1182:ダンジョンマスター会談 1
説明をしたところ、現地の人は納得をしてくれたようだ。直接声が聞こえる人には何を言っているんだこの人? という感じではあるのだろう。実際どんな感じでつながっているのかは解らないが、現場でこの会談を見ながらネットでの中継の様子を見ている人なら意味が伝わるんだろう。わざわざここへ来てまでネットでも中継を見る、というのは解らない。
ああ、でも実際に来たはいいものの人が多すぎて見られないので後ろのほうで配信のほうを見ている、という可能性はあるな。その人には通じる話にはなるだろう。多分今の説明で納得は出来ないかもしれないがやれるだけのことはやっているつもりだ。今何人ぐらい見てるんだろう。
「では、時間になりましたのでダンジョンマスターとダンジョン庁・外務省の会談を始めたいと思います。私はダンジョン庁長官の真中です。今回、ダンジョンマスター側からの会談の申し入れということで何処かで会談を開く予定ではありましたが、高輪ゲートウェイ官民総合利用ダンジョンの通信機能の実装工事とタイミングが合うことが判明いたしましたので、このようにして公開形式での会談となりました。今こちらからは確認できませんが、ネット上での中継も行われているはずです。直接ネットからの意見を取り上げて質問……ということは考えてはおりませんが、ダンジョンマスター達の意見を出来るだけ多くの人に、日本だけでなく海外へも発信するという意味でも試験的ではありますが今回の中継を行ってみる、という形になったわけです」
真中長官が一息に今回の会談にこぎつけた経緯と、ネット中継されているぞという話をする。
「まず、参加者のご紹介をいたします。まずはわたくしダンジョン庁長官である真中です、そして隣が」
「外務省から参りました小林と申します。今回はダンジョンマスター側との国交というべきか交流というべきか、何と呼べばいいのかは解りませんが、外来からのお客様ということで外務省も把握しておくべき会談であると考えたため、ダンジョン庁の計らいもあってお邪魔させていただくことになりました。よろしくお願いします」
「次にダンジョンマスター側の紹介を行います。今回の会談の発案者であり、通称別荘ダンジョンのダンジョンマスターをされていました、セノさんです」
セノに発言を促す真中長官。セノがワシか? という感じで俺のほうを見るので、こくんと頷いて発言を求める。
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(ここからは同時通訳という形でお送りいたします。)
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「我はセノという。別荘ダンジョンと呼ばれておったダンジョンでダンジョンマスターをやっていた。と言っても、ダンジョンが発見されるまであまりにも誰も来ないので眠っている間に三年も経過してしまっておったようだがの。今回はダンジョンが踏破された後、各地のダンジョンを巡ってそれぞれのダンジョンマスターの意見や要望、こちら側からのお願いという形で意見をまとめて持ってきた故、それについての判断を仰ぎたいと思っておる。よろしゅうたのむ」
猫の姿のまま頭をぺこりと下げ、一言にゃんと鳴いた。多分ネットでは猫可愛いとか可愛いは正義とかオスなのかメスなのかオッサンの通訳のせいで解りにくいとか言われているんだろう。後でアーカイブでも見ることにしよう。
「次は、この高輪ゲートウェイ官民総合利用ダンジョンのダンジョンマスターをしているシレオーネさんです」
「シレオーネと申します。今回は急遽という形になりますがダンジョンマスター側の人材ということで参加させてもらっております。これで少なくともダンジョンマスターが複数存在する、ということは見ての通りで伝わったと思います。基本的にはサポートという形に徹させていただきますのでよろしくお願いいたします」
立ち上がってカメラのほうに向かって一礼をする。レイギタダシイ。ミルコやガンテツでは出来ないファンサービスだろう。見た目も良いし美人だし胸もある。これは男性視聴者の視線と血液を一部に集める所だろうな。
「なお、先ほど申し上げた通りおそらくネット中継の場では……あ、今確認が取れました。やはり私たちダンジョン庁側の人間の発言はそのまま日本語として音声が通っていますが、ダンジョンマスター側の音声は雑音のような形で通じているそうです。なので、今回は彼女たちの発言を日本語音声として伝える役として通訳さんが一名同行されています。一応ダンジョンマスター側の補助ということで、ダンジョンマスター側の席に座ってもらっています」
俺のことだな。通訳しっかり頑張らねば。口調をまねる必要はない。日本語として正しく伝わればそれでいい。
「では、始めさせていただきます。まず、大前提というかここからか? と言われるかもしれませんが、あなた方はなぜこの星の上にダンジョンを作ろうと思ったのですか? 」
真中長官がド直球のフォーシームを綺麗に投げ込む。
「ふむ……そのためには、我々の置かれている状況について説明する必要があるのう。我々の文明、異世界異次元にあるが、たしかに存在する、そして現在進行形で失われつつある我らの「ムー・セラス」を助けてほしい。ダンジョンはその為のシステムの一つであり、そしてダンジョンでの探索によるドロップ品の持ち帰りによってそれらは達成されていくことになろう」
「ムー・セラス……というのがあなた方の文明という理解でよろしいのですね? それで、文明を救うとは具体的にどのような形で我々に手助けをすることができるのでしょうか」
真中長官には二十一層で聞き取った内容やその後もミルコからちょくちょく聞いた話なんかは逐一報告している。あえてここで聞くということは、ダンジョンマスターの口からそれを言わせることで情報の信憑性を高めたいのだろう。
「我々の文明は魔素……すなわち魔法を行使するための物質で満たされていた。この星には存在しない物質でもあるのう。その魔素を介在して魔法を使う……なんじゃったかのう、ファンタジーだったか? そういう世界ではよくある話じゃということをこちらの星を調査した時に仕入れている。そのファンタジー的な話でかみ砕いて説明すると、じゃ。大戦争が起きて膨大な魔法のやり取りが行われた結果、汚染された魔素というものが発生し、それに覆い尽くされてしまったのが我が文明じゃ。このままでは滅亡の危険があると考えた一部の知恵者たちが意見を出し合い、汚染された魔素を浄化し、そして二度とそのような危険な魔法を行使できぬように魔素そのものを我々の文明から放逐しようという話になった。魔素を浄化した後排出するにはいくつかの手段があった。勿論この星だけではなく、他の次元の他の文明にも同じようにして魔素を排出する実験をしている最中のはずじゃ」
「では、我々の星だけではなく他の星……例えばこの宇宙には他に文明が存在するという証明が出来るということですか? 」
外務省の小林さんが質問をする。異星人とのコンタクトも外務省の仕事になるんだろうか。どっちかというと国連の仕事になるんじゃないだろうか。
「あるかもしれぬしないかもしれぬ。この星に移住してダンジョンを作ると決めた時点で我々と上位存在であるこの星を選定した者とのコンタクトは切れてしまった。次につながるのは、一定量の魔素を放出した後、ということになっておる故、確認する術は持っておらん。が、異世界も異次元もあったのだから諦めるにはまだちょいと早いかもしれんの……と、話がずれたのう。本題にもどるぞえ。その汚染された魔素を浄化して魔素を排出する手段として、我々は汚染された魔素をモンスターと変え、そのモンスターを倒すことで魔素を浄化、そしてドロップ品として魔素の排出をするという三段階を以て浄化された魔素をダンジョン外に排出する、ということになった」
なるほど、モンスターを倒すということにちゃんと意味はあったのか。今知った。真中長官がこっちを見て知ってた? という顔をしているが、横に顔を振って知らんかった、すまんと答えておく。
「付け加えるなら、純粋に自分の手で魔素を浄化してドロップ品の形にすることは出来ますけど、モンスターを倒してもらうという形のほうが効率がいいからそうしてもらっている、ということは伝えておきます」
シレオーネさんが補足情報をくれる。なるほど、効率の問題か。モンスター倒して直接浄化させるほうが高効率であるというのは間違いないらしい。つまり、少量ならば自力でも浄化はしていける、ということになるんだろう。
「なるほど、そちらのおっしゃることは解りました。この際、一方的にダンジョンを設置したことや現状の土地問題、それらに対する補償なんかの話はこちらの事情ですから割愛するとしまして……具体的にどのぐらいの期間があればその手伝いを終了させることが出来ますか? 」
真中長官が具体的な期間としてどのぐらいかかるのか質問を始める。
「そうじゃのう、当初の試算では数千年、というところか。そのぐらいの期間があれば充分な量の魔素を排出できると考えておる。ただ、事情の変化によりもっと短くすることが可能になっていると考えておる」
「それは、エレベーターの設置によってですか? 」
「そうじゃ。あれはよう出来ておるシステムじゃ。ダンジョンに設置して移動を短縮させようという考えは我々にはなかった故な。思いついてダンジョンマスターに進言した者の顔をみてみたいものじゃな」
セノはその時寝てたはずだからな。俺が作らせたとは直接見てないだろう。だが、シレオーネさんはこちらを見てニコニコしている。こっちはちゃんと知っているぞ? という視線のメッセージが俺へ、そして真中長官からも発せられていた。
「すべてのダンジョンにエレベーターが設置出来た場合、その効率は数百年に短縮させることが可能ではないかと思っておる。ただ、ダンジョンマスターによっては頑固な者もおる故、すべてのダンジョンにというわけにはいかないかもしれぬがのう」
「魔素についてお聞きしたい。我々の星にはない物質ということですが、それをドロップ品の形で拡散させることで我々の文明にどのような影響があるのでしょうか。身体的にですとか、環境的にですとか、そういう面で変化はあるのでしょうか」
真中長官が、魔素についてダンジョンから地上に放出することでどのような環境負荷がかかるのか、といった内容の質問がされる。
「ただちに影響はない。それこそ百年二百年……それぐらい経ち始めると、人間の身体にも生体濃縮されていって何らかの変化が起こる可能性がある。具体的には、現在スキルオーブの形でダンジョンマスター側が貸与しているスキル、【火魔法】とか 【水魔法】とかじゃな。それらを扱えるようになる新しい人類が生まれてくる可能性はあるじゃろう。その頃には我らはともかくとして誰も生きておらぬじゃろうから、申し送り事項として国家の、そして人類の考えとして覚えておいてほしいものじゃな」
「気の長い話ですな。その間には我々も人員や世代の入れ替えで終わるころにはすっかり様変わりしているのでしょう。もしかしたら国そのものも変わっているかもしれません」
「我らは寿命が長い故、違う顔を見続けながら応対していくことになるがな。まあ、これでダンジョンを作ったという理由は理解してもらえたじゃろうか」
セノの演説が一旦終わりを告げる。聴衆は静か。ただじっと、セノの言葉と俺の通訳に聞き入っていた。同時通訳、結構楽しくなってきたかもしれん。
画面の向こうではどういう反応がされてるんだろうな。世界に向けて発信された、今まではごく一部でしか流通していなかった情報の大洪水だ。ダンジョンマスターが複数いる、喋れるけど近くにいないと言語は通じない、失われつつある文明を助けるためにダンジョンが作られた、魔素という物質が確実に存在する、スキルオーブは貸与、もしかしたら普通にスキルが使える人間が生まれるかもしれない。
色んな情報が一気にお出しされてスレッドも加速、生配信のコメントも多々あるだろう。見れない位置に居るのが残念ではあるな。是非生放送を見て俺も輪に混ざりたかった……って、現場に一番近い所にいる俺がそんな感想を抱いてどうするんだ。解ってたとはいえこの反応はちょっと困る所ではあるな。
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続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。
後毎度の誤字修正、感謝しております。