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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第二十三章:新たなダンジョンマスター

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1166:エレベーターと猫 2

 セノの言葉にうーんと考える。現状ダンジョンマスターが居るということは周知の事実なのだからそれっぽいものを見かけたら話題になっているだろうし、これは帰ったら普段に更に輪をかけて翻訳サイトも噛ませながら情報のすそ野を広げて、ダンジョンマスターがどのぐらいの頻度で目撃されているかなんかを探しておく必要があるだろうな。


「今のところ捕獲されて何かされた、ことはないじゃろうし、そんな事があったらそれこそそちらで大問題になっているのじゃろうけど我らは今のところ大手を振って探索者に対して接しないほうがまだいい、と安村は考えておるのだな? 」


 この関係そのものが特殊なのだから俺達はまあ別として、他の探索者とフレンドリーに接するダンジョンマスターは居ても悪くはないと思っている。ただ、今は時期が悪いとも思っているのは確かだ。


 セノはここにきてようやく本の上から降り、芽生さんのほうへ近寄っていく。芽生さんはセノにあげるちゅ〇るを絞り切ると、指先でブラッシングを始めた。顎の下をこちょこちょさせると、うっとりとして目をつむる。完全に猫だな。


「何かきっかけがあれば……そうだな、今度行われる予定の会談を機に、今後はダンジョンマスター達ともフレンドリーに接していきたい、お互いの文化や立場を尊重して仲良くやっていきたい。その為の会談ということにして会談後に一気に情報解禁という流れに持っていくのがベター、より良い選択肢なのかもしれないな」

「と、いうことはまだしばらくは陰ながらお主らを応援していくのがいい、ということじゃな」

「そうだな、今はまだ時期尚早だな。正式にダンジョンマスターの存在を認めたとはいえ、お互いどうやって接していけばいいのか、という点に対してはまだ濁したままここまで来ている。ミルコみたいにお供えの祭壇があったりするのは特殊だ。ここの場合はダンジョンの管理をしている役職の人まで顔を合わせているおかげでここまで出来ている、というのは間違いないので、他のダンジョンでも同様のことを始めようとするなら小さな単位での交流は始まっていると言ってもいいかもしれんな」


 他のダンジョンではどうしているんだろう。ギルマスも顔を突き合わせてダンジョンマスターと会談みたいなことをしているところがあるのかどうか。やはり俺の情報が足りないな。もっと情報を集めておかないといけないだろう。今日は帰ったら情報集め。明日の昼食はあまり手の込んだものは作らない。そういう流れで行こう。


「セノさんがダンジョンマスターしている間はどうだったんですか? 探索者との交流はあったんでしたよね? エレベーター作ってたんでしょうしそれなりのやり取りはあったんだと思いますけどねえ」


 セノをなでる手を止めて芽生さんから珍しく質問が出る。


「そうじゃのう……雑賀原と言ったかの。もっと落ち着きのない若者だったと思うが、ダンジョン踏破ボーナスは自分のパーティーの強化に当てていく中々にストイックな奴じゃったよ。各セーフエリアでエレベーターの乗降口をつける際もこれと言ってこちら側の技術だとか我の立場であるとかそういうものに興味があるという印象はなかったのう。なんというか……雇われて仕方なく、という感じが強かったかの」


 別荘ダンジョンに潜っている探索者はダンジョン庁と一時雇用契約みたいなものをして潜っていたはずだ。ある程度形式的なやり取りに終始するようにしていたのかもしれないな。必要な情報はその気になれば小西ダンジョンや他のダンジョンから聞き出せるのでこっちは踏破優先で潜っていったのかもしれん。


「なるほどな。雇われっていう印象は確かにあっていると思うぞ。あのダンジョンは発見も遅ければ場所も悪いからダンジョン庁の中でもここどうしようねって困ってた場所の内の一つだったはずだからな。全部について詳しく知っている訳ではないが、探索者を公募して契約して踏破を任務として潜っていたはずだ」

「なるほどのう、なら我に興味がなくても多少の納得はできる。寂しくはあるがな」

「その分こっちで可愛がってあげますからねー」


 芽生さんがセノを再びなでる。セノはニャーと鳴くとそのままゴロゴロ言いながらされるがままになっている。口調と態度のわりにちょろいな。本当のセノは猫のほうなのか人間形態のほうなのか、ちょっと気になってきたな。本人は楽しければどっちでもいいのだろうか。


「で、だ。しばらくは申し訳ないが待っててもらう時間になると思う。出来るだけ急ぎでやりたいのはどっちも同じだろうし、こっちもそこまでオツムの悪い集団というわけではないから会談としてはかなりの早さでセッティングされると思う」

「そうじゃの。そっちの賢明さに期待することにしよう。その間板挟みになってもらって申し訳ないとは思うが、気軽に相談できる探索者というとやはりお主が筆頭に上がってしまうのがこちらとしての現状。すまんがよろしく頼む」


 猫の姿のまま頭を下げるセノ。かわいい。スマホを構えておけばよかった。そうすれば共有するダンジョンマスター情報も増えて俺や真中長官のスマホの中に、人には見せられない和やかな会談の様子や真面目にやってますよというポーズが出来るんだったが。


「まあ、板挟みになるのはそうだな……【保管庫】を手にしてしまった段階でもう決まってしまっていたようなものかもしれないな。だから織り込み済みで行動するからそこは気にしなくていい。俺としても、俺だけが持っている面白い情報というのが今に関してはある。それを公開できるようになって俺も肩の荷が下りるのだとすれば、その日を楽しみにして待っているというのも悪くない」

「王様の耳はロバの耳! と叫んでも怒られないようになるってのは良いことかもしれませんねえ」

「さようか。ならばこちらも話を集約してよりよい方向に作用してくれるようにもうちょっとだけダンジョン造りを休んで他の雑務に集中することにしよう。リーンのほうへは我から色々と伝えておく故、そっちは心配せずともよい」


 セノはちゅ〇ると芽生さんのブラッシングに満足したのか、リヤカーの上に乗りなおして首筋を軽く掻くと、こっちに向きなおした。


「本来ならこんなところで話すべき内容ではないのじゃろうが……我らの文明を救うため、今後も助力を頼む。たとえ世間がお主が我らのことについて黙っていたことについて非難が起きようと、我らはお主の味方じゃ。決して一人にはせんぞ。我ら生まれも住んでいた次元も違えど志は同じということじゃな」

「桃園の誓いですか、ここはエレベーターなのでエレベーターの誓いですねえ」

「なんじゃその桃園の誓いとは。そちらの慣用句みたいなものなのか? 」

「それはですねえ……」


 芽生さんが三国志の説明をしている。しかし、桃園の誓いをするならば俺とミルコとセノあたりでやるほうがよりそれっぽい気がするな。ミルコは酒のみではないけどコーラ飲みだしイメージ的にもしっくりくる。


「お主らの世界にも面白い歴史があるものだのう。いずれ交流が盛んになれば、我らの側の物語も伝わっていくことになるかもしれんな。文化交流という奴じゃ」

「そのための第一歩……いや二歩目かな。順調に進んでいくことを願うとするか」

「そうじゃの。では、我はこの辺で失礼……いや、車に乗ってから失礼するとするかの。あれは何度乗っても楽しいものじゃ」


 子供みたいなことを言う。中身は何歳ぐらいなんだろう。話し方からするとかなり年上のようにも感じられるが、口調だけかもしれん。が、女性に年齢を聞くのは失礼にあたるからここはぐっとこらえておこう。


「セノさんっていくつぐらいなんですか? 猫だと年齢が解りませんねえ」


 先陣を切って芽生さんがセノの両手を包み込むようにして握手をしながら切り込む。ナイスだ、まるで俺がセノが何歳なのか考えているのを見透かしたようだ。もしかしたら顔に出ていたのかもしれない。


「我か? 百より先は数えておらん。お主らよりはよほど年上ということだけは確かじゃ。それで充分か? 」

「はい、猫として百年なのか人の数えで百なのかはいいとして、どちらにせよ私より年上なのは確かでしょうしそれだけわかれば充分です」


 俺も年上だと思って接しておこう。まあ、それでも猫なんだけどな。猫缶食べるしちゅ〇る食べるし、辛いものは苦手のようだし、おそらく多少熱いものも苦手だろう。


 五十六層にエレベーターが到着し、セノがタタタッと駆け下りていく。足跡が付かないように念入りに歩いているセノを見て苦笑いが漏れる。リヤカーをエレベーターから下ろしていつもの場所に停めると、早速車を取り出してブラシを取り付ける。


「それ、毎回やる気ですか? いっその事付けっぱなしにしては? 」


 ブラシを取り付けている俺に対して芽生さんが呆れている。


「下りて車を消した後のちょこっとしたタイヤ跡は消せないからな。それにいつ後発部隊が到着してもいいように念のためってところもある。たとえば今日潜って、昼戦闘の真っ最中にたどり着いて何だこのタイヤ跡は! ってなる可能性もあるしね」

「でも、実際に自動車が動いているところを見られたらアウトだと思うんですけど」

「その時は芽生さんに教えてもらうようにしようかな。索敵でギリギリ見えそうだし、いきなり鉢合わせって可能性は走らせるスピードからしてもないと思うな」


 ブラシを取り付け終わって車に乗り込む。セノは猫のまま、芽生さんの膝の上だ。シートベルト……まあいいか、公道じゃなさそうだし。


「前は後ろを見ていたから今度は前を見ようかのう。やはりこのぐらいのスピードになると迫力がありそうだの」

「本来はさらに四倍ぐらいのスピードで走れるんだがな。それだけ速いとブラシが壊れるだろうしタイヤ跡を隠すっていう本来の目的を発揮させられないだろうから高速で走るのはなしだ」

「それは残念じゃ。どこか自由に走り回れるところがあればいいんじゃがのう」

「うーん、人の目につかない場所というと七層あたりになるが、人が居ない訳じゃないし、六十三層は広くないし四十九層は見通しも悪いしな。次のセーフエリアに期待するしかないな」


 そういえばコストがかからない階層とかうっかりミルコが漏らしていた覚えがある。サバンナみたいに広くてオブジェクトが少ない場所であることを願っておくか。


 発進させ、徐々にスピードを上げていく。試しにスピードを上げてみて後ろの様子を確認してみるが、やはり二十キロメートルを超えるとブラシがはね始めるのを確認。片道全力で走って帰りは消す、という形でもできなくはないが、毎回消してもまだ時間的な猶予は確実に得られるのは間違いはない。行きで消せなかった部分は帰りに消して帰るとしよう。


 すぐに階段前までたどり着き、下りた後で車を保管庫にしまい込み、最後の痕跡をブラシを手動でかけて消してぱっと見の証拠隠滅は完了。


「よし、今日もお仕事するか」

「では、我は自分の仕事に戻る故またな」

「ああ、中々いい話を聞かせてもらったし心が少し軽くなったよ」


 セノは帰っていった。こっちの板挟みが俺ならダンジョンマスター間の板挟みはセノ、ということになる。お互いに損な役回りだとは思うが、その分慎重に立ち回らないといけないな。


「ちゅ〇るの在庫はまだありますか? 」

「大箱で買っておいたから毎日来ても問題ないぐらいある。それよりもかつおぶしを頭から振りかけるとどうなるかが気になるな」

「食べ物を粗末にするのは良くないと思いますが……確かに気にはなりますねえ」


 セノが画面の向こうでそこまで猫扱いするなと怒っている姿が目に浮かぶが、今は探索に集中しよう。ここからは日銭のお稼ぎの時間だ。


「さて、いつも通り午前中五十七層を徘徊して回廊でお食事。お食事が終わったら五十九層でお仕事。三時間ぐらい五十九層で戦った後戻ってまた車で戻る。質問は? 」

「ないでーす。しいて言うなら流石に飽きてきたってことぐらいですかね」

「それは、俺も、そう。ミルコには頑張ってもらわないとな。っと、今のうちにお供えしておくか。帰りには忘れそうだからな」


 季節限定のお菓子とコーラを供えて手を二拍、パンパン。どうやらセノとの話し合いを見ていたのか、いつもより短い間の後で回収されていった。さあ、お仕事のお時間だ。今日もいつも通り稼いで帰るぞ。

作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

後毎度の誤字修正、感謝しております。

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― 新着の感想 ―
「桃園の誓い」は知らなくても「王様の耳はロバの耳」は知っていたのか? 似た慣用句があってそっちは自動翻訳されたのかな?
開けた階層だと車乗り回しながらスキル放てば擬似的な戦車みたいなもんだしなぁ(;´∀`) 新ダンジョンに車両を入れられる様になると面白いかも知れない、、、まぁかなり広いダンジョンにしないと攻略が緩く…
向こうの文明の物語かあ ドロップ品とかダンジョンの中でそういうのを見て取れたりはしませんからねえ いつかは知る機会が訪れるといいなあ
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