1131:ダンジョンコアルームを目指して 5 到着
ダンジョンで潮干狩りを
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うねうねと、モンスターと戦いながら進んでいく。数戦して気づいたのだが、ウネウネしているのは道がウェーブしているのではなく、小部屋が斜めに通路でつながっている、というほうがより正解に近いらしい。
モンスターがワンセットずつ出てくるので迎撃は今までに比べれば優しく感じる。そして、通路部分に居るモンスターが小部屋部分に乱入してくることも少ない。
「やっぱりここ、ウェーブ通路じゃなくて、斜めに通る道に小部屋が繋がってる構造というほうが正しいんじゃないかな。モンスターが湧く地点、ちょっと横幅広いし」
「そういう見方もできますか。なら小部屋をよく観察して階段が無いかちゃんと確認していく必要があるんじゃないですかね? 」
芽生さんが頭を働かせて、奥まで行く必要は無いのでは? という問いかけをしてきている。たしかに、これだけ小部屋が連続していれば何処かに階段があってもおかしくはない。
「多分だけど、この六十八層は小腸大腸をモデルにしているんじゃないかな。階層下りた最初の小部屋の連続とストレートの大量のモンスターは栄養素とそれを取り込む腸絨毛を表現しているのだと思う。で、今は大腸の太くてウネウネしているのを小部屋の連続と斜めに走る通路で大腸……という事にしたいんだと思う」
「だとしたら最終的にはS字になってる部分があって、排出する部分に階段がある、と? 」
「そんな感じになってそう。もうちょっと進んでいけば多分下降しながらウネウネする場所が出て来るんじゃないかな。もしくはS字結腸を飛ばしていきなり階段という可能性もある。まあ、索敵でその内引っかかるだろうし、見ていけば解ると思うよ」
先を進む。さっきの説明で言う通路部分と部屋部分両方で戦闘になるのでせわしなさは前半部分ほどではないが中々に忙しい。ここまで来ると白血球と三鎖緑球菌君の喧嘩も眺めてるよりもとっとと乱入して両方のドロップ品をもらいに走るほうが大事に見えてくる。別に観戦していてそれが終わるまで待つ、というルールは無いのだ。
ほどほどに損耗した奴から順番に倒していけば手間は少なくて済むし、ホウセンカの種もまだ在庫はある。ここで使い切ったらどうしようね? という心配は少なくとも今日明日で考える必要は無い。使い道が無いし捨てるのもなんだと思ってため込んでおいた甲斐があったな。よもやこんな深い階層で効果のある攻撃方法として通用するとは思わなかった。
十二個目あたりの部屋を掃除したところで道の流れが変わった。どうやら本当にうねっていることが解る。ここがS字結腸かな?と思われる場所を通過し、今までで一番広い部屋へ出た。どうやら直腸に出たらしい。ここから更に先に進む道は一本しかない。そして、白血球三匹という今までで一番コストの高いモンスターと出会うことになった。
ホウセンカの種を二発ずつ射出し、確実にダメージを与えて白血球をボロボロにすると、順番に切り刻んで黒い粒子に還していく。芽生さんも一匹は処理してくれた様子。相性が悪いのによくやってくれた。
三匹とも倒したところで通路のほうへ行くと、通路の先には下へ下りる階段がちゃんとあった。やはり奥に階段がある説は正しかったらしい。
「突貫工事の割には凝ったマップでしたね」
「参考になるものがあればそれなりに手早く作れたと考えると、腸を模してマップを作ったのは案外いい案だったかもしれないぞ。ここがもし十六層みたいな迷宮だったらもっと踏破に時間がかかっただろうし、そういう意味では多少シンプルで見た目も……いや見た目はよくないし、考え方を変えればこれから我々はウンコとして排出されるように次の階層へ行くことになるんだからあまり気分のいいものではない気がする」
「異物には違いないですが、そう言われるとあまり気分がいいものではないのは確かですね。さて、階段を下りてダンジョンコアルームなのか、それとも実は作ってしまっていた六十九層なのかを確認しに行きましょう」
最後の部屋で立ち話をしていても何も始まらない。我々に今必要なのは休憩と飯、それと睡眠だ。流石に眠いというほど眠気を催している訳ではないが、早くこの蒸し暑い環境から抜け出したいというのは確実。
急いで階段を下りていく。早くここから出たい。しかし、考えてしまう。帰りもこの道を通らなければならないんだと。そして、ここで休憩して軽く仮眠をとると、六十八層でしばらく活動しなければいけないということを。
階段の途中でマップが切り替わり、一気に湿度が下がり涼しくなる。前も味わったこのマップの匂いと感覚。どうやら無事にダンジョンコアルームには到着したらしい。
階段を下り切り、ほぼ何もない部屋に出る。あるのは中央にある台座と、台座の上で浮かぶ丸い玉。この部屋に来るのは二回目か。他のダンジョンでは散々目撃されているんだろうが、このダンジョンでここを目撃しているのは今のところ俺達だけということになっている。
とりあえず、ここまでの蒸し暑さを振り切るためにドライフルーツをそれぞれ口に含んで、スーツの上着を脱ぎ、ウォッシュをかける。気持ちよさを満喫したところで体にもウォッシュ。ここまで蒸し暑い中を我慢してきたのがウソのように体が綺麗になっていく感覚を覚える。やっぱり仕事上がりのこれは気持ちいいな。
「さて、夕食にするか。今日の夕食は驚くぞ」
「確かカレーって言ってましたよね。お腹にしっかり溜まってよろしいかと思います」
机と椅子を用意してカレー鍋を取り出し、蓋を開ける。一気にダンジョンコアルームがカレーの匂いに支配されていく。炊飯器からご飯を深皿によそい、二人分のカレーをよそってスプーンと共に机の上に並べる。
芽生さんの目の前に、色とりどりの野菜が盛られたカレーが置かれる。芽生さんはちょっと不満そうにしている。
「洋一さん、カレーなんですよね? シチューにしか見えませんが」
「匂いはカレーだろ? 早速一口食べてみると良い」
自分も早速スプーンを手にカレーを食べ始める。しかし、見た目はどう見てもシチューである。一口食べる。その瞬間、味覚と嗅覚がエラーを起こす。思わず少しむせる。芽生さんも匂いを嗅いでカレーであることを確認すると頭に疑問符を浮かべるような感じで首をかしげてから口に入れる。
「うむ、ちゃんとカレーだ」
「ごほっ、なんですかこれ、見た目シチューで匂いカレーで味もカレーってどういうことですか」
芽生さんが俺の望み通りに混乱してくれている。いいぞ、その反応が欲しかった。
「実はこういうものが売ってまして。面白そうだと思って買ってみたんだ」
見せるためだけに保管庫に放り込んであったパッケージを取り出す。そこにはホワイトカレーの文字。
「なるほど、ホワイトカレーですか。そういうものもあったんですね、知りませんでした」
「ちょいと味見した時に、脳みそと視覚はホワイトシチューと錯覚しているのに味と匂いとスパイスの感覚はカレーという中々面白いものだったんでこれの不思議さと面白さと美味しさを是非芽生さんにも味わってもらおうかと思って」
「確かに驚きました。シチューだと嘘をついて食べさせられていたら一口目は外に出してしまっていたかもしれません。でも美味しいですねこれ。ダンジョンで食べるカレーではあんまり使わない系のスパイスも使われてますし、少し汗をかくかもしれませんが美味しい汗です」
芽生さんには中々好感触だったらしい。怒られることまで覚悟はしていたがそうはならなかったらしい。うむ、たまにはダンジョン内で辛めのカレーを食べるのも悪くないな。
「やあお二人さん。ここまでお疲れ様」
どうやらダンジョンコアルームの外にも香りは届いているらしい。ミルコが現れた。
「ミルコも食べるか? 中々美味しいシチューだぞ」
「そのやり取りは見てたからもう僕には通用しないよ。それは前にも食べさせてもらったカレーの白い奴なんだろう? 」
ちっ、面白みのない奴め。でもせっかく食べに来たのにお前の分ねーからと追い返すわけにはいかないし、炊飯器にも鍋にももう一人分ぐらいは残っている。椅子とご飯とカレーを出してやると、早速スプーンを握ってご飯をおねだりするポーズになったミルコが俺の横に座る。ご飯をおねだりするポーズも様になっているのは少々顔のおつくりが良すぎるようにも見える。
「ほらよ、ホワイトカレーだ。前のより辛めだからむせるなよ」
「わかったよ……いただきます」
神妙な面持ちで一口目を口に入れるミルコ。咀嚼して飲み込むと、早速二口めに取り掛かり始めた。どうやらお気に召したらしい。
「しかし、人参とブロッコリーとジャガイモが入っていてルーが白いとシチューだと考えてしまうのはそれに慣れ過ぎているからですかね」
「それを狙ってあえて入れてみたんだが効果のほどはそこそこ効いたみたいだな」
「これも美味しいね。これもカレールゥだっけ? それのおかげなのかな」
呑気にカレーを食べているミルコはさておき、ちゃんと昼の残りのサラダもお出しして、箸休めにしながら食べる。
「さっき芽生さんには見せたが、こういうパッケージになってこれで十二人分ぐらいの量のカレールゥが入っている。なのであと九人分ぐらいはまたこのカレーを作れることになる。野菜はさすがに持ち合わせが全ては無いので今から作れと言われても厳しいがな」
「なるほどね。でもこうやって楽しい食事に誘ってくれるだけでも充分うれしいかな」
「誘ってないけどな」
ミルコはあっという間に完食し、充分腹いっぱいになった、というジェスチャーをするが、コーラを試しに机の上に出してみると、早速キャップを開けてごくごくと飲み始めた。どうやらコーラは別腹らしい。
「で、どうだったかな新階層の奥のほうは。大体そっちの読みは当たっているとは思うけどね。人体を参考にしてそれっぽく仕上げてみたんだけど、通って見ての感じはどうだっただろうか」
ミルコとしては頑張って突貫工事で作った割に凝った階層であるここが割と自信作のように見える。
「そうだな、下に行くほど階段に近くなる、というヒントに気づかなければ中々迷うマップではあったかな。まぁそれでも十六層みたいに全部回ってみないと解らない、というものよりはよほど素直な出来だったと思う。ただ、六十八層の密度は少々厳しいものがあるように感じた。これは二人で探索してるから、という点もあるだろうけど……ああ、相性の問題もあったな。こっちに相性が悪いモンスターが多かったと感じるよ」
「君らが白血球って呼んでたモンスターのことだね。ネタバレしちゃうけど、火属性にはとても弱いモンスターになっているんだ。ホウセンカの種の爆発属性も火属性の一種だから、アレをぶつけ始めた時はちょっと驚いたよ」
ミルコも保管庫の中に几帳面に種をしまい込んであるとは想像していなかったらしい。
「アレに気づけなかったらもう一時間ほど余分な時間がかかってここへ到着することになっていたと思うぞ。やはり今からでも他の属性魔法に手を広げていったほうがいいのかなあ」
「そうですねえ。水魔法と魔法矢の混合魔法も他の属性と合わせて使えればどうやら威力が上がったり、魔法の変化について色々と出来るような気がしてきました」
「魔法の変化、とは? 」
芽生さんが気になることを言い出したのでちょっとそっちに興味を引かれる。
「ほら、今まで水魔法だとウォーターカッターやスプラッシュハンマーみたいに水魔法で切断する方向にばかりに手段を使っていたじゃないですか。でも、魔法矢と組み合わせることで魔法矢みたいに指向性を持った水属性のダメージを与えるスキル、として扱っている訳ですよ。複数属性の同時使用はそれなりに魔力を消費するみたいですが一見効きそうにないモンスターにも効果があるらしいことが解ってきています。なのでその研究のためにもう一つ別属性の魔法を覚える、というのも楽しみとしてはありかもしれません」
なるほど。半分ぐらいしか解らないが、保管庫からの射出に雷魔法を組み合わせてリニア式射出を行うのとはまたちょっとベクトルの違うところで複数属性を扱う手段があるということか。だとすると俺も何か一種類覚えてみるのも面白いかもしれないな。
「ふむ……新しい属性か。確かにこのまま雷属性を多重化させるだけでは手詰まりが来る可能性があるし、それを考えても攻撃方法はもっとあってもいいな。ちょっと考えておこう。金はあるし、買い集めであちこち走り回るぐらいは……夏休みが明けたらそっちに走り回ってスキルオーブを買いに回るのもありだな」
「こっちとしても見世物や手持ちの攻撃手段が増えることで視聴率が上がりそうなのは大歓迎だからね。考えておいてもいいとは思うよ」
新技も良いが旧技も、か。地上に戻ったらちょっと真面目に考えてみるか。
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後毎度の誤字修正、感謝しております。