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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第二十三章:新たなダンジョンマスター

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1162:痕跡の消え具合

 セノに急かされ、早速車を出す。そして車の後ろにレーキ……と言っても学校の野球部員が使っているようなトンボタイプではなく、ブラシが付いているタイプだ。ブラシの毛が抜け落ちて痕跡が残ってしまうのではないか? というところまで突っ込まれるとさすがに言い訳のしようがなくなるんだが、そう頻繁に壊れるようなものを仕入れたつもりでもないし酷使するつもりもない。今日はあくまで試験。無事に稼働してくれるかどうかのチェックだけを終える予定である。


 もしこれでもダメな場合は車の利用を止めるか、より低速で走行して確実に足跡を消せるのは時速何キロメートルぐらいまでなのか、などを調査する予定だ。


 丘の上を見ると結衣さん達が歩いているのが見える。これはついでにセノの紹介もするべきなのかな。結衣さん達もこっちに気づいたのか、後ろを振り返って手を振る姿が見える。手を振り返しておいた。


 ブラシの接続を確認して、試しに引っ張ってみてそうそう簡単にちぎれたりしないことを確認。それなりのスピードを出しても大丈夫そうだが、段差や速度によっては切れ間が出来るかもしれない。そのチェックから開始かな。


「よし、準備完了。さあ早速試し乗りだ。セノと芽生さんは後ろに乗って、後ろの目線でどのぐらいのスピードまで出すとタイヤ跡が消えずに残ってしまうかチェックしてくれるとありがたい」

「解りました。しっかり後ろは確認しておきます」


 芽生さんとセノに判定を任せ、俺は車を運転する。出来るだけ既についているタイヤ跡の続きから消せるようにコース取りをする。徐々にスピードを上げながら車を運転しておく。流石に時速十キロメートル程度では問題なく動作するらしい。そのままスピードを上げていく。


「そろそろ飛び始めるかもしれません。そのぐらいのスピードで維持してみてください」


 速度計は時速二十キロメートル付近。歩行速度の五倍。移動目的にするには充分な速さである。二十キロメートルまでなら問題なく動作する、とみていいな。


 五十七層の階段まで到着し、車を下りて後ろを確認する。ちょっと不自然になるかもしれないがある程度綺麗にならされた筋が幅二メートル半ほどの間で均されている。タイヤ跡を消すという目的は成功しているとみていいだろう。後は……


「うむ、いい乗り心地だったのう。これからも連絡員ついでにちょくちょく乗せてもらうことにするか」

「にゃんこだ! 」


 車から降りたセノを見た結衣さんの第一声はそれだった。


「にゃんこではない、セノであるぞ」

「この子はどこかのダンジョンマスターさんだったんですか? 初めまして、新浜結衣です」

「うむ、安村の視界越しに何度か見覚えがあるのう。我は別荘ダンジョンという呼び名で呼ばれてたダンジョンの元マスターじゃ」


 セノの対応を結衣さんに任せ、車を消した後再度ブラシを取り出し、微妙に消え切ってなかった部分のタイヤ跡を消すと、ごまかし完了である。


「よし、問題は一つ解決した。毎回やるかどうかはさておきちゃんといけることが確認できた以上、今後も車は使い続けられるぞ」

「それはよかったわねー。でも、風魔法や土魔法で地面を誤魔化すという方法もあったんじゃないの? 」


 芽生さんが土魔法を覚えているのを今思い出した。そうだよ、芽生さんが【土魔法】でふぁさーっと地面と同じ色の砂でも生成するか、吹き飛ばすなりしてくれれば解決した話じゃないか? でも芽生さんが居ないと使えない、という意味ではやはりレーキを買っておいて正解なんだろう。


 芽生さんのほうを見ると、目が泳いでいる。これは、自分自身でも思いつかなかった奴だな。まあ、そういうこともあるとしておこうか。


 セノと手を繋いで踊っている結衣さん。どうやら結衣さんの心に通じる何かがあったらしく、既に打ち解けて楽しんでいる。


「うむ、保管庫について隠しておるのは我々も認識してる故な。そのおかげでここのダンジョンに入り浸っていることも、それからこの新浜というメスとも仲良くやっておることも理解しておるよ。安村も隅におけんのう」

「安村さん、今日もいつものところでご飯を取るならまた一緒にどう? 」


 結衣さんから会食の提案をされる。今日じゃなければ頷いているところだろう。


「そうしたいのは山々だが、ちょっと緊急でギルマスと話すことが出来てさ。このセノにも関連する話なんだけど、かなり込み入った内容になる可能性が高いんだよね。だから今日は午前中だけの探索にして午後はギルマスと長々と会議する予定だからちょっと変則的な仕事になるんだよ」

「それなら仕方ないわね。また今度にしておくわ」

「すまんのう、ワシが変な話を振ったせいでいつも通りの仕事の邪魔をしてしまったようじゃ」


 セノが少し申し訳なさそうにしている。


「なあに、これも俺の仕事の内だ。俺じゃなかったら俺以外の誰かがやっていた仕事だろうし、それがたまたま俺だった。そういうことだ」

「そう言ってくれるとこっちも安心するところじゃ。新浜にもまた会う機会もあるじゃろう。また今度ゆっくり色々話を聞かせてくれると嬉しいのう。ダンジョンの外の話は我々も興味津々じゃ」

「セノ、土産だ。こっちとしては大事な話を聞かせてもらったからな。情報料として受け取っておいてくれ」


 日本酒を一本渡しておく。セノは嬉しそうに酒瓶にほおずりする。


「うむ、良い心がけじゃ。じっくり楽しませてもらうとするわ。では、頼んだぞ」


 セノは転移していった。さて、移動を短縮した分セノとの会話で結局いつもの時間になってしまった。これは全力で五十七層を巡って回収していかないといけないな。


「じゃ、私たちは先に行くわね。タイヤ跡の後始末上手くいっておめでとう」

「ありがとう、じゃあまた」


 結衣さん達は先に五十七層へ潜っていった。こっちも探索に出かけないとな。足を止めて話し込むのは時間が勿体ない。


「さて、お仕事しますか。午前中しかないからな。集中してちょっと遅めに出る感じで行こう。ご飯は……さすがにエレベーターの中でとるのはアレだからテントでかな」

「そうですねえ。エレベーターの中でとるのがアレだということは匂いが気になるお昼ごはんですか」

「カレーだ。一時間近くカレーの匂いに囲まれるのはアレだろうし、エレベーターの中で食事をとらなきゃいけないほど時間に余裕がないわけでもないからな。流石に昼食ぐらいゆっくりとろう」


 ◇◆◇◆◇◆◇


 午前中しか活動しないことになったので、少し長めに午前の探索の時間を取り、お腹が空いてきたと感じたところで撤退することに決めた。時間にして三時間ほど。それから五十六層のテントに戻って少し遅めの昼食をとることになった。


 帰り道も車にブラシをつけて走ったが、やはり時速二十キロメートルぐらいまでは問題なく痕跡を消してくれることが分かった。多分これ以上スピードを上げるとブラシがスピードに耐え切れずに跳ね上がって痕跡が点々と残ることになるだろう。今後は行きはスピードを上げて移動して、帰りはゆっくり目に帰ることで確実にタイヤ跡を消していけることになるだろう。


 お昼のカレーを食べながら、話す順番について考える。内容はまだ頭の中に残っているが、エレベーターの中で忘れるといけないので話す内容をメモに取りながら思い出して、芽生さんにも確認して抜けがないかどうかを確かめつつ食事を進める。


「大体それで情報は出そろった感じですね。後は伝える順番でしょうね」

「うーん、順番か。報告書を作るようにしてから話すほうがいいのだろうか。それとも長官のスケジュールを確実に開けるために早く報告するほうがいいのだろうか。やっぱり報連相は早く確実に、だよな」

「なら、そのメモの順番で伝えればいいと思いますよ。時系列にも沿ってますし、向こうから申し込んできたことにも価値はありますからね」


 今日のカレーも美味しく出来ているが、いまいち食事に集中できていないのもこれから話す報告の内容について色々考えているせいだろう。食欲もそれほど大きくなく、まだ鍋にカレーも炊飯器にご飯も残ってる状態なのにお腹は満たされたので、夕食もカレーということになるだろうな。


 食べ終わって片づけをしてエレベーターに乗る。いつもよりずいぶん寂しげなリヤカーの上に少量の、何時もに比べれば何分の一かの戦利品。これでももっと上のほうの階層で探索をしている人間からすれば十分多すぎると言われても仕方ないぐらいだが、それでも自分たちにとっては少ないその成果物に芽生さんもちょっとテンションが下がり気味。


「まあ、気持ちはわかるが金で換算するともっと数億とか数十億単位の金が動く話をこれからしに行くわけだし、午前中はしっかり探索はやった。気持ちを切り替えていこうよ」

「そうですねえ……そうですね。今日の仕事はちゃんとやった。その上で別の仕事もやる。切り替えは大事ですね。よし、残念だけど頑張った、それでいいんですよね? 」


 そうそう。確かに俺にとっても短すぎるし指輪も出なかったがやれることはやった。後は大事なダンジョンマスターとの顔つなぎのお仕事をすれば今日のお仕事はおしまい、ということになる。


 それでもまだしょんぼりとしている芽生さんのほっぺたをムニムニしたり頭をなでたりメンタルケアをしながら一層まで一気に戻る。今日は昼間だし茂君も俺が寄るにはタイミングが悪いだろう。今日のところは朝一だけだな。ここは俺がしょんぼりするところだが、まあたまにはいいかぐらいの気持ちでいよう。


「私の機嫌取りはもういいですから、この後話す内容について考えておいてくださいね」

「良ければ、報連相の練習がてら芽生さんが報告してくれてもええんよ? 今後の役には立つから」


 芽生さんは顎に手を当ててうーんと考えるそぶりでフリーズ。しばらく考えて再起動した。


「そうですねえ。一つ頑張ってみましょうかね。危なくなったら洋一さんに介助をお願いしますけどそれでもいいですか? 」

「もちろん。正しく伝わることのほうが大事だからな。足りない情報があると思ったらその時点で横から口を挟ませてもらおう」


 芽生さんがメインで報告するということになった。若者の成長を手助けするのも後進を育てるという意味でも大事な役目だ。いずれは放っておいても自分からこれは報告が必要ですよね? という風に聞いてくるようになるまで育て上げるのもありだろう。


「報告することは主に、向こうから会談を持ち掛けてきたこと、それからダンジョン側から通信の解決手段を模索してくれていること、ですよね。それ以外で報告しておくことは……車の件は黙っておかないとまずいですよね。後は……えーっと……メモください」


 メモを要求されたのでメモ帳を貸し出す。メモ帳を裏から使い始め、必要事項をまとめたところでビリッと一枚破り、こっちへ返してきた。どうやらメモ帳一枚で要点をまとめることができたらしい。


 一層にたどり着いて、退ダン手続きに行く。顔なじみの受付嬢が少し意外そうに待ち受けていてくれた。


「今日はお早いお帰りですね。何かダンジョンに異常でも発生しましたか? 」

「そういうわけではないですが、ギルマスに報告する内容が出来まして。長くなりそうなので早めに帰ってきたところですね」

「そうですか、それは良かった、いや良くはないのかもしれませんが、とにかくお疲れ様でした」


 ねぎらいを受けての御帰還。たまには悪くないな。そのまま査定カウンターに並ぶ。昼に帰ってきたと言っても昼飯時はずらしてきたのでカウンターは空いていて、到着すぐの査定となった。今日は量も少ないのですぐに終わる。今日のお賃金、四千七百五十二万円。いつもより一時間長くお腹を空かせて頑張った分、手に入った金額だとも言える。


「ちょっと報告前にコンビニに行ってくる。雑誌の新しいのが出てるだろうから買いに行かないと、後になったら忘れそうだ」

「解りました。その間に着替えておきますね」


 芽生さんを着替えに向かわせて、その間にコンビニで探索・オブ・ザ・イヤーと月刊探索ライフの最新号を入手。おやつは……今買いに行くと小言を言われそうなので無しだな。雑誌だけにしておこう。


 戻って芽生さんの着替えを待って、支払い嬢にギルマスの動向を確認。


「ギルマス居ます? 」

「今日は居ますね。何かご報告ですか? 」

「そんなところです。その為に切り上げて戻ってきたので」

「道理でいつもより早かったわけですね。ごゆっくりどうぞ」


 二階へ上がり、ギルマスの部屋をノック三回。


「はい、どうぞ」

「失礼します、安村です」

「ああ安村さん。お土産ありがとうね。お茶、美味しく頂いているよ」


 コーヒー派だが、新茶は新茶で楽しむことはあるらしい。お茶請けの菓子もついでに渡しておけば印象はより良かったかな? まあそれはともかく今日は真面目でセンシティブな話だ。ゆっくり確実に話していこう。

作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

後毎度の誤字修正、感謝しております。

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― 新着の感想 ―
読み進める前からボケ始めるイマジナリー芽生さん →「証拠不十分ならぬ証拠隠滅不十分って所ですね」 →「あ、土魔法でちゃちゃっと消しときました」 〜〜〜 > セノの紹介もするべきなのか」 トンボに…
こんにちは。 モンスターの毛みたいなドロップ品があるなら、それで何処かのメーカーにレーキ作成を依頼しても良いかもですね。 あとはインゴットを使って耐久性のあるトンボ作ってもらうとか(笑)
通信環境が整えば携帯も探索者モデル出てきそうで経済効果が凄そうですねー
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