1132:ここで延長戦
ダンジョンで潮干狩りを
Renta!等いろいろなサイトで発売中です。是非とも続刊のためにもご購入のほうよろしくお願いします。
食事もコーラも歓談の時間も終わり、一息着くと今度は眠気が襲ってきた。さすがに途中休憩を挟んだとはいえ、戦いっぱなしだったし六十八層の密度はかなりのものだった。疲れがたまっているのだろうな。
「さすがに今日の探索は疲れたな。ここでちょっと眠って体をいたわっておくか」
「テントどうします? 律義に立てます? 」
「どうせテント立ててもテントの外から現れる人は居ない。ダンジョンマスターにしても俺の視界ジャックが出来る以上テントの中で寝てても外で寝てても同じ。風も空気の流れも無いし、もうこの場で寝ちゃうかどうするか」
正直面倒くささと眠気のほうが大事だ。エアマットは膨らませたままテントと共に保管庫に入っているのでまとめて出せば……あぁ、二十一層から撤収した時に縮めたままだな。ポン立てテントのほうはともかく、もう一つのほうは立て直すという作業が必要だ。ここはポン立てテントを出して二人で中で寝るとしよう。
保管庫からポン立てテントを出してエアマットを取り出す。膨らませるのが面倒だが、硬い床で眠るよりは数段マシなことに違いはない。ちょっと頑張ってエアマットを膨らませると、ポン立てテントの中に敷く。テントは狭く、二人分のエアマットを敷いたところで一杯になってしまった。
「これでいいだろ。本当に眠るだけだし、枕も二人分ある。布団はさすがに持ってきてないが、枕だけでも充分な睡眠と回復は出来ると思う」
「今は休めるだけでも充分ですし、どことなく気持ちのいい空気ですし、あのマップで休憩することに比べたらこっちではきっちり休めそうですからいいですね、一緒に寝ましょう」
「それじゃあ僕は引き続きダンジョンづくりに戻るとするよ。二人はゆっくり休んで、無理をしないようにして帰ってね。無事に帰って魔素を持ち帰るのが第一だからね。じゃあね」
ミルコが転移していったのを見送るとテントで横になる。枕をそれぞれの分出して横になる。
「三時間ぐらい寝たらいい感じですかねえ。それだけあれば色々とフル回復すると思いますが」
「起きたら水分補給して六十八層を一往復してもうひと休みしてそれから帰りかな。道は解ってる……というより単純な構造してるからあの密度に慣れるように努力しないとな。どんなに少なくとももう一回はここを通る必要があるわけだし」
「まずはモンスター密度になれるのが第一目標ですかね。第二目標は無事にここまで帰ってくること。第三目標が出来るだけ稼いで帰ってくる、あたりでしょうか」
「そんなところだな。とりあえずまずは……ダメだ、お腹いっぱいと眠気で頭が回らない。寝てから考えよう」
スッと瞼が重たくなっていく。芽生さんが何かしら話しかけているが頭に入ってこない。何か用事があるなら起きた後に聞こう。今は先に眠気を満足させることが優先だ……
◇◆◇◆◇◆◇
三時間スッキリ眠った。アラームを鳴らしておいたので部屋中にアラームが響き渡るが、主に聞くのは俺と芽生さんのみ。芽生さんのほうもどうやらスッキリ目覚めたらしく、起き上がって顔を合わせる。
「おはよう、調子はどう」
「おはようございます、ばっちり……とは言いませんが充分疲れが取れた感じですね」
「コーヒーでよろしい? 」
早速テントから這い出して、出しっぱなしだった机の上にコーヒーを二人分用意する。ゆっくり眠っている間にかいた汗の分だけ水分を補充するつもりで飲むと、寝起きのウォッシュ。
これで気分良く延長戦に突入することができる。しかし、かなり難易度の高い延長戦になるな。ここは控えめに考えて六十八層を往復するぐらいで済ませたほうが良さそうな感じだ。
「さて、今からの行動だが、六十八層の階段間を往復してそれで終わりにしてもう一度眠って帰るぐらいで良いと思うんだ。そのまま帰ってもまださすがに時間は早いし、かといって浅い層でうろうろするよりはここのほうが稼げるのは間違いないからな」
「そうですね、運動強度は高いですがそれに見合った分の報酬と実力は得られそうな気はします」
ふむ、往復している間に一回ぐらい身体強化がレベルアップするかもしれんな。ここで戦ってる時間に比べればレベルアップする回数はそう多くないが、何となくそろそろ来そう、という期待は高まっている。それにポーションを拾う回数も中々に美味しいところだ。
大体だが、往復する間に三本か四本ぐらいは拾う事が出来るだろう。それだけで二億近くの収入を得ることができる。これはかなり大きい収入になるので狙っておいて損はない。せっかく深くまで潜ってきていることもあるし、毎回往復してここで探索するというかたちでは効率が悪い。
六十四層から六十八層まで歩いてくるには相当の時間と手間がかかるし、毎回ここに来るためだけに宿泊プラン、というのもあまり効率が良くない。七十二層までが出来た後で七十層にテントを張って、逆に上っていく形で一番濃ゆい所で戦闘が出来る、というのは悪くないな。そっちの方面で六十八層には活躍してもらおう。
とりあえず今は、六十八層を問題なく往復できるかどうか、そこに集中して進んでいくとしよう。全身をグッグッと軽くストレッチして今から激戦するぞという前置き準備を始める。
テントセットは……もう一回戻ってくるだろうし出しっぱなしでも良いだろう。往復して帰ってきて、もう一休みして地上に戻る。それ以上の運動強度は今日やるにはちょっと厳しいものがあるだろう。無理はしない、そういうことになっている。今日は六十八層にたどり着いて休憩するだけでメイン任務はこなし終わっているのだ。ここからは延長戦、そう、何時もの新しい階層、新しいエレベーターがある階層に着いた時と同じだ。
「さて、今日の実りを確実なものにするために一往復六十八層を巡って体を慣らしていこう。今回のところは往復して無事に帰ってこれるかどうか、ってとこだな。無休憩である必要は無い。休みながらでもちゃんと通り抜けられるかどうかが大事だ。なあに、行きは行けたんだ。帰りも行けるだろう。それに往復するなら帰り道は少しリポップしてない分楽に帰れる。往復して帰ってきて、問題点を洗い出していこう」
◇◆◇◆◇◆◇
六十八層に上がる。上がった先の白血球三匹をサクッとホウセンカの種で爆破して止めを刺して退治。初戦は上々といったところ。ここは白血球三匹が固定ポップなのかもしれない。復路で確認しよう。他にも固定ポップがあるかもしれないが、流石に長い道だしここに来るまでは時間的コストがかかりすぎるのでこの場所以外で覚えられるかどうかはちょっと怪しいが、ここだけは頭に入れておこう。
そのまま逆行して三鎖緑球菌君とサナダムシを相手しながら直腸から小腸の小部屋地帯に向けてほぼ一本道を戻っていく。S字結腸部分を抜けながら各小部屋に住むモンスターたちを一つずつ確実に処理していく。毎回地味だが確実な戦い方だから苦戦はしない。そもそも苦戦をする相手は現時間帯で言えばいないと言える。
連戦が続くと魔力残量の確認をしながら戦わなければならないのでちょくちょく休憩を入れながら戦う必要が出てくるが、今のところは順調。やはり階段から前半、小腸エリアの密度の濃さがこの階層の売りになるらしいな。後ろから戻っていくにはあまり大きな障害というか、順番にいつもの速度で進軍していくようなイメージがある。後半戦……つまり小腸エリアまでは出来るだけ消耗を控えるような動きで戦っていくとするか。
行きに行き止まりを確かめた三叉路を抜けるまで余裕のある戦闘を続けることが出来た。ここまでは大丈夫。三叉路を抜けた先は少しの真っ直ぐな道の後、腸絨毛エリアと名付けた小部屋とメイン通路に散々モンスターが湧いている密度の濃いお宝エリアだ。
その前にドライフルーツを一噛み。念のための回復を挟んでおくことで、ど真ん中でエネルギー切れを起こさないように、という小休憩だ。
「ここから連戦だな。途中で魔力切れ起こさないようにしないと」
「私もだいぶ慣れてきましたからね。洋一さんだけに負荷がかからないように三鎖緑球菌君のほうは任せてもらえるように頑張ります」
三鎖緑球菌君については交互に戦うことができる。白血球はホウセンカの種さえ先に打ち込めれば問題なく倒せる。サナダムシは……手数の問題で俺が担当することになるだろうな。よし、大まかな分担は出来たぞ。
「これでさっきよりは戦いやすくなったかな、短く効率的に探索していこう」
「まあ、行きはお任せしすぎましたからね。大体相手の手数と動きが解ってきましたし、多少の相性の悪さは何とかなると思いますよ」
呼吸と体調を整えてから小腸エリアに移る。相変わらず索敵はビンビンにモンスターの数を教えてくれているし、目の前に見えているだけでも連戦必至なことはもうすでに通り過ぎた道。もう一度その連戦に身を置くことになる。
早速一歩目を踏み出すと、モンスターはこちらにつられて寄ってくる。索敵の動きから見て最大八匹ってところか。極太雷撃でまとめて吹き飛ばした方が効率がいいのか微妙な所だが、数と塊具合を見てどっちを使うか切り替えながら戦う。
今回は時間を計って何分ぐらいで通り抜けられるかどうかを気にしながら行くことにしよう。それだけのメンタル的な余裕があるのは一度通った道だからというのもあるんだろうな。
連戦は連戦で続いていくが、小部屋で一息ついたり出来ているため、行きほどのプレッシャーはない。この調子で小腸エリアを進んでいこう。
◇◆◇◆◇◆◇
小腸の出入口である六十七層への階段へたどり着いて十五分ほど小休止した後、もう一度直腸方面へ向かって進み、小休止を挟みながら戻ってきた。帰りは余裕があったので収入について計算しながらも歩いてきたが、ずっと六十八層に居たおかげでリポップし切らないモンスター分の収入を含めても、この階層の実りは六十四層の二倍近くになることが分かった。やはりポーションのドロップ量が多い。
同じマップでポーションのドロップ数が多いということはそれだけの数のモンスターを倒したという証明そのものだが、それだけの数をこなしたのは久しぶりになるかもしれないな。下手なカニうまダッシュよりも密度も高く儲けも多く、ドロップ品こそないものの大量の魔結晶とポーションでしっかりとした稼ぎが出来たのは今日のいい所として挙げておいていいかもしれん。
保管庫の中に山積みされている魔結晶、リヤカーに積み切れるかどうかはわからないがその量と金額を察するに、また一回の査定の最高額を更新してしまうかもしれない……いや、それは指輪の時にやったからもうあの金額で査定することはしばらくないか。
ダンジョンコアルームに戻ってきて一休み。
「さすがに往復は疲れますねえ。休憩挟んでいるとはいえ無尽蔵に体力が湧いてくるわけでもないですし」
「まあ、お互い【身体強化】が一段階上がったのが稼ぎの証拠ってところにしとこうや」
往復の帰りに小腸の出入口辺りで芽生さんが、そして最後の白血球三体を倒した時に俺が、それぞれ身体強化のレベルが上がった。身体強化が上がったのは良いが、上がる感覚が通ってきた道のモンスター密度に対して数を倒さないと上がりにくくなっている。
ここのモンスターはよほど相性が悪いだけで、強さとしてはそれほどのものじゃないのかもしれないな。自己鍛錬という意味では次に追加されるマップか、五十九層を今までより高速で回り続けることでカバーしていこうと思う。
「さて、もうひと眠りして、起きたら朝食にして、それから帰るか。時間的には……ちょっと早い朝食になるから上に戻るころにはお腹が空いていることになるかもしれないがまあそのぐらいは良いだろう。大事なのはここでエネ切れを起こして倒れないことと、無事に帰ることだ」
「良い感じに疲れることが出来たので中々悪くないマップかもしれません。ただ、エレベーターから遠いのが難点ですね」
もう睡眠に入る気満々の芽生さんがテントで横になりながら反応をくれる。確かに、それだけがネックだな。
「そこは、七十二層までマップが出来た時に七十層から戻る形で六十八層に上がって探索って形にする方が収入にはなるかもしれんな。ただ、指輪を取りに行く手軽さを考えたら今の実力だとここまで複数回潜ってきて稼ぐ、というのはなかなか難しいだろうな」
実際の所、六十四、五、六、七と下りてきて六十八で往復して帰ってくる、というだけで最短でも六時間はかかる。更にエレベーターの時間で一時間追加。日帰りでここまで来るのはまだ難しいだろう。今日の帰りの六十七層の地図作りの続きもある。帰りは時間効率よりも運動効率、燃費のほうを気にしながら帰ろう。その前にまずは仮眠だ。仮眠して疲れをすっかりとって、その後で食事だ。一つ一つ忘れずに手順に従って休む時は休もう。
作者からのお願い
皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。
続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。
後毎度の誤字修正、感謝しております。