は高いから誰かが通訳係をする必要があるということは解ってたんだ。で、通訳を用意するのに顔を見慣れてる俺が居てくれた方がダンジョンマスター側も心強いってことになったわけ」
ざっくりと会談の裏話を説明してしまうことにする。別に内緒の相談というわけではないし、竜也君自身もシレオーネさんとの色々なやり取りがあったのであろう、ということは今日確認できたし、話してしまっていい領分にはなるだろう。
次の料理が運ばれてきた。お好み焼きと餃子だ。どうやら鉄板焼きに自信がある店と見た。ちょうどビールを飲み終わり食事に取り掛かりたいタイミングだったのでありがたい。ちゃんと人数分分けた上で自分の分を味わう。
うむ、良くはないが悪くもない。飲み放題のコース料理ならこの程度だろう、という感じだ。餃子も中華屋には遠く及ばないが、餃子としては中間点という所。しっかり味わって次の一杯を頼むとしよう。飲みながら騒ぐのはこんなに楽しいものだったのか。
橋本君達のパーティーもそれぞれ話し合うことがあるのか、会話は弾んでいる。俺が率先して会話の輪に入らずともそれぞれで楽しくやっているという構図である。その間に食事に集中させてもらおう。
「そういえば、安村さんところのダンジョンマスターはどんな感じなんだ? こっちのダンジョンマスターは見ての通りかなりの美人だったが」
「えーとね……最初の会談の時に撮った写真があったはず……あぁ、これだ」
森本総理とミルコが握手しているシーンを見せる。
「森本総理じゃん、じゃあやっぱりあの時の小西ダンジョンで何かやってたってのはダンジョンマスター会談だったわけか」
「総理自身は暇だからついてきた、と言ってたが、もしかしたら今回も暇があったら来てたかもしれないな。なかなか楽しそうにしてたよ」
「その時の会談では何話してたんだ? 」
「一応極秘の会談って形だったからな。今回とあまり変わりはない、というのが実際のところだ。ダンジョンの目的とこちらにやって欲しいことについて、それから例の魔結晶発電についての知識を求めていい感じのものを真中長官が聞いて、その後で出来上がったのがあのパーティーで披露された発電方法ってわけ」
なるほど、という顔をしながら全員がこっちの話に聞き入っている。
「それまでは魔結晶の使い道について何も思いついていない段階だったからな。ちょうどいい技術交流でもあるし、こちらとしてもダンジョンにはちゃんとした旨味が詰まっているという証拠にもなるし、散々ダンジョン庁の倉庫を圧迫している魔結晶の消費も期待できる。発電施設で生み出された電力で石油燃料の消費を少なくすることが出来れば社会的な意義も出て来る。そうなれば探索者の仕事もただ穴倉に籠ってわけのわからないものを引っ張り出してくる存在じゃなくて、社会インフラを構成する一員として立派に仕事をしてるってことにもなるだろう? 誰も悪いようにはならない良い会談だったと思うよ」
ここで一呼吸おいてビールを飲み干す。お代わりを注文してその間に餃子を頂く。
「ダンジョンマスター、セノだったか? 猫だとは思ってたが人間に変われるとはびっくりだったぜ。流石に想像がつかなかった」
「あれでもっと人間らしい姿だったら、放送的にアウトだったかも」
「そこは俺の事前チェックがあった、と思ってほしいな。人前で姿を見せるか、もしくは服を着ろって言ってたと思う。ちなみに猫吸いもした」
「どうだった? 」
那美さんがグイッと迫ってくる。猫吸い、したかったのかもしれん。今度ふらついてる時に再会したら猫吸いを許容してくれるかどうかまでは解らないが、希望が通ると良いね。
「でかい猫だった。吸い心地が存分にあったよ」
「羨ましい。こっちにまた来るかな」
「どうだろうね。セノは各ダンジョンに……あぁ、これは言わないほうがいいな。ちょっとした問題が起きる可能性がある」
「お、なんだ秘匿事項か? それともダンジョン庁にも報告してないような話か? 」
竜也君が茶化す。たしかに、人力のごり押しで通信環境を整備したところに、実はこっちの都合で回線が通るようになるって話を持ち込んでしまったらかなり悲しい結果になることだろう。
「黙っていた方が幸せなことが世の中には存在するってことかな。そのほうががっかりしたりしなくて済みそうだしな」
「そこまで言って隠しごとっていうのはずるいが……安村さんのことだし、真中長官とのパイプもそれなりに太そうだからな。俺達にも言えない秘密の一個や百個ぐらいはあるかもしれない。今のところはそれで納得しておくか。秘密がある、ということがわかっただけでもそれは利益だ」
「すまんな、それなりに秘密は多いんだ、小西ダンジョンは。ちなみにダンジョンコアルームにまで達していることもここだけの秘密にしておいてくれ。一応小西ダンジョンは最深層が更新され続けてることもあって、ダンジョン踏破はしない、というのが内部共有の極秘情報ということになっている。酒の席でうっかり喋りすぎたが、まだコアルームには到着してなかったってことにしておいてくれ」
「小西ダンジョンの最深層勢はダンジョン庁の闇の中、ってところだろうな。まあ、深入りはしないでおくか」
◇◆◇◆◇◆◇
その後時間目いっぱいまで酒と食事を楽しみ、解散になった。ふらふらとまではいかないもののそれなりに飲んだので、そのまま俺はホテルに戻る。自分の部屋に戻って軽く入浴をする。さて、明日は何処へ行こうかな。もう一度鬼ころし本店に新しいインスピレーションを獲得するために行くか、それともお土産をいろいろ買って帰ってゆっくりと楽しむか。
風呂から出て、着替え終わった服を軽くウォッシュしてからスーツケースに詰め直し、後は寝るだけ。今日も枕はダーククロウ。ホテルの枕には申し訳ないがこちらの方がコスパがいいんだ、すまんな。
午前中鬼ころしへ行ってぶらつき、適当な店で食事を済ませて……そうだな、気取った店や老舗を探すつもりはない。ここは一つ、東京周辺にしかなさそうなジャンクな店を巡る方向性で行こうか。こっちの地方にはないチェーン店とか、そういう普段触れない機会のある店を選びたいところ。食べる物に方向性を見出すよりも、普段聞かない店なんかもありだな。
おそらく、東京にはなんでもある。聞けば好きな回答が存分に結果として返ってくるはずだ。楽しみにしつつ、スマホの充電をしながら店を色々探してみる。
名古屋にはないけど東京にはあるチェーン店で色々検索してみる。時々コンビニのカップラーメンに並んでいる監修の店が東京にしかない……とかはパスだな。俺は並んでまでラーメンを食べたいと思うタイプではない。スッと入れてそこそこ待って食べてそのまま帰れるような、シンプルな店がいい。そう言う意味では弦間さんに連れてってもらった喫茶店は中々良いチョイスだった。
立ち食いそばとかでもいいな。ハンバーガーチェーンでも、こっちなら色んな店が試せるし、買うだけ買って保管庫に保存しておいてゆっくり食べるという選択肢も取れる。よし、昼食はいろんな店めぐりと行くか。テイクアウトできる店ならなおさらいい。
午前中の予定はだいたい決まった。後は午後、東京駅でお土産を山ほど買って帰ることを忘れないようにしないといけないな。楽しみでこれからグッスリだ。普段より寝る時間も早いが、明日寝不足に……それはないか。二日酔いも、今の調子なら朝には快調になっている可能性のほうが高い。こうして家から離れてみると、意外とやることがないものだな。よし、寝るか。
作者からのお願い
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続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。
後毎度の誤字修正、感謝しております。