1160:いたずらの後始末
ダンジョンで潮干狩りを
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次の休みが来た。窓の外を眺めるが今日もいい天気で空は青い。あれからまた数日同じ行程で探索を行い、いくらかの……いや、世間様から見ればかなりの金額を稼いだ。それだけの金額を稼ぐことが日常のことになってしまっているのでもうあんまり考えないようにはしている。
年末までにいくら稼げるか。その金額は楽しみにしつつちゃんと今年一年社会の役に立ってたんだという実感がその金額に反映される、と思っておこう。
何時もの朝食を食べてメールを確認。どうやら肝心の後部に取り付ける予定のブラシのほうは今日中に配達予定らしい。明日には早速確認ができるようだ。
ディーラーの予約は朝一番。それまでの時間は暇つぶしのテレビニュースやネットニュースで情報を集める時間だ。休みだからとダラダラ過ごすのもいいが、世の中に置いていかれるのは御免被るからな。どこのアトラクションが人気があるとかそういう話も大事だが、探索者周りの情報はちゃんと集めておかないとな。
ニュースを見ると、高輪ゲートウェイ官民総合利用ダンジョンでの通信環境テストの実施が始まるらしい。前に言ってた、モンスター忌避塗料で覆った通信機器を各所に配置して無線設備を繋いでいくという奴だな。一層から順次確認しながら開放していくとのこと。
まず第一弾として七層までを目標にして、七層での通信チェックを確認次第、七層に中継用のブースター設備を設置。そこでは太陽光による自家発電で維持できるような少々大掛かりな装置を導入していくらしい。
一層から六層の間でも通信ができるようになるということは悪いことではないが、戦闘中に着信があってそれに気を取られてケガ、なんてことが発生する可能性もあるので全階層で使えるようになるのは果たして良いほうに転ぶのか、悪いほうに転ぶのかははっきり言えないが、通信という新しい手段が構築できるようになるのはいいことだと思う。
ただ、気になるのはセノが言っていた、通信できる階層を順次増やしていくことが可能になっていくかもしれないという新式のダンジョン階層改造セットの存在だ。今から人の手でごり押しで上のほうから順番に通信環境の設備を更新していく中で、ダンジョンマスターのほうから深い階層では普通につながるようになりますよ、とお出しできるようになるなら、骨折り損のくたびれ儲けになる可能性もある。
この話が立ち上がる前にそういう可能性がありますよ、とダンジョン庁に伝えておけばこのプロジェクトも中止になって無駄な出費をしなくて済むようになっていたのだろうか。それとも、既存の階層にまで手を加えるのはダンジョンマスターの負荷が高すぎるとしてそっちはこちらの手に任せてダンジョン側は深い階層にだけ優先して通信設備を設置していくという形になるのか……これはもう俺個人でなんとか動き回って話をまとめるという次元を超えてしまっているな。
現状ですら猫の手を借りて色々とやってもらっているのだ。おそらくセノのことだからリーンをうまく丸め込んであちこちのダンジョンマスターにそのダンジョン階層改造セットを配達、説明、設置に関するあれこれを伝えて回っているんだろう。
そろそろちゃんと報告はするべきだろう。さて、どうやって報告するか。実際にモノが出来てから事後報告のような形で、どうやらこのように動いてくれていたようです、と報告するほうがいいか。五十六層でのタイヤ跡騒ぎもちゃんと消せるようにした後で報告した方がより円滑に話を進められるような気がする。こっちも誤魔化したい部分はあるし、ギルドマスター達に聞かせられない内容もある。話をまとめておく必要があるだろうな。
時間が近づいたのでディーラーに向かう。ディーラーへは車で二十分という所。普段のセダンの車検と法定点検、その他車に関する悩みや買い替えの話なんかをする際にお世話になっている。
今日は中古で買ったSUVに乗っていくことと、車体後部に金具をつけてもらうのをお願いするという話のついでに、法定点検と車検も今後お願いすることになる、という取引で費用はともかく装着をお願いすることになっている。
もし車に合わないようなパーツだった場合はそれにちょうどいいパーツを見繕ってもらって改めて取り付けをお願いすることになるだろう。どっちの車も車検へはまだ時間的余裕があるので今日の所の点検は必要ないとは思っているが、向こうがやっぱり点検したほうがいいですよ、と言い出したなら点検もついでにやってもらうことになるだろう。
ディーラーに着き、いつもの営業に顔合わせ。早速車と金具を見せて、取り付けられるかどうかの確認。無事に取り付けられるようなので無駄金をはたいたことにはならなかったらしい。
工賃をしっかりととってもらうことと、今後の車のメンテナンスや車検、法定点検、そのあたりの話をまとめてもらう。
何で新車にしなかったんですか? と言われたので、表面上社用車の形で運用していくことと、個人事業主なので経費の問題で型落ちの車のほうが税制上都合がいいらしいという話を税理士から聞いたと伝えると、そのまま引っ込んでくれた。やはり車関係の税制にはそれなりに知識があったということだろう。
もし今の社用車が壊れたら次は新車をお願いしますとあけすけに言われたが、考えておきますとだけ伝えておいた。流石にまた中古を探して探して……というのは手間だしな。今の車がだめになった時に次を考えておくことは伝えておいたので、未来の新車予約はありってことだな。
しばらく雑談や最新の車の話を聞きながら改造が終わるまでの時間を過ごす。社用車に求められている機能の話やオートクルーズ、ブレーキアシスト、その他俺の車には付いていないいくつかの機能について教えてもらった。
しかし、社用車は主にダンジョンの中で利用する予定なのでこの手の機能はほとんど使えないと言ってもいい。むしろGPSが届かないと運用できないようなシステムは逆に扱いづらくなる可能性があるが、それを伝えて理解されるとも思っていないし逆にそこから【保管庫】の存在が漏れても困るからな。出来るだけ平静を装って最近のは凄いんですねえ、と相槌を打つことで興味なさそうであるという風な体を装うことにする。
器具の取り付けが終わったのか、ツナギを着た技術スタッフがこっちを呼びに来る。取り付けは無事に完了したらしく、車の後部に接続用の牽引フックが取り付けられている。試しに手で引っ張ってみて外れないことを確認すると、ありがとうございましたとお礼。支払いを済ませて早速帰る。午前中で一通りの仕事は終わった。
帰り道にうどん屋で冷やぶっかけ鶏唐付きを頼むと一気に啜り上げて簡単昼食を終わらせる。家に戻って布団の山本に午後から行くと伝える。今日は社用車での納品だ。せっかく事業用として使っているんだから仕事で使っている分のガソリン代はすべて経費として計上できるようにしておきたい。
いつも通り十五キロと四キロの羽根を積み込む。セダンよりも荷物容量が多い分後ろが見えていいな。そこも社用車として選んだ一つのポイントだ。今までは荷物を積み込むとバックするのに難儀していたからな。こっちは一応バックモニタもついているし、色々とつぶしが利く。うっかり私用で乗らないように注意していこう。
布団の山本にいつも通り連絡を入れて、いつもと違う車で行きますと念押ししてから出発、そして到着。安全運転でたどり着けたのは重畳。中に入り山本店長に顔を合わせておく。
店長に車を確認してもらい、今後はこっちの車で納品にくる形になると伝えて、いつも通り納品、検品、そして評価してもらう。
「では、今回もいつも通りということで。夏休みでお忙しいのにすいませんね」
「まあ、今回の納品も夏休みの成果ということで一つ。それに社用車買ったり個人事業主になったりとこっちも色々環境の変化がありましたしね」
「そういえば今年からでしたね。法人化はなさらなかったのですか? 安村様の稼ぎから考えるとそのほうがより節税になったと思いますが」
山本店長はその辺の数字には詳しいらしく、やはり法人化を薦められた。
「いやあ、個人事業主になるってだけでいまのところ頭が手いっぱいでして。法人化して財布が二つになったらそれはそれで面倒ですし、この際税金多めに払ってでも良いから手元のお金は自由に使いたいというのが本音ですね」
「何とも安村様らしい回答ですな。まあ無理に法人化する理由が無いのでしたらそのまま過ごされればよいと思います。ただ、今年から安村様と当社での取引が一千万円を超えてますので消費税の納付が必要になってくると思います。そこは注意しておいたほうがいいと思います」
「税理士さんにも指摘されましたよ。こちらはこちらできっちりやっていく予定……いや、きっちりお願いする予定ではありますのでその辺は御心配なく」
やはり商売っ気を出すと税金は付いて回るものらしい。俺でさえそれなりの消費税の納付が必要になってくるんだ。実際に商売をしている山本店長からすればかなりの金額になることだろう。
「しかし、社用車となれば維持費もかかりますし、今までの車をそのまま使うのでも良かったのでは? 」
「まあ、私用とはっきり分けるには解りやすいですし、ガソリン代なんかも丸ごと経費として落とせますしね。それに、こちらに二回来ればそれだけで社用車関連維持費はペイできる程度ではありますんでちょうどいい区切りなのかな、と」
実際に社用車として運転する機会はここに来ることぐらいなので、地上ではそんなに動かす予定はない。だがまあダンジョン内ではちょこちょこと使うしそのちょこちょこ使う時間を短縮できる時間がかなりでかい。
「……まあそんなわけで、夏休みはしっかり稼いで帰ってますよ」
いつもの冷たい麦茶を頂く。これも徐々に温かいほうじ茶に変わっていくんだろうな。
「それは何よりです。来年の税金で苦労することはなさそうですし、お互い平穏なやり取りで済みそうですね」
「もうあと三カ月もすれば年も変わりますからね。それまでにいくら稼げるかちょっと楽しみになってきたところですよ」
「……と、結果が参りました。いつも通りの品質、いつも通りの重さ、確認いたしました。こちら書面になります」
書面と共に羊羹が届いた。今日の羊羹はゆっくりだったな。
「ああ、書面と言えば消費税適格事業者……でしたっけ。それの登録申請も済ませてあるはずなので、本年中にはお伝えできると思います。まだ何に対して必要なのかは解りませんが、申請が通り次第こちらにはお伝えできるように書面も番号もそろえられるように努力しておきます」
「今年からは申請が必要になりますからね。申請が通り次第よろしくお願いします。形式上はこちらも消費税分収入が増える形になりますのでお互いにとって損はないはずです」
雑談が途切れたのでここでお暇するにはちょうどいい場面かな。
「では、また来ます。来る時には連絡を入れますのでその時にはよろしくお願いします。緊急で必要になった場合はこちらのほうへ連絡を入れてくだされば早い段階で動けるようにはしますので」
「今後ともごひいきによろしくお願いします」
布団の山本を後にして家に帰る。家に着くと、注文のレーキが到着していたのでちょっと駐車場から頭を出して、レーキを取り付けてみる。完全固定式ではないので確実に消し去るという強い意思は伝わってこないが、何往復かしている間に完全に消えてくれるであろうことを祈るか。レーキを外して保管庫に仕舞い、車も駐車場に仕舞ってシャッターを下ろしてから保管庫に格納。準備はこれでヨシ、と。後は明日試運転してみて、威力のほどを確認するとしよう。
夕食は……何か作るか。昼はシンプルに食べたので夜はガッツリ食べたいな。野菜は……一応ある。肉は売るほどある。シーズニングはあるが、ちょっと心許ないな。まだ時間はあるし買い出しに行ってくるか。買い出しは私用になるだろうから社用車の出番はない。いつものセダンに乗って行ってこよう。
買うものは野菜とキノコとシーズニングと……後はいつものおやつと、セノが来た時にまた酒を奢ってやれるようにしておくか。確か辛いのは苦手だったはずだ、甘めの日本酒と前に渡したマタタビ酒、それぞれ購入しておけばいいだろう。今日の夕飯のメニューは買った品物で考えることにするか。
そういえばセノ用のちゅ〇るのお徳用を買いに行くという話もあったはずだ。それも仕入れておかないとな。忘れないうちにメモっておいてちゃんと確認しよう。
作者からのお願い
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続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。
後毎度の誤字修正、感謝しております。