1140:来客
ダンジョンで潮干狩りを
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午前中の五十七層巡りを終わり、昼食の時間に入る。今日の昼食はそこそこ自信作だ。なんせ俺の手間のほうはほとんどかかっていない。市販のシーズニングを存分に活かしたお昼のメニューは味見済みでもあるし、ご飯に合うのも確認済。
「さあ、おあがりよ。と言っても今日は手抜き・ザ・手抜きだ。シーズニングまみれだが味のほうは保証されているので安心してご飯が食べれるぞ」
茶碗にご飯をよそって渡し、二人分盛り付けたボア肉の香味わさびだれとシンプルなサラダ、そして一品追加したトマトと玉子の炒めものを取り出す。
「たまにはいいんじゃないですかね。どれだけ手間がかかっているかも愛情表現の一つですが、美味しいのはまず前提ですからね。早速頂きます」
無言でまずボア肉のわさびだれを一口して、顔がふやけていくのを感じ取れたので今日の食事も満足度の高いものであることがわかった。やはりご飯と味付け肉という組み合わせは鉄板だな。コクのある醤油だしと西洋わさびの風味がいい感じに爽やかさを演出してくれている。豚肉ではなくボア肉を使っているが、ボア肉に感じる重さがなく、ふんわりとしている。
トマトと玉子の炒め物もサッパリしていて口の中をリセットするのに役立ってくれている。こちらもまた卵が柔らかくトマトを包んでいるおかげでふんわり食感で、今日は全体的にふんわりした食事になっている。
「全体的にサッパリしてていい感じの食卓ですね」
「胃が重くなるとその後の仕事に関わるからな。今日は軽さとカロリーをそこそこ良いバランスで含まれるようにしてみた。物足りなかったらまた何か作るぞ」
「今日は大丈夫だと思います。もうちょっと欲しいぐらいで留めておくのが無難ですからね」
そういいつつ箸を止めない芽生さん。俺の分残ってくれるかな。負けないようにこっちも食べないと俺が腹が減ってしまう。取り合いのような形になってしまったがお互いに同じ皿を囲んで今日も楽しく食事ができたのは充分であると言えよう。
食事の後は軽く休憩、胃袋に最大限働く時間を用意してやることでこの後動くためのカロリーをしっかり吸収まで持っていく。今日のお供えは……今のうちにしておくか。コーラとミントタブレット、それとおやつにと用意しておいたあたりめとポテトチップスのビーフ味を供えてパンパンと二拍。しばらくして消えていくお供え物。今日のノルマこれでヨシ、と。
休憩時間を終えて探索、五十九層まで手早く進み早足で駆け巡りながらドロップ品を集めるというお仕事の再開だ。さあ、いっちょ頑張って今日も指輪二個を目標にどんどんしまっちゃおうねえ。
◇◆◇◆◇◆◇
午後の作業をこなし、時間通りに五十六層に帰ってきた。指輪は今日は二個手に入れることが出来た。かなりいい感じ。ぜいたくを言うなら両方とも物理耐性の指輪だったのがアレだ。手持ちの指輪の個数は出来るだけそろえておきたいと思うので、物理耐性に偏って魔法耐性の指輪が少ないというのは、受け渡しの際に問題が発生するかもしれない。
冷静に考えると一般人においては物理耐性の指輪さえあれば充分なんだよな。魔法耐性の指輪が必要な時なんてことを考えると、探索者によるスキル犯罪の臭いしかしない。そういう暗殺系のお仕事についている探索者も世界の中には居るのだろうが、この日本の治安の良さを考えるに今のところは頭の片隅に追いやってしまってもいいのかもしれない。
五十七層の階段からエレベーターに向けて移動をしてリヤカーにたどり着く。リヤカーを動かそうとして気づく。何かいる。
リヤカーの上には黒い物体が鎮座……いや、丸くなって寝ていた。
「猫ですかね。誰かが連れてきたんでしょうか」
「ないない、それはない」
リヤカーを揺すって黒い物体に刺激を与える。すると、黒い物体はうーんという感じで細長く伸びを始めた。
「我としたことが寝てしまっていたか。お主らを待っている間暇だったのでな。ここは程よく温かい。暑いぐらいだが、昼寝をするには悪くはなかったぞ」
「猫が喋った! 」
芽生さんが誰もがしそうな反応をする。
「その様子だとこっちをあらかじめ知っていた、ということになるのか。何処のダンジョンマスターかな? 」
「え、ダンジョンマスター……あぁ、そういうことですか」
芽生さんもようやく理解する。多分疲れが出て頭が回ってなかったんだろう。
「いかにも。我はセノ。そっちではたしか別荘ダンジョンとか呼ばれていたのだったか。そこの元ダンジョンマスターである」
尻尾をピンと張り、こちらに向けて頭を下げる黒い猫。
「昨日の今日で出張ご苦労様です」
こちらも頭を下げて挨拶。何もない所で立ち話も何なのでとりあえず椅子と机を出し、椅子に座り込むとセノと名乗った猫はこちらの膝に乗ってきた。
「うむ、中々座り心地が良いな。やはり座るならオスの膝の上のほうが良い」
「声からして察することができるがメスなのか」
「女と言ってもよいぞ。あくまでこれは仮の姿。人間の姿になろうと思えば……ほれ」
そういうと膝から飛び降り、セノは体のサイズを自由に変化。四つ足から二本脚の人間のような姿になった。あくまで「人間のような」姿である。
猫であるということは毛皮しか着ていない。つまり全裸ということだ。少し期待はしたんだが、残念ながら全裸、真っ裸の女性の姿を見ることは出来なかった。
セノはかなりケモ度の高い、全身毛皮に覆われた猫耳娘に変化した。胸は起伏こそあるものの大事な部分は毛皮に隠れて見えていない。これなら……
「……セーフ! 」
芽生さんからセーフ判定が出た。どうやらセーフらしい。何が? ナニが。俺の息子もこれには判定不可を下した。
「残念ながら今回は御縁がなかったということで」
「それは残念じゃのう。このぐらいのほうがいいという探索者も居たんじゃが」
どうやら攻略チームにはケモナーが居たらしい。どうでもいい情報を手に入れてしまった。
「ま、それはそれとして、じゃ。ちょくちょく顔を合わせるようになるかもしれんから今日はその御挨拶ということじゃ」
元の猫の姿に戻ると……元の? 本来はどっちの姿なんだろう。気になるが、今はそれを問いただすのは流れを遮る気がするので今後仲良くなった時にでも聞くことにしよう。
「ガンテツさんみたいに自分の領域とここと行き来するかもしれない、ということですかねえ」
「そういうことになるのう。我もダンジョンが攻略されたからといってサボっているのも性に合わぬ。割と長い間発見もされずに放置された挙句にすぐに踏破されてしまったからのう」
たしかに、放置プレイからの一気に攻略となれば物事が進み過ぎるとも言えるだろう。
「深く作ろうとは思わなかったのか? ここみたいに」
「誰も来ない内に眠ってしまっていてのう。目覚めたのは探索者がゴブリンキングを倒した時だったんじゃよ。それ故そこから作り始めても間に合わんだろうと考えたことと、探索者自身がそれほど深い階層への探索を望まなかったというのが一つじゃの」
なるほど、やはり雇われ探索者チームも早めの攻略・踏破を望んでたってことか。ダンジョン庁としても放置されていたことからして深く作ってある可能性は考えてなかったんだろう。もしこれで深くまで作っているような凝り性のダンジョンマスターだったらもっと先の出来事としてこの出会いは行われることになったんだろうな。
「ほかのダンジョンマスターのにおいがするの」
「おっ、そういえばお前も居たな」
「あ、リーンちゃん。久しぶりー」
リーンが転移してきた。そう言えばリーンも暇なダンジョンマスターの一人だったな。
「セノなの。ひさしぶりなの」
「リーンか。お前は何人目のリーンなのじゃ? 」
セノが気になることを言う。そういえばリーンはダンジョン建造用に作られた量産型ダンジョンマスターなんだったな。
「リーンはじゅうよんばんなの。ほかのリーンはどこでなにやってるかはしらないの」
「そうかえ。まあ元気ならばそれでよい。それがお前の持ち味故な」
どうやら他のリーンとも面識があるらしい。リーンは何人居るんだ?
「なあセノ、質問なんだが、少なくともあと十三人こんなのが居るって考えていいのか? 」
「こんなのとはレディーにむかってしつれいなの」
「まあ、そう思ってくれても構わんとは思うぞ。ただ同時に揃うことは少ないと思う故な」
「ていせいをようきゅうするの。リーンはこんなのではないの」
リーンはプンスカという擬音が似合う抗議の姿勢を示している。ここで機嫌を損なっておくのはあまり良い選択ではないだろうな。
「わかったわかった、すまなかったリーン。お前はちゃんとしたダンジョンマスターだよ」
「わかればそれでいいの」
「リーンちゃんこっちおいでー、お姉さんと遊ぼう」
芽生さんがリーンと遊びだした。あっちはあっちに任せておこう。
「で、だ。具体的に今話すことはあるのか? 」
「そうじゃのう。具体的に、と言われると今日は顔合わせ程度にしか考えてなかったからのう。実際にお主にどうこう、というのはないのじゃよ。だから今日のところはこれでおしまいということになるな」
ふむ、どうしよう。とりあえず膝の上にまた乗ってきたので撫でておく。
「あぁ、そこそこ、そこじゃ。お主中々猫の扱いがわかっておるのう」
「吸っていいか? 猫吸い結構好きなんだ」
「セクハラじゃがまあ今日は特別じゃ。許可する」
すー。はー。うん、猫だ。この香りと安心感、間違いなく猫だ。しかも上質の猫だ。これは猫吸いが捗る。
「……そろそろいいかのう? さすがに恥ずかしくなってきた故な」
「おっと、すまん。つい夢中になってしまった」
セノを手放す。セノは机の上に座った後手を舐めて頭を掻き始めた。その姿は完全に猫である。やはりセノは猫。人間体にも成れるが俺の息子は反応しなかったので猫以上の何かである可能性は低い。
「そういえば我もコーラーとかいうのを飲みたいのじゃが、手持ちにあるかえ? 」
「若干温くなってるので良ければあるが、こいつはキンキンに冷えてるのが美味いぞ」
「構わん、自分で冷やせる故モノさえあれば問題ない」
机から下りて人間形態に変化すると、俺からコーラを受け取る。すると、セノの周囲から冷気が漏れ始めた。どうやら温度変化も自由にできるらしい。
「このぐらいでええのかや? 」
手で触らせてもらって冷え具合を確認する。うん、しっかり冷えてるな。
「充分だと思う」
「左様か。ならば頂こう」
器用にごくごくと飲んでいく。その姿を見る限りは猫ではなく人間でもあることを納得させられる。
「ぷは……なるほどこれは美味いのう。ミルコが気に入るのも納得じゃて」
少し色気のある表情をさせながらもまるで一瞬酔ったような姿を見せつつ、コーラを飲み干す。
「これはまた飲みたいものじゃのう。中々気に入ったわ」
「こっちのほうはいけないのか? 」
酒を呑むジェスチャーをする。セノは目を細めて気に入ったような表情をする。
「そっちも期待してええんじゃろうかの。ガンテツには散々ふるまっていたようじゃが我にも気に入った一本を献上するといいぞえ」
「ま、追々な。今のところは手持ちがないからまた今度だな」
「では、そちらにも期待することにしようかのう。さて、いつまでも足止めさせておくのも悪い故ここらで失礼するとしようかのう。リーン、そろそろ帰るぞえ」
「はーいなの。おねえちゃんまたなの」
リーンとセノは転移していった。嵐が去ったような感覚だな。
「また名前で呼ばれなかったですね。次こそは名前を憶えて帰ってもらわないと」
「お姉ちゃんでいいんじゃないのか? うっかりおばちゃんと言われないだけマシだとは思うが」
「うーん、それもそうですね。でも名前で覚えられる方がいいですね。オマケとか言われるのとあんまり違わないような気がするので」
そういう考え方もあるのか。ま、芽生さんには引き続きリーンの気を引くことに頑張ってもらおう。次ぐらいには名前を覚えてもらえるかもしれないからな。
エレベーターに乗って七層までのボタンをポチ。いつも通りドロップ品を整理して並べて後は茂君して帰るだけになった。今日は色々あったが、念のためギルマスには報告しておいたほうがいいんだろうな。
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後毎度の誤字修正、感謝しております。





