1134:街頭インタビュー
ダンジョンで潮干狩りを
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そのまま休むことなくリヤカーをエレベーターに乗せて一層へのボタンを押す。七層に寄ってクーリングの軽いマラソンをするという選択肢もあったが、今回はナシ。今はゆっくり休憩したいというのが本音だが、今ここで仮眠をとるよりも疲れを家まで持って帰って家のダーククロウ布団で眠るほうが遥かに疲れは取れるだろうことは間違いないのでそこまで疲れを溜めこんで我慢しておく。
おそらく帰りのバスで軽く眠ることになることは予想が付いている。だがまあ、それはそれでヨシとしておこうかな。
動くエレベーターの中で荷物の仕分けを始める。魔結晶が多い、多い。甲羅とワニ革とエンペラがあるとしても、それはまた別として魔結晶が多い。個数だけでカウントすると五百個近くになるその魔結晶の量は、青魔結晶でなくても充分な収入であることを教えてくれている。これだけでいくらになるやら。
それとポーション。全部で十三本ものドロップを引き当てることが出来た。これは結構上振れているんじゃないかと考えている。今日の稼ぎは色々と美味しかったのは、初回踏破ボーナスとでも考えておけばいいか。
モンスターの倒した数とポーションのドロップ率を考えるに、六十五層から六十八層にかけてのポーションのドロップ率はおよそ二%。六十一層から六十四層は一%だ。モンスターの出現率から考慮するに、六十四層往復で一本、六十五層往復で一本、六十六層往復で二本、六十七層往復で二本。そして六十八層では往復で三本ほど出てくれている計算になる。六十八層は延長戦で更に往復したので三本、これで理論上合計十二本。でもドロップしたのは十三本なので、かなり運がいいという話になる。
重さではなく体積的にかなりの負担を強いることになっているが、査定にかけるドロップ品は全て載せきることが出来た。これで次のマップでまた体積が大きいドロップ品が出てきたらどうしよう? というところである。
「なんか寝そうです」
芽生さんがギブを宣言。リヤカーにもたれかかる形で横にさせると、スノーオウル枕を取り出し頭に当てさせる。
「エレベーター止まるまで寝てていいよ。着いたら起こすから」
「そうさせてもらいます……さすがに今日は疲れました。疲れた分の収入は……」
言い切らない間にスノーオウルに負けたらしく、そのままスウスウと寝息をたてはじめた。さて、俺も座り込んで頭をグルグル回して眠らないようにクロスワードでもやって時間をやり過ごすことにするか。
しばらくクロスワードを解いて、気が付くとそろそろ到着時間。芽生さんを起こす。
「寝ぼけてる姿を他人に見られたくなければそろそろ起きたほうがいいぞ」
「んむ……起きます。ちょっとすっきりしましたね。流石スノーオウル枕というところですか。三時間ぐらい寝たような気分です」
寝ぼけて起きるかと思ったがそうはならなかったらしい。流石信頼と実績のスノーオウル百%枕、一時間半で八時間並の睡眠欲解消効果があるだけのことはある。短時間睡眠のお供だな。俺も帰ったら使ってまずは睡眠の不規則さを解消する方向から始めよう。
一層に着く前にウォッシュをかけて自分達とエレベーター内を綺麗にした後、エレベーターのドアが開く。痕跡を残さずに保管庫に仕舞い、純粋に装備とドロップ品、後はこまごまとした生活物資だけを外に出しておくと、リヤカーを引いてダンジョンから出る。
時間は午前八時。いつもの時間よりは一時間早い。以前から小西ダンジョンから通う人は大体九時から仕事を開始するので、それより早いこの時間は朝一帰り、朝一開始の探索者と混ざることもなく、スムーズに退ダン手続きと査定を行うことができる。
「朝帰りとはいえ、今日も大漁ですねー」
「量が多いですがここは一つお願いしますよ」
「任せてくださいねー。でもちょっと手伝いが欲しい所ですねー」
昔からいるなじみの査定嬢と久しぶりの会話。彼女は朝一のほうが仕事をしやすいらしいのでいつも午前の部担当らしい。
「ちょっと手伝ってー」
「今行くー」
流石に量が量だったのか、手伝いをバックヤード担当にお願いしながらの査定。その空いた時間待ってる間にちょっと早めに冷たい水をもらいに行く。今日は晴れているし若干暑いし、そもそもダンジョンの中が蒸し暑かったためこの冷たい水が体に染み込んでいく。
この一杯のために働いているんだ、と思うとなんと安上がりなことかとも思うが、仕事終わりのこの一杯が美味しいと感じられるうちはまだまだダンジョン探索者を辞める気はないんだろうな、という気持ちが押し寄せて来る。
査定カウンターに戻ると、ちょうど査定が終わったところらしく俺の姿を探していた。きょうも二分割でお願いして出てきた宿泊コースの今回のお賃金、三億七千五百十三万八千円。若干だが過去最高金額を超えることになった。指輪八個よりも今日一日のほうが上回った形になる。
着替え終わった芽生さんにレシートを渡すと、ちょっと疑問形。
「これ、最高額ですか? 」
「指輪の時よりは多いかな。ちょっとだけど」
「なら、頑張ったのは間違いないですね。早速振り込みしてきましょう」
上機嫌で支払いカウンターへ振り込みをお願いに行った。延長戦をもう一往復していたら更に金額が増えていたことになる訳か。それも有りだったが、疲れ切ってて昼過ぎまでダンジョンに潜っていることになったであろうことを考えると、無理しない範囲でダンジョン探索をやる、という自分たちのルールからちょっと外れることになるのでここらで程よい所だったのだろうと自分に言い聞かせておく。
振り込みを済ませるとギルドの建物の外へ出る。と、珍しくギルドの敷地内の駐車場外に車が止まっている。なんだろう?
「あのー、今ちょっとよろしいですか。探索者の方ですよね? 」
車のほうから男性が歩いてきてこちらに話しかけてきた。とっさに俺の影に隠れる芽生さん。そして向けられるカメラ。何かの取材だろうか。
「取材ですか? ご苦労様です」
「今、ステータスブーストの源流を追う、というテーマで探索者の方々に色々聞いて回ってる最中でして。取材を進めた結果、どうやら小西ダンジョンにステータスブーストを広め始めた人物が出入りしているんじゃないか、ということまで解ってきたんですよ。それでなのですが、あなたはステータスブーストを使えますか? 」
随分前にテレビでやっていた企画の件か。小西ダンジョンにまでたどり着いたのはさすがの取材力、という事なんだろうな。
「えぇ、使えますが。ただ、ご協力できるような内容はお答えできないと思います」
「と、おっしゃいますと? 」
食い下がるレポーター。もしかしたら当たりを引いたのかも、という期待感が伝わってくる。
「誰が教えたかを秘密にする、それを条件に教えてもらった技……いや、この際スキルと言ったほうがいいのかもしれません。なのでおそらくそちらが知りたいと思っているであろう、ステータスブーストに誰が気づいたのか、という質問にはお答えできかねます。それに、体を動かしてる間に気づく人は自分で気づいて使っている技ではあるので、もしかしたら古くから探索者を続けている人に聞いて回ったほうが効率的だと思います。私たち、まだ潜り始めて一年半しか経ってませんし」
「なるほど、それは貴重な情報をありがとうございます。では、この小西ダンジョン以外のもっと大きいダンジョンで古くから潜っている探索者に聞いた方がいい、とそういうことですか? 」
「そう思います。ここはつい最近まで超過疎ダンジョンでしたし、そっちで情報を集めたほうが有意義な結果が出るかもしれませんよ」
「なるほど、ご協力ありがとうございました。この話、テレビで使っても? 」
芽生さんはまだ俺の影に隠れている。
「私一人の部分なら。彼女は色々あって取材NGなので」
「解りました。ご協力ありがとうございました」
レポーターは念のため他の探索者にも意見を聞きに行くのか、それともギルマスにギルド内の撮影許可をもらうためか、建物の中へ入っていった。
「もう行ったよ」
「ふぅ、良かったんですか? 一躍テレビデビューですよ」
「テレビで取材を受けている間、潜ってた方が儲かるからな。いくらテレビの取材やステータスブースト道場を開いたところで、一晩で三億は稼げないだろ? 」
「それもそうですね。ここは適当に濁しておいて正解だったと思います。でも、あんないい方したら今度は清州……はもう巡ったでしょうから関東か関西か、その辺で情報集めをすることになるんでしょうね」
他人事として話している芽生さんも充分に良い性格をしていると言える。
「まあ、誰でも使えるスキルなんだから誰が最初に気づいて使い始めたかなんてどうでもいいことだろうにな。いっそのことD部隊にでも取材を申し込めばいいだろうに」
「それも手ですね。D部隊ならいつから気づいていて何時から使い始めたのか、報告書なりなんなりの形で履歴は残っているでしょうから……むしろ個人的興味としてそっちではいつ頃から使うようになったのかが気になってきました」
「今度高橋さん達に出会う機会があったら聞いておくことにするか。さて、帰ろうか。取材のおかげでちょうどいい時間になった」
バスがちょうど来る時間になったのでバス停で並ぶ。ちょっと小腹が空いてきたな、寝る前に軽く入れてから片づけをして、それから短時間睡眠。それで起きたら昼だろうからそのぐらいで羽根の納品に行く、ぐらいのペースで良いだろう。
「次は明後日かな。流石に二日連続とまではいわないが、一泊したおかげで若干体のリズムがズレていると思うから明日一日は休みにしておいてズレを直していこう」
「明日は何しますかねえ。授業の用意するにもまだもうちょっと期間はありますし、論文の見直しでもしますか。追加できるデータの素を用意できるかどうか怪しい所ですが、新規B+の皆さんがどのぐらい潜ってこれているかでまたデータが変わりそうな……そうですね、その辺の作業に従事するとしますか」
どうやら卒論の編集作業に勤しむようだ。お互いやることがあって……あって……あれ?
「俺何しようかな。今日中に一通り終わらせたら明日やることが無いぞ。昼から布団屋行って念のために買い出しで新しいテントとか食材とか仕入れて……後は……うーん」
「素直に寝るなりしてればいいと思いますよ。まだもうちょっと夏は続くんです。ミルコ君のリクエストには応えたので無理に最下層まで行く必要もないですし、また指輪集めの作業に戻るでもいいですし、さらなる効率化を目指すでも悪くないと思います」
「五十九層の効率化か。それは中々楽しめそうだな。しばらくスキルオーブの心配も……あぁ、思い出した。スキルを買い足して身に付けるという目標があるんだった。次来た時には予約を入れておかないとな。何か欲しいスキルある? 」
俺は……雷魔法はもう四重化しているのでこれ以上の進化はしばらくいいと考えている。ほかの方面に手を伸ばすべきだろう。今回みたいに特定のスキルには全く効果が無いとか、特定のスキルだけ効果があるとか、そういう可能性が高まっている以上被ってないスキルで何かしら手段を構築しておきたい。
「私はそうですねー。【生活魔法】欲しいですね。洋一さんがもう持ってるとはいえ、普段使いで一つ持っておいても問題ないと思います。後は【土魔法】を覚えて【水魔法】と混合させて使うことで何かしらのシナジーを得られるかもしれません」
「俺は【火魔法】だな。二人とも被らないし【雷魔法】と合わせて使ってどんな効果があるかどうかを確認したいところだ。それに、どうやら白血球は【火魔法】に弱いらしいし」
バスが来た。これから駅へ向かって通勤する人と、ここで降りていまからダンジョンへ入る人と乗客は様々。これから稼いで行くであろう、そしてついでにマスコミのインタビューの餌食になるかもしれない探索者と入れ替わるように乗り込んでいく。バスはそこそこ一杯、立ち乗りになる。
「とりあえず今日はお疲れ様。あのカレーのレシピは封印しておくことにする」
「今度は素直にシチューを要求します」
ホワイトカレーはやはりお気に召さなかったらしい。その割に結構食べていたのは黙っておく。
「たまには芽生さんが作って持ってきてくれていいんだぞ? 」
「洋一さんの胃袋を掴むのはなかなか難しそうですね。それ以外の部分でも積極的につかんでいこうかなとは思っていますが」
「持ち運びが不安なら、こっちで一泊して家で朝作ってそのまま俺が持ち運ぶ、という形でもいいしな」
「それも考えておきましょうかねえ。何にせよ、今日はお疲れ様でした」
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