1145:密談はエレベーターで
ダンジョンで潮干狩りを
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今日もエアコンの効いた部屋で気持ちよい布団で目覚める。毎日がこうであると、幸せに包まれている感覚がして中々悪くない。今日もありがとう。
昨日は家に帰ってから鍋をしっかりと食べたが、流石に一食で食べきれる量ではなかった。そもそも二人分の量を作ったので一食で食べきれるはずもなかった。なので今日の朝もご飯と鍋物の残りである。今日は朝からしっかりとバランスよく栄養を摂ることになった。
昼食どうしようかな。個人的には軽めのものを用意したいところだが、今日はおにぎりの日だ。昨日の内に食材を色々と仕入れておいたので選ぶ楽しみはある。基本となるおかか、昆布、ツナマヨ、梅干し、鮭、そして個人的な好みの唐揚げマヨは二つ。それから……昨日個人的な好み用に買ってきたうなぎの白焼きを入れておいた。かば焼きだとタレと香りで中身がバレてしまうからな。中身が見えないようにしてある意味がなくなってしまう。
今日は炊飯器しか動かしていないし、炊飯器を保管庫に入れる必要もない。ご飯が炊けたらラップでおにぎりを巻き込んで終わりの超手抜き飯だ。手抜き飯だが楽しませるということを忘れないようにロシアンおにぎり気味にしてある。もし二個ある唐揚げをどっちかが食べきってしまったら……それはちょっと悲しいが、良い感じに行きあたるように願うしかないな。
柄、ヨシ!
圧切、ヨシ!
ヘルメット、ヨシ!
スーツ、ヨシ!
安全靴、ヨシ!
手袋、ヨシ!
飯の準備、ヨシ! 今日は手抜きで飯もウマい!
嗜好品、ナシ!
保管庫の中身……ヨシ! そういえば昨日はバタバタしていて保管庫の整理をしなかったな。今日こそやるぞ。
その他いろいろ、ヨシ!
指さし確認は大事である。今日は【火魔法】の試運転と本運用、それから応用を一気にやるつもりでいこう。雷魔法と親和性が高ければうれしいが、低ければ低いなりで使い所を探すなり、多重化させて使えるようにしていくなり考えていこう。
◇◆◇◆◇◆◇
バスで芽生さんと合流。一緒にギルドへ向かうバスに乗り雑談。
「昨日は無事に取引できたんですよねえ、何か言われませんでしたか?」
「相場より高かったから不安がられてたよ。後で文句言われたらどうしよう、みたいな」
探索・オブ・ザ・イヤーで確認するところの最新相場は二千万円。自分にとっての誤差の範囲とはいえ、三千万をポンと支払うのはさぞ驚いたことだろうな。
「じゃあ今日は試験がてらゆっくり回りますか? 」
「いや、何時ものペースでやりつつ、スキルを織り交ぜていく。まだ一発も撃ってないからそれは五十七層に入った段階で早速試し撃ちってところだな。あと、お土産は後で渡す」
「消え物ですよね? お昼に一緒に食べましょう」
「中々美味しかったぞ、昼食兼ねて一つ似たような菓子を食べてきたけど」
小西ダンジョンに着き、そのまま確認もせずにギルマスの部屋へ。ノックをしたが反応がなかったのでそのまま入ると、どうやら今日はまだ出勤時間ではないらしい。部屋にお茶とメモ書きで「ご希望のお土産です 安村」と書き残すと、着替え終わった芽生さんと合流して入ダン手続きに入る。
「昨日は来てましたけど入ダンされませんでしたよね? 」
しっかり見られて確認されてた。
「ちょっと急用が出来たんで急いで用事を済ませてきたところです。今日は落ち着いて一日……いや、落ち着いてもおかしいか、まあいつも通りにやってきますよ」
「そうですか、どうぞご安全に」
いつものご安全にをもらったところでご安全にリヤカーを引いてご安全に七層へ向かい、ご安全に茂君を刈り取ってきてご安全に五十六層へ向かう。
「今日もご安全に行こう」
「はい、ご安全に行きましょう。いつも通りの行程ですが」
ご安全にをこれぐらい振りまいておけば今日も問題なく仕事ができるだろう。
「ご安全に、とはどういう標語かのう? 」
気が付けばエレベーターの中にセノが転移してきていた。前にミルコもエレベーターの中に転移してきていたから、移動中でも問題なく移動できるのは解っていたがこのタイミングで来るのは何か用事だろうか。
「用事か? 」
「暇つぶしかのう。この間のちゅ〇るとやら、まだ残ってたりはしないかえ? 」
どうやら気に入ったらしい。薄味だと散々言ってなかったっけ?
「一応多めに買っておいたから在庫はある。せっかくだし猫のまま味わった方が長く楽しめると思うが? 」
「そうじゃのう、くれるほうもそのほうが長く楽しめる、と言ったところかの? 」
芽生さんにちゅ〇るを渡すと、芽生さんが嬉々としてセノの口元に持っていく。セノは猫の形態のままペロペロとゆっくり舐め始めた。せっかくなので動画で撮影しておくか。撮影開始っと。
ペロペロを止めない、止められないセノ。幸せそうな顔でそれを眺めつつ、次々に与え続ける芽生さん。静かなエレベーターの中でただ時間が過ぎていき、その間に三本ちゅ〇るを食べ続けるセノ。
「ふむ、満足した。やはりこちらの世界の食品はよくできておるのう。薄味じゃと文句を言った立場で申し訳ないが、これは夢中になる味じゃ。しかし、人間形態では楽しみがすぐ終わってしまうからのう。お主らがおってよかったわ」
「それは何よりだな。こっちとしても仕事中じゃない暇の時間に来てくれたのは少しありがたい所だ。お仕事には集中したいんでな」
「うむ、こちらとしても仕事の邪魔をするのはあまりよろしくないと思うてな。エレベーターに乗ってる間なら暇じゃろうと思って来たまでのこと。到着したらちゃんと帰る故心配せずともよいぞ」
今のうちに聞ける情報は聞いたほうがいいんだろうな。せっかくのインタビュータイミングなんだ、出来るだけの情報は聞きだしておこう。
「新しいダンジョンを作る予定はあるのか? 今のところ、だが」
「そうじゃのう、我のダンジョンを攻略されるまでに色々変化があったようじゃから、その変化について学ぶべきであるとは思うておる。たとえばガンテツの建てたダンジョンに備わっている通信とやらの機能もそうであるし、探索者と自らを呼んでいたな? その探索者にとって楽しみであるダンジョンのほうが喜ばれて客入りも良くなるじゃろうし、何より我が前居た場所ではあまりに人が少なすぎて眠りこけることになったからのう。次回作るならもうちょっと人が訪れてくれるような場所を選んで建てたいところじゃな」
おおよその自分のダンジョンを建てた場所の悪さの欠点やなんかの反省は出来ているようだ。ただ、人の多い所に建てる予定というのは迂闊にその通りだと頷いていい話ではないだろう。
「人の多い所ということは誰かの所有物件の上に建てるということになる。住宅地のど真ん中に建てたりすると周辺住民の避難や保障に奔走しなければならなくなるからな。どこでもいいから……というわけにはいかないのがこっちの世界の事情だ。その辺はある程度こちらの意向を汲んでくれると嬉しいんだが」
「お互いに利益があるようにするにはそちらの指定する場所に建てる、というのがより良い解決法になりそうじゃが、そんな場所を用意することができるのかのう? 前みたいに何日も待ってようやく人が来るような環境はつまらんからの。それにミルコのように祭壇を用意してくれて食べ物や飲み物を供えてくれるようになるとこちらもやりがいが出来てうれしい所じゃのう」
芽生さんがちゅ〇るをあげ終わり、猫形態のままのセノをなで始めた。セノは気持ちよさそうにうっとりした表情で撫でられるがままにされている。そのまま落ち着いた雰囲気のまま、ダンジョンマスターとの対談という形になっている。
「やはりあれか、お主の上司に当たる人物に話を通しておくのが一番いいのかのう? 」
「宮仕えをしている訳ではないが、探索者のまとめ役みたいな立場の人はいるからその人にこの話を伝えておく事は何ら問題はない。むしろある程度活発に意見交換しておきたいところだが、そのまとめ役は探索者としてダンジョンに潜り込むような立場や暇がある訳じゃないからな。直接ダンジョンまで来てもらって何処かの階層を借りて相談をする……という形になるだろうな」
「なるほどのう。お主には板挟みになってもらう形になるのか。せっかくの希少スキル持ちなのに、手間をかけさせてすまんと思うておる」
お互いの利益の得られるところで話し合いができるようになるのが大事だが、時間差や会議を行ったり来たりで話し合いをするのはやはり効率が悪いな。どこかに集まってまとめて交渉できるようになればいいんだが。
「一応なんだが、こちらの技術を応用して何とか対話できる環境を今作り上げようとしている最中なんだ。出来上がったらうまいことこちらのトップと直接対談……ミルコがやったような形にまでなるかは解らんが、何かしらの対策が出来るようには協力していくつもりだ。ダンジョンマスターとは対話を通してお互いに無理のないダンジョン経営とダンジョン探索を行っていこうというのは、俺個人の願いではなくこの国の方針としてそういう方向性に持っていこうという話になっている」
「なるほどのう、それならば安心してお主に任せられるというもの。折衝役は頼んだぞえ」
「本当はそのトップが普段住んでいる場所に近いダンジョンで行えるのがベターなんだとは思うがな。ダンジョンマスター同士の仲良しさなんかもあるだろうし、ミルコの許す範囲で今こうさせてもらっているというのは最大限活用させてもらおうかとも思っている。だからミルコと喧嘩するようなことはしないでくれよ」
セノが芽生さんの膝から下りる。名残惜しそうにセノを見つめる芽生さん。どうやらそろそろ五十六層に到着するようだ。
「精々邪魔をしない範囲で仲良くしておこうとは思っておるよ。とりあえずガンテツのところでダンジョンの通信? とやらを学んでくるとしようかのう」
「だったらこいつも届けてやってくれ。手土産は必要だろう? 」
保管庫からウィスキーのボトルを一本出す。セノは人間形態になり、ウィスキーを受け取った。
「これは我がこの間飲んだものとはまた別の種類の酒じゃな? 確かにガンテツが好みそうな感じはするのう」
「秘蔵の一本だ、俺からのダンジョン建造祝いって事でよろしく伝えてやってくれ」
「解った、伝えておく。では我は行くゆえ、お主も頑張るのじゃぞ。離れても見ておるからの」
セノは転移していった。跡にはちゅ〇るの空き袋が数個。ゴミをちゃんと回収して誰も居なかった風を装うと丁度五十六層に到着した。暇つぶしにはちょうどいい話し相手だったな。ちょくちょく来てお互いに進捗報告するなら良い相手なのかもしれん。リーンと違って理性的、知的なものを感じる相手だからこそ、というのもあるし、ガンテツと違って酒に酔っぱらいながら会話する必要もない。
「ここまで積み上げたものが形になってきた感じですねえ。ガンテツさんにちゃんと話を通して置いたおかげで次のダンジョンは通信もできるし新しい機能も追加することができるかもしれない。色々と楽しいことになる気がしますねえ」
「なんか俺、重要人物になってしまったな」
「洋一さんは【保管庫】を手に入れてしまった時点で既に重要人物なんですから、頑張ってダンジョン庁とダンジョンマスターの板挟みになってくださいね。私はその横で補助をしつつ必要な情報は頭に入れていって、ダンジョン庁の中で重要人物になる予定ですから」
将来設計を考え始めたらしい。どうやらこの娘はダンジョン庁でも一波乱起こしそうな勢いだ。本来なら俺もダンジョン庁に外部識者として入庁して対応に迫られる方が人としての使い方は本来の形になるんだろう。ただ、ダンジョン庁からは自由というものを確約されているのでそこまで義理立てする必要もない、とは思われているかもしれない。
ただ、その自由を得られているのも今の間だけかもしれないな。後一年もすれば他のB+探索者と肩を並べて同じ階層に出入りするような形になるだろう。そうなった場合は【保管庫】の所有を明かして堂々と使えるようにしたいな。
国際ダンジョン機構の中では希少スキルの扱いについての情報はどうなっているのだろうか。今度長官と話す際に聞いておくべきだな。何処まで希少スキルについての情報が共有されているのか。一探索者の身分でそんな重要情報まで知る必要は無い、と突っぱねられるのが普通だろうが状況が状況だ、必要な情報は必要なうちに入手しておいてきっちり使い続けることにしよう。
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後毎度の誤字修正、感謝しております。