1177:新藤コンビとの再会
時々書いておきますが、この物語はフィクションです。
現存する駅、法律、物件に入っている会社など、現実とは違うものが多々あります。
たまたま偶然時々同じものがあるかもしれませんが、なんか違くね? とおもったらそこがフィクション部分だと考えてください。
名古屋駅まで電車で行き、名古屋駅で新幹線に乗り換え、そのままのぞみでほぼ直通の路線で品川駅へ向かう。
前回は確か行きも帰りも爆睡していたような気がする。窓側の席を取ったのでボーっと缶コーヒーを飲みながらあっという間に過ぎ去っていく景色を見つめながらの小旅行だ。小旅行といっても、東京までおよそ二時間。名古屋駅からなら百分で到着する。
探索者である自分としては百分という時間は結構短い。三十五層から三十八層まで向かうためには百分では足りないからだ。東京名古屋往復してる間では、まだ並木道でスノーオウルを処理して歩いている途中、という所だろう。最深層である六十三層から考えても、六十六層へたどり着けるかどうか微妙なラインだろう。そう考えると時間の感覚がおかしくなる。
ふと、清州ダンジョンに潜るために新幹線で清州ダンジョンまで来てエレベーターで深層に潜ったほうが近所のダンジョンを一層ずつ歩いて攻略するより効率的……という昔の探索・オブ・ザ・イヤーの記事に書かれていたことを思い出す。
これがリニア新幹線が開通していたらもっと早く利用できるようになると考えると、時間と距離とお金の配分というのは非常に大事なんだな、ということを思い知らされる。
品川名古屋間ののぞみ指定席料金が一万円とちょっと。リニア新幹線で時間が半分になるかわりに値段が千円ほど余分にかかるらしい。一度乗ってみたいという感想はさておき、やはり速く動く方を選択するだろう。
自分の時給が最大三千万円ほどを稼ぎ出すことができることを考えると、ほぼ端金といっても差し支えない。その金額で往復して帰ってきて残りの仕事をこなしたりダンジョンに潜ったりするならば速さは力でありそれに金を投じるだけの意味はある。俺でさえこうなのだから、探索者に人気の乗り物になるかもしれないな。
何処かの駅を通過していく。経過した時間を数えながら、今日本地図のどのあたりを走っているんだろうと考えながらコーヒーを飲み切る。綺麗に最後の一滴まで飲み干すと、バッグに入れてバッグから保管庫にイン。
さて、窓の景色は帰り道でも楽しめる。今はお腹を空かせるために軽く眠るとするか。移動疲れの体で飯を食うと翌日の体調にもかかわる。ここはアラームをセットして、品川に着いたら下りられるようにしておこう。
◇◆◇◆◇◆◇
アラームが鳴って気が付く。ちょうどアナウンスで品川に到着するというものが流れているところだった。よし、降りるか。
品川駅に到着して乗り換えて高輪ゲートウェイ駅へ到着。このまま高輪ゲートウェイ官民総合利用ダンジョンの様子を見に行く……ということもできるが、それは後の楽しみに取っておくかな。念のため場所だけ確認をしておこう。
高輪ゲートウェイ官民総合利用ダンジョンは高輪ゲートウェイ駅の構内に出来たダンジョンではあるが、幾度かの改修を行ったので駅から直接出る形になる出入口も、駅の入場券を購入することなくギルドに入る出入口もある。出入口には五百円玉を入れるとぐるっと回るタイプの入場のための機械……遊園地とかにあるあれだ。それが設置されていてその手前には入場受付があり、そこそこの列が出来ている。
こんな時間からでも潜り込む探索者が居るらしく、列は中々減っていかない。多分今から潜るなら一泊中で夜間に仕事をして朝一で帰ってくるという流れの探索者達なんだろう。みんな今日も稼ぎに行くかという探索者が居て中にはリヤカーを引いている探索者も居る。折り畳み式だからそれほど邪魔にはならないにせよ、都心に似合わない格好ではあるな。置き場所どうやって都合しているのだろう。ここでもギルド貸し出しのリヤカーがあったりするんだろうか。
また、この時間から出てくる探索者も多く、出てきた探索者は皆ギルドの入っているらしい建物のほうへ荷物を背負って戻ってくる。人が常にいる、という点では清州ダンジョンも同じだが、こちらのほうが人口密度は多めだ。これから仕事上がりに一杯やりに行くぞ、という表情をしたほくほく顔の探索者も居る。そう言えば、小西ダンジョンの近くには飲み屋がないな。ダンジョン最寄り駅前あたりに出来たらさぞ儲かるんじゃないだろうか。
たしか探索・オブ・ザ・イヤーで読んだのだったかな。最初は駅の構内に出来たので駅を利用する形で入場券を購入しないと入れないようになっていたが、複数回のダンジョン庁とのやり取りをした結果外側にも出入口を設置する形になった。査定を行うギルドの建物は高輪ゲートウェイ駅の外側にあるため、結局一度ダンジョンから出る羽目になるというのは同じらしい。そして、駅前の高い土地代を少しずつでも回収していくために駅の入場券の代わりに五百円の入場料をとるようになったのだとか。
さて、一旦着替えやその他の荷物はホテルに置いてこないと邪魔で仕方ない。予約したホテルに向かうとするか。
駅前徒歩五分、ダンジョンにとって絶好の立地にあるこのホテルは中級から上級探索者にとって予約が取れたらそれだけでもラッキーという具合のホテルを予約できたのも、実はダンジョン庁にちょっとしたお願いをしたおかげでもある。
エレベーターが出来た後では一カ月二ヶ月という長期宿泊する探索者も増えたため基本的には常時満室であることが多いのだが、そこそこの値段と利便性の結果、ダンジョン庁として数部屋、要人宿泊用に空けておいてほしいというお話が付いているらしく、今回会談同席者として参加する俺のためにその席を一つ空けてもらった形になる。おかげで一人部屋でキングサイズのベッドを使うことになったしそれなりのお値段のする高級な部屋に泊まることになったわけだ。
普段旅行をしないので最近のホテルの相場感なんかを知らない俺にとってはこのホテルの一人部屋でこの価格、というのが高いのか安いのかよくわからないが、普段の稼ぎならモンスター一匹倒せば十分返ってくる金額であるので気にせずお高いであろう宿泊料を払ってチェックインした。最近はセルフチェックインで従業員相手にやり取りや金額の支払いをしなくて済むらしい。便利なのだが、泊まりに来たって感覚は薄くなったな。
とりあえず部屋に荷物を置くと、スマホと財布と札束と、身分証明書と探索者証だけ持ち歩く気軽なスタイルになり早速新藤コンビに連絡を入れる。
「ホテルチェックインしました。今高輪ゲートウェイ駅近くに居ます」
しばらくすると返事が返ってきた。
「新橋駅で合流しましょう。そこからなら十五分ぐらいで到着すると思います」
詳しい情報が送られてきた。十五分ほど時間がかかることになるが都内の移動ならこのぐらいはかかるものなのかな。向こうがどこに居るか聞いて中間点で合流するという形でも良かったが、多分あっちも動きやすい場所に居てどこでも移動できるように色々考えてくれていたのかもしれないな。
とりあえず言われた通りに移動する。流石に首都圏、何処まで行っても建物だらけ。畑や田んぼなんてものはほとんど見当たらない。人がみっしり住んでいる、というイメージをこれでもかと詰め込んだ大都市圏がここにある。名古屋でももうちょっと畑っぽいものが見当たるところがあった。
高輪ゲートウェイ駅周辺は再開発の真っ最中。その最中にダンジョン庁がギルド施設を開設してしまったため、予定通りのものが出来上がらなかったという建物もあるらしい。それでも高層の建物が一つ、一階から五階までは全部ダンジョン庁のギルドが入っている贅沢な施設である。そこから上は一般オフィスとして賃貸形式のビルとして機能しているらしい。
そのまま山手線に乗り続けて数分、新橋駅にたどり着いた。新橋駅で酔っぱらっているサラリーマンに世情を聞くというテレビで時々あるインタビューだが、あそこで飲み潰れていたサラリーマンは将来的には出世して重役になるようなポジションの人材が多かったらしい。新橋駅であることにもちゃんと理由があったんだな、ということを知ったのは最近である。
「新橋駅到着しました」
「西口に出てきてください、出たらSLのところまで来てくれたらわかる所にいると思います」
西口から出ると目の前にSL機関車が設置されていた。待ち合わせにはわかりやすい所だな。さて、新藤君達は……居た。手を振って確認すると、向こうも気づき軽く手を振ってくれた。
「お久しぶり、つくば以来」
相変わらず那美さんは言葉少な目だが、大事なことはちゃんと伝えてくれるので聞き逃すこともない。
「今日もスーツなんだな。一応カメラ映りを意識してってとこか? 」
竜也君はいつも通りフランクに話しかけてくる。年下年上を意識させない程度のフランクさであり、いやな感じはしない。年の離れた友人という感じで気優しいという感想が出る。
店に移動しながら話を続ける。どうやら店をわざわざ予約してくれたらしく、お薦めで美味しくて、メンバーともたまに食事会をするところらしい。どんな店だろう、教えてくれない分ワクワク感がどんどん増してくる。楽しい食事会になりそうだな。
「一応これも立派なダンジョン装備ですからね。今は持ってませんが刀さえ持ってればそのままダンジョンへ入り込むことも……あ、ヘルメットがないか。後、これ地元のお土産で悪いけど」
「お、羊羹か。俺結構好きなんだ。美味いしカロリーもあるから携帯食にはちょうど良くてな」
「私も好き」
どうやら二人とも気に入ってくれたみたいだ。あそこの羊羹は汎用性が高くていいな。また誰かに会うときは利用させてもらおう。
「高輪ゲートウェイ駅の前にホテルとったみたいだし、高輪ゲートウェイ官民総合利用ダンジョンへはもう見に行ったのか? 」
「中には入ってないけどね。とりあえず外観だけは観察してきたってところかな。さすがに国内最大って感じはしたよ」
「混んでただろ? 多分明日はもしかしたら生でダンジョンマスターが見られるかもしれないってことでもっと混雑してるぞ。早めに準備しておいたほうがいいと思うぜ」
流石に関係者だから裏口入ダンというわけにもいかないだろうからな。あ、一応真中長官にも連絡入れておくか。無事に東京に着いたので今から土竜の二人と食事に行ってきます……と。
「誰に送信? 」
「一応真中長官に。到着したことだけ伝えておかないとね」
「長官との直通連絡網があるの、びっくり」
「それだけ安村さんが重要人物扱いになってるってことだろ。まあ以前ダンジョンマスター会談の時も参加してたらしいし、ダンジョン庁としては便利に扱いたい人物だってところじゃないのか? 」
「それはある。時々思うこともある。俺って自由な探索者のはずだよな? と」
しばらく歩いて店に着いたがまだ開店時間まで数分あるらしい。店の前でしばし立ち話。
「そういえば、今日は相棒の文月さんだったか? は居ないんだな」
「本業のほうが優先らしくて今日は俺だけ。まあ実際に用事があるのも俺だけだろうし、彼女はメディア露出とかを嫌う傾向にある。変に話が広がって大学で騒ぎになるのが嫌なんだろうな」
「まあそれはあるだろうな。普通に講義受けてた同じ科目とってる仲間が国内最強クラスの探索者なんて話にもなればサークル活動からの勧誘やおこぼれ頂戴するために一緒に潜ってくれないかとか、そういうお誘いが増えるだろうし、面倒ごとしか増えないだろうとは思うぞ」
竜也君が見て来たかのように話す。
「体験談みたいに話すじゃん。やっぱり大手クランともなるとそういうの目当てで加入希望が来たりするわけか」
「そうだな。一応全員の面通し……とまではいかないが、探索者として真面目にやっていく意思があるかどうかと実力、後はパーティーを組むことになるだろうメンバーとの合同探索で色々見たり、人が増えるたびに毎回こっちに報告書が送られてくるからな。最終面接で合格出来たら晴れて土竜の一員ってことになる。そっちはまだ二人で活動してるのか? 」
話が盛り上がってるところで店がOPENの札を掲げた。どうやら開店時間になったらしい。
「予約してる新藤だ。いつもの個室を頼む」
「毎度の利用ありがとうございます。用意してございますのでどうぞいつもの部屋をお使いください」
店員も竜也君の顔を見慣れているのか、それとも土竜の行きつけの店なのか、スムーズに個室まで案内された。八人掛けぐらいの大きなテーブルの隅っこにちょこんと座り、新藤コンビと対面するように座る。さあ、腹も良い感じに減ってるし、何が出てくるか楽しみだな。
作者からのお願い
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