1147:強制スキル強化法・火魔法を使い倒せ
ダンジョンで潮干狩りを
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昼食が終わり休憩、そしていつも通り五十九層へ向かおうとしたときに、索敵に黄色い反応が現れた。他の探索者の御到着らしい。人数は五人。思い当たるのは結衣さん達しかいない。この短時間で五十六層まで駆け抜けてこれるB+探索者は居ないだろうし、小寺さん達も相沢君達も四人パーティーなので条件には当てはまらない。
しばらく待っていると、廊下の向こう側からこっちを見付けたらしく手を振って駆け寄ってきた。
「安村さんヤッホー」
「ヤッホー結衣さん。それからお付きの方々も」
「誰がお付きの方ですねん。我々も確固たるメンバーですわ」
いつも通りの平田さんを相手に軽口を叩くと、久しぶりの出会いをお互いに祝いあう。
「五十七層は初めて? 」
「そう、そろそろ行けるかと思って。リビングアーマー? の倒し方に難儀したわ」
「あれは鎧の内側に張り付いてる黒い粒子が本体だから鎧の内側にスキルを当てると比較的楽に倒せるよ」
「参考にするわ。あとガーゴイルにスキルが通じないんだけど」
「あいつは物理押しで行かないと厳しいかな。五十九層に行くともっと硬くて魔法にも強くて厄介なのが出てくるから相手に出来そうにないなら装備の更新を考えたほうがいいかも」
ある程度適切な助言をしておきつつ、邪魔にはならないようにしなくてはな。
「ここの外側の部分は敵が出ないみたいなのよね」
「うん、だからここでいつも昼食取ることにしてるんだ。ここからなら五十八層も近いし、五十九層でがっぽり稼ぐにはちょうど良くて」
「あ、あとこの指輪みたいなの拾ったんだけどこれが例の指輪なのね 」
指輪のドロップまで拾ってきてるらしい。ビギナーズラックの一種なのかな。
「それ一つで一億円だから大事にね。効果は……こっちは物理耐性かな」
「私もつけようかな。ちょうど物理耐性ないし」
「せっかくなら人数分出して全員で耐性上げて挑みたいところですね。そろそろ敵の攻撃も洒落にならなくなってきましたし」
横田さんがいつも通り真面目に分析をする。パーティー全員ペアリングというのはもはやペアリングでもなんでもなく標準装備と言っていいものなんだろうが、この先指輪の査定が頻繁に始まれば探索者の間でも指輪が流行ることになるんだろうな。
「じゃあ目標は指輪ね。出来れば人数分物理も魔法もってとこかしら 」
「うん。なので頑張ってそろえてみて」
指輪装備ガン積みで効果があるのはボスであるリッチが証明済みである。なので自分ではやったことはないが着けるだけ効果が上がるのは間違いないと思う。
「そういえば、昨日浜松行ったお土産あるけど、今渡す? それとも後でテントに届けたほうがいい? 」
一応食べ物であることを見せた上で聞いておく。
「そうね。後でテントへ届けてもらおうかな。今ここでもらっても多分荷物にしかならないし」
どうやら今食べるという選択肢を取らないあたり、食事は既に済ませてからこっちに下りて来たらしい。ご希望に沿って後で届けることにするか。
「じゃあ、俺達は五十九層まで潜ってくるから」
「私たちは地図作りしつつ戦闘かな。早速指輪は着けてみて、効果のほどを確認することにするわ」
結衣さん達と別れ、こっちは一直線に階段へ。結衣さん達はそのまま外周を回りつつ戦闘をこなすらしい。
「早めにコンタクトを取れたのは良いことだったんでしょうか。お土産のことも含めてですが」
「まあ、驚かせる意図はないしね。帰り道に忘れてはいけないことがまた一つ増えたな」
火魔法撃ちっぱなしとお土産を届けること。念のためメモっておくか。メモを見返すかどうかはわからないが書くという行動でもって頭に刻み込む効果があるから、黒板を写すという行動には意味があると以前何かで読んだ覚えがある。ちゃんとメモっておこう。
あ、そういえばこの辺ではもうスキルオーブ出し切ったからしばらく経たないと出ないよと結衣さん達に伝えるのを忘れていたな。お土産を置きに行くときについでにこれも書き残していこう。
◇◆◇◆◇◆◇
いつも通り五十九層で指輪集め。スキルオーブは出ない前提で戦うので思う存分戦える。ただ、指輪の拾い忘れがないように念入りに範囲収納をするだけだ。戦闘自体は単調そのもの。その分だけスピードを上げて駆け足気味に回っていく。素早く行動する分だけモンスターと出会う回数も増えるので稼ぎも大きくなる、という算段である。
この五十九層で素早く行動するなら二割ほど収入を増やすことができる。三時間ほど五十九層で集中して戦闘をするため、歩行ペースで三十分歩くことができる時間分だけ収入を増やすことができる。金額にしておよそ二千万円。早歩きするだけで二千万円というのはかなり大きい。そして早歩きして移動する分だけエンカウントが増えるので指輪のドロップ確率も上がるというもの。
本日も三時間の早歩きを終えて、そのペースを落とさないままに五十六層へ帰還。指輪こそ一つしか出なかったものの、予定通り良い感じにドロップ品が集まった。
「さて、予定通り戻ってきたところで打ちっぱなしを始めるとするか」
「私もたまにはやりますかね。最近鍛錬をサボっているような気もしますし」
二人で何もない方向へ向けてスキルを乱射。俺は【火魔法】を、芽生さんは色々。隣からは魔法矢と水魔法の混合魔法が軽やかに放たれている。紫色の魔法矢と青色の水魔法がストライプを描き、歯磨き粉のCMを思い出すような綺麗な流れが視界を流れていく。
こっちは全力で火魔法だけをとにかく撃つ。形状や飛ばし方、吹きだし方を考えながら色々とマジックを見せるような感じで次々に、とにかく色々と打ち込む、ファイアボールや炎の壁、それから指先から全力で炎を吹きだして見せたり、思いついて出来そうなことをどんどん試していく。
しばらくして眩暈。やはり使い慣れないスキルを使うと魔力の使用効率も悪いのか、【雷魔法】を使う時よりも消耗が激しいらしい。早速ドライフルーツを噛み砕いて回復、回復したらまた魔力が尽きそうになるまで火魔法を連発。今度はファイアボールを同じ威力で連続何発撃てるかで試していこう。
二十発ぐらい撃ったところで眩暈。ドライフルーツ、二十一発、ドライフルーツ、二十二発、ドライフルーツ。徐々に使い慣れていくことが発射数でわかってくる。この調子で二日か三日続けてやれば体に馴染んでくれるだろう。
いつも通りドライフルーツを三十枚噛み砕いたところで鍛錬終了とする。最終的に魔力がからっけつの段階からドライフルーツをかみ砕いて、回復して四十発まで撃ち続けることができるようになった。
三日ぐらいこれをやれば六十発ぐらいは打てるようになるだろう。その頃には体に馴染んで発動効率も良くなり威力も、それから偏差射撃や形状の変化まで色々と変化させることができるようになっているはずだ。
芽生さんも隣でドライフルーツ片手に射撃練習を終えて、お互いに三十枚を消費したところで訓練終了。
「ふー久しぶりにやると気分いいですね。やはり全力を出せるというのはストレス発散にもなりますし、明日も頑張ろうという気持ちになりますね」
「さて、お土産を結衣さんのテントに置いてからいつも通り七層経由で帰ろう。今日は早歩きで帰ってきたとはいえ、撃ちっぱなしにそれなりに時間をかけた。査定カウンターも混みだすだろうし急いだほうが良さそうだ」
メモ帳を見返して、今日のやる事リストを二重線で消すと、無事にタスクを完了させたことを確認する。うなぎいもタルト、流石にこの環境では悪くなったりはしないよな。それだけがちょっと心配だが、湿気が多い場所ではないし大丈夫だろう。
いつも通りエレベーターの中で荷物の仕分けを終えて七層で茂君をダッシュで刈り取り一層を目指す。七層から一層はほんの五分で済むが、その五分でいくらか稼げることを考えるとやはり素早いエレベーターが欲しくなってきた。七十層が出来た時点でミルコに相談してみよう。もしかしたら高速エレベーターの開発に力を貸してくれるかもしれない。その分俺が仕事をする時間が増えて見せられる時間も伸びるし、損をする人はいないはずだ。ミルコにはちょっとした手間をかけさせると思うが、貸しを一個か二個使う形でなら取引に応じてくれるかもしれない。
査定カウンターに並んで査定待ちの間に芽生さんが着替え終わり、査定。今日のお賃金は九千九百六十三万千四百円。ギリギリ一億には届かなかったか。でもまあ一億ぐらいという収入の基準には大体見合っているのでいいことにしよう。
芽生さんにレシートを渡すとレシートをにらみつけて、あとちょっと……という表情をする。しかし結果は結果だ、諦めてもらうことにしよう。
大人しく支払いカウンターで振り込むと、いつもの冷たい水を飲む。そういえば、浜松ダンジョンにも同じ冷水器はあったんだろうか。静岡だしお茶の冷水器だったかもしれない。真っ直ぐ帰らずにその辺を調べてくればよかったな。ちょっともったいないことをしたな。
「うーん、俺はもうちょっと目的外の物事について視点を持つという行動をしたほうがいいかもしれないな」
「どうしたんですか、急に自分を顧みるみたいに」
「もしかしたら浜松ダンジョンでは水じゃなくて冷たいお茶が飲めたかもしれないと思うと、飲んでみたかったなと」
「そこまで大きく残念がることも無いとは思いますが、たしかにそうかもしれませんね、洋一さん時々視界がこうなりますから」
目の周りに手で覆いを作って前しか見えてないみたいなポーズをとって芽生さんが茶化す。ううん、目標があったらそれを達成したらそれで満足してしまうからかな。今後はいろんなことに興味を持つことも……あれ、そんなこと前も考えてた気がするな。覚えてないのか、それとも興味を持つことの範囲が狭すぎるのか、老化現象の一部か。
「色んな事柄に目を向ける……か。癖をつけないと中々難しそうだな」
「そうですねえ。まずそういう風に考えるという癖をつける所から始めないといけないでしょうねえ」
帰りのバスに揺られながらも考える。あ、また新しい店が出来ているな。今度気が向いたら自転車で帰る際に寄ってみよう。……と、こういうところから目を向けていくということが必要なんだな。とりあえずメモっておこう。
「何やらメモに書きこんでいるようですが、見返すのを忘れたら同じですからね」
芽生さんに厳しめのチェックを受ける。確かに言うとおりである。常にメモを見るという行動を欠かさないようにしないとならない、と更にメモに書き足す。あ、メモ書きで思い出した。帰ったら保管庫の中身の整理をするんだったな。
「芽生さんのおかげでタスクを一つ思い出したよ。これもメモ書きしておけばよかったな……と。必要なタスクはメモ書きする……と」
「なんかダメそうな気配が漂ってきましたねえ」
なんやかんや言い合いしつつも駅に着いたので別れ、そして家に着いた。いつもの家事は今日は少な目。洗い物がないので服を洗濯したら後は明日の準備位のもの。さて保管庫の整理を始めるか。
俺にしか見えないウィンドウに表示された保管庫リストの中から古いものを順番に覗いていって、これはもう使わないだろうなというものをピックアップしていく。粉ジュースなんかももう使わないだろうからこれを機に抜いておく。捨てるのは少し勿体ないが、いつまでも残しておいても意味が無いからな。探索初期にはお世話になった。有り難く思っておこう。
それ以外には賞味期限の近そうな食べ物をいくつかピックアップしていく。野菜類は常温保存のものはいいが冷蔵保存のものは冷蔵庫に入れてあるのでヨシ。レトルト類は保管庫に入れた時点で俺の人生分ぐらいは保ってくれそうなのでヨシ。ただ古い順番で使っていくことを頭に入れておこう。いや、メモ書きしておくべきか? そういえばメモ帳もそろそろ新しいのにしないとな。次の買い物時に仕入れておこう。
さて夕食だが、保管庫に入っていた袋麺をそろそろ消化しないといけない段階に入りつつある。常温でもいけるし進行速度が百分の一になっているとはいえ、賞味期限が近い食材であることは確かだ。早速うどんと焼きそばの麺を開けて、まとめて醤油で豪快に味付けして太いのと細いのが入り混じった混合麺を作り出すと、そこに天かすとキャベツを放り込んで炒める。そういえば買いっぱなしのコッペパンもあったな。近いうちにこれも消費しないと。
焼きそばうどんという一見冷蔵庫のもの片付けスペシャルみたいなものが出来上がったが、どっちにもちゃんと火は通っているので問題はない。味付けも単調だが、今日は後はもう些細な家事をして眠るだけだ、腹が満たされればなんでも良いという空気が俺の周りを漂っている。さぁ、頂こう。
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後毎度の誤字修正、感謝しております。