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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第二十三章:新たなダンジョンマスター
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1159:仕事はちゃんとやる

 楽しい食事会も終わりに近づき、机の上の食べ物は料理からお菓子に変わってそれぞれ雑談というところ。このまま一時間ぐらいそのまま騒いでいてもいいところだが、ここはダンジョンのど真ん中、ちょっと移動すればモンスターが出てくるという、他の探索者からすれば冷や冷やもののエリアである。


 ここでいつまでも騒いでいたいという名残惜しさもあるが、それでは今日の稼ぎがお互い少ないものになってしまう。ここらで締めておかないといけないな。


「大分のんびりしましたしねえ。そろそろ頃合いですかねえ」

「かなりお世話になったわね。お礼はまたいずれするわ」


 それぞれ感想はあるにせよ、楽しかったのは間違いないらしい。色々と情報交換もできたし得るものはあったしお腹も膨れて程よくこなれた。


「じゃあ、食器とかコンロとかは帰りにテントに持っていくからね」

「あ、テントの位置、五十七層の階段のそばに変えたから。多分私たちのテントしかないと思うけど、三つ揃って設置してあるから一目見ればわかると思うわ」

「一応ウォッシュはかけといたけど、念のために後で確認しておいてね」


 結衣さん達の食事道具を背負ったまま五十九層へ向かうことになった。ここでこちらが折り返して荷物を下ろしてから改めて向かうのでは上で食事会をやるのと変わらんからな。道具を預けっぱなしで不安になるかもしれないが、帰りには忘れずに返しに行くので安心してほしい。後ほんの五時間ほど預かるだけなので心配は要らないぞ。うん。


 会食を行ったことで何時もより五十九層で戦う時間は三十分ほど短いことになるだろう。でも大事な情報交換と近況報告はできた。何より、ストレスを吹き飛ばす楽しい時間を過ごせた。たまに大人数で食べるご飯は楽しい、午後からの活力を得たような気分だ。


 いつも通り五十八層を駆け足気味に通過して、ここは手早く終わらせる方を優先して探索、モンスターの殲滅を行う。五十九層指輪ウマコースに比べればここの密度は他の探索者には魅力的に映るかもしれないが俺達にとってはもっとおいしいモンスターが下に居てくれているのを解っているし、巡回ルートも構築済み。ここで足を取られてうれしいことは何もない。


 五十九層に下りて本番開始だ。お互い思い思いの全力を出して最短手順、最短時間で探索を行っていく。お腹もバッチリ満たされて気力も充分。芽生さんのほうをチラッと見るが、完全に探索に集中しているように見える。こっちの視線に気づくと、にやっと笑ってそのまま石像をぶん殴りに行った。問題なさそうだな。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 午後の探索は順調に進み、早い段階で二つ目の指輪を拾うことに成功した。そして、俺も火炎雷龍といった感じの雷と火の複合スキルを手に入れることが出来た。こいつは中々に便利だ。


 まず、火属性魔法で相手を過熱させた後、雷魔法で高電圧を発生させることによって魔力の絶縁破壊に近いような現象を起こすようなことが出来た。白雷を使うまでもなく石像の高い魔法耐性を貫くことができるようになった。


 これはかなりの進歩であり、この階層でこのイメージングを繰り返すことで白雷を一発撃つよりも発射シークエンスも使う魔力量も少なく抑えることができるようになり、リビングアーマーはちょっと触れるだけで融解、撃破することが出来ている。ガーゴイルの高い魔法耐性も破ることが出来た。ここにきてようやく、大理石マップ完全攻略といった形になってきた。


 さて、なんて名前を付けようかな。雷龍なら【火魔法】を組み込む必要が無いし、かといって火炎雷撃波……なんて長い名前を頭の中で考えていたらその間に戦闘時間が過ぎ去ってしまう。ネーミングセンスや名前の短さ、そういったものはあらかじめ考えておき、すぐに発動させる状態に持っていくことは大事である。どど〇波の俺としては名前と溜めの時間の短さに重きをおくのは当然のことである。


 うむ、火雷龍(からいりゅう)でいいだろう。(から)い龍とか(つら)い龍とか後々に突っ込みを入れられそうではあるが、こういう技もあるんだよ、ということにしておけばいい。もしかしたら芽生さんも心の中では謎の詠唱やミラクルマジカルな名前でスキル詠唱をしているかもしれんのだ。聞きだしたりする予定はないが自分の使いやすい名称や形態に馴染ませていくことは大事だろう。


「その火を吹く龍、大分様になってきましたねえ。火を吹くというよりまとわりつかせることで雷の着弾速度に添わせるようにしたのはかなりポイント高いと思います」

「足りない頭で組み合わせを試行錯誤した結果だ、ここまで形になるとは思わなかったが、これなら【火魔法】のスキルオーブをもう一つ手に入れてさらに一段階強いものを作り上げるのも楽しいかもしれないな。まあ威力的にはこれでおそらく現状は問題ないとは思うので使い続けて練度を上げて、何処へ連れて行っても恥ずかしくない子に育てるのが今の目標だな」


 もうちょっと何とかする余裕はある。出来るなら全力雷撃と同じぐらいの発動タイミングで打てるようには調整したい。そこまで持っていけばようやく常套手段として使えることになるだろう。この五十九層でしっかり鍛錬をして、ものにしていこう。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 二時間半ほど経過して、そこそこ疲れが見えてきたところで戻る時間が来た。今日も一杯練習して一杯倒した。余は満足である。


「さて、帰るか。帰り道に結衣さん達のテントに荷物を返却するのを忘れないようにしないとな」

「お、ちゃんと覚えてますねえ。えらいえらい」


 帰りも早足で戻り、時間当たりの戦闘密度を維持していく。五十八層、五十七層と順番に戻り、五十六層まで帰ってきた。結衣さん達のテントを探してこれかな? というものを見付ける。一般向けのテントが三つ並んでいたので多分これのことだろう。高橋さん達がテントを張っているなら数は二つか四つ、人数分建てるか二人で一つを使っている可能性が高い。


 その点結衣さん達は結衣さんで一つ、残りのメンバーで二つずつという形で運用していることを既に知っているので判断が付きやすい。結衣さんっぽい一人で使っていそうなテントの中に預かっていた料理道具一式を入れると、もう一度ウォッシュをかけて綺麗にしておく。ぱっと見で汚れとか焦げとかそういう残滓は落ちているのでヨシとする。


 今日からは撃ちっぱなしの訓練をやめにして、車を使える喜びに打ち震えながら素早く帰ることにする。帰り道に結衣さん達が居るなら何人か乗せて運ぶこともできるだろうが、だったら残りの人数どうするねんという話になる。今日は別々に帰路につくことになったのでその心配もしなくていい。彼女たちも車を入れたい……と言い出した時にさてどうしようかと悩みだし、そこからはギルマスや長官と相談する必要が出てくることだろう。


 スピードを上げて砂漠をさっさと渡りきり、五十六層のリヤカーのところまで走り切るととっとと下りて車を再び収納。リヤカーをエレベーターに押し込み七層へのボタンをポチ。


 七層にたどり着くまでにいつも通りドロップ品の仕分けをして、後は暇な時間。適当にじゃんけんしたりクロスワード解いたり、明日の予定を確認するなどした。ちなみに明日の昼食はタンドリー何か肉の予定である。


「芽生さん何肉がいい? タンドリー何か肉。タンドリーじゃなくてさわやか風味のこの前の奴も美味しかったけどそっちでもいい」

「そうですねえ……タンドリーウルフをちょっと多めに、とかでもいいですか。明日はガッツリ食べたい気分です」


 タンドリーウルフ肉か、メモっておこう。シーズニングは……明日で使い切りそうだな。買い出しに出かける必要があるだろう。もしくは二種類選べるようにしても良いな。明日の朝の気分で考えておこう。


 七層で茂君をダッシュで刈ると戻って一層にポチ。芽生さんには毎回待ってもらってて申し訳ないとも思いつつ、いつも待ってくれててありがとうとお礼を言うべきところ。こういうのは毎回思った時にちゃんとお礼を言うのが仲良さを維持するコツだと何かで教わったな。早速実行だ。


「いつも待っててくれてありがとう」

「いいんですよ、洋一さんが往復してくることで翌日も気持ちよくダンジョン探索が出来るならそれに越したことはないんですから。それに私は本当に待ってるだけですし、その間の暇つぶしも提供してもらっているので言うことなしです」


 何という完璧な返答だろう。おじさんちょっとうれしい。今後もありがとうを適度に振りまいていくことにしよう。


 一層に上がって退ダン手続き。芽生さんには先に着替えに行ってもらって、その間に査定カウンターに並ぶ。今日の査定はスムーズに進みすぐに自分の番となる。


「いつも通り二分割で」

「わかりました」


 ほいほいと促されるままにドロップ品を受け渡して数と重さと種類を判別してもらって査定結果を二分割されたレシートを受け取る。今日のお賃金一億四千五十一万二千五百円。かなり多めだ。午前中長めに戦えたことが功を奏したのだろう。車を使って移動することで大きな利益を生み出すことには成功したらしい。


「いつも着替えている間にやってもらってすいませんねえ」

「なあに、問題ないってことよ。芽生さんにはしっかり戦ってもらってるしな」

「どれどれ……おぉ、今日はちょっと多めですね」


 芽生さんもいつもよりちょっと多めであることを確認している。食事会してお供え物していつもの時間に戻ってきて、それでもいつもより多いというこの状態はベストと言えるかもしれない。これ以上の効率を出そうと思ったら五十七層で即ご飯を食べてそこから昼食夕食を抜いてひたすら五十九層で戦い続けるぐらいしかないだろう。流石にそこまでして稼ぎたくないというのが本音ではある。


 支払いカウンターで振り込みをしていつもの水を一杯。喉から胃袋に冷たい感覚が染み渡る。もうすぐこれも一番おいしい時期を過ぎてだんだん温かい湯を求めるようになっていくんだと思うと、一年の季節の移り変わりを少しずつ感じ始める。


 芽生さんも水を飲んでゆったりする。バスの時間は……まだちょっと余裕があるな。さて、今後の予定について今のうちに少し考えるか。まずは部品が届いたら休みの日にディーラーに予約を入れて部品の取り付けと、ついでに車検と定期点検のお願いをするような形で商談を進めておくのが一つ。そしてブラシが届いたら五十六層で試運転をすることが一つ。そこまで上手くいったら残り短い夏休みで稼げるだけ稼ぐのが一つ、だな。


 ディーラーの俺の担当の人への連絡は……時間外でも大丈夫だろうか。ダンジョンに潜っていると昼間の時間をほぼ使い切ってしまうから開いてる時間に連絡を入れて予約をして……となると中々の時間がかかる。手早くやるためには事前の根回しが欠かせないところだ。


 今のうちに連絡を入れて早く予約を入れることが大事だろう。家に帰ったら荷物の届く時間を確認してその後にディーラーに出かけられるように調整が必要だな。うまくやろう。


 バスの時間が来たので芽生さんと共に帰りのバス待ちの列に並ぶ。バスが来たが今日は空いているので座って帰れる。


「今日はゆっくり帰れそうですね」

「眠気がそれほどないから起きて帰れそうだ。また運転手さんにお手間をかけることはなさそうだな」

「そうですねえ……と、あれ新しい店ですかねえ? もしそうなら何の店なんでしょう」

「そうだな。オープンしたら情報が出るだろうからそれを見てからでも遅くはないな」


 前にも通りかかった作りかけの店の話だった。まだしばらく時間はかかるだろうから秋半ばから冬にかけてオープンする予定ではあるらしい。何の店なんだろう。バス通勤なので近くの停留所で降りて確かめに行く、という行動が必要になるだろうが、それだけの魅力を集めるだけの店であってくれるのだろうか。


 まだまだ発展するんだな、この辺りは。ますます小西ダンジョンを潰す理由が薄くなっていく。やはりダンジョンを中心に発展してしまった場所でダンジョンが消える、という措置は取れなくなってきている。


 郊外型大型ショッピングモールが閉鎖して周辺が一気にさびれてしまった、という話を思い出す。それと同じことがここでも起こることになるんだろう。そうなると、ダンジョンの数に制限があるというのも中々厳しい話ではある。ダンジョンマスターについて隠匿されているうちにダンジョンの数がもっと増えていれば、という話にもなりそうだ。でも、ダンジョンマスターは踏破されたらまた俺のところに会いに来るんだろうか。考えることはまだまだあるな。


 駅で芽生さんと別れて自宅へ。自宅へ着くと、置き配が完了していた商品が届いていた。これは……どうやら注文していたリアバンパー用の牽引金具らしい。物自体は安いものだが、取り付けのほうに問題がある。素人改造で適当にいじった結果車ごと破損する、なんてこともあり得るがそうなったら修理をディーラーにお願いしに行かなくてはならなくなる。


 二度手間でディーラーに行くなら初めから行ってお願いしておいたほうが手間も一回で済むということだ。合理的だな。早速普段お世話になっているディーラーの営業に電話を入れる。次の休みに出かけて行って改造をお願いできないかどうか相談。向こうからはいつでも来てくださいと気軽に承諾してくれたので次の休みに出かけることにしよう。


 さて夕食は……いつも通りコンビニで済ませるか。夏の味覚系の弁当はそろそろ終わりの時期に近づいている。今のうちに味わっておかないとまた来年までお預けか、人気がなければ復活せずに二度と味わえなくなる一期一会のお弁当になってしまう。

作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

後毎度の誤字修正、感謝しております。

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― 新着の感想 ―
> お礼はまたいずれ」 (肉体的に) > にやっ」 不敵な芽生さん > 火雷龍」 (辛くはない) > 突っ込みを入れられそう」 予防線を入れるおじさん > 喜びに打ち震え」 るおじさん > …
ダンジョンを中心にした都市構想とかダンジョンがなくなった瞬間崩壊しちゃいますもんねー
火雷龍がしっくりこないなら雷火龍でいいじゃないw 龍雷火にしたら竜雷太みたいだとふと思ったり(´・ω・`)
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