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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第二十三章:新たなダンジョンマスター
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1158:昼食をみんなで

 五十七層に入ったところで結衣さん達とは別ルートで回り始める。一緒に戦うではここのモンスターは数が少なすぎるから自己鍛錬にしてもお金稼ぎにしても効率は非常に悪いと言わざるを得ない。五十九層ならまだ見込みはありそうだが、今から五十九層に潜るのではお昼の時間に間に合わなくなる。


「安い買収金額で済んで良かったですねえ」

「結衣さん的には買収はもののついでで、一緒に食事が出来ればいいってことだと思うよ。多分こっちが昼食をその辺で取ってるのを見て楽しくて羨ましいからたまには一緒に食べましょうってのは建前かな。最近構ってあげられない所もあったし、俺も料理を手伝ってみんなで楽しく食事が出来ればそれでいいかな」

「それは大事ですねえ。料理を手伝ってあげて和やかな雰囲気で食事ができるのを楽しみにしてます」


 芽生さんはそれで納得してくれたらしい。その後は追及されずに戦闘にお互い集中していつも通りの作業に入る。同じような形でエンカウントし、同じような形で戦闘し、同じような形で戦闘を終えて、同じような形でドロップ品を回収して次へ行く。


 最早ライン作業とも言えるその工程は完全に手慣れたものになり、ただ無機質に、無感情に戦い続ける。お互いの体調確認と異変の有無、それからドロップ品の確認なども含めて、二人ひたすら作業に没頭する。この間は長く感じることもあれば短く感じることもある。


 この精神的な時間経過の感覚は没頭すれば没頭するだけ短く感じるということはない。むしろ、その瞬間瞬間を感じていようとするために逆に長く感じることもある。その日の体調や気分によって左右されることが多いのでどっちのほうがいいか、と言われるとなかなか難しい話。時間が過ぎるまでにやる作業量はほぼ決まっているので、一つ一つの作業をこなす感覚的時間は短いほうが一日を楽に過ごすことが出来て、短時間で金を稼げてハッピーであると考えることもできる。


 今日は結衣さん達との会食もあるので、時間を忘れないようにちょこちょこと時計を見ながら経過時間を考えつつ、良い感じのタイミングで再会できるように調整していく。


 体感でそれなりに長い時間であったが、二時間の探索の時間を終えていつもの場所へたどり着く。ポーションを二本、指輪を一つ確保できて午前中の稼ぎとしては充分すぎる結果となった。午後も指輪が一個出てくれれば今日の稼ぎはこの上はあるがこの階層では最上級に美味しい稼ぎになったと言えるところだろう。


 さて、先にたどり着いたようなので机と椅子を出し、結衣さんから預かった一式を机の上に置くと、それはそれでと別腹用のボア肉二パック分を適度な大きさに刻んでキノコと一緒に炒め始める。


「どうせ欠食児童たちがお腹を空かせて到着するだろうから、ちょっと多めに作っても問題はないよな? 」

「そうですねえ。せっかくだしこっちからお出しするのも悪くないと思いますし、向こうが調理してる間我々が食事してるのを横目で見て、ブーイングが飛んでくるかもしれないことを考えると一品作って待っている、というのは悪くないと思います」


 醤油と味の素でボア肉のステーキキノコ添えを炒めていく。バターもちょいと入れていい香りが付近に漂い始める。そして匂いにつられてやってくる探索者集団が一つ。


「あら、先に始めてたのね」

「結衣さん今から料理するんだろうし、出来上がるまでそれなりに時間もかかるだろうし、その間に摘まめる一品があると丁度いいと思ってさ」

「悪いわね、色々と催促しちゃったみたいな形になって」

「安村さん、それあとどのくらいで出来ますのん? 」


 早速欠食児童たちが群がり始めた。火の通り具合から見て後……三分ぐらいかな。もうちょっと我慢してもらおう。


 その間に芽生さんにはボア肉の照り焼きとご飯を取り出して味わってもらっていることとする。炊飯器ごと取り出した瞬間びくっと反応した向こうのパーティーだが、そこからホカホカご飯が出てくる時点でまあ安村さんだし今更か……みたいな空気になったのでスルーしておこう。


 二パック分のボア肉の醤油バター焼きが出来上がったところで机に並べ、お好きにどうぞという形にしておく。その間に俺も食事を取ろう。


 欠食児童たちは早速箸を手に、自分の取り皿に料理を取り出すとパクパクと中々の勢いで食べ始めた。五人で二パックはさすがに少ないとは思うが、本来会食しなければ存在しないご飯となるのでそこは勘弁してもらうことにしよう。


「私の分もちゃんと残しておいてね」

「そう思ってもう取り分けてありまっせ」

「ならよし。私のほうはもう少し待っててね」


 結衣さんのほうは肉と野菜を軽く炒めた後一旦どけて、パックライスを炒めて焼き飯を作っている。人数が人数なので、それ相応の鍋の大きさとコンロもちゃんとした、一人用の小型バーナーではなく家庭用の四人前用ぐらいの鍋相応の大きい奴を使っている。


 慣れた手際でささっと米を炒め終わると先に炒めておいた肉と野菜を混ぜ合わせ、ソースで味付けをしている。……が、手持ちが切れてしまった模様。最後まで注ぎ終わると味見して、しかめっ面をしている。


「安村さん、ソースあったりしない? 」

「色々あるけどどのソースがいいかな」

「さらっとした液体の奴。濃くないほうが混ぜるのに手間がかからないので」

「ちょっとまってね……はい、どうぞ」


 保管庫には中濃もウスターもとんかつソースも醤油も塩もバターも、何でもとまではさすがに行かないが一般的に言う所の調味料にあたるものはすべて放り込んである。常温保存のものならほとんど揃っていると言っても過言ではないだろう。


「ありがとう、助かったわ」

「ゴミ、預かるよ」


 空っぽになったソース容器を保管庫に放り込んでごみ掃除は完璧。片付けもできるいい男が俺だ。人数分の焼きめしを作り終わったところで全員の皿に盛り付け。欠食児童たちの主食が今解き放たれた。


 こっちはこっちで落ち着いてボア肉の照り焼きをサラダと共に頂いているところだ。向こうは……まあ、栄養分の偏りまでは自分で何とかしてもらおう。とにかくこれでみんなゆっくり食事が出来る体勢が整った。


「安村さん達は指輪何個ぐらい今あるのですか? 参考までに聞きたいですね」


 横田さんが食事しながら聞いて来る。そういえば指輪の個数を集めるのを目標にしているんだったな。


「今は……物理耐性が十九個。魔法耐性が十七個かな。ここのところ夏休みはほぼこの大理石マップに常駐してるから、一日に一個か二個は出るぐらいのペースでやらせてもらってるよ。後は先に出荷したのが合計十個。いつ要請が来てもいいようにため込んでる感じかな。そうそう市場に流していい品でもないとは思ってるので意図的にここで止めてる感じ」

「結構出るのかそれとも出ないのか判断に困りますね」

「一日一個出れば御の字ぐらいで考えておけばいいよ。人数分だから……最短十日、最長二十日ぐらいかな。それだけ通えば自分も強くなるだろうし、そろそろスキルオーブも補充され始めるだろうから狙っていくのもいいね。ここは耐性系のスキルオーブが落ちやすいらしい」


 ざっくり手持ちのメモ帳を見ながら分析と傾向を伝える。


「スキルと言えば、【硬化】は中々の使い所があるスキルでしたわ。拳でガーゴイル砕くのもなかなか楽しいことがわかってきましたわ」


 平田さんはこの間俺から買った【硬化】がお気に入りらしい。どうやらガントレットの上からでも効果があるらしく、防御に応用することもできるらしい。ピンポイントバリアみたいなものか。平田さんは【物理耐性】もあるから相乗効果があるんだろうな。


「二十日ですか……それだけあれば五十九層にも足を伸ばせそうですね」

「五十九層には魔法耐性も物理耐性も高いモンスターがもう一種類増える……って前にも言ったな。奴には十分注意してね。遠距離攻撃こそしてこないものの結構厄介な存在であるのは確かだから」

「安村さん達はどう対応してるんですか? 」


 聞かれたので相棒である圧切を取り出して見せてみる。


「こいつでスパッと」


 波紋と刀の形と色を丹念に観察すると質問を重ねてきた。


「これは……インゴットと同じ素材ですかね、もしかして」

「合金とは聞いてる。配合や効果のほどまでは覚えてないけど、切れ味は折り紙付きで次の次のマップのモンスターまでならスッパリと行けるよ」

「そろそろ武器も変え時ですか……参考になります」


 横田さんはぶつぶつと言いながら色々考えることが増えた様子だった。


「私たちもここに通ってインゴットをたくさん納品したおかげもあって、いい装備品をそろえる時期ではあるのよね。また鬼ころしにでも寄って新作武器を眺めるのもいいかもしれないわね。安村さんはどうしたの」

「俺は金もあったしせっかくなので特注で一本作ってもらった。芽生さんの分はそろそろ出来上がるころじゃないかな」

「そういえばそうですねえ。時間がちょっとかかってる気もしますがそろそろ連絡を入れて確認するのもいいかもしれませんねえ」

「特注かー。私たちも色々と特注で自分に合ったものを選ぶほうがそれっぽくなるのかしら」


 結衣さんが自分のレザーアーマーをポンポンと叩きつつ確認している。


「体に合うものが市販であるならそれでもいいだろうとは思うよ。個人の好みだしそこに口を出すつもりはないかな。特注品見せびらかせて飾るとかそういう趣味がないなら大人しくいつも通りで過ごすってのでも充分だと思うし」

「名より実取れですからねえ。おかげで私も今年は相当稼いでますし」

「まあ、稼ぎのほうは聞かないわ。自分でもある程度把握してる分の……何倍かぐらいは順調に稼いでることが目に見えてるし」


 ボア肉の照り焼き、こうなると解ってたらもう一パック分ぐらい余分に作ってくるところだが、今から作るってのもアレだしな。流石にこの人数と一緒に食事をすると物足りなさが伝わってくるな。


「もうちょっと何か作ったほうがいいかな? 手持ちの食材で良ければ何かできるけど」

「ううん、あんまり甘やかしたらだめよ。いくらでも食べるし、食べ過ぎて動けなくなっても困るし」


 結衣さんが他のメンバーを見張っている。確かに平田さん達の食欲からすればもう一皿二皿増えてもいい範囲ではあるとは思う。が、結衣さん的には日常的にあんまり腹が膨れているとよろしくない、という派閥の模様。俺が芽生さんを甘やかせすぎなのだろうか。もっとストイックに潜るべきなんだろうか。悩むな。


「まあ、そこはうちはうち、よそはよそ、ということですねえ」

「そうですな、我々は作ってもらって食べさせてもらえてるだけでも充分甘やかされてるとも言えますし」


 平田さんと芽生さんがお互いに納得している。他のメンバーもうんうんと頷いている。そこで気にすることはない、ということらしい。ふむ、じゃあいつも通りで良いな。


 結衣さんが隣に来て焼き飯を食べ始める。一つ照り焼きをそっちの皿に載せると、素直に食べた。


「中々美味しいわね。でもこれボア肉でしょ? 鶏肉じゃないんだ」

「本式は鶏肉で作るらしいが、冷蔵庫にいつでも鶏肉が入ってるわけじゃないし、冷凍しておいたら解凍が必要だし……と色々考えると、ダンジョン肉に合わせるのが一番手間が無いんだ。勿論、一番美味しいのは鶏肉で間違いないとは思う」

「こっちの焼き飯は食べる? 」

「一口貰おう」


 おかずを少し取り換えっこして、ついでに自分で焼いたボア肉のキノコバター炒めの味見もする。うむ、キノコとバターがあれば何でもおいしく食えるな。やはり保管庫に放り込んでおくべき素材で現状ナンバーワンの座はなかなか動くことはなさそうだ。


 種類が選べることも大きいし常温保存で良いし、軽いし栄養もあるし何より炒めると美味い。きっちり火を通しておく必要があるのが唯一の欠点だが、これも茹でたりさっきみたいにバター炒めにすることで美味しさも加速する。保管庫というものを最大限活用するなら下手な冷蔵野菜を入れておくよりもまずキノコである。これからもキノコには食生活を豊かにするために頑張ってもらおう。

作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

後毎度の誤字修正、感謝しております。

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― 新着の感想 ―
久しぶりにツッコミポイントが少なかったので、3ヶ月前のメモを投下(’〜’) ◾️強くなりすぎたおじパと階層難易度の不一致 世界最深層級探索者であるおじさんPTの強化具合が、新規構築される階層の難易度を…
こんにちは。 武具は自分を守る最後の相棒ですからね…早い内に結衣さん達も安村さん達みたくアップグレードした方が良いでしょうな。
現実では値上げ値上げでそのうち庶民が買えるのはキノコだけになりそう。
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