1144:日当よりスキルオーブ
ダンジョンで潮干狩りを
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「とりあえずダンジョンマスターについてはおおよそわかった。もしこちらの想定より早めにダンジョンを作って設置したい、という話になったら全力で止めておいてくれるかな。その間にこちらで最優先で次のダンジョン設置場所の確保に動こうと思う。出来ればそのセノさんだったかな、別荘ダンジョンのダンジョンマスターと会話がしてみたいもんだね」
真中長官は物事は慎重に進めたいらしい。猫が待てを出来るかどうかはわからないが、場所については選定がまだ済んでいないのでベターな位置を決めてそこに是非、という立場だ。
「候補地は複数あると良いですねえ、次のダンジョンを誰かがいたずらで踏破した際にも使いまわしが利きますし、もしダンジョンマスターさんが列をなして洋一さんに会いに来るようなことになればすぐにパンクするかもしれません」
「それもそうだね。高速のサービスエリアなんかにダンジョンが有るとまた面白いかもしれないしね。色々思いつくなあ。高速のインター降りてすぐでも良いし、田舎ならそこそこ土地が空いている場所もあるかもしれない。後発ダンジョンでもあるし、土地が便利な所がいいだろうからね。ああ楽しみだなあ」
既に自分の世界に入りつつある真中長官、そして後ろで呆れている多田野さん。ごめんね、変な知恵入れさせて。でも大事なことなんだよ。
「しばらくは安村さんに面倒を見てもらう形になるとは思うけど、その点は申し訳ないと思っている。できるだけダンジョンマスターのリクエストにも応えてあげてくれると嬉しいね」
「まあその辺はうまくやってみますよ、今回が初めてというわけでもないですし。ただ探索の時間が減ってしまうのは収入に関わるのでできるだけ暇な時間に来てくれると嬉しい、といったところですかね」
「君の収入については十分な金額を稼いでいるとは考えているが……まだまだ足りないかね? 」
真中長官は俺の収入についてもある程度情報を持っているようだ。いくら稼いでいるか、という意味では間違いなくトップクラスの収入を得ているのだからもう稼がなくても充分じゃない? という空気が漂う。
「充分に稼げるのは今のうちだけですからね。他の探索者が追いついてきたりすれば保管庫を使ったアイテム運搬もできなくなりますから、その間に出来るだけ稼いでおきたいのですよ、俺も彼女も」
「確かに、B+ランクの探索階層制限を完全解放したことで洋一さんの秘密についても徐々に知れてくるのだろうとは思いますねえ。いつかはバレてしまう事も念頭に入れておいたほうがいいかもしれないですねえ」
「その時はダンジョンマスターから授かった、ということにでもして大手を振って使えるようになりたいところですね。ただレアスキル所持者のダンジョンマスターの追跡機能についてはまだ内緒にしておくべきだとは思います。海外でその話を聞かないならそもそも知らされていないか、知っていたうえで自分の組織に対して都合よく利用しようとする流れはあるでしょうから」
「こっちも情報を集めてはいるんだけどね。お互いに手札を伏せ合って中々見せ合わない状態が続いているかな。ミルコ君の言い方だと、君のような希少スキルの保持者はもっと多く居てもいいはずなんだよね。でも国で把握しているスキルの種類は三種類、そしてそれぞれ一人ずつ、というのが今の把握範囲だ。もしかしたら……あえてこういう言い方をするが、日本エリアではもうこれ以上希少スキルの所持者は出ないのかもしれないな」
仲間が増えないよ、残念だね洋一ちゃん。
「俺みたいにあえて報告をしていない、という可能性は充分ありますからね。それに大きな問題が起きていない以上悪用されているということはないと思います。性善説を素直に信じるわけではないですが、問題が上がってから対処する、という形で良いと思いますよ」
「そうだね、一応希少スキル保持者に対する対応マニュアルという形で制定はしてあるものの、自分の子飼いにしてダンジョンの収益を上げていくことに執心するギルドマスターが居ないとは言い切れないし、それが悪いとも言わない。安村さんはいつも通り仕事を続けてくれて構わないよ。この辺の仕事は我々ダンジョン庁の仕事だ、対策を考えるのも、対応をするのもね」
と、ここでスマホが鳴る。番号を見ると知らない番号だ。
「ちょっとすいません、電話に出ます」
一言断って電話のほうに集中する。その間に話を進めておいてくれて構わない、というジェスチャーを送ってはおく。
「はい、安村です」
「こちら静岡の浜松ダンジョンです。安村様で間違いございませんね? 」
浜松……浜松にもダンジョンが有ったのか、一つ勉強になった。そういえば全国のダンジョンマップみたいなものをゆっくり眺めた覚えがないな。帰りには時間もあるし、家に帰ったら鍋を食べつつ色々見回ってみるか。
「この度、【火魔法】のスキルオーブのオファーの件でお電話させていただいたのですが」
お、いいタイミングでオファーのお誘いが来たな。地上で報連相しててよかったと思うべきか、それとも今から向かう事で問題が起きないかどうかを考えるべきか、ちょっと悩みどころではあるな。
「確か三千万でオファーしていたと思いますが」
「はい、依頼者様からできるだけ近場で高くという理由でビッドをされていたものですから、近場で一番高く価格を出されていた安村様に今回お電話させていただきました」
「少々お待ちくださいね」
電話を一旦離して芽生さんに話す。
「ごめん、今日の探索中止になりそうだ。スキルオーブのオファーの話が出ちゃった」
「ありゃりゃ、それは仕方ないですねえ。スキルオーブが手に入ることのほうがこの際大事ですからそっちに向かっちゃってください」
「ごめんよ芽生さん、せっかくここまで来てくれたのに」
「まあ、そういうこともあるでしょうし今日のところは仕方ないです。お昼どうするか考えないといけませんねえ」
芽生さんは納得してくれたようだ。多分自分の番が回ってきた時も同様に中止なり途中下車の形になるだろう、という話になるだろうからお互い様ということか。
「それで、こちらは小西ダンジョンに居るんですが取引は何時ごろになりそうですか」
電話に戻り、相手側に取引の意思を伝える。
「出来れば本日中、という形でお願いをされているのですが……大丈夫そうですか? 」
「今からバスに乗り換えて名古屋まで出て、浜松駅からタクシーで向かうとして……浜松駅からそちらへはどのくらいかかりそうですか? 」
「そうですね、タクシーなら十五分ほどで到着すると思います」
ふむ……名古屋から浜松まで何分かかるかによるな。ここから名古屋駅までバスのダイヤによるが一時間ぐらいかかるから……
「では、十四時でいかがでしょうか。それぐらいの余裕があるなら十分間に合うと思います」
「解りました。では十四時に九番会議室でお待ち申し上げております。振り込みに必要な品物だけ持ってきていただければ結構ですので、よろしくお願いします」
「九番ですね、解りました」
九番会議室とは取引に使われる符丁だ。別に浜松のギルドに九番まで会議室があるわけではなく、何番の会議室を使うかどうかで本人確認をする、という流れになる。
「では、こちらはその時間に待っているように取引相手に伝えておきますので、よろしくお願いいたします」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
電話は切れた。十四時、九番会議室、とメモをしておく。
「というわけで静岡の浜松まで行ってくるよ。これでスキルオーブのうち一つは片付いたな」
「スキルオーブの【火魔法】って、去年安村さんは千百万円ぐらいで売りに出してなかったっけかな。値上がったもんだねえ」
「それだけ需要が高まったってことと、そもそも高めにオファーを出してましたからね。それに当時の千百万円と今の三千万円、自分の財布の割合からすれば今の三千万円のほうが安いですからね」
あの当時に千百万円の金を手に出来たのは結構大きかった。今では一時間で稼げる金額だという事を考えても……いや、あの時覚えてればもっと早く強くなれたりもしたかもしれんな。まあ過ぎたことは仕方がない、ちゃんと手元に帰ってきたことのほう大事だな。
「随分インフレしたもんですねえ。あ、お土産はうなぎパイ以外でお願いします」
「静岡と言えばお茶かな。私のほうにもお土産をよろしく頼むよ」
ついでにギルマスからもお使いをねだられてしまった。まあ、駅の構内に売店はあるだろうしサクッと受け取ってサクッと帰ってくるか。うなぎパイ以外の食べ物……まあ生ものでも保管庫で保管しておけば日持ちするから良いだろう。
「じゃあ会議の途中ですが俺は失礼しますよ。後のことはそっちでよろしくお願いします」
「気を付けてねー。後のことは二人でまとめてスマホに連絡しておくからー」
二人に断ってからギルドを出て、一路名古屋駅へ。バスがちょうどなかったので駐輪場で自転車を出して久々に乗るが……暑い。こんな暑い思いをする予定がなかったとはいえ、途中で水分補給は必要だな。
自転車で駅まで行き、駅で乗り換えをしつつも名古屋駅。名古屋駅から浜松まで行ける最速の新幹線に乗り浜松駅へ。名古屋から浜松駅まで行く時間よりも小西ダンジョンから名古屋駅まで行く時間のほうが長いな。
スマホでネットを見つつ時間つぶしをしている間に浜松に到着、流石新幹線だ。浜松駅に到着すると、すぐにタクシーを捕まえて浜松ダンジョンへ向かう。
浜松ダンジョンは浜松と名は付いているものの、微妙に浜松市からははみ出しているらしい。天竜川の向こう側にあるため、新幹線駅からはそこそこ離れている。十五分ぐらいでたどり着くとは言っていたものの、もうちょいかかる感じか。
これなら最寄り駅まで近寄ってからタクシーを捕まえたほうが早かったかもしれない。浜松駅から先の時刻表を考えてからでも遅くなかったかもな。
予定より一時間ほど早く浜松ダンジョンに着いた。やはり小西ダンジョンよりは規模が大きいが、清州ダンジョンほどではない、中堅ダンジョンというところか。人はそこそこ居るな、賑わっていると言ってもいいだろう。このぐらいの賑わいのほうがダンジョンっぽさが出てていいな。これだけの人の出入りがあるならばスキルオーブの発掘作業も進むんだろうな。
さて、時間つぶしにダンジョンに入るのもアレなので、念のため受付には話を通しておく。
「すいません、十四時に九番会議室で取引予定の安村と言います。早く着き過ぎてしまったのですが大丈夫でしょうか」
「少々お待ちください……確認が取れました。安村様、ようこそ浜松ダンジョンまでおいでくださいました。こちらで取引をしますので少々お待ちください。スキルオーブの所有者のほうに確認してまいります」
どうやら内線で呼び出しをしている様子。しばらくすると取引相手らしき探索者が出てきた。
「時間よりは少し早いですが、取引開始とさせてもらっていいでしょうか? 」
「構いません、そのほうが早く帰れますし」
取引相手は三人組のパーティーらしい。販売金額からギルド税を引いても端数が出ないのでちょうどいい感じだな。そのまま会議室に通され、いつも通りの流れで取引を開始した。
「では、スキルオーブの確認をお願いします」
一端スキルオーブを手渡される。
「【火魔法】を習得しますか? Y/N 残り二千百三十二」
「ノー、確認しました」
「では、振り込みのほうをお願いします」
何時もの慣れた感覚で三千万を振り込むと、確認。
「振り込みの確認をいたしました。では、使用をお願いします」
再びスキルオーブを手渡される。
「【火魔法】を習得しますか? Y/N 残り二千百三十」
「イエス」
スキルオーブが俺の中に沈み込んでいき、発光。巡り巡って二千万の価値をプラスされて帰ってきた【火魔法】。まさか自分で覚えることになるとは思わなかったな。体がいつも通り少し温かくなり、そして発光が終わる。
「では、取引はこれで終了ということでよろしいですか? 」
「一ついいですか? 」
探索者の側から質問される。なんだろう?
「【火魔法】の相場はそんなに高くなかったと思うのですが、なぜこんな高額で取引を? 」
「ええと、私B+探索者なので収入には結構余裕があるんですよ。取引待ちでかかる時間と自分の稼ぎを考えると多少高くても早く手に入ることのほうを優先した結果ですね」
「なるほど、そんなに儲かるんですね……ちょっと希望が持てました、ありがとうございます」
どうやら収入源のことを気にしていたらしい。もしかしたら金額相応の性能がなかったということで後で恨まれないかどうかを心配していたらしい。そこは気にしなくていいのに。
これで取引は終わり。さて帰るか。帰りのタクシーを捕まえると浜松駅へとんぼ返り。駅の構内で土産物を探す。どうやらうなぎいもというものが人気らしいことがスマホで調べてわかった。早速これのタルトを芽生さんと結衣さん向けの土産として買っておく。後はギルマス用の土産のお茶と俺個人用のおみやげでウナギの白焼きを買うと、次の新幹線で名古屋駅へ行こう。今日は急ぎで来たおかげで昼食を食べていない。ついでに売店でうなぎいものモンブランソフトというお菓子を買うと、それを食べながら名古屋駅へ戻る。
流石に今からダンジョンへ行く気は起きないので【火魔法】の試運転は明日だな。何処まで扱い切れるかはわからんが、楽しく扱えるようになれば戦力の一端を担ってくれるだろうし、もしかしたら六十五層以降でも使えるかもしれん。楽しみに待つとしよう。
作者からのお願い
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続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。
後毎度の誤字修正、感謝しております。