1179:会食と事前確認
ダンジョンで潮干狩りを
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帰還勇者の内事六課異能録
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テレビ映りか。出来るだけご遠慮願いたいところだが、会談をセッティングさせたという実績でも日本とダンジョンマスター側との懸け橋としても、ある程度の露出は仕方ないという所だろうな。できるだけ映りたくないという意思は強く持ってはいるが、実際に俺に興味を示すのかダンジョンマスターにかかりっきりになるのかは本番になってみないと解らない、といったところだろう。
「まあ、人の懐に手を突っ込まれるという意味でもあまりうれしくはないところだが、個人的な探索の理由でそれをふいにするのは世間に対してもったいないというかなんというか……いろいろ情報を握ってる側としては協力はしてあげたいんだよね。そんなところかな」
追加の料理が到着し、それぞれ食べたいものを食べる。おにぎりはただのおにぎりではなく、こちらも香辛料を豊富に使った中々に美味しいものだった。
「明日全部解る。そういうことでいいのか? 」
「そうだな。明日を楽しみにしているといい。きっと我々にとっても悪い話じゃないし、むしろ社会貢献度が上がるような話になると思うぞ、表向きは」
「つまり、裏がある」
那美さんは裏側が気になる様子。ちなみにこちらは既にデザートに突入している。
「まあ裏側っていうか予想できる反応ってところなんだけど。ダンジョンマスター側の総意でこちらに一方的な要求を突きつける形になるかもしれないってことかな。もしかしたら一斉にダンジョンに対してブーイングが起きる可能性だってある。受け取り方が人それぞれである以上、一方的に申し出をはいそうですかと受け取れるだけの度量が我々にあるのか、それだけのために探索者という人材を用意して、向こうの言いなりみたいな形でホイホイと探索に出かけてもいいのか……そういう話になるだろうね」
「ますます明日の会談が気になるな。明日、会談が終わったらまた時間を設けてもらってもいいか? お互いの意見のすり合わせをしたい」
「どのくらい時間がかかるかまでは解らないけどいいよ。二泊三日の予定だし最終日はお土産買って帰るだけだから時間はある、場所は指定してくれれば……迷わなければ大丈夫だと思う」
「それなら納得だ。もしかしたらメンバーが数人増えるかもしれないが、その時の支払いはこっちで持とう」
奢りの飯は美味い。生きていくうちで味わう中でも間違いない現象の一つだ。
「じゃあこの店は俺が持つよ。せっかく美味い店に招待してくれたんだしそのぐらいはやらせてもらわないとな。それに、あまり旨味になる情報を提供できなかったのもあるからな」
「む……そうだな、じゃあそうさせてもらおう。お互い金にはそう困ってる仕事でもないし細かい金額でちまちまするのは俺も好きじゃない」
「お互い譲る所は譲る、大事」
会計は九千八百円だった。ギリギリ経費で落とせる金額だった。明日は人数増える分だけ無理だろうな。
「さて、じゃあ俺はホテルに戻るよ。せっかく豪華なホテルなんだし一通り味わってその良さを楽しみたいしな。明日は何処で見てるかどうかは知らないが、精々活躍してみるよ」
「こっちにとっては地元だからな。何処のホテルがサービスがいいとかはさすがに解らないが、良いところに泊まってるらしいことは伝わった。明日に酒を残さないようにな」
「ああ、じゃあまた明日」
新藤コンビと別れ、高輪ゲートウェイ駅に戻る。短いとはいえさっき通ったばかりの道だ、駅へはそれほど遠くないし迷う心配はない。もし迷ったとしてもスマホで道を探せばいいしな。
ホテルに戻ってとりあえず入浴して一息。スマホを見ると、シャワーを浴びている間に真中長官から連絡が来ていた。一分前なので直電でも良いだろうか。通話でそのまま真中長官が出るのを待つ。しばらくして、真中長官が直接出た。
「やあ安村さん。こんな時間に悪いんだけど今から出られる? ちょっとした打ち合わせなんだけど」
「どこに行けばいいですか」
「高輪ゲートウェイ官民総合利用ダンジョンのギルドの建物のほうまで来てくれると助かるんだけど」
「解りました。数分で到着するのでまた到着したら連絡します」
「お願いねーじゃあまた後で」
ダンジョンのほうへか。ダンジョン庁じゃないんだな。そういえばダンジョン庁ってどこにあるんだろう。とりあえず高輪ゲートウェイ官民総合利用ダンジョンのギルドの建物に行けば解るらしいし、気にしなくていいかな。
ホテルから一時的に外出し、徒歩で数分、高輪ゲートウェイ官民総合利用ダンジョンへ到着。そのまま管理棟であるギルドの建物へたどり着く。
ギルドの受付へ到着すると再度真中長官に連絡。すると、受付のほうから近寄ってきた。
「安村様でお間違え有りませんか? 」
「はい、安村です。真中長官の召喚に応じてきました」
「五階の長官室へご案内します。どうぞついてきてください」
五階に長官室がある、ということはもしかして……
「あの、物知らずなので質問するのですが、この建物ってダンジョン庁本部だったりするんですか? 」
「はい、左様です。三階から上はダンジョン庁専用の建物になっており、省庁としての機能もこちらに集約されております」
ダンジョン庁、ここだったのか。今、俺はダンジョン庁の本丸に入り込もうとしている。ダンジョンの新階層ではないが、同じようなワクワク感が俺の中に高ぶっている。用事で呼び出されたとはいえ、普通は入り込むことのないこの空間……そう考えながらついに長官室の前まで来た。受付の人はそのまま踵を返して帰っていった。ついてきてはくれない訳ね。
ノックを三回。中から声がする。
「安村です、入りますよ」
ドアを開くと、まず目の前に秘書である多田野さんが出迎えてくれた。
「どうも、ご無沙汰しております。長官、安村さん来てくれましたよ」
「おぉ、来てくれたか」
「お久しぶりです、実験炉の完成式典以来です」
多田野さんも真中長官も服装の乱れは少ない。忙しいわりにちゃんと身の回りに気が回る程度には余裕があるのだろう。本当に忙しいなら髪型も服装もボロボロになっているだろうし、しばらく帰ってないようなにおいもするだろうからな。
「やあ安村さん、こんな夜に呼びつけてしまってすまないね」
「いえ、状況が状況なので。で、どのような御用で? 」
俺も早く帰って寝てアルコールを完全に抜きたいので手早く用件を済ませたいところだ。真中長官だって大事な会談の前日、仕事を終わらせて家に帰って明日の朝には完璧な状態で会談に臨みたいだろう。
「明日の確認さ。明日はネット中継とテレビ中継が両方入ることになる。カメラ映りの問題でね、君をどこに配置するかということなんだ」
カメラ映りか……確かに俺にとっては問題だな。ダンジョンマスターより目立つような位置には居たくない。
「出来るだけ隅っこでお願いしたいところですね。できれば出番も無いほうが嬉しいんですが。あくまでセノのお付きということでカメラ外でもいいのでその場に居ればいいのではないでしょうか」
「うーん、こっちとしてもそれを願いたいところだけど、セノ君の希望によるかな。最悪の場合、猫のままのセノ君が君の膝の上に乗ってうにゃうにゃ喋って、それを外部音声用に通訳してもらう、という流れになるかもしれない。どうしよう、立場上ダンジョンマスターの通訳ってことにしとくかい? 」
通訳か……通訳なら問題なさそうだな。画面に映っても通訳なら何だ通訳さんか、で済みそうだ。
「それでお願いします。それなら声の出演だけでも済むかもしれませんので」
「出来るだけこっちも安村さんというカードを切りたくないからね。安全に小西ダンジョンに潜れなくなったらそっちも稼げなくて困るだろ? 」
「俺はともかく芽生さんは困るでしょうね。まあそれもダンジョンに潜るまでの間になってしまいますが……いや、探索者証持ちのマスコミに密着取材なんてされた日にはこっちも困ったことになりそうですね」
「うむ……できるだけ君には負担がかからないように計らう予定だからな。あくまで交渉の相手は私たち日本であって君ではない。仲介役をお願いして、ここまでもってこれた。後は発表と会談の内容をうまくすり合わせておければよかったんだがここらが限界かな。後はセノ君が何を語ってくれるか、そこに上手い落とし所を見つけるしかないね」
話すことはこれぐらいか。顔合わせしなくても良かったのでは?
「ところで、なぜわざわざ呼び出しを? 電話口でも良かったのでは」
「一応ここが本部だってことを教えておくのと、この枕のお礼を直接言いたくてね。これのおかげで仕事が捗って仕方ないよ。シャワーはこの部屋に併設されているし身支度もできる。嫁に怒られるかもしれないが、しばらく帰れなくても満足な仕事が出来そうなぐらいだ」
それはそれで御家庭の問題になりそうだが、まあ本人が気に入っているならいいとするか。
「先ほど行って来たばかりですが、製造元にはちゃんとそういう感想があったと伝えておきますよ」
「頼むよ。では、明日よろしく。会談は十時からの予定だ。一時間前には入ダン手続きを終えて待機してもらっていると助かるかな」
「解りました、では失礼します」
頭を下げて出ようとする。
「安村さん」
ふと、真中長官に呼び止められる。
「今日まで、ありがとうね。おかげでダンジョン問題は一息つけそうだよ」
安心そうな声で真中長官が話す。
「なんかその言い方だと明日にでも大事件が起こるような言い方ですね。この先もダンジョンとの付き合いは続いていくんですよ。むしろこれからです、これからが本番ですよ」
「それもそうだね。これからもよろしく、が正解かな。安村さんには今後も他のダンジョン、もしかしたら明日を機に海外のダンジョンマスター達が集ってくるのかもしれない。そうなったら目印になるのは安村さんと南城さんだ。そしておそらく、目標にされるのは君だ。南城さんは安村さんほど頻繁にダンジョンに潜っている訳ではないからね。安村さんにフォーカスが当たって安村さんに会いに行って……あれ、今までより忙しくなるかも? 」
「そうですね。そうなる可能性はあるかもしれません。小西ダンジョンも頑張って続きを作ってもらっている最中ですし、ちょうどいいと言えばそうなのかもしれません。長官には是非、新しいダンジョンのアイデアを出してもらってそのアイデア通りのダンジョンが実装されてみんなの反応を見る、とかそういう楽しみがあるかもしれませんよ」
「それは楽しみだな。色々ダンジョンについては考えてることがあるんだ。ここをこうしたらいいとか、この機能はオミットしてしまっていいとか、色々と、そう色々と。この発想がダンジョンマスターの刺激になってより面白いダンジョンが出来上がると嬉しいね」
実際に作るとしてどこに作るんだろうそんなダンジョン。ダンジョンを新しく作るにしても、現在の場所に作り直すのかそれとも新しい場所を用意するのか。どうするんだろうな、その辺。
まあいいか、そこまで俺が首を突っ込むところじゃない、それはダンジョン庁と国交省あたりがやり取りする内容になるだろう。ダンジョンを拠点とした街づくりの形……箱もの行政には金の匂いがする。大企業が誘致と地上げ、そして住宅地と生活に必要な施設をひとまとめにした、一昔前のニュータウンみたいな話が始まるかもしれないな。
長官室を出てホテルに戻る。帰り道際にはコンビニがあったので少し小腹を補充してホテルに戻る。さて……明日は一体どうなることやら、そしてセノは俺にどこまでの援護を求めるのか。これなら高輪ゲートウェイ官民総合利用ダンジョンへ潜ってセノをこっそり呼び出して、何かしら聞いておいたほうが良かったな。こっちの打ち合わせも必要になってきた。
土壇場に来て相談不足が発生するのはよくあることとして、実際に会見が始まるまでの間に上手く話をまとめられるか、そこにかかっているな。当日ダンジョンに着いたらセノを早めに呼び出して会談についてどのような形になるのか解らないが、俺の立場について再確認しておこう。
さて、今日やれることはほぼやってしまった。後はこのどでかいキングサイズのベッドで大の字になって寝るぐらいだ。ちゃんと起きれるよう、枕は持参したダーククロウ・スノーオウル枕を使うが、布団のほうはちゃんとこっちに用意されたものを使おう。寝た形跡がないとまで言われると怪しまれることになるしな。明日は本番、しっかり今夜眠って明日の……明日の朝食は作らなくていいんだったな。どんなものが出てくるか期待しておくことにしよう。
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後毎度の誤字修正、感謝しております。