1130:ダンジョンコアルームを目指して 4 連戦
ダンジョンで潮干狩りを
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連戦がぽつぽつと行われる。五十二層のようなぬるぬるとしたバトルが行われるよりはまだマシかな、と思えるぐらいの間隔で、二回分か三回分の戦闘をまとめて行うケースが多いこの六十八層、中々に進みづらい所である。
こうなると小部屋の戦闘が気楽に見えてくる。見えてる範囲だけを敵にすればいい余計な気づかいが要らないのもポイントが高い。また、六十七層であった小部屋から白血球が飛び出してきて通路上の三鎖緑球菌君にとびかかる、というケースが今回はまだ見られていない。
どうやらこの階層の小部屋のサナダムシや白血球は若干の引きこもり態勢にあるらしい。もっとも、同じ部屋で三鎖緑球菌君と湧いている場合もあり、戦い終わった後に我々が部屋に侵入しその戦闘後のダメージが回復しない間に戦闘になるケースもあるので一概に引きこもりともいえない。
それと一つ、サナダムシと白血球は喧嘩しないという事も解った。どうやら白血球の戦う相手は三鎖緑球菌君だけらしい。三鎖緑球菌君と明らかに判断する相手だけを戦闘目標にするらしい。喧嘩してくれてれば横入が出来て楽だったんだが、寄生虫と菌、余計なことをしないなら俺は見て見ぬふりをする、という白血球の意思を感じる。
サナダムシと白血球が同時に居る場合、サナダムシを雷撃で焼いた後ほぼ同時に白血球にホウセンカの種を射出、白血球が削れたところで芽生さんが切込みに入って最後のとどめを刺す、という流れが出来てきた。だんだん慣れてきたぞ。
「手数とモンスター数のわりに余裕が出てきました」
「後一時間ぐらいはこれが続くと思うと、一歩足を戻して休みたくなってくるな。流石にこの連戦はきつい。小部屋で一休憩、というのもありだろうがまださすがにそれには早い。もうちょっと先に進んでマップの行く先が解るようになってきてからでも良い。この一本道と小部屋の連続するゾーンを抜けるまではちょっと連戦が続くかな」
「あと最低十分ぐらいはそんな感じですかねえ。まあ体力的にも精神的にもまだ余裕はありますので洋一さんが疲れるまでは大丈夫だとは思います。疲れてきたりしたら教えてくださいね」
まだ大丈夫。ドライフルーツも必要ない。魔力のほうはそれなりに消費しているが半分以上の水準は多分維持している。芽生さんのほうもまだ平然としているので大丈夫だろう。同時に限界が来ない限りは休憩しなくてもまだまだいけるはずだ。
何より、今日は制限時間に追われていない。休みたくなったらいつでも休めるだけの時間はあるし、この密度ならポーションのドロップも期待できる。多少休みの時間が増えたところで戦う密度が上の階層とは違う以上充分な利益は得られるだろう。落ち着いて行こう、落ち着いて。
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ポーションがまた落ちる。この階層に来て二本目だ。かなりのハイペースだとは思う。しかし、軽く眩暈がしたのでここで一旦休憩。五分ほど動かずにじっと待つ。五分あれば体も魔力もそれなりに休まる。歩き続ければ続けるほどモンスターが出てくるこの長い道が終わるまでは大丈夫だと思っていたが、道を渡りきったところで魔力も底をつんつんと叩き始めていたようだ。
モンスターが多いと消耗が激しいのはわかる。普通ならば移動の間に徐々にでも自然回復していくので一グループずつモンスターを相手にするなら問題ないが、連戦が続くと自然回復が消耗に追いつかない。
それだけ数グループをまとめて相手にするという状況と、常に全力雷撃という状態では中々に厳しいものがあったらしい。
「とりあえずここまでで前半一区切りってところですかね。この先は……三叉路になってるみたいです」
先に索敵で偵察を行っている芽生さんからの報告を受ける。三叉路か。選択は二分の一で奥へ行く道。もしくは奥まで行く手前に階段がある、という可能性もある。もっと道が長いかもしれない。索敵ではそこまでは判別できないようだが、ここから更にまだ奥があるのは確かということだ。
「分かれ道か。下りの道がハッキリしてればそっちへ行けばいいんだろうという予測はつくけどなあ」
ドライフルーツを二枚一気に口にすると、暑さと爽やかさを同時に受けて体内がリフレッシュされて蓄積された疲労が取れていくのを感じる。特に動かしていた体の部分から発熱するような感覚が体を襲う。
全身から熱気を上げているような感覚が体にまとわりつくので、肉体的疲労もそれなりに蓄積していたということか。このタイミングで休憩を取ったのは悪くなかったと言える。
「ここは予想外にモンスター数が多いな。素直に休憩を取りながら進むのでも上の階層よりも濃い戦闘が可能らしいが、濃すぎてもまた問題、ということがわかってきた。どのぐらいの密度までなら、というところまではまだはっきり言えないが、ここは二人では休憩なしで進むのは厳しいという事は解った」
「確かに、中間点まで来てるとはまだ言い切れないもののこの消耗の激しさは他の階層にはない特徴ですね。十層以来ですかね、これだけ抜けるのがキツイのは」
十層の時は逃げ出した過去もあるので、初見の当り具合で言うと十層のほうが厳しく感じたかな。後、数のほうも十層のほうが上で、対抗手段がそれほどなかったことからも理由に挙げられる。
さて、五分経った。疲れも取れたし魔力も補充した。またしばらく戦いながら歩き続けることができる。
「んーっ、さぁ行くか。階段とカレーが俺達を待っている」
「そろそろお腹も空いてくるころですしね。時間的にも……夕飯にしてもいい感じの時間であるとは思います。ここらで本格的に休憩して、その後帰るまでにもう一回ここで鍛錬して、徐々にこの階層の密度にも慣らしていきたいところですね。なんにしてもまずは階段をみつけましょう」
再起動して移動を始める。さて、この先は三叉路になっているんだったな。そこに行くまでに三鎖緑球菌君が数グループ見えているがそのぐらいなら休憩を再度とるまでもなく撃破できるだろう。
俺の負担がさすがに大きいと判断したのか、芽生さんが一グループすべてにスキルで攻撃対応。撃ち漏らしを俺が軽めの雷撃でトドメ、というスタイルにチェンジした。これは俺が普段全力雷撃で攻撃し、残ったものを芽生さんが処理する、といういつもの流れの逆を行く。
うまくいけば芽生さんだけで攻撃は終了し、うまくいかなくても撃ち漏らしをノータイムで迎撃できる俺も負荷が小さくて済む。そして芽生さんの精密さと発射速度、追従性の練習にもなる。本来ならこんな密度の濃い所で練習するような内容ではないが、あえてここだからこそ身に付いてモノにできるものもあるだろう。
しばらく進むと先ほど言っていた三叉路に来た。さて、どっちが正解か。
「うーん、途中までしか見えないな。どのぐらい進めばいいやら」
「片方は行き止まりですが、もう片方はさらに奥に伸びてますね。あえて行き止まりを確認して階段がないかどうかを今のうちに確認しておくほうがいいとは思いますが、その辺の判断は任せます」
「じゃあ、確実に行き止まりに何もないことを確認しに行こう。その後でこっちに戻ってきてもリポップまでに時間はあるだろうし、その間にササっと移動して本来のルートに戻るということで」
行き止まりと解ってはいるがそこに階段がないとは限らない。密度の非常に濃い地域は突破したのでその後は適当に作ってある可能性だってある。奥まで長い道を行って階段が無くてしょんぼり戻ってくるよりは、ここで短めの行き止まりを通って階段の有無を確認するほうがトータルでは得になる、と判断することにする。
行き止まりのほうの道は広く、三鎖緑球菌君だけでなくサナダムシも白血球も湧く。白血球の行動範囲までは把握しきれていないが、喧嘩を売りに行くような様子はないのでここは同時に湧かない限りは白血球と三鎖緑球菌君のバトルは見れそうにないな。
行き止まりまで進み、そこが行き止まりで階段がないことを確認した。宝箱のあるダンジョンが存在するかどうかまでは解らないが、ゲームのダンジョンならここにぽつりと宝箱が置いてあるんだろうなという感じの行き止まりであった。
頭のどこかで解ってはいたものの、ちゃんと確認することに意味がある。食事をとって休んで帰り道にこっちには来なくていいという確認をした。これはちゃんと地図作りにおいては必要なことだ。
階段がないことを確認したところで芽生さんとスイッチ。ここからは芽生さんに魔力を自動回復してもらいながら俺がメインを張って再び戦闘に入る。芽生さんが楽をさせてくれたおかげでかなり魔力が回復していると思う。また三十分ぐらいは戦闘を継続できそうだな。
しかし、あれだけカニうまダッシュして、あれだけ五十一層でソロで頑張って、それだけ持久力を高めてきたのにここで途中休止が必要になる、というのはそれだけこの階層の消耗が大きいという事だろう。ドロップ品を軽く計算したところ、カニうまダッシュ四時間分ぐらいの儲けをこの一時間ほどの時間で稼いでしまっている現状がそれを教えてくれている。六十八層はそれだけ難易度の高いダンジョンだということを実感する。流石現状最下層、といったところかな。
道を急ぎ気味に戻って再び三叉路。今度は奥へ続く道へ進む。モンスターの密度は先ほどまで程濃くはない。道は一本だが広くなっているのですべてのモンスターが出ると考えていいだろう。と、奥のほうで白血球が三鎖緑球菌君と戦っているのが見える。四対一ではさすがの白血球でも厳しい戦いを迫られるだろう。かといってここからダッシュで戦闘地域まで追いついて横やりをかっさらうというのは少々厳しいものがある。
仕方がないので生き残ったほうと戦うという形になるだろうと考えながら目前のサナダムシを全力雷撃一発で落とす。サナダムシは分裂数が多いので分裂される前に一発でダメージを与え切るのがコツだ。ちまちま雷撃で削っているとあっという間に増殖してしまう。増殖すると言っても同じ強さのモンスターがそのまま増えるわけではなく、分割された分だけ力は弱くなるらしい。それでも分裂数が増えると攻撃対象も防御対象も増えて厄介になるのでやはり、一撃で黒い粒子に還ってもらうのが効率的だろう。
道をまっすぐ進みながら時にはサナダムシ二匹や三鎖緑球菌君四匹という中々コストの高いモンスターも相手にしながら進む。さっきのモンスター同士の戦闘の結果だが、白血球は数の暴力に押されて三鎖緑球菌君が二匹残って勝利という形になったらしい。しかしその三鎖緑球菌君も無事ではなく、三鎖に当たる三つの玉は二つになっていたりとそれなりにダメージを受けているのが確認できていたので、苦しまないように雷撃一発で昇天させてあげた。
本来なら三鎖緑球菌君四匹と白血球一匹の収入が見込めた所が三鎖緑球菌君二匹分の収入しか得られなかったのは寂しい所だが、普段より多少楽をして二匹分のドロップを得られたと前向きに考えよう。ポーションも落ちた。
地図は一本道をずっと続けている。小部屋はどうやらこの道筋にはないらしい。解りやすくていいが、もしも小部屋を見落としていてそこに階段があったら、と一瞬考えてしまうのがダメな所か。
索敵にも引っかからないので小部屋がある可能性は非常に低いのだが、階段前の小部屋には必ずモンスターが居ると決まったわけではない。うーん、地図作りの罠にはまってしまっている気がする。
一本道を折れ曲がり、若干のウェーブがある地域に出た。イメージ的には小腸から大腸にでも入れ替わったような気分だ。さっきの小部屋は小腸の腸絨毛を模していたのだろうか、と考える所である。そういう意味では、その小腸エリアで我々は持久力という栄養分をしっかり吸い取られてきたのではないか、と考えることもできるな。そういう意味でもこの階層は割とよくできている。
「この先、どう? 」
「まだしばらく真っ直ぐですね。小部屋のあるような場所は見受けられません。しばらくは地図作りも楽なんじゃないですかねえ」
索敵担当がそういうのだから多分そうなんだろう。もし奥まで突っ切っていって階段が無かったら、また一呼吸休んで再び階段探しの旅に出る所なんだろうが今のところそこまで考える余裕はない。このウエーブのかかった道と、その道中にチラチラと見えているモンスターを倒していくしかないのだからそれに従っていくことにしよう。
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後毎度の誤字修正、感謝しております。