1184:ダンジョンマスター会談 3
ダンジョンで潮干狩りを
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帰還勇者の内事六課異能録
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「セノさんはなぜ猫の姿でダンジョンマスターなのですか? ダンジョンマスターになる前から猫であったのでしょうか」
真中長官が話を一服させるような話題を入れ込んできた。真面目な空気だが少し空気を入れ替えよう、という感じで軽いネタを仕込むといったところだろう。
「今はただこのほうが絵になると思って猫の姿になっているだけじゃ。一応人のような姿になることもできるぞえ、このように」
セノが人型に変化する。ケモモフ度の高いフカフカの艶のある揃った毛並み。猫耳をつけてるから猫人間である、というわけではない、イメージ的に言えばソ〇ックのようなケモ度の高さ。
一斉に写真を撮り始めるガヤの人たち。ケモナーがこの中にどのくらいいるかは解らないが、ダンジョンマスターであるという証明をさらに深めることにもなるだろう。普通の人間はケモくなれない。
「こちらの姿ならほぼ人間と同じ形で動けるしおおむね問題はない。ただ、猫の身体で居るほうが省エネでな。無駄は出来るだけ省きたい主義なのじゃ」
「なるほど。個人の趣味の範疇でしょうが、猫が嫌いな人間はそう多くありませんからね。見た目も大事ということでしょうか」
「現在ダンジョンマスターとして活動してらっしゃるセノさんとして、困っていることであるとか、こちらの文明への要望などはありますか? こちらとしてもできるだけ力になれるように努力はしていきたいと思っています」
小林さんが話を少し詰め始めた。こちらから提供できるものは何かないのか、ということらしい。
「そうじゃのう。しいて言えば毎回このような仰々しい会談を開くのもアレじゃから、出来るだけ頻繁にやり取りができるように何かしらの仕組みを考えつけばいいのじゃが……うまくいくような方法は何かないかのう」
「考えておきましょう。ただ、文字のやり取りや音声の問題もありますからやはり直接会えるような場所を提供してもらってそこで会談を行うか、何処かの探索者に仲介をお願いしてそれぞれのやり取りを継続して行っていく……そういう形にはなると思います」
「今までは深層探索者、つまり今まで我々ダンジョンマスターと出会った経験のある探索者に事情を説明してダンジョン庁との仲介役になってもらう、という形で話を通してもらっておったし、今回もその伝手で開くことが可能になったという実績はあるでな。手段が確立されるまではこの形で行こうと思っておる。急いでやらなくてはならない、というわけでもないじゃろうしゆっくりと待たせてもらうことにする故な」
「あ」
ここで真中長官から思い出した、というような感じで言葉が漏れる。視線が一斉にそちらへ向く。
「そういえばこちらとしては当たり前すぎて忘れていました。そもそもダンジョンマスターとの出会いというか、最初のコンタクトを取った手段について改めてこの場で説明しておいたほうが良いですよね? 」
「外務省としては大事な所ですから、公式な会見で発言が残る場として、その言質は取っておきたいところですね」
真中長官と小林さんがお互い確認を取り合う。
「では、ダンジョン庁から改めて。今までダンジョンマスターの存在をひた隠しにしてきたのは国際ダンジョン機構内での情報共有と情報の開示について社会に混乱をもたらさないようにとの配慮から極秘事項として扱われてきました。しかし、欧州のダンジョン管理組合……組合ではないな、管理機構から一方的にダンジョンマスターは存在する、ということについて発表がされて以来、どうすればダンジョンマスターと出会うことが出来たのか、という疑惑は今までついて回っていたと思います。なのでこれを機に発表させてもらいたいと思います。それを発言することをダンジョンマスター側にもご了承願いたいのですが、構いませんか? 」
ダンジョンマスター側への確認を取る。シレオーネさんとセノが顔を見合わせ、頷く。
「了承が取れたので発言します。今まではダンジョンマスターと出会うためには、各ダンジョンにおいて十五層おきに登場する、いわゆるボスモンスターの初回撃破者の特典、というか権利としてダンジョンマスターとの対面が可能であったということをここに発表いたします。そのため、各ダンジョンにエレベーターを設置するという願いをダンジョンマスターに聞き入れてもらうには、十五層か、三十層のボス討伐が必要でした。大梅田ダンジョンと高輪ゲートウェイ官民総合利用ダンジョンのエレベーター設置が小西ダンジョンに比べて遅れたのは、小西ダンジョンでは十五層で、それ以外のダンジョンでは三十層のエルダートレント討伐の報酬として設置をお願いしたため時差が出来た、ということになります」
ダンジョンマスターに出会うには十五層おきのボス討伐が条件、という公式発表が今された。今後はダンジョンマスターに出会うためにいろんなダンジョンへ出かけていろんなダンジョンマスターとの顔つなぎが出来るようになれるかもしれない、という期待をさせることになる。また清州ダンジョンの時のような民族大移動が起きて西ローマ帝国が滅ぶかもしれない。
「それは十五、三十、四十五……まだ攻略されているかどうかはわかりませんが六十層でもチャンスはある、ということでしょうか? 」
小林さんが質問をする。
「それはこちらから説明したほうがいいでしょうね。おっしゃる通り、十五層おきに登場するボス撃破の報酬授与という形でお渡ししています。探索者によってはスキルオーブの要求であったり、それこそエレベーターの設置を願ったり……人によっては、またダンジョンマスターと頻繁に出会えるようになりたい、というような一風変わった願いを申し上げた人もおりました」
シレオーネさんがこちらを見ながら話す。
「特定のダンジョンになりますが、セーフエリアの有る七層ごとにエレベーターを設置するついでに到着ボーナスを授与されている探索者もおります。贅沢なことですが、たしかにエレベーターの位置を教えてもらって望みのところに設置してもらっている、というのは合理的ですし、それはまあ大目に見ても良いところでしょう。実際に深くまで潜ってくれてこちらの手助けをしてくれているのは間違いないですからね」
ほかのダンジョンマスターからどう思われているかは少し気になっていた所だったが、まあ些細なこと、ということで大目に見られていたのが今解った。
「つまり、小西ダンジョンに最初にエレベーターが出来た、というのは間違いない情報ということで良いんですね? 」
小林さんが真中長官に確認する。
「それはダンジョン庁の調査で判明しているところでもあります……えっと、この書類か。小西ダンジョンでエレベーターが出来た後、それをまねるように有壁ダンジョン、そして清州ダンジョンでは三十層のボス討伐、そして大梅田ダンジョンと高輪ゲートウェイ官民総合利用ダンジョンもほぼ同時期に三十層ボス討伐の報酬としてエレベーターの設置をお願いしたという経緯になっています。他のダンジョンについてはまあ省略しますが、小西ダンジョンで最初に設置されたのは間違いない情報ということになっています」
真中長官が参考資料として手元に用意していたらしいリストを見ながら、時系列に沿ってエレベーターの設置の確認をしている。
「ダンジョンにあるエレベーターについては解りました。エレベーターのおかげでダンジョン探索の効率が遥かに跳ね上がり、ドロップ品の持ち帰りだけでなく中で長期宿泊する探索者も減り、探索がしやすくなったのは確かです。こちら側の思い付きのお願いとはいえ、お互いの技術交流第一弾としてうまくいった形、ということになるのでしょうか」
「そういうことになるかのう」
セノはあまり実感がないらしい。エレベーターを設置したはずだが、寝起きの頭でエレベーターと言われて何の話かサッパリ解らなかった可能性もある。
多分急ぎで他のダンジョンマスターに連絡をつけてエレベーターとは何かという情報を集めて、おそらくミルコに情報提供を申請して急いで作った、という辺りだろうか。
「ごく一部では発表されていますが、ダンジョンマスターと以前小西ダンジョンでの会談で魔結晶を効率的に電力に変換するシステムについて教えてもらっています。それが第二弾、というところでしょう。現在小規模ですが、発電施設をそのまま並列化させて五十万キロワット級の発電所の建設予定地の選定が終わり、建屋の建設が始まっているようです。ここから先はダンジョン庁ではなく文科省の仕事になりますが、順調に進んでいることを報告いたします。技術面での交流についても第三弾第四弾と続けていければいいとは思っています」
「うむ。魔素を魔結晶のままで放置するのは廃棄物の押し付けのような形になっておそらく誰も得はしないじゃろうからな。魔結晶を何らかの形でエネルギーとして利用してそれが世の中のためになる、となればダンジョンの大事さも理解してもらえようというものよ。そのぐらいの技術提供はさせてもらおうと思っているが、こちらの技術を手渡してすぐに形にして実績まで残せたのはそちらの技術力の賜物だと思うぞえ」
「ということは、魔結晶発電……あえてこういう言い方をしますが、その場合排出されるのは魔素の密度の高い空気や空間が出現することになりますよね? それによって人体に影響が出たりはしないのですか? 」
魔結晶発電を盛んに進めていった結果、一部の国土や空気中の魔素密度が部分的に濃くなったりすることによる環境への懸念、と言ったところだろうか。
「先も言ったが、ただちに影響が出るものではない。それに魔素の濃淡によってモンスターが出現するなどの可能性もない。あれは人工的に……ダンジョンマスターの権能を使って汚染された魔素を利用して作られているからな。魔結晶になった時点で魔素は清浄化されておる故、心配するような事態が発生することはないと言えるのう」
新たに魔素、というカテゴリの環境基準が作られることになるんだろうか。魔素の密度で問題が発生するなら研究室レベルで人体に影響が出ている可能性もあるだろうから、既にそちらでは調べはついているのかもしれない。ここで議題に上がらないということは本当にただちに影響が出るような物質ではないんだろう。
「そもそも、ダンジョン内は魔素で満ちておる。魔素が人体に悪い影響を与えるなら、既に探索者の中で体調を崩したり精神に異常をきたしたり、そういう者が出てきておるであろうし、安全なのはある程度理解はされている……と思っておる」
「ダンジョン内に比べてダンジョン外でのスキル行使に影響が出るのは、その魔素の濃度も影響しているのでしょうか」
「そうじゃな、ダンジョン内ではダンジョンに満ちておる魔素をそのまま行使させることができるが、ダンジョン外の魔素の濃度はまだほぼゼロと言ってよい。ダンジョン外でスキルの行使に使う魔素は己の肉体に存在する魔素でやりくりするしかないからのう。もし十全にダンジョン外でもスキルを行使したければ、複数のスキルオーブを取得して魔素の体内残量を増やし、同じスキルを覚えて強くしていくしかないと思う。これも、年月を重ねて地上の魔素濃度が濃くなっていけばまた違う話に変わっていくのじゃろうが、現状だとこのぐらいかのう」
この辺はミルコと話し合ってギルマス会議には提出した内容になる。二度手間という点では俺にとって真新しい情報ではないが、世間様にとっては大事な情報である。実はスキルオーブの取得や探索者活動において知らない内に体が汚染されていたとか、もっと深刻な病気や症状が訪れる可能性がある、という不安を払しょくするためには、この場で大々的に発言してしまうことでそれらを取り除くことは大事であると言える。
「そうですね、こちらとして知りたいことは大体確認が出来たところです。せっかく集まってもらった記者さんやルポライター……つまり雑誌の編集者さんなどもおりますから、ここで現場に来ている人からの質問に答える、という形でいくつか質問を答えられる範囲でしてもらう、というのもいいかもしれません。回答が出来ないならそれで結構ですのでそういう形での質疑応答のお時間を頂戴してもよろしいですか? 」
「そこにおる者どもの質問、というわけか。そうじゃの、せっかく集まってもらったことでもあるし、公開会談という意味では我らだけで質問の内容や話を進めるのはもったいないとも言えるの。構わんから好きな質問をするといいぞえ」
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