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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第二十三章:新たなダンジョンマスター
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1156:アタッチメントは忘れずに

 まずスーツから普段着に着替える。着替えてスーツにウォッシュ。ウォッシュされたスーツはまた短い間タンスの中で眠っていてもらう。今のところどれかのスーツに関して破損が酷いとかそういうことにはなっていないので、このまま数年持ってもらえることを祈ろう。今年から経費である程度何とかなるようになったとはいえ出費は出費だ。少ないに越したことはない。


 さて、料理開始だ。出汁のベースは麺つゆでいかせてもらうことになった。カツオも昆布もしっかり入っている麺つゆのペットボトルはこういう時に使いまわせて便利。おでんの下味にちょうどいい割合より少しだけ濃いめにしておこう。


 大根の皮を剥いた後いちょう切りにして鍋の底に並べると、その上から人参、こんにゃく、ちくわ、それから……何か肉が欲しいな。在庫が一番多いのはウルフ肉、次に馬肉。一番少ないのがワイバーン肉だ。ワイバーン肉もB+探索者が入り乱れるようになった今では取りに行くのも一苦労に違いない。ここでは使わないようにしておこう。ここで投入するならボア肉だな。


 ボア肉を慣れた手つきで薄切りコマ肉風にした後で上から入れる。ちょっと肉を入れ過ぎな気もするが、実際に煮こんでいけば多少小さくなるしそれほど大きな問題にはならないだろう。


 一通りの具材を放り込んだが、やはり割合として肉が多いな……他の具材がかすんで見えてしまうぐらいの量だ。半分ぐらいでも良かったかもしれない。まあ、肉おでんということで牛すじの代わりにしっかり味を出してもらうことにしよう。


 芽生さんは部屋の片づけを終えた後、こっちへ戻ってきてテレビを見ている。この時間に見るテレビは俺はニュースぐらいだが、芽生さんはバラエティも見るらしい。ほのかにこっちへ笑い声が響いてくる。


 後は時間を設定して蓋をすこしだけずらしたまま煮込めばいいな。炊飯器に米をセットして炊飯ボタンを押して、後は出来上がりを待つだけになった。鍋は炊飯にかかる時間の半分ぐらいの時間でタイマーをセットして放置。水分は結構多めに入っているので焦げ付く可能性は低いし、型崩れや味が染みるとかえってよさを損なうものは上のほうに乗せてある。後は時間に任せよう。


 一通りの夕飯作業を終えてテレビのほうへやってくると、どうやらダンジョン特集というか、ダンジョンお笑い芸人という謎のジャンルが出来上がっているらしく、漫才をしながらダンジョンに潜る姿が放映されている。


「ダンジョンお笑い芸人……探索者一本で絞っていく方が儲かるんじゃないか? 」

「そうかもしれませんが、本人たちはお笑いの道へ行くのが第一条件で、ダンジョン探索はついでみたいな感じですね。基本的にはお笑いで食べていきたいらしいです」


 テレビに出るためにはそういう搦め手も必要ってことか。ダンジョンあるあるネタとかで笑わせに来るのだろうか。ちょっと注目しておいてもいいかもしれないな、ダンジョンお笑い芸人。


「ご飯のほうはもういいんですか? 」

「後は煮えてご飯が炊けるのを待つだけかな。もうしばらくゆっくりできるよ」

「そうですか……じゃあたまには普段しないことをしましょう」


 そういうと、ピッタリ体をくっつけて俺の膝の上に頭を乗せてきた。


「そういえばダンジョンに帰ってきてからウォッシュしてないな。ウォッシュ」


 俺の身体が綺麗になる。ついでに芽生さんも少し巻き込まれて綺麗になる。


「せっかく洋一さんの匂いがしてたのに……」


 どうやら俺の匂いを嗅ぎたかったらしい。それはすまんことをしたな。でも着替えちゃったからそもそも着替える前にしっかり匂いを嗅いでおけばよかっただろうに。


「ウォッシュするなら私のスーツもついでにやってもらっていいですか、持ってくるので」

「いいよ、今のうちにもっておいで」


 芽生さんが再び自分の部屋に戻ると、スーツを持ってきたのでウォッシュをかけて綺麗にしておく。最近はウォッシュするのにも慣れた。もう完璧にできると言っても過言ではないだろう。後は多重化してより威力の高いものとして、ゴミなんかも処理できるようになるかもしれない。以前試した時はダンジョン内で半分までは処理できるようになっていた。ゴミ処理のために数千万円のスキルオーブを買い集めるつもりはないので、しばらくこのままだろうな。


 スーツを綺麗にしたところで再びソファーまで戻ってくると、俺の膝の上で猫のように丸くなろうとする芽生さん。たしかに、普段こういうことはしないな。頭をなでてやるとくすぐったそうにしている。


 テレビは点けたまま、のんびりとした時間が流れる。そのまま撫で続けると、疲れていたのか寝息が聞こえてきた。どうやら眠ってしまったらしい。どうせやることもないし、このまま膝を貸したまま夕飯の時間まで寝かせておこう。


 寝顔をゆっくり眺める。なんだか……こういうのもいいな。普段カネカネキンコとうるさい芽生さんもダンジョン外では眠気のほうが大事らしい。


 テレビではお笑い芸人が五層辺りでうろうろしながらろくでもないことを言いながらさらに奥へと向かっていくらしい。テレビで放映しているということは、カメラマンが居て、照明さんが居て、アシスタントディレクターが画面外に居るということになる。


 熊本第二ダンジョンならもっと手軽にその辺の手間を省いて撮影ができるんだろうが、あっちは人型しかいないという話なので、ワイルドボアの姿が見えているここはどうやら熊本第二ダンジョンではないらしいことがわかる。


 何処のダンジョンなんだろうな。画面外の人の少なさから見るに、人が多いダンジョンではなく地方のダンジョンで撮影している可能性が高い。こういう断片から何処のダンジョンで撮影しているかを判断することに頭を使っている辺り、俺もダンジョンからは切っても切り離せない関係になっていると考えていいな。


 まあ、保管庫なんて代物を持ってる時点でそれはあの時からずっとそうなのかもしれないが。そういう意味では俺は本当に動けなくなるまでダンジョンに潜るという使命が生まれたということになる。今後、いつまで、どうなるべきか。どうしたいか、という風に頭が回らない辺り相当ダンジョン熱にうなされているんだろう。


 ダンジョンへの通い方も考える。このままこの家で暮らし続けるんだろうか。それとも、新しい家を何処かに買ってそこで暮らす。俺一人で過ごすのではないのならその可能性は充分にあり得るな。


 住み慣れたこの家を離れる寂しさはあるが、新しい生活を始めるにはそれもありだろう。別にこの家を手放さなければいけないという理由もないので、新しい住居とここ、拠点を二個に増やすという手もある。別にこの家に固執する理由は今のところなくなった。何なら小西ダンジョンのすぐ近くの土地を買って……今からではさすがに遅いかな? どうせならもっと早く動いて場所を確保しておくべきだったか。


 今頃、ダンジョン近くの土地は買える所は全部買われてしまっていてもう残ってないかもしれない。もしかしたらあの辺の土地の持ち主である小西さんがまだ手放していない土地があるのかもしれないが、そうなると小西ダンジョンも小西ダンジョンではなくなってしまうかもしれないな。ちゃんとした地名に名前を付け直すかもしれない。それはそれで混乱するので今のままであってほしいと考える。


 テレビでは七層に到着し、早速クッキングの時間に入り始めたらしい。パックのボア肉を手のひらサイズのスキレットで焼き始めた。バーナーも小さめだ。あの大きさでは肉を焼き切るには結構時間がかかるだろう。ただ、テレビの撮影なのでじっくり肉を焼く時間は飛ばされて、数分後という形で映像が飛ばされ、ただ肉を焼いただけのものが出来上がった。味付けはどうするんだろう。


 どうやら番組スポンサーの商品をここでついでにコマーシャルするらしい。味塩胡椒が出てきた。こういうところでスポンサーを持ち上げていくのは嫌いじゃない。CMが挟まるよりはテンポも良いし実際に使おうという気にしてくれる。


「うん……うん? 寝てましたか」

「もうちょっと寝てていいよ。まだご飯炊きあがってないし」

「はーい」


 うにゃうにゃと言いながらそのままの姿勢で再びごろ寝を開始する芽生さん。顎をすりすりしてあげよう。あぁいいね、その珍しく猫っぽい姿勢とか。全身わしゃわしゃしたくなるが、別の意味でやる気になってくれても困るからな。ほどほどにしておこう。


 しばらくして、炊飯器からご飯が炊けたとのメッセージが届く。膝の上に頭を乗せている芽生さんをゆさゆさと揺り動かして起こす。


「ご飯ですか? お腹空きました」

「今日はお肉多めのおでんにしたから食べよう」


 出来上がったおでんは、やはり肉が多めだったか非常にボリュームのある出来栄えになった。だが大根はしっかり味しみになっていたのでヨシ。お肉は良い感じに引き締まってくれたらしく、中々の噛み応え。中から麺つゆの味がしっかり出てくるお味になった。


「ちょっとお肉が固くなりつつある以外は問題ないですね。程よくしみてて、大根も柔らかくて美味しいです」


 まあ煮込み過ぎの原因になったのは芽生さんの膝枕なので、次回のおでんはもっと上手くできるだろう。確かにボア肉は少し硬いかもしれん。最後に肉が茹で上がったら火から下ろすぐらいでちょうどよかったかもしれないな。次回に活かそう。おでんが本番になりつつあるのは冬だ。それまでに美味しいおでんを確実に作れるようになっておくか。おでんでんででん。


 大根もしっかり柔らかくなっている。ちくわにもしっかり味はしみている。こんにゃくはちゃんとこんにゃくしている。真ん中に切れ込みを入れてぐるっと回して捻りこんにゃくにしておいたのでちゃんと真ん中まであったかい。


 二人おでんをおかずに米を食べるという炭水化物メインの食事になったが気にせず完食。ご飯が少し余ったので冷蔵庫に入れて一晩保存。後は風呂に入って寝る……と、その前にやることがあったな。


「さて、お腹が膨れたところで本来の仕事をするか。車の後部につけるアタッチメントと、タイヤ跡誤魔化し用の後ろにつけて引っ張って地面を均す奴……えっと、レーキっていうのか。値段は気にせずに必要なものをちょいちょいと……」

「売ってるもんですねえ。特注品とかじゃないんですねえああいうの」

「競馬場でも似たような奴は利用してるから量産品だとは思ってたけど……後は後ろに取り付けるための金具か。流石に自分ではできないからセダンのディーラーに頼んでやってもらうか」


 うむ、これで何とかできそうだ。タイヤ跡問題、なんとかなりそう。


「安心したら眠くなってきたな。とっとと風呂入って寝るか」

「私はご飯前から眠いですからさっさと入りましょう」


 風呂を沸かし、沸くまでの間またテレビを見る。天気予報ではしばらく快晴が続くらしい。つまり、暑いということだな。涼しくなってきたとはいえ窓を開けて外の空気を取り入れて一服できるほど気温は下がっていない。まだまだエアコンの仕事は終わらないということでもある。


 風呂が沸いたので芽生さんと二人で入る。息子は……今日のところは静かにしている。やる気より眠気のほうが先に来ているらしい。


「今日は元気ないですねえ」


 芽生さんが息子をつんつんとつつくが、ピクッと動くものの反応はない。


「三大欲求の内、睡眠欲のほうが大事らしい。今日のところはなしだな」

「それはそれで残念ですが、そういう日があっても問題ないですからね。明日もありますし、お腹もいっぱいですし、たしかにあとは眠るだけでいいかもしれません」


 お互い素手で洗いっこまでしたが息子は元気を失ったまま。どうやら本当に眠いと体が感じているらしい。そのまま眠っててくれるとありがたいな。いざ寝る時になって元気になってくれても困る。


 二人で風呂に入り、温まったところで二人並んで就寝。今日は芽生さんにも枕を提供し、お互いダーククロウ枕で眠る。よほど眠かったのか、早々と睡眠をきめて芽生さんはすやすや。俺もそのまま眠るか……さて、荷物が届くのが何日後になるか解らないが、置き配を頼んでおいたのでダンジョンから帰ってきたら玄関に届いている、という状態には出来そうだ。今のところは上手くいってくれることを祈るしかないってところだな。

作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

後毎度の誤字修正、感謝しております。

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― 新着の感想 ―
毎度思うがダーククロウの寝具欲しいわぁ
> 肉が多いな…」 おでんとは > 膝の上で猫のように丸く」 BIGなおじさん > 小西さんがまだ手放していない」 小西アタックをするおじさん > セダンのディーラー」 オーダーを二度聞きする担…
素朴な疑問だけど、車でレーキを引いた場合、タイヤ跡は消せても、今度はレーキ跡が残りますよね? それは良いのでしょうか?
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