1148:世知辛い
ダンジョンで潮干狩りを
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朝が来た。自然と目が覚めた。アラームより少し早く目が覚めたが眠った感じはするし、もう充分眠って体力も回復したんだという印だろう。相変わらず俺の体調をよくわかってくれている布団だな。お礼を欠かさず言っておこう。
ここ三日ほど、芽生さんと一緒に帰る前の打ちっぱなしの訓練をしていたおかげでかなり【火魔法】の腕は上達したと思う。スキルの複合という俺にとっては未体験の話だと思っていたが、よく考えたら【保管庫】の射出と雷魔法の電磁フィールドを複合したリニア式射出という複合を既に行っているじゃないですか、という芽生さんの言葉で気付きを得ることが出来た。
それ以降はある程度理屈というかどういう風に考えればいいかが何となくわかってきた。最初に出来たのは雷魔法に火魔法を組み合わせる形で、雷に火を組み込む形になった。
試射でそれを受け止めることになったリビングアーマーは鎧が火魔法の熱でドロリと溶けながら雷魔法に巻き込まれる形になり、内側を攻撃するというところまで成功した。これなら良い感じに制御できそうである。もうちょっと火魔法を主体にした混合魔法を使えるように日々精進していこうと思う。
さて、試しに【火魔法】で良い感じに焙ったトーストを作り出すと、バターを塗って咥えながら朝食のついでのキャベツを刻む。まだ火加減が甘く焦げたところもそこそこあるが、こうやってこまめに使っていって熟練度を上げていこう。
目玉焼きも上から火魔法で焙る。輻射熱で両面が焼けていい感じに黄身が半熟で上下が焼かれたターンオーバー風味の目玉焼きが出来上がった。よし、今回は焼き具合に成功したな。これから毎日ひっくり返さずにターンオーバーしようぜ。
朝食を終えたところで昼食を考える。ここ三日の食事はパスタ、カレー、生姜焼きだった。今日は丼物と行くか。
カツ丼……は前に作った。牛丼、親子丼はありふれている。天丼は具材が無いな。かき揚げ丼ならまだ作れるがちょっと栄養っぽさがないな。こう考えると俺の手持ちのレシピはまだまだ足りないな。何処か料理雑誌をひっくり返して逆さまに振ったら出てくるかもしれない。ちょっと考える時間を持とう。
ふむ……ルーローハンとか調べたら色々出て来るし、ビビンバ丼という選択肢も有りだな。後は豚コマ肉があれば大体のものは作れそうだな。ここは一つ回鍋肉丼と行くか。料理ローテーションを一気に二歩進める必殺の丼だ。せっかくだしニラも乗せよう。
作るのはいつもの回鍋肉を肉多めにして更にニラを追加して普段通りに炒めると、甘めのたれを追加して味噌とタレの二重詠唱で胃袋を攻撃してやるのだ。甘い甜面醤とみりんを追加した分だけ更に甘さが追加されて喉が渇くかもしれないがちゃんと飲み物は用意するということで納得しておいてもらおう。
今日は甜面醤があるのでいつもの名古屋味噌は使わない。豆板醤と甜面醤を適量混ぜて味付けを確認。この辛さと甘さなら良いだろう。ここに、ぶっかける前に合わせたみりんと醤油と酒の合わせ調味料を一旦味見。この味が絡まると考えると……うん、不味くはないはずだ。
回鍋肉を作り終えて炊き立てご飯にオンザ回鍋肉。上からたれをかけて香りをかぐ。醤油とミソの匂いが食欲を掻き立てる。ちょっと味見。ヨシ。丼に乗り切らなかった分を胃袋に軽く詰めてやると、丼の蓋をして二人分の昼食完成。もし横からちょっかいかけてくる奴が居たら悪いなのび太、今日は二人分しかないんだと追い払ってやろう。
後はいつも通りサラダを追加。ピーマンが少し余ったので炒めてからサラダとして乗せ、そこにいつもの食品群を乗せる。マヨネーズとまだ余っているクルトン、粉チーズで全体を整えてサラダできあがり。これで栄養バランスも良いだろう。作った食事を保管庫に入れてこれで飯はヨシだ。
食事の用意も手軽に終えたところでテレビを見ると、ダンジョン特集をやっていた。今年から個人事業主登録が義務付けられる探索者という職業について、ちゃんと世の中の探索者はちゃんとその辺を理解しているのかどうか、という話らしい。
どうやら高輪ゲートウェイ官民総合利用ダンジョンでインタビューをしているらしく、忙しそうに働いているスーツ姿のサラリーマンの隣でツナギやいろんな装備をしている、明らかに探索者だと解る人物を中心に質問をしていっている。
今年から探索者が個人事業主になって個人事業税を更に取られることになる、ということを知っていた人は全体の六割ほどらしい。思ったよりはみんな自分の収入を把握しているらしい。そして、六割の中で既に税理士などに相談して開業届や書類関連で対応済みの人は四割に及んだ。つまり質問した人数に対して二十四%の人はバッチリ対策を終えているということになる。
俺も今度の休みで税理士の佐藤さんのところへお邪魔してきて、その辺の手続きを済ませる必要があるだろう。結衣さん達はどうなのかな、もう終わってるのかな。芽生さんは終えているようなイメージだが、もしかしたら夏休みきっちり稼いでその後で……と考えているかもしれない。後で確認はとっておくか。これから国家公務員となるはずの人材が税金周りで問題になる、ということは間違いなく探索者業界においてマイナスイメージを持たれる原因になるだろうからな。
朝会ったら芽生さんと確認し合おう。大きなシノギの話なのでエレベーターの中での会話になるだろうが、こういうことははやめに確認しておいたほうがいい。早速今朝の話題ということで話をしよう。これで暇つぶしのネタが出来たな。残り時間はクロスワードにいつも通り費やしていこう。
後はそうだな……念のため今のうちに口座の金額をネットで確認しておくか。どれどれ……
百七十七億円。細かい数字は抜きにしてそれだけの資産が俺にあることは解った。このうち八億ぐらいは去年の稼ぎなので今年の稼ぎは百六十九億円稼いだということになる。もうサッパリ解らんが、探索者には先にまだまだ夢がある数字ということで参考記録にしておいてもらおう。公開するつもりはないしこの金額を知っているのはギルドと国税庁と佐藤税理士と俺と芽生さん。これだけ知ってれば充分だな。
夏休みに四十億は稼ぎましょうと言っていたのだが、夏休みを開始してからの金額から換算しても予定を軽く超えてしまっている。もう頑張らなくてもいいんじゃないかな、と思う。だが、何もしない退屈と苦痛に比べれば口座残高も増えるし将来金に絶対困らないという保証はない。
もしかしたらダンジョン探索者が増えに増えてダンジョンでの稼ぎを基準にして日本経済がインフレしていく可能性だってあるのだ。そうなった場合、今の百億が十数年後の百億と同じ価値を持つ可能性は低くなるだろう。金は稼げるときに稼ぐ、これは身体を動かせる以上鉄則であると思うのでいつも通りにダンジョンには潜っていくことにしよう。体が動かなくなってから引退するのでも遅くはない。
ダンジョンに潜り始めた頃は四千万ぐらいあれば死ぬまでには困らない金額かな? と言っていた一年後がこの稼ぎである。人間どう転ぶか解んないもんだなあ。
さて、しんみりしたところで今日もダンジョンに出かけるか。
柄、ヨシ! サブウェポンとしてまだまだ活躍の目はある、頑張ってもらおう。
圧切、ヨシ! メインウェポンは絶好調!
ヘルメット、ヨシ! こいつも割と長い付き合いになってきたが破損もしてないし問題なし!
スーツ、ヨシ! 今日も……うむ、決まってるな。
安全靴、ヨシ! まだ底もすり減ってない!
手袋、ヨシ! まだ綺麗!
飯の準備、ヨシ! 今日はどんぶり!
嗜好品、ナシ! 今日あたりに買い出しに行こう!
保管庫の中身……ヨシ! 昨日整理した!
その他いろいろ、ヨシ! その他いろいろって最近なんだろうと思うが気にせずにいこう。
指さし確認は大事である。今日は指さし確認を念入りにやった。これでしばらくは多少緩い指さし確認でも良いだろう。本当かなあ?
◇◆◇◆◇◆◇
いつも通りギルドで芽生さんと合流。
「今日もいつもの予定通りで。帰りはまた撃ちっぱなしをするかどうかはわかんないけど、コツはつかめてきたしなんかそろそろ面白いものが作れそうな気がする」
「宴会芸でも戦闘でも使えそうな奴を一つお願いします。目を楽しませることも大事でしょうから」
中々難しい注文を付けられてしまった。これなら火魔法を複合しなくても雷魔法だけでなにか一芸できそうな気もする。そうだな……何か考えておくか。
「今日もいつも通りです」
「はい、今日もご安全に」
入ダン手続きを終えてリヤカーを装着。一層から七層に下りるとダッシュで茂君を刈って五十六層へ向かう。その途中。
「そういえば芽生さん、個人事業主の手続きってもう終わってるの? 」
「終わってますよ。割と早いうちに、衆議院に法案入りした段階で佐藤税理士にお願いしておきましたから、私の今年分の収入は全額探索者収入としてカウントされることになってるはずです」
さすが、手が早いな。そろって脱税という可能性はこれで打ち消されたな。
「洋一さんももう終わってますよね? さすがに来年ギリギリになってから開業なんてことにはなってませんよね? 」
「実はまだなんだ。やっぱり今のうちにやっておいたほうがいいよね? 」
「それはほっとくと傷が広がる奴ですので、今のうちに通帳に記帳を済ませて税理士さんと相談、開業、事業所得の組み込み、やることはいっぱいありますね」
む、そこまでのものか。半日作業で終わる程度なら良いけど話を聞く当たり長丁場になりそうだな。やはり早めに相談しておくほうが良さそうだ。
「出来れば明日、もしくは近いうちに休みを一日増やしてもいいかい? どうも早く相談しに行くのがよさそうだ」
「そうしてください。トップ探索者が脱税なんてニュースに喜ぶのはマスコミぐらいですからその辺はきちんと済ませていきましょう。ただでさえ日陰でがっぽり儲けてる私たちなんですから、せっかく隅っこに生息してるのにいきなり世間にドドンと知られて活動がしにくくなったら厄介です」
そうだな、金額を表に出さないからこそ得られているこの状況というのもあるんだ、しっかりしておかないとな。
「じゃあ、今日仕事から上がったら早速佐藤税理士に連絡を取って開いてる時間を確保してもらおう。そして個人事業の開業届……だっけ、それをしないと」
「洋一さんのことですから貴重品や印鑑は保管庫に入っているでしょうし、書類は佐藤税理士が用意してくれるでしょうから安心して手ぶらっぽく見せつつ向かっても大丈夫だと思います。後、この間中華屋のお爺さんと取引した金額は確実に探索者としての収入になりますから、その時の書類も忘れないようにしたほうがいいと思います」
あの時の書類は……うん、ちゃんと保管庫にしまい込んであるのが確認できた。それ以外の収入については……布団の山本との取引証明か。振り込みでやってくれてるから後でまとめて書類で請求するってこともできるだろうし、その辺も税理士に相談だな。メモメモ……今日の帰りにメモ帳を買い足すという一文が目に入る。よし、ちゃんとメモをメモとして扱えているな。
「そのメモ、売りに出すだけで何億か稼げそうですね」
「これは俺の探索者人生が詰まったメモ帳だからな。メモ書きを繋ぎ合わせて本にして、引退したら出版する事だって出来そうだ。ダンジョンが出来て三年経ったところから始まる俺の陰ながらの人生のたどった道筋だ、今売りに出したらベストセラーになるかな? 」
「今なら売れるでしょうね。後で売るなら自伝として自費出版するのも悪くないかもしれませんね。ただのその辺に居そうなおじさんの自伝が売れるかどうかわからないですけど」
中々の言われようだが、こっちには必殺の保管庫がある。このネタを引っ張り出すだけでも貴重なレア探索者の人生として扱われるようなもの。二千人ぐらいは買ってくれるかもしれない。
「現状世界トップランクの探索者の自伝だからな。それなりには売れると思うぞ」
「まあ探索者人口を考えたらそうかもしれませんね。精々今のうちにタイトルでも考えておいてください」
軽口を叩き合ってる間に五十六層に着いた。さあ今日も仕事をしよう。今日の仕事内容は、いつも通り指輪の探索と、一芸を身に付ける、だ。
作者からのお願い
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続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。
後毎度の誤字修正、感謝しております。