1171:世間は会談一色
ダンジョンで潮干狩りを
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帰還勇者の内事六課異能録
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朝だ。なんか最近ちょっとずつだが枕の効きが悪くなってきたように感じる。バチッと目が覚める感じが薄れてきた気がする。もしかしたら……いや、もう少し様子を見るべきだろうな。季節の変わり目で体がうまく対応しきれてないだけかもしれない。流石に一年すら持たないようなダンジョンドロップ品ではないはずだ。
徐々に涼しくなってきた昨今、まだ日中三十五度を超える気温を記録するとは言っても確かに夏の足音は遠くへ向かっていることに違いはない。枕の効果が薄れてきたとは考えにくい。それに、バチッと目が覚めなくなっただけであって寝起きの気持ちよさは相変わらずなので効果はまだある。
完全に効果が無くなったと体感するまでの期間も含めて枕の消費期限だ。その感覚や使いよう、保管していた環境などで左右されるのは間違いない。それらの実験データを布団の山本に提供するのも言い出しっぺであり実験サンプルである俺の役目でもある。じっくり観察していこう。
何時もの朝食を食べてテレビのニュースを見ながら昼食を作る。今日は一人で潜るので一人分でいい。夕食も同じものでいいなら二食分をまとめて作っておくと帰ってきてからの時短が出来るのでなおいい。
テレビでは、ダンジョンに関する話をやっていた。ダンジョンマスターなる未知の生命体との会談が公的に行われるという話だ。これはセノからお願いされていた例の会談の話のことだろう。
どうやらダンジョン庁として、世界に対しても日本はダンジョンマスター達と仲良くしていくよ、というのを大々的にアピールしていく方向に舵を切って、ネットでも配信するしマスコミも呼び込む、という形にするらしい。会談の日付についてもそうだが、会場が高輪ゲートウェイ官民総合利用ダンジョンだという点もポイントだ。
つい昨日、高輪ゲートウェイ官民総合利用ダンジョンでは一層でのネット回線が開通した。流石に当日はいろんな探索者が押し寄せて、ダンジョン内で電話や動画配信、探索配信などを行っている探索者が多く押し寄せ、来場数が過去最高を記録したらしいが、そのせいで一層の密度が高すぎてスライムが枯渇状態になりスライムを倒そうにもスライムが中々湧かない状態にすらなってしまっていた、ということをネット越しに知った。
昨日もダンジョンに潜っていたため実況を見るということはしなかったが、帰ってきてアーカイブは見てみた。普段自分がさんざんやっていることを再度見る、という形であったが、ダンジョンに潜ったことのない一般視聴者にはスライムを潰す作業でもそれなりに見どころというか、ダンジョンとはこういうところなんだぞ、とリアルタイムでやり取りするのは中々面白いらしい。
もちろん、これまでもダンジョン探索の録画撮影という形でダンジョンの中を撮影する動画撮影者は居たし、もちろんもっと深い階層の内容を公開している探索者も居る。ただ、リアルタイムでしか味わえない一体感みたいなものがあるらしい。今後も徐々に通信の届く範囲を拡大していき、第一目標は七層、第二目標は二十一層ということで通信各社が共同でプロジェクトを進めていくらしい。
さて、昼食の回鍋肉が出来たので今日は丼とする。追い味噌で更に甘みの強い回鍋肉になったが、多少喉が渇く程度で済みそうだ。うむうむ。ちゃんと丼を二つ作ったので夕飯も回鍋肉丼だな。何か味変をしたいと感じたらその時はチーズでも混ぜ込んで風味を変えてみよう。
あ、弦間さんだ。今日もコメンテーターとしての仕事をしているらしい。ダンジョンにはちゃんと潜っているんだろうか。
「ダンジョンマスターは世界規模で隠蔽されていた機密事項ですからね。異次元からの使者、いやもしかしたらほかの星からの使者かもしれませんが、彼らとの会談ともなれば通常ならは国連、もしくはアメリカやロシアが主導してまず会談を開く、という形になるのでしょうがこれを日本で行うとなればダンジョンや彼らダンジョンマスター側の情報について一歩リードできるということになるでしょう。ただ、今回秘密会談ではなくネット上でも公開してマスコミを入れての会談にする、ということは今後の日本の方針として、世界に対しても平等に情報を公開して発信していくことで、今後も日本は隠し事をせずにどんどん情報を共有していきましょうと、情報共有派ということで一つの囲い込みをしていく方向で進めていく、ということになるのかと思います」
「では、今まで謎に包まれていたダンジョンマスターが存在する、という以外の情報……例えば彼らが具体的にどんな場所からこちらへ訪れてきたのかや、何のためにダンジョンを設置したのか等、現在ダンジョン庁や国際ダンジョン機構が抱え込んでいる機密に対しても公開していく姿勢を見せるということになるのでしょうか」
アナウンサーが弦間さんに質問する。
「私もその点については外野の立場なので詳しくどの情報が機密でどのぐらいまで彼らについて情報を得ているかは解りませんが、今回の会談で一つまた明らかになるのは確かでしょう。ただ、ダンジョンによっては既にダンジョンマスターの姿や名前、好みのものなどを公開して、ダンジョンマスターに間接的にお布施、参拝みたいなことができるダンジョンもありますので、各ダンジョンでダンジョンマスターと接する探索者の仲の良さは違うと見たほうがいいでしょう。今回はダンジョンマスターの代表として、先日踏破された通称別荘ダンジョンのダンジョンマスターが会談相手ということまでは公表されています。どんな内容になるか楽しみですね」
ちなみに日付が公表される前に俺のほうには既に日付と開始時間が伝わっているので、前泊して当日は都内にいる予定だ。なので実質二日間ダンジョン探索はお休みということになる。
今のうちにセノとある程度事前打ち合わせみたいなものもしたいが、セノのほうもダンジョンマスター側の意見をまとめたり何処まで向こうの情報を話してもいいものか、と色々やることがあるらしいから最近は中々会えていない。
ちなみに探索と人生の相棒芽生さんだが、夏休みが終わったことで大学生活の最後のターンに入り、学業のほうを優先してもらっている。なんかよくわからないが色々やることはあるらしい。今回は俺一人で対応する、ということになった。
まあ、元々全面的に協力すると言ってしまったのは俺だし、芽生さんは今のところ顔だしNGで通している探索者だ。彼女としても本業の都合で来られませんというのは都合のいい言い訳として通せる所だろう。
さて、スーツのネクタイをキュッと締めて、何時もの探索スタイルに着替える。今日は五十五層を巡ってインゴットで稼ごう。ゆっくり回っても充分に稼げる階層であるし、一人で回るには少し度胸が要るがこの夏休みの宿題の総仕上げとしては悪くないチャレンジだと思う。
柄、ヨシ!
圧切、ヨシ!
ヘルメット、ヨシ!
スーツ、ヨシ!
安全靴、ヨシ!
手袋、ヨシ!
飯の準備、ヨシ!
嗜好品、ヨシ!
車、ヨシ! 今日は使わない日!
レーキ、ヨシ! こっちも今日は使わない日!
保管庫の中身……ヨシ!
その他いろいろ、ヨシ!
指さし確認は大事である。さあ今日もいつも通りでいこう。
◇◆◇◆◇◆◇
ダンジョンに着いてすぐに入ダン手続き。しばらくずっと一緒にいた芽生さんがいないので少しの寂しさが募る。が、自由に何でもできるし今なら実験し放題ということは頭に入れておいてもいいだろう。
「ご安全に」
「ご安全に」
エレベーターで早速七層に下りて茂君ダッシュ……ダッシュする理由はないが、ダッシュするのが癖になってしまったし、疲れはエレベーターの中で癒せる。それにダッシュした分五十五層で長く探索できるのは収入を多くすることができるのでポイントが高い。これから毎日ダッシュしていこう。
エレベーターに戻ると今度こそ五十六層へ行く。さて……咳をしても一人だ。クロスワードか雑誌を読むか、適当なことをして時間を潰そうかな。
「今日も一人か。文月は別行動かえ? 」
セノが現れた。しっかり見ていたらしい。リヤカーの上に載せていた雑誌を片付けると、セノがリヤカーに飛び乗り、バランスを取って香箱座りをする。
「彼女は本業に戻ったよ。しばらくは週に二回ぐらいしか来ない時期になるかな。それよりちょうどいい、こっちの会談の時間が決まったよ」
「そうか。こちらで用意しておくことは何かあるかの? 例えば言わないほうがいい話とか、この話題はタブーであるとかそういうものじゃ。会談の中でそういう話は出来ないと言えばそれで終わりにはなりそうなのじゃが、あらかじめ知っておいたほうがいいと思ってのう」
セノが首元を掻きつつ質問をする。
「そうだな、絶対条件に近いお願いという形ではあるかな。俺が【保管庫】を所有していることだけは漏らさないようにしてほしい」
「ほう。確かに希少なスキルではあるし、知られたら珍しいスキル持ちだと追い回されることになるかもしれんのう」
「今までは小西ダンジョンという隔離施設みたいなところでダンジョンの深層に潜ってるからある程度大手を振って扱えているんだ。この先も使っていきたいしこのスキルのおかげで一財産築けた。その感謝と効果は十二分以上だ。だからこそ、このスキルを手に入れるために躍起になる探索者も多く出てくるだろう。その為にスキルオーブの争奪戦になって探索者同士が争いになるようなことは避けたいんだよね。だから表向きに俺の存在を紹介するなら、今一番深くまで潜っている探索者であり、その注目度は高い……そんな感じでふわっと誤魔化してくれるとありがたいかな」
セノはしばらく考えるようにピタッと動きを止めると、また頭を掻き始めた。
「なるほどのう。お主は国家的な点から見ても我らダンジョンマスターのような隠し玉の役目をしている、ということかのう。確かに無補給でダンジョンの深くまで潜ってきては新しい素材やモンスター情報の収集、戦い方、スキルオーブの獲得、安村がやってきたことはダンジョン庁じゃったか、そちらの組織に十分な宝物とも言える情報を与えたと言っても過言ではなさそうじゃ」
「だからそのままこれを維持しようと思うと、出来るだけ俺はフリーハンドでいたいんだ。余計な茶々や、ダンジョンから潜って帰ってくるたびに新聞記者がワラワラと集まってきて毎回意見を言わなきゃいけない、なんてことになっても何の得にもならないからな」
「ふむ、そうするとお主の立場は世間的にはどういうことになっているのかのう? 」
セノが舌をべローンと伸ばしてきたのでちゅ〇るをあげることにする。封を開けて押し出しながら差し出すと、美味しそうにペロペロと舐め始めた。なるほど、これはあげるほうも癖になるな。
「俺の立場は一般探索者その一ってところだ。世間的にはただの探索者をしてるおじさんということになっている」
「お主はそれでよいのか? 望めば地位も名誉もそれなりのものがご用意されるだろうに。六十八層まで潜り込んでいるならば、それを理由に最深層到達探索者として表彰の一つでも受けることは出来るのではないか? 」
「確かにそうだろうけど、それを受けても……これは俺の言い様ではないんだが、金にならないからな。体が動かなくなるまで探索者を続けていくって目標に関して言えば人様の目に届かないところで細々と盛大に金を稼いでるほうが性に合っている」
「謙虚じゃのう……まあ、だからこそ現在に至る、というところじゃろうかの」
一本をペロッと食べつくすと、人間形態に戻り、俺からちゅ〇るの二本目を奪い取ると、自分で吸い出して舐めだした。駄菓子でこんなゼリーあったな。
「ふむ……やはり猫の姿のままで食べるほうが美味しく感じるのう。人間の形に戻っては、こう、量も少なく感じるし味気ない」
すぐさま猫に戻る。そして三本目にとりかかりはじめた。せわしない猫である。
「【保管庫】の件については了解した。お主と我との関係については聞かれたら答える、という形にしようと思う。他には何かないか? 今のところ橋渡しになってもらっててすまんところではあるがの」
「今回の件は全面的に協力するって決めたからな。しっかりこき使ってくれ」
「では……前に持って来た酒、あれをまた持ってきてくれ。美味かったからの」
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後毎度の誤字修正、感謝しております。