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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第二十三章:新たなダンジョンマスター
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1157:同伴出勤

 アラームが鳴って目が覚める。今日も快調な睡眠をとれたということだ。昨日の眠気は良い感じにとれてくれた。芽生さんも隣でばちりと目を覚ます。


「おはよーございます」

「おはよう。よく眠れた? 」

「落ち着いたところで眠れたおかげでばっちり芽生ちゃんですねえ。お腹空いたので大人しく朝食を待ちます」


 朝からテンションは少し高めらしい。本当に調子がいいようだ。色んな意味で。早速朝食をねだられたので早速作ることにする。と言っても昨日のご飯の残りがあるので、俺はレンジで温めてご飯食、芽生さんは……いや、両方お出しして好きな方を取ってもらうことにするか。


 トーストとキャベツ、目玉焼きをササっと作り上げると、土産で残っていたうなぎの白焼きの半分をレンジで温めるとこれもお出しする。ちょっと豪勢な朝食になったな。


「芽生さん昨日の残りのご飯とホカホカのトーストどっちにする? 」

「その聞き方だとホカホカのトーストを食べろ、という風に聞こえますねえ。トーストにしますが」


 ウナギの白焼きに軽く醤油を垂らして頂く。うむ、ご飯が残っていて丁度良かったな。芽生さんは白焼きトーストにして食べている。


「なるほど、うなぎご飯を食べるための質問でしたか」

「今からでも交換するか? 」

「うーん、ご飯一口だけください。それで満足しておきます」


 食事を終え片付けるとお昼の準備だ。さて今日は……カツか。でも昨日サンドイッチにカツを使ったので飛ばそうか。飛ばしたその先は照り焼き。二日連続になるがボア肉の照り焼きと行こう。


「じゃあ俺お昼ご飯作ってるからその間好きにしてて」

「わっかりました。その間に洗濯機とシャワー借りますね。一応下着ぐらいは着替えておきたいので」


 芽生さんは身支度を整えてから行くらしい。その間に昼食を作ってしまおう。炊飯器に米をセットして炊飯、ボア肉の照り焼きを作りつつ、手が空いたちょっとの間にサラダを散らして、また半熟卵を作ってサラダの上に散らして粉チーズとクルトンと黒コショウをまぶしてそれっぽく映えを意識してみる。


 照り焼きは何度も作ってきたので手順も覚えているし、たれの作り方も心得ている。もう配分表を見なくて済む程度には作り慣れた。これも一つの上達だな、俺の趣味はきちんと俺のためになっているぞ。


 飯の準備を終えてリビングのほうに目をやると、既にスーツ姿の芽生さんが居た。


「あれ、今日はレンタルロッカー使わないの? 」

「たまにはスーツで同伴出勤というのもいいかと思いまして。レンタルロッカーは荷物置いておくのに使えますが、手早くダンジョンに潜れるように、という感じですね。お昼は出来ましたか? 」

「後は炊飯器でご飯が炊けたら終わりかな。今日はボア肉の照り焼きだよ」

「ボア肉祭りですね。茂君のついでに大分数が溜まっていたから消費していく感じでしょうか」


 まあ近いな。ボア肉の数も増えてきているのは確か。中々消費に回らないのはため込んでいるせいだろうか。今度結衣さんのテントにでも放り込んでおくと喜ばれるかもしれないな。そういう消費の仕方も有りだな、今度許可を得て考えておこう。


 洗濯が終わったらしく洗濯機から音が鳴る。芽生さんは洗濯物を部屋に干しに行ったらしい。洗濯物は洗濯した後家の中に干してそのまんまであることが多いため、ちゃんと部屋干し用の洗剤を用意してある。


「また部屋に干しておくので、今日の夜にでも片付けておいてください。お願いします」

「別に取り込みに来るために来てもいいんよ? 今日は買い物の予定も無いし」

「うーん……じゃあ夜までに考えておきます」


 一通りの食事の準備は終わった。俺もスーツに着替えて保管庫に昼食を放り込み出かける準備をする。今日は結構時間があるから少し早めに出てコンビニにミルコのおやつとコーラでも買いに行くか。


 柄、ヨシ!

 圧切、ヨシ!

 ヘルメット、ヨシ!

 スーツ、ヨシ!

 安全靴、ヨシ!

 手袋、ヨシ!

 飯の準備、ヨシ!

 嗜好品、ヨシ! これから買いに行く!

 車、ヨシ!

 保管庫の中身……ヨシ!

 その他いろいろ、ヨシ!


 指さし確認は大事である。指さし確認をするついでに芽生さんも隣で自分の服装についてヨシをしている。今日はダブルでヨシだ。


 本来ならお互いにヨシするのが安全確認だろうが、俺は芽生さんの指さし確認項目が解らないからな。その辺は自分で確認してヨシしたことにしておこう。


 家の近くのコンビニでいつも通りお菓子を買い、ついでにちゅ〇るも購入しておく。猫形態の時のおやつとしては薄味らしいが好評なのでほんわかした時間を楽しむには大事だろう。こんどスーパーでお徳用を買ってくるようにしよう。メモメモ。


 駅からバス、バスからダンジョンと順調に遅滞なく来ることが出来たので、いつもよりチョイ早めの出勤となった。芽生さんも荷物を置くだけなので着替える時間が短縮されて、ますます普段よりも早いペースでの入ダンになる。


 入ダン手続きを終えてリヤカーを引き、ダッシュで茂君を刈ると五十六層に向かう。そういえばそろそろ羽根も納品の時期かな。次の休みに計画に入れていこう。メモメモっと。


「今日も移動で楽が出来そうですねえ。今日は出始めが早かったですから結衣さん達を追い越すような形で道中で出会うかもしれませんね」

「怒られそうなのが目に見えているが、対策は講じてあるから数日後をお楽しみにとでも伝えておけばいいだろうさ。さあ今日も気張って稼いでいこう。そろそろお互いスキルにも慣れてきただろうし、撃ちっぱなしに使う時間を五十九層に当ててより稼いでいけるようにしたいね」


 何時ものクロスワードを広げると、クロスワードの本の上にちょこんとセノが転移してきた。


「よう、元気にしておるか」

「昨日ぶりだな。それよりそこをどいてくれないか。今から老化防止の鍛錬の時間なんだ」

「ふむ、まだお主は若いと思うがのう。まあ油断せんことは大事じゃろうし、我も邪魔をしに来たと言われるのは心外じゃからどくとしようかの」


 セノが本から飛び下りたので、芽生さんにすかさずちゅ〇るを渡す。芽生さんがチッチッと舌を鳴らしながら口元へ袋を開けて持っていく。セノは素直にペロペロと舐め始めた。


「なあ、このプロセス要るのかの? 我は自分で食べることが普通にできるんじゃが」

「このほうが私たちの精神衛生上良いんですよ。和やかな空気に包まれてこの後の探索が捗ることになります。そのほうがダンジョンにとっても視聴者にとっても心の栄養を回復させることが出来て皆が得します」

「さようか。ならばまあ悪い気はしないからこのまま頂くことにしよう」


 ペロペロ、コツコツ、と二つの音がエレベーターの中で響く。一つ盤面を終わらせたところでセノのほうに向きなおる。


「ところで、何か用事があってきたんじゃないのか? 」

「用事というほどでもないんじゃがな、ガンテツのところへ行って通信……じゃったか? それについて学んできたところでな。これで新しいダンジョンを作る時はその通信やらを使ってダンジョンの内外でやり取りをすることが可能になったと報告をしておこうと思っての」

「そうか、無事に一段階次のダンジョンへのステップが踏み出されたってことで良いな」


 新しいダンジョンが出来たのにまた通信が出来ない、では不便なダンジョンの烙印を押されてしまうからな。そこを回避できたのは大きいだろう。


「ついでにミルコに伝えてくる……というのが今日の我の仕事じゃ。ミルコが下層を作る際に、下層だけでも情報がやり取りできるようになれば便利じゃと思うての。これはガンテツの話そのままなんじゃが、どうやらダンジョンの階層ごとに設定を変更できるようにカスタマイズを施したようでのう。もしかしたら上手くいくかもしれない、程度の話じゃがミルコにその技術体系について我がレクチャーをしに来た、ということになる。しばらくは色んなダンジョンを回って、通信とやらが出来るように改造を施していけば、お主らも楽が出来るんじゃろ? 」


 なるほど、小西ダンジョンでも下層を作ったらそこから通信して真中長官に直接映像や様子、階層に関しての情報を送れるようになるかもしれないということか。それはダンジョンの売りとしても大きいし、何よりの間違いない証拠としてダンジョン庁に直接送りつけることができるな。タイムラグも少なそうだし面白い試みだ。


「ふと思ったんだが、電波には距離減衰というものがある。これはアンテナから中継地を経由する際に、中継地の間に更に強い電波を通すことで問題なく動かせるようになっているんだが、この広いダンジョンで電波を中継するのはどうやってやっているんだろうか。技術的な質問だから答えられないかもしれないが解る範囲で教えてもらえると嬉しいな」

「ふむ……ざっくり言えば、じゃ。見えない天井あるじゃろ? それとダンジョンの壁もそうじゃが、それらが全て電波の中継地の役目をはたしている、と思ってくれればそれが一番わかりやすいかのう。異次元を覆う膜そのものに電波の増幅装置の役目を果たしてもらっている。なので、どこに電波の増幅装置があるかどうかについては気にする必要がない、というところじゃな」


 このお猫様、賢いな。一人称が我であるだけのポンコツ猫だという俺の心の中の印象は完全に覆された。セノもガンテツと同じく技術畑の人間……いやダンジョンマスターであったか。


「安村よ、お主失礼なことを考えてたりしないか? 」

「気のせいだ。答えを聞いて満足していた所だよ」

「さようか。ならばよい。というわけで我はミルコのところへいってくるでの。おやつ御馳走様じゃ」

「ミルコのところへ行くなら……ついでにこれも届けてやってくれ。いつもの付け届けだ」


 お菓子とコーラとミントタブレットを保管庫から取り出すと、セノに託す。セノは猫のままそれらを、多分彼らが持っているであろうアイテムボックスに放り込むように収納した……んだと思う。外から見ると保管庫の収納ってこう見えるんだな。やはり不思議スキルであることに違いはないらしい。


「では、改めて。お主らも頑張れよ」


 セノは転移していった。ミルコに情報を伝えるって事は、今一生懸命作っているであろう階層からでもネットが繋がるようになる可能性はあるって事だな。早ければ七十層で使えるようになるかもしれない。期待して待つことにしよう。


「四十二層は送信だけ出来る状態になってるんでしたっけ。七十層では送受信ができるようになるかもしれませんね」

「そうだな、それを楽しみに待つことにしよう」


 五十六層に着き、リヤカーを設置すると、車を出す。ガソリンはまだまだ残っているので三ヶ月ぐらいは保管庫に出し入れするだけでも問題はなくなるだろうな。


 昨日のわだちは……セノに頼んだとおりに綺麗に無くなっている。とりあえず昨日までの分はこれで誤魔化しがきいたということになっているが、今日も普通に車を使う予定なので新しいタイヤ跡が増えることになる。


 早速乗り込み丘を越えていくと、丘を越えた先で前に結衣さん達の姿が見えた。クラクションを鳴らして知らせる。結衣さん達はちょうど階段を下りようとしていた所であり、こっちを見て何やらリアクションを取っているのだけは見える。


 二分ほどで素早く階段前まで到着して下りて、保管庫に車を隠す。


「保管庫、そんな車も入れられたのね。どれだけの量が入るのかしら」

「最近調べたところだと千トンってところかな。その気になれば建築現場でもかなり楽をして働けるな」

「それより、タイヤ跡どうするの? このままだと自動車が入り込んでいることから保管庫についてバレてもしょうがないことになると思うんだけど」


 やはりそこに突っ込まれたか、というところ。だが、改善の予定は出来ている。


「それについては一つ二つ策を講じる予定なのでなんとかしてみるつもり。まあ、この先を見といてくれ」

「普通、車を持ってくる前に気づくと思うんだけどなあ」

「目先の利益につられてしまったってのと、社用車が持てると思うとちょっとテンションが上がってしまってな。実際に目にするまで気づかなかったよ」

「そういえば、昨日ついてたタイヤの跡は消えてるのよね。自然の風で消えたのかしら」


 結衣さんは風も吹かないのに不思議よねーという感じ。ちゃんと車を見てしまった以上話しておくべきだろうな。


「そこはちょっと元ダンジョンマスターにお願いして昨日の分については消してもらったんだ。今後は自助努力でなんとかなる……予定。最悪はバレることになるか、ダンジョンの謎が一つ増えるだけで済むかな。まあ、いずれ公開しなければいけない話ではあるんだし、それがいつになるか……という話にもなるかな」

「いずれ公開しなければならない……って、長官とギルマスには話を通してるわけ? 」

「まだかな。バレちゃってからのどうしましょう、という形でなんとか進めようと思ってるよ」

「うまくいくと良いけどね。で、私たちへの口止め料は何かないわけ? 」


 結衣さんも袖の下を要求している。


「うーん……何がいい? 」

「お昼を一緒に食べましょう。いつも二人がご飯食べてるところで、時間は……十二時頃で良いかな。その頃にはそこに到着するようにしておくから、この食材と調理器具を保持しておいてもらうのが条件ってことで」


 結衣さんが抱え込んでいる荷物を一式保管庫へ収納すると、買収工作は完了した。


「じゃあ、またお昼にでも」

「ええ、楽しいお昼ごはんになりそうね」

作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

後毎度の誤字修正、感謝しております。

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― 新着の感想 ―
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移動手段の問題は、下手に隠そうとしてドツボにハマってるような気がするなあ。 どうせなら、砂漠使用に改造した電動オフロードバイクで堂々と乗り付けて、そのままエレベーターまで入って行っちゃってもいいんじゃ…
もうガンテツの所で色々済ませてきたんだなあ セノがダンジョンを新たに作るのもそう先の話ではないのかもねえ
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