1146:火魔法の試運転
ダンジョンで潮干狩りを
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リヤカーをエレベーター脇に放置して五十七層まで徒歩。ここの暑さは地上とはまた違った暑さなので少し喉が渇く。相変わらず純粋に暑い。湿度が低いであろう分だけ日本の夏よりはマシに感じるのが助かる所だ。
「ここの移動ももったいないと感じるのは贅沢ですかね」
「贅沢だな。このエレベーターと五十七層への階段の間だけでいくら稼げるかを考えると移動設備が欲しくなるが、この足元ではなあ」
砂を蹴って見せる。これでは自転車でもまともに移動できる可能性は低い。オフロード仕様の自動車を使って三分ぐらい、というところだが、そこまで短縮したいものかと言われると……費用対効果と複数回使うことを考えれば充分にペイできるのは確かか。手に入れる手段があればまた別だな。しかし、そんなものをここに入れ込んだ時点で【保管庫】のことはバレてしまうだろうし一台では少ないから二台欲しい、なんて話にもなる。やはりこの移動は必要な歩行だろう。
「うーん、自動車一台を保管庫に放り込んだままで落ち着けるならアリだとは思う。他の階層でも使いまわせるのは割と大きいか。自動車を止めるスペースの問題は保管庫の最大容量を比べた時に充分に入ることは確認できてるからな。試しに一台買ってみる、という贅沢も今なら出来る。やってみるのも考慮しておこう」
「車一台買うのにスペースや値段を気にする辺り、洋一さんらしさが染み渡ってていいですねえ。その気になれば高級車一台ぐらい経費として落とせそうなものですが」
言われてみれば今日一日働いたお金で買えないこともないんだよな。真面目に検討してみるか。
「ちなみに芽生さん免許は? 」
「ペーパーですね。なので私の運転練習をするためにここに自動車を出してもらうのも有りかもしれませんし、せっかくなら私が自動車を購入して洋一さんが運転するのでも問題ないですね」
「自動車の件は真面目に考えておこう。時短できる所は時短する、その分稼ぐと考えればこの往復四十分の道を自動車で移動するのは無駄にはならないはずだ」
よし、もう一台、買うか。やはりジ〇ニーあたりを買うのが良いだろうか。今度ゆっくり休日にでも中古車巡りをしてみるか。
五十七層に入る。まだモンスターとは接敵していない。
「さて、昨日入手した【火魔法】を早速活用してみたいんだが」
「そうですね、いきなり本番に入るよりは試運転は必要ですね」
早速頭の中で思い浮かべてスキルを使用してみる。指先に炎をともしてみる。ポッと指先に火が灯った。ただ、これだけでは生活魔法の範囲の火魔法とは区別がつきにくいな。もっと盛大に出してみるか。
「ファイアー波〇拳! 」
波〇拳の構えで手のひらの先からスキルを出そうと願ってみると、少しのタイムラグの後で炎が飛び出て壁に当たって弾ける。
「ふむ、流石にこれは生活魔法の火とは違うな。ただ、この階層のモンスターに効果があるかどうかと言われると微妙な所だ」
「三千万円でしたっけ? 払った価値はまだないと」
「元は千百万円だったことを考えるとそれなりに高い買い物だったことは認める。何処まで応用できるかにかかってると思う。例えばそうだな……」
指先にスキルを集中するイメージを作って指先を高く上げる。指先に炎のスキルが集まってくる。よし今だ。
「どど〇波! 」
指先から炎の玉が出て壁に当たり、これも弾ける。さっきよりは小さいが威力を重視するイメージでやったため、壁に破裂した時の威力は同じぐらいである。
「かめ〇め波じゃないんですねえ」
「どど〇波のほうが溜め時間もセリフも短いからな。こっちのほうが実戦的だ」
「さっぱりわかりません」
この辺は個人の好みがあるからな。俺は実用性重視なんだ。とはいえ毎回どど〇波と唱えるのも効率が悪い。詠唱時間は短く、スキルは素早く。これが使うときの鉄則だ。
「基本に立ち戻ろう。ファイアボールを放ってみよう」
イメージングして空中に炎の玉を出現させてみる。小さくても良い、密度の高いものを心がける。当たり判定は小さくてもいいのでとにかく今できる最大限の出力のイメージでもって、それを放つ。当たった壁一面に炎が飛び散るようになってから消えた。まだ大きく出来るな。
「うむ……さて、これをどう他のスキルと組み合わせていくのかが悩みどころだな。覚えたはいいが使わないではもったいない。ステーキを焼くときにフランベするために覚えた訳ではないからな」
「【雷魔法】と組み合わせて【火魔法】を使うってことですよね。イメージがあまり湧きませんが」
「雷で焼いたところに火で追撃、もしくは火を雷の速度に近づけて撃つ、みたいなことが出来ればいいんだけどな。今のところはイメージがまだ浮かばない。とりあえずいつも通り戦闘に入って、戦闘中に何か思いついたら使い所を探してみることにする」
もしかしたらロックタートルの首の穴の中に炎を放り込んで中から蒸し焼きにする、とかそっちのほうで活躍するかもしれないからな。この階層だけで使い所を考えついてそれで考えを終えてしまうというのももったいないだろうし、火魔法スキルも成長させていけばいっぱしのスキルとして使えるようになるかもしれん。これからの訓練次第だな。
「とりあえず試し撃ちは完了だ。ちゃんと使えることは解ったし後は応用編だろう。リビングアーマー相手にしながら午前中でなんとかものになるよう訓練してみるよ」
「一匹残して戦いながら試し撃ちしていく感じで良いんですかね。五十七層ならそれほど密度も高くないですし、ゆっくり回る感じでいきましょう」
芽生さんからの提案を素直に受け取ることにしよう。新スキルには慣れるまで多少の時間はかかる。おっさんだから物覚えもそれほど早くないしな。
「悪いね、収入に多少影響する感じになっちゃって」
「その分は後半戦で補ってもらうってことで。半日でなんとかしろとは言いませんので出来るだけ早く実戦投入できるように頑張ってください」
本来なら帰りにでも例の撃ちっぱなしをし続けてきっちり火力をモノにしてから投入するのが安心安全確実なんだろうが、そのために午前午後と待ち焦がれて悶々とするわけにもいかないからな。帰りは撃ちっぱなしにする時間をもらうことにしよう。
早速現れたリビングアーマー相手を一匹残して的にして火魔法の練習。と、ここで気づいたのだが雷魔法と勝手が違い火魔法は着弾までの時間がかかる。つまり止まった相手に撃つのではなく、相手が動きそうな方向へあらかじめ置きにいくという偏差射撃が必要になってくる。リビングアーマーがどっちに動くかを先読みしてそこに当てる、というのがなかなか難しい。芽生さんはこれを普通にこなしているのだから俺も慣れていかないといけないな。
「なかなか当たりませんね」
「雷魔法は発生即着弾だからな。速度に差がある分当てにくい。こっちの慣れも大事になってくるのか。使い分けが上手くできるかどうか怪しいが……諦めるにはまだ早いな」
ファイアボールを連発。単発で当たらないなら手数を増やして対処だ。何発か同時に打ち出してそのうち一発でもあたるように調節していく。リビングアーマーの攻撃を避けつつ、時には直接タッチして手のひらから炎を生み出しての攻撃にシフトする。今のところはこれが一番楽だな。リビングアーマーを焼き尽くすほどの火力はまだ生み出せないが、動きを鈍らせることは出来た。今のところはこれが限界だろう。
「直接触ったほうが早いな」
「若干諦めた感が強いですが確実性は増しましたねえ」
「良いんだよ今はこれで。手数が一つ増えたってことにしとこう。スキル同士の連携はまた後でだ」
手数が増えたと言っても圧切で斬ってしまえば一発で倒せてしまうのが現状だが、スキルをかみ合わせても問題ないという点では確かに手持ちの札は一枚増えた。今のところ圧切で斬れないものはあんまりないが、物理耐性が異様に高くて魔法耐性に弱かったり、例えば六十五層以降のモンスターで火属性に弱いモンスター相手に活躍してくれることだろう。
気を取り直して午前中、【火魔法】の訓練をしながらゆっくり五十七層を回った。午前中だけなら、と芽生さんも考えてくれているので焦らず慎重に使い所を見つけては戦闘に織り交ぜて使っていく。炎を飛ばすだけではなく加熱破壊を目的としてリビングアーマー相手に色々と試してみている。ガーゴイルは魔法耐性が高いのでおそらく今の強さではダメージは与えられないと思いそっちはさっさと倒すようにしている。
芽生さんもガーゴイルには魔法耐性の問題でそれほどダメージが通らないことは理解しているはずなのでさっさと倒すことには問題ないと考えているらしい。ガーゴイルが出てきたらサクッと倒し、リビングアーマーの時は一匹残して俺のほうに回してくれている。有り難く養分にさせてもらおう。
◇◆◇◆◇◆◇
午前中はずっとそんな感じで回り、昼食の時間になった。
「今日は手抜き飯で悪いがおにぎりだ。中身は食べてみてのお楽しみで」
「具は何種類あるんですかねえ? 」
「えっと……六種類かな。一つの種類だけは二個入っている」
唐揚げマヨは二つ作ったからな。奇数になったのはたまたまだ。気にして偶数個作っておけばよかったかな。だとすればウナギの白焼きが二つになっただろう。ちなみに使わなかった分のウナギの白焼きは俺の夕飯になる予定だ。今は家の冷蔵庫で眠ってくれている。
「じゃあとりあえずこれにしましょう。中身は……お、うなぎですかねえこれは」
「早速当たりを引いたな。それはお土産のウナギの白焼きを詰めてみた。後、昼食ついでにお土産のうなぎいもタルトだ」
忘れないうちにお土産を渡しておく。結衣さん達の分は帰りに彼女たちのテントにでも放り込んでおけばいいかな。日持ちするだろうし気づいたら持って行ってくれるだろう。
「どれどれ……これは中々美味しいですねえ。どういう意味でうなぎいもなんですかこれ」
「確かうなぎの加工品の残骸を肥料にして育てた芋だったかな。うなぎ成分は肥料でしかないからうなぎのエキスが入っているとかそういうのではなかったと思う」
「SDGsに配慮した製品ってことですかねえ。美味しいから何でもヨシです」
無事に美味しいと感じてくれたらしい。俺も一つ摘まむが、甘くてしっとりとしていて紅芋タルトなんかと比べても遜色ないように感じる。うなぎパイでも悪くなかったが、うなぎパイは名古屋駅でも買えるからな。これも調べれば現地以外でも購入できるんだろうが、ぱっと目についた土産としては中々目の付け所は悪くなかったと思っておこう。
自分もおにぎりを一つ開ける。梅干しだった。ちゃんと種は抜いてあるので気にせずそのまま食べられる。次回のロシアンおにぎりは海苔で隠してロシアンするべきだろうか。次のおにぎりのことを考えつつ、早々と二個目のおにぎりを手にする。二個目は唐揚げマヨだった。これで唐揚げマヨの片方は無事に確保できたな。
「二つ目は唐揚げマヨでしたね」
芽生さんもすでに二個目に入っている。これでそれぞれ唐揚げマヨを食べることが出来た。ネタ被りで同じものを食べる心配はなくなったな。
「こういうのもたまにはいいですね」
「おかげで今日はかなり楽をさせてもらったよ。明日は……パスタか」
ローテーションレシピの順番を探る。パスタということはまた明日も楽が出来るということだな。いつも通りサラダは作るからそれの時間を加味しても三十分もかからない。明日も手抜き料理が出来るぞ。
「ちゃんとパスタの在庫はありますか? 」
「ここにある」
パスタのまだ茹でてない奴を保管庫から取り出して見せる。
「用意がいいですね。ここで茹でてしまってもいいってことですか」
「それもまぁ一つだが、茹でた後の水を捨てる所が無いのが難点だな。乾燥させたとしても塩の結晶やパスタから溶け出た部分が残るぞ」
「そのへんはまあ、スライムに綺麗にしてもらうってことで」
うん、あまり行儀がよくないな。パスタを茹でるなら砂漠で茹でるべきだろう。そしてその後すぐ保管庫へ入れる。そのほうがいいだろう。
「まあ、パスタは明日ちゃんと家で茹でてくるから良いよ。それよりこの後しっかり稼ぐことを考えよう。後、帰りにいつもの撃ちっぱなしを階段前あたりでやりたいんだけど」
「あぁ、ドライフルーツで無理やりスキル強化させるんですね。解りました。洋一さんが忘れても私が覚えているようにします」
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