1127:ダンジョンコアルームを目指して 1 慣れた通り道
ダンジョンで潮干狩りを
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六十四層をいつものルートで巡り終わって、少し早めのお昼となった。お昼を少し早めにとればその分だけ迷う時間が取れる。六十八層でどう動くことになるかはまだわからないので長めの探索になっても大丈夫なようにカロリーもしっかり取りたいところだ。パスタは多めに茹でてきたのでそのあたりは大丈夫だろう。
「たしかに手動で野菜を増された感はありますが水っぽくないのがいいですね。ちゃんとトマトソースの果肉感と一緒に入ってるミンチの味も薄まってませんし」
「ちょっとソースが足りないかもしれないけど、その時は申し訳ないが我慢してくれ」
「解りました、貴重に使っていきます。これで午後の探索分をしっかりと補充しておけという事ですね。物足りない分はサラダで補充しましょう……そういえば【身体強化】って使うのはカロリーだけなんですかね。各種栄養分も必要だったりするんでしょうか」
そういえば考えたことはなかったな、ちょっと考えてみるか。パスタとサラダを交互に口に入れつつ、頭の中で話を組み立てて考えてみるか。
「【身体強化】で体を過剰に動作させるということは、長時間マラソンを短時間で行うような物なのだと仮定すると、カロリーそのものを使うのは当然として汗もかくだろうしミネラル分も消耗するだろ? そう考えると純カロリーよりもそっちの方が大事になってくるのかもしれない。そうなると、カロリーバーも脂質が多めのものよりもたんぱく質やミネラル、ビタミンバランスの取れたもののほうが増加食としては有効かもしれないな」
「そういう検証って誰かしてないんですかね? さすがにもう広まり始めて一年もたちますし、どういうエネルギー源を使っていくのかというのは調べてそうな気がしますけど」
「帰ったら検証スレでも漁ってみるか。でも、医学的アプローチからそういうことを調べてる人は……いるかもしれないな。あそこ何でも検証してるみたいだしな」
サラダの水分のおかげでできあがっていた粉チーズの塊を口の中でほぐしながら、検証する課題についてどのように測定するのか、どのように結果を出力するのかなんかを考える。体内のミネラル不足とかってそう簡単に計測できるものなんだろうか。もっと長い目で何を食べているか、どのくらい【身体強化】を使って活動していたか、それらを継続的に調べて行かないと難しいんじゃないかな。
「頭の中で考える範囲だと、検証スレでも継続検証中かもしれないな。長年使い続けてミネラル不足が起きてないかどうか。そういう意味では自分の身体で調べてみるのが一番なんだろうな。そういえば健康診断の結果、まだ来ないな。そろそろ来ててもおかしくはないんだが」
「鉄分不足とか亜鉛不足とかそういうのって測定項目にありましたっけ? 」
「なかったような気がする。とりあえずいつも常食してるバニラバーには……マグネシウムカルシウム鉄分亜鉛葉酸と色々入ってるし、これを食べている間は問題ない範囲で済んでいる、と考えることはできるな」
お腹空いたら気軽に食べるし、疲労が溜まったらドライフルーツ齧ってるし、気が付かないうちにそういう部分はクリアしてしまっているのかもしれない。これも幸運の内かな。
「さて……パスタは食べましたしサラダは残りは夕飯分に残しておきます。ほどほどにしないと今から動くのに邪魔になってはいけませんからね」
早々に自分の分を食べ終わると、休憩に入り始めた。俺も最後のパスタをずずっと吸い込むとしっかり咀嚼して飲み込む。机の上のものを片付ける。サラダの残りは夕飯の分だ。夕飯をどこで食べることになるかはまだわからないが、それまで保管庫でしばし眠っていてもらおう。なあに、ほんの数分間の別れだ、そんなに寂しがることじゃないよ。
机に突っ伏してそのまま休憩を始める。スノーオウル枕でしっかりと寝床を確保。アラームは三十分設定して、充分に体を休める。体が冷え切らない程よいタイミングを見極めての三十分だ。これ以上休んでも休んだ! という体感があまり得られないからギリギリ胃袋との相談のうえでこの辺りがベタータイミングだと思える。しっかり休んで午後の探索への活力を全身にみなぎらせていこう。
短い三十分という時間ながらも休憩完了。全身、不可解なところ無し。胃袋、ほどほどに消化完了、ヨシ。体調、それなりにヨシ。睡眠欲、解消。不可はなく、可はそこそこ。ベストコンディションとは言えないがベターぐらいにはもってこれたな。
芽生さんも目覚めると全身をグリングリン動かし始める。あっちもそこそこ体調は良いらしい。ならば一気に焦らず素早く行動するのが一番。
「さ、いくか。気楽に行こう、気楽に」
「行きますか。うまくいかなかったらその時また考えましょう」
二人とも緊張した面持ちではない。これはなんとかいけそうだな。
六十四層に下りてさっきと似た道を通って六十五層に向かう。さっきも通った、さっきも倒したモンスター。深く考えずに倒していく。もう慣れた道、慣れたモンスター、慣れたドロップ品。無感情なまま黙々と潜る。
「はっ、気が付くと六十五層に着いていた」
「ここからは真面目にやってくださいね」
芽生さんに念押しをされる。芽生さん的にはまだ六十五層に慣れるには早いということだろうか。よし、ここは深呼吸だ。すー、はー。すー、はー。よし、記憶が確かになってきた。ここは六十五層、さっきまでは六十四層。そういえば戦闘をしながらここまで来たような気がする。
「さて、最短ルートで一気に六十七層まで下りてしまおう。六十七層にたどり着いて広間を掃除して、そこで一休憩といこう」
「それが無難ですねえ。六十七層と六十八層を一気に踏破する形になります。大丈夫ですか? 記憶飛んでませんか? 」
「さっきまでは飛んでた。ここからは真面目に探索をやろう。下手に手間取ったり余計なことをしたりして時間がかからないようにしないとな」
六十五層のループ部分を手早く素早く回る。三鎖緑球菌君とサナダムシが相手なので持久力よりも時間を優先して若干高出力気味に雷撃を撃ち放っていく。サナダムシも三鎖緑球菌君も分裂する可能性があるのでうっかりしないようにしないとな。同じミスは三回まで、それ以上同じミスを犯すなら手順と手段を考え直す必要がある。
「いつも通りいつも通り……よしいっちょあがり」
三鎖緑球菌君を二匹まとめて雷撃で吹き飛ばす。当たる前に分裂されることもなく無事に魔結晶のドロップ品を残し黒い粒子に還っていく。ここの戦闘にも慣れたな。そろそろ飽きそうだ。そこそこドロップが美味しいので出来ればドサッと出てきて欲しい所ではあるが、あまりに多く出てきても分裂されて厄介な状態になる可能性もある。出るならちょっとずつ、大勢出てほしい。うん、これだな。
六十五層はまだ歩く時間のほうが戦闘時間より長い。テンポはあまりよくないが歩く時間が長い分、早歩きすることで歩行時間を少し短くできる。細かく稼いでいかなければならない、というわけではないが、ケチるところはケチりたい。どうせ次のマップ、その次のマップのほうがより同じ時間で更に稼げるんだ。ここでゆっくりするよりもまだそのほうが人生において効率的だと言える。
今回小部屋は完全にパス。なので六十五層ではサナダムシとはほとんど出会わない。偶に広い道に差し掛かって湧いているかどうかぐらいなので余裕をもって対応できる。
三鎖緑球菌君を芽生さんと交互に戦いつつ、時には一匹ずつ倒しながら五十分で六十五層を抜けた。
「ここまでは問題なしだな。いい調子いい調子」
「六十六層も多分問題ないですねえ。手間がかかるのは白血球が出てきてからだと思いますねえ」
そのままの勢いで六十六層へ突入。少しだけ密度の濃くなった三鎖緑球菌君と少し道が広がったのでサナダムシも出てくる。とは言っても全力雷撃一発であっさり戦闘が終わるのでかなり気楽に進んで居られるのは間違いない。
既に階段までの最短ルートも作ってあることだし、地図の見間違えさえしなければ大丈夫だろう。そう思っていたら一か所横道の見落としがあったらしくそっちに間違えて行ってしまった。そういう事も……まあこのマップならある。完璧に地図を作ってあるわけではないのでたまにはこういうこともあるさ。
「地図作りが趣味の洋一さんにしては見落としは珍しいですね」
「別に地図作りが趣味というわけではないんだが。もしかしたら前回は壁の反対側を見ながら地図を作っていてうっかり見落とした可能性が高いな。その先がすぐ曲がり角で助かった、というところだな。もしこのまま同じような道が続いていたら大幅な時間の消費になっていただろう」
頭を振って切り替える。余裕余裕とタカをくくっていたおかげでこのようなミスに遭遇してしまったんだ。ここは世界的に見てもダンジョン最深層に近いんだ、それを忘れてはいけない。これがモンスターの大量に詰まっている場所へ踏み込んで居たら、無事に潜り抜けて居られただろうか。もしここがトラップのあるダンジョンだったら。
トラップがここまで無いからと言ってこの先にも絶対存在しないという証明にはならないのだ。もっと注意深く進んでいこう。
◇◆◇◆◇◆◇
六十七層への階段に到着した。今日はサクサク探索が進むな。このままサクサクと六十七層も進んでくれると嬉しい所だ。階段探しから始めないといけないからな。それなりの時間迷う可能性を考えても、いい感じの時間で階段が見つかってくれるとありがたい。ちなみにここまでのポーションドロップ数二本。充分な利益は出せているな。
階段を下りて、そこでまた喧嘩している三鎖緑球菌君と白血球。三鎖緑球菌君を芽生さんに任せて白血球の対応に回る。白血球を四分割すれば大体大丈夫ということは解っているので、出来るだけ体積を大きく切り取れるように足元の動きと相手の動きを合わせて切り刻んでいく。
ここでも圧切は大活躍だ。ここまで切れ味が良くなければ上手くいってなかったかもしれない。ここで圧切から直刀に武器を変えて試してみる、というのも危ない。できるだけ火力とか武力というものはギリギリを攻めるとここでは危ないということが解っている。
もしかしたら綺麗に二分割してしまっていたら、白血球も分裂するかもしれないのだ。本物の白血球なら分裂はしないだろうが、もしも、という可能性はある。それに、分裂してもドロップは一つだ。スライムみたいに分裂した分ドロップが増えるというわけではない。分割はいいが分裂はダメだ。あれは金銭的にも時間的にも美味しくない。
芽生さんが三鎖緑球菌君を倒していてくれるうちにこちらも白血球を手早く倒せるように駆け出す。自分を囮にして俺を喰わせるような格好をさせて、その間に広がって覆いに来る白血球を端っこから切り裂いていく。大きさはバラバラだが良い感じに白血球の広がり方とこっちの切り込み具合がフィットしてきている。ちょっと攻略法が解ってきた。
本当は芯から切り込みに行って真ん中から四分割する、という手段が一番早いというのは解っているが、そこまで相手も気持ちよく切れてくれない上に俺自身の技量ではそれが上手く回せないことも解っているので、現状最良の手段としてわざと食われに行く。今のところ芽生さんからその行動について苦情が飛んでこない辺り、彼女も現状最善手ではないかという意識はあるらしい。
白血球が動かないうちに小さくする術があれば何か別の手を考える所だが、魔法耐性が高くてスキルがほぼ通じない所が非常に厄介極まりない。その点で後手に回るのは仕方がないという所か。
これ、物理攻撃は物理攻撃でも打撃や撲撃、刺突に関してはどのように突破していくことができるのかが非常に気になるな。殴ってもダメージが通らないでは意味が無いし、切り刻んで分割する以外の方法で何らかの攻撃手段を得られればいいんだが。
考えながら切り込みを入れている間に一定量の白血球の切り離しが終わったらしく、白血球は全体が黒い粒子に変わり、ドロップを落とした。
「もうちょっとこう、うまく戦えないものかなあ。なんか打開策があるような気がするんだが」
「私たちと白血球、出会ってまだ日が浅いですしお互いを深く知るにはもう少し時間が必要じゃないですかね」
「そうだなあ。ここから先はちょこちょこお世話になるんだし、色々試していくか」
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