1188:ダンジョン研究家と鬼ころし本店
ダンジョンで潮干狩りを
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帰還勇者の内事六課異能録
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しばし食事に集中。弦間さんがパフェを頼んでゆっくりと口に運び、大事そうに食べていく間にこちらはガチで腹が減っているのでナポリタンに先に手を付ける。サンドイッチは多少冷めても美味しいがパスタはアツアツを食べるのが美味しいからな。
わざとらしいぐらいにケチャップを突っ込んであり、刻んであるピーマンも食べやすく苦味を程よく感じられる大きさ。そしてちょっとお高いウィンナーを使っているのであろう、しっかりとした味付けをパスタに絡めてくれている。タバスコを三滴投入し、程よい酸味を足した後再度味見。うむ、タバスコは必要だ。粉チーズ……は無かった。あればより味わい深い一品になったところだろうが、少し残念だな。
ナポリタンを胃に入れて、口元をきっちりふき取った後でサンドイッチに取り掛かる。ちゃんときゅうりを刻んで細かくした後にサンドされている。口の中でほどけるように無くなりながらも、食感はちゃんときゅうり。サンドイッチのパンにはきちんとバターが塗られており、その上でマヨと和えたツナがサンドされている。ちゃんと手間かかってんな。手間の分だけ金はかかってるってことだろう。
「なかなか良い店でしょ? 」
「ですね。値段だけのことはあると思います」
「これでもこっちでは安い方なんだ。真面目に一食食べることを考えるとね」
これが地方と東京の相場の違いって奴か。まあ東海地方が喫茶店に関しては特別安い傾向があるってのもあるんだろうけど。
お互い食事を終わり、コーヒーを飲み終わって満足したところで弦間さんは再び録音機器のスイッチを入れる。ちゃんとメリハリをつけておくことは後で編集したりメモ書きしたり、内容をまとめたりする時に便利なんだろう。
「で、話の続きですが。ダンジョンマスターに会った後はどうなったんです? 」
「色々質問したかったんですが、その質問には今は答えられないから、二十一層まで潜ってきてくれればその情報について一定レベルまでは開示する、という条件を付けられましてね。ダンジョン庁と協議した結果、私たちが優先的にダンジョンの奥に潜り込める、という話になりました。それで二十一層までたどり着いて、そこでダンジョンについて色々と聞いたわけです」
「ということは、今日の会談の中身は安村さんは事前にある程度知っていた、ということになりますが」
コーヒーはもうないので水を一口飲み、喉を潤してから再び語りだす。
「そうですね。今回の会談はダンジョンマスターとの友好関係を見せつけるのが第一でしたが、第二の目的としては、ダンジョン庁内部で部外秘扱いにされていた情報をダンジョンマスターの口から言わせることで公表できる内容ですよ、ということを公的な場所で宣言するという意味合いも含んでいたと考えています。私が知らなかった情報を言うと、モンスターを倒すという行為そのものにちゃんと理由があった、という部分ですね」
「汚染された魔素を浄化する、という作用をモンスターを倒すことで実装していたという件ですか」
「そこは聞かされていなかったのでここは世界初か、どっかの国が秘匿情報として抱え込んでいた可能性もありますが、とにかくそういう仕組みでダンジョンが出来ていて、モンスターを倒してドロップ品を持ち帰ってくるという行為が一連の流れとして組み込まれていたんだな、という確認が取れた部分でもあります」
弦間さんもパフェを食べ終わり、カランと音をさせてスプーンを容器に放り込んだままにしている。
「ふむ……そこまで内部情報を知っている安村さんだから今回通訳として同行した、ということになるんでしょうか」
「どちらかというとダンジョンマスター側からの要請でしたね。ダンジョンから解放されて面と向かってある程度自由に探索者との交流が図れるようになったので、俺を通してダンジョン庁に会談の申し込みをしたい、という話が来まして。それで間を取り持って今回の会談に臨むことになった、ということになりました。多分ダンジョンマスター側としても多少の心細さみたいなのがあったのかと思いますよ」
「なるほど、つまり安村さんがそこまで深く潜ってなければ今回の会談も行われなかった可能性があるってことですね」
「ついでに言えば、以前行われたダンジョンマスター会談と予想されている小西ダンジョンでの総理も交えた会談、あれ当たりです。私も警護係として同行してましたから」
ガタッと机を揺らす弦間さん。反応から見るに、おそらくそっちの情報は完全密閉されていたんだなということが窺えた。弦間さんぐらいのアンテナ感度で見えなかったということは重要情報だったんだろう。
「それは貴重な情報ですね。喋ってしまってよかったんですか? そちらの機密保持に引っかかる話ではないのですか」
「二回目が行われたことですし、今後三回四回と行われる可能性もあります。それに対して一回目だけ情報を開示しない……というわけにもいかないでしょうし、いずれダンジョン庁からも正式な発表があるでしょうから弦間さんにだけなら伝えてもいいかなと。うまいこと取引の材料に使ってみてください」
「一回目ではどのような内容を話されていたか……というのはある程度解りますか? 」
◇◆◇◆◇◆◇
食事が終わった後一時間ほど、こっちの最大機密に触れない範囲で情報交換をした。こちらも普段ダンジョンにばかり潜っているおかげで解っていない他のダンジョンの情報や最近のトレンド、B+探索者の進捗具合などいろいろ情報を得ることが出来た。
こちらからは一回目のダンジョンマスター会談で話されていた内容の一部を開示することになった。開示すると言っても保管庫周りの話は完全にオミットして、あちらの文明の進歩度や魔法による文明の崩壊の具合など、こちらの情報というよりは向こうの情報を仕入れていたという話だったため弦間さんとしてはあまり利益になる情報にはならなかったかもしれないな。
「さて、このぐらいですかね話せることは」
「明日お戻りになるんでしたね。今夜は予定があると言ってましたが」
「ええ、竜也君達とは筑波で開催された発電施設のお披露目会の会場で出会いましてね、それからちょくちょく連絡を取り合ってる仲ではあります。今日は慰労会をやるからせっかくなんで一緒に飲み食いしないかと誘われてるのでそっちへ行こうかと」
「なるほど、ではせっかくなので……ここへ行ってみてください。東京方面で一番大きな探索者向けのお店になります。気に入るものがあるかどうかまでは解りませんが、流行や傾向、最新の装備品情報をお知りになりたいのでしたらかなり役に立つと思います」
示された場所は……鬼ころしの東京総合店舗だった。鬼ころしは東京にも店舗を持っていたのか。てっきりこっちの地方だけの小さな店だと思っていたがどうやらそうではなかったらしい。
「試しに行ってみることにします。今日は御馳走様でした」
「こちらこそ、貴重なトップパーティーの話を聞けて耳がいい感じに幸せになりましたよ。念のためレインでも交換しておきますか? 何か広めたいネタが出来た時にはお役に立てると思いますよ」
弦間さんとレインを交換。多くはないものの、重要さで言えばなかなか贅沢なラインナップになってきたな。これなら総理ともレイン交換しておくべきだったか。
弦間さんと別れ、目的の店へ移動三十分。鬼ころし東京本店へやってきた。どうやらここが探索用品の中心地、ということらしい。
八階建てのビルの内七階までを使ってそれぞれのフロアに各種用品を取りそろえている、という触れ込みだ。とりあえず順番に巡っていこう。
一階は消耗品コーナー。生活用品から生理的なアレを解決するものの最新キットやダンジョン産食品の販売なども行っている。海外版だがバニラバーも販売しており、売れ行きはそこそこな様子。どうやらスライムドロップ確定を未だにやり続けている人、というのはそう多くないらしい。もしまだまだ多いなら在庫切れを起こしていても不思議はない。もしくは、在庫切れを起こさないほど仕入れを行っているかだが、バニラだけ海外製品が並んでいるのはちょっと不思議な光景でもある。
二階はアウトドアコーナー。主にテントや寝袋、テーブルなどのセーフエリアで設置するような製品が顔をそろえている。わざわざ本店でないと買えないものに興味を惹かれるかと言えば、またダンジョンのセーフエリア更新する度にここに来る必要が出てくるし、地元のホームセンターのアウトドアコーナーで良いだろう。
三階は食器や水筒、紙皿にラップ……と、主に入れものコーナーだ。やはり耐熱製品が多く、そのまま火にかけて食べられる皿が人気の様子。一人分ずつ袋麺ラーメンを温めて作る、みたいなのに向いているとかなんとか。俺にはあまりなじみのない所だ。家で作ってきてその場で温かいまま食べることができるので、便利な食器とかよりも普通の雑貨屋で買ってきた商品ばかり使っているし、わざわざここで買い付けるようなものでもないだろう。
四階はバーナーやスキレットなんかの火を使う商品を取り扱っている。ほぼ同じサイズでちょっとだけ大きさが違うフライパンが整然と並ぶさまは中々の見物である。清州店の規模ではちょっと陳列できない方法だな。
五階は靴と手袋がメイン。ここから上は全部装備品ということなんだろう。手袋も予備があるし、靴も変えてからそこまですり減っている訳でもない。しばらくはお世話になることはないだろう。ダンジョンスパイダー製の手袋があったので試しにはめてみたが滑らかでとても肌心地の良いものだった。が、探索向きではないな。どっちかと言うと執事が身に着けていそうな高級感漂うものであった。お値段も高級感そのものだった。
六階は防具。上から下まで色々。だが今の俺にはスーツがあるから必要はない。が、世の中のトレンドを知るために一通り調査を開始する。やはり、弱点である部分を補うタイプの胸当てや全身ツナギ、以前使ってた防刃下着などが売れ筋の模様。どうやら店の奥に行くほど高級品が並んでいるらしく、スーツは一番奥に陳列されていた。スーツは現物が一点だけ紹介されているが、売り物ではなく展示用としっかり表記されている。流石にスーツは身体に合わせたものを作れ、そしてこの店では取り扱わないけど扱ってるお店の紹介は出来ますよ、というスタイルだった。
今後は防具もスーツスタイルが増えていくのかな。深層巡ったらサラリーマン風の探索者だらけで地上のオフィスとあまり変わらない、なんてことにもなったらそれはそれで面白いな。
七階は武器。西洋東洋問わず色んな武器が展示されている。ちゃんとカギのかかった小ケースに納められ、店員に許可をもらって手にしてみて、具合を確かめて、という感じでの販売が徹底されている。モーニングスターも売ってたが、思い当たるモンスターで効果のありそうなモンスターが……石像とかなら案外軽く行けるのかもしれないな。
ダンジョニウム合金製の武器も少量だが入荷していた。俺の圧切と似たような光の反射をしている。多分配合がある程度決まっていて、適切な配合を確かめて製造しているのだろう。メーカーは全部同じメーカーのものだったので、ここが下請けなのかそれとも元受けの会社があって、そこがダンジョニウムインゴットの大幅買い付けによって他の探索用品メーカーが割を食っているのかまでは解らないが、そろそろ他の会社からも商品が出ても不思議ではないんじゃないかな。
ざっくり見回って、一階でちょっとした小物を買って帰ることにする。お土産というわけではないが、いつか使うことになるかもしれないし記念品として買って帰るにはちょうどいい大きさだし邪魔にならない。明日の帰りに東京駅でお土産を買うというタスクさえこなせば後は日常に戻れるだろう。
さて、なんだかんだで店を回っている間に結構な時間が過ぎた。合流場所を聞いて宴会に……宴会か。そう言えば酒が飲めるようになって初めての宴会だな。どのぐらい呑めるようになっているか測るにはちょうどいい、竜也君達の宴会に来るパーティーというのも誰か一人ぐらいは【毒耐性】持ってるだろうし、全員死屍累々という可能性はないだろうし安全だな。
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