1121:稼ぎはそこそこ
ダンジョンで潮干狩りを
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六十四層へ戻り、六十三層への帰り道。やはり密度としても六十五層より六十四層のほうがモンスターの生息数は多い。モンスター一匹当たりの相場は……まだちょっと出せないな。もう一回ぐらい体内マップに潜って数を数えてそこからポーションの産出量をはっきり出す方がいいだろう。ぬか喜びはしたくないので、今のところは出た本数で色々と考えることにしよう。
ここでは雷切より圧切のほうが色々と都合がいいので六十四層に上がった段階で持ち替えておいた。
とりあえず今、手元にはキュアポーションのランク5が三本。多いかどうかはともかく、収入のほとんどはこいつらで出来ていると言っていい。ポーション万歳、ポーションを称えよ。
「帰り道にもう一本出ると嬉しい所ですが……」
「モンスターの湧き具合から見て、出るか出ないかは本当に半々ってところだ。ここは百匹に一本ぐらいしか出てくれないからな」
「ならあまり期待しないほうがよさそうですね。期待して出ないよりは期待せず出るほうが精神的に優しいはずです」
芽生さんは早速諦めたらしい。芽生さんにしては珍しいことだ。多分本人は認識してないらしいが、ちょっと疲れがたまりはじめているのかもしれない。ちょっとこっちが率先して戦闘に向かう形で進んでいこう。
流石に慣れてきた往復の道を歩く。モンスターはわんさか。圧切と雷撃で無理矢理押し通っていく。芽生さんの出番はちょっとにして、索敵と手が足りない時の補助に回ってもらう形になった。時刻は午後五時半というところ。いつも通りよりちょっと遅いぐらいか。やはり六十五層の地図をざっくり作り終えるのに時間をかけたおかげだろう。
ここのところモンスターで苦戦していないのは何かのフラグか、とも思うが、念入りに調査はしているはずだし防御力に関しても耐性スキルで底上げしている。身体強化のレベルはそうそう上がらなくなったし、かなり戦闘力においてマージンを取って進めているところだ。
今更ここで油断して……というにもパターンは限られる。ロックタートルやスーアアリゲイターに噛みつかれさえしなければ大丈夫、というもの。遠距離から一方的に蹂躙できるうえに芽生さんも射程距離が少しある槍なのでよほど肉薄しない限りは大丈夫と言えるだろう。
地図を見る回数も減った。道なりに進んでどっちだっけと悩む曲がり角でだけで地図を見るようにしたので、通り抜ける度に地図を見る機会が減っていく。悲しくもあるが自分の記憶力がまだ頼りになるな、と安心できるところでもある。
五十分ほどかけて六十三層の階段までたどり着けた。やはりポーションのドロップは無かった。次回通る時にはドロップできるように願っておこう。
六十三層へ上がってエレベーター前のノートを確認。書き込みは、ない。まだ高橋さん達は五十五層でインゴットの補給をしている、というところだろうか。進捗が進みだしたら何かしら書きのこしがあるだろうからそれまで期待していいのか、それとも実は六十五層まで潜り込んでいるとか。でもあの単純な六十五層で出会わなかったということはまだ来ていないんだろうな。
エレベーター内でドロップ品の整理をしながら一層へのボタンを押す。それなりの多さの魔結晶とポーションと亀の甲羅とワニ革。ワニ革はそのうちダンジョン産ワニ革財布とかが出回るだろうから買ってみるのもいいかもしれない。
今の財布はそう高いものではないが、これを機にワニ革の財布なんかを持つのも良いだろう。ワニ革は牛革よりも耐久力があって長持ちするらしいし、頻繁に買い替えるよりも愛着が湧いていいだろう。
「ワニ革に何か執着でもあるんですか? それとも新しい使い方を思いついたとか? 」
ワニ革をすべすべと撫でているとそれを不審がった芽生さんから疑問が飛んでくる。
「いや、そろそろ財布も買い替え時かな、と。せっかくならダンジョン産ワニ革の財布なんてものを持っておくことも良いかな。ボア革やカメレオン財布は手にすることは無かったけどワニ革ならそれなりに長持ちするだろうし、まだ希少な商品だしそれを早めに入手しておくのはちょっと男の子としてワクワクするところがある」
「それならしばらくは雑誌の広告欄にしっかり目を通しておく事ですね。多分最初に載るなら雑誌の探索者向け広告でしょうし」
とりあえず広告をよく見てみるが、たしかにその手の広告はそれなりにある。ここのところ広告のページ数が減ってない所を見ると、雑誌の売り上げというものはあまり上がってないらしい。探索者が増えてるんだからこの手の雑誌にももっと需要があってもいいんだけどな。
広告のページが無くなることに寂しさは覚えるが、コンテンツの隙間と隙間に必ず挟まる、動画配信チャンネルの再生中に突然楽〇カードマンするようなそういう広告は少なくなってほしいし、広告なら広告のページここからここまで、とハッキリ区別してくれた方が個人的には嬉しい所ではある。
しかし、広告を打つ側としても多数の目に見える所に広告を打ってもらうのが金を払ってる分要求するところであるから、そのあたりの落としどころがコンテンツの隙間の広告ってところだろうな。
俺が広告を載せてもらう側だとしても、やっぱり目につくページのすぐ横か手前、前のページか後のページあたりに乗せてもらいたいと思うのが普通であり、そこはまあ資金力の差、広告を打ってもらうのにいくら支払ったか、という結果のものであるのだろう。
「革と言えばこの手袋もそろそろ買い替え時かな。結構持ったが予備のほうに替えて古いのは予備の予備行きか新しいの買うまで保管庫の中で眠っててもらうか」
「なんだかんだで物持ちいいですよね。毎日毎時間使ってる消耗品なんですからもうちょっと消耗してても良さそうな物なんですけど」
「壊れるまで使い倒して使い倒してから次を使う。使ってる間に身体に馴染むから、そこそこ消耗してるほうがかえって使いやすくなってたりするもんじゃないのか? 」
「そう、なのかもしれません。新品はゴワゴワしてて馴染むのに時間がかかりますからそれを考えるとボア革の手袋も結構耐久力が高いのかもしれません」
物持ちと言えばスーツだ。今のところダメージをほとんど受けていないこともあって、まだ新品同様とは言わないが体に馴染んできてより気持ちいい動きが出来つつある。この状態をいつまで維持し続けることができるか。三着あることだし交互に着まわして寿命を延ばそうとしている。一着は良い感じに仕上がってきた。残り二着をうまく使いまわして体に馴染ませている最中だ。
良い感じに仕上がった状態のスーツをどれだけ長く保っていられるか。そのあたりのノウハウを蓄積する必要もあるし、まだまだ学ぶことは多いな。帰ったらスーツのお手入れについて復習することにしよう。
一層に戻って退ダン手続きを済ませる。雨はどうやら一日中降り続いていたようで、窓から見える風景も水浸しで、朝からあった水たまりが大きくなっているように見える。これは明日が大変だな。明日も雨だったらと思うと少し憂鬱である。
査定カウンターへの移動を終えて、芽生さんはその間に着替え。今日はギルマスに報告をする内容もないので再び着替えなおすなんてことはないだろう。
順番が来たので醤油差し以外のドロップ品をすべて預けて全て査定。まだ知る限りの範囲だが、六十一層から六十四層にたどり着いているダンジョンは小西ダンジョンだけなので、もしダンジョン産のワニ革が出回っていたらそれはここから搬出されて入った品物だと言えるだろう。
十分ほど待って査定結果が出た。本日分のお賃金、九千百三十万七千七百円。指輪のドロップ抜きにした五十九層のドロップとほぼ近い結果ということになった。ポーション一本出るかどうかで大きく変わるとはいえ、中々悪くない。これで六十七層での探索が始まればより密度の高いドロップが期待できるようになるということでもある。
一日ポーション四本。これだけ出れば出来高としては悪くないドロップであることを確認。これからはこの基準が満たせるかどうかを頭に入れて探索に出よう。
帰ってきた芽生さんに支払いレシートを渡すと芽生さんは金額を一睨み。そしてうーん、と考えた後納得したのかすたすたと支払いのカウンターへ並び始めた。どうやら今日の活動に対しての収入としては悪くないと思ったらしい。特に感想を述べることも無く、俺より先に振り込みを済ませると休憩室のほうへ行った。
遅れて俺も支払いカウンターへ行き振り込みを依頼。芽生さんを追いかけて休憩室へ行き、冷たい水をもらう。相変わらずよく冷えているが、今日の気温湿度ではいまいち効果が感じられない。やはりカンカン照りのマップか、それに準ずる外気温の状態でないといまいちこの水のありがたさは解らないな。
「やっぱり帰りに出なかった分だけ少ない感じですか。明日からの運勢に賭けましょう。今日でなかった分明日は出ると考えておいたほうがメンタル的に良さそうです」
「そうだな。明日は六十六層巡り、その次は出来れば六十七層、という形になるかな。階段が見付けられるかの時間勝負だ。流石に六十六層は全部見回る必要は無いだろう。最短経路を探していくことになるが、あのスロープの辺りの分かれ道をどう処理していくかだな。折り返した地点よりさらに奥へ行くか、それとも別の道へ向かってみるか。どちらにしろ、明日はもうちょっと進んで地図を描けそうだな」
良く冷えているがいまいち実感が感じられない水を飲み干すと、空いたカップをゴミ箱へ。悪くない稼ぎだったのだが、いまいちスッキリして仕事を終えられないのはこの天気のせいだろう。今日は買い出しの日なので雨の中車を出すことになる。行きつけの場所には屋根のある駐車場があるので買ったものが水で濡れる心配はほとんどないが、なんとも言い難い気分なのは確か。
明日の天気予報は……明け方には晴れるらしい。通勤時間には雨は降っていないが、湿気はものすごいことになりそうだ。
「明日は晴れるらしいからスーツにハネが飛ぶ心配以外はしなくて良さそうだな」
「あ、そうだ。傘返してください」
傘を返すと、百倍速で放置しておいた自分の傘を取り出す。ほぼ乾ききっており、水分は蒸発して何処かへ行ってしまったようだ。本当に水分は何処へ行ったのだろう? 保管庫の謎がまた一つ増えたな。
「さて、待ってても雨はやまないし、バスの時間も近いから大人しく傘さしてバスを待つか」
「そうですね、バスを乗り逃す理由も無いですし、待ってたら迎えが来てくれるわけでもありませんし」
二人並んで止まない雨の中バスを待つ。
「六十七層には新しいモンスターいますかね? 」
「どうだろうな。密度的には今のままでも充分美味しいんだが、新しいモンスターが現れることで密度が収まるなら居ないほうが楽かもな」
バスが来る。傘を畳んでふと運転席を見ると、朝の運転手さんだった。どうやら今日は一日中行ったり来たり休んだりを繰り返しているようだ。日勤お疲れ様です。
「明日は昼食何を作ろうかな。リクエストある? 」
芽生さんにおすすめを聞いてみると、少し上を向いて考えた後、こちらに向き直り言う。
「最近お肉系避けてますよね。六十五層以降のマップだと思い出すから控えめに、とかそんなことを考えてくれてたりします? 」
「芽生さんは気にするかな、と思ってさ」
「そこまで忌避感はないので大丈夫ですよ。それに焼いた肉と生の肉では見た目も違いますからね。だから別にステーキとか出されても問題ないですよ。その後の探索に響くようなことはないと言えます」
ふむ。そう言われるとレシピがぐっと増えるな。じゃあいつも通りにローテーション袋から選び出して中身を確認する。シチューだった。
「明日はホワイトシチューだよ芽生さん。チーズを入れて少々トロミとまろやかさを合わせようか」
「ブロッコリーもお願いします。彩りが華やかになるので」
人参、ジャガイモ、ブロッコリー、チーズ、と。メモ帳に記しておいて抜けが無いようにして、自宅になければ買いに行こう。
「後はお肉はボア肉がいいですね。脂がちょっとほしい所です」
「ボア肉ね……後は何か? 」
「サラダはなくてもいいです。あってもいいですが」
サラダか……今のシチューの下りでちょっと思いついたレシピがあるのでそれを作って持っていくとしよう。
駅で芽生さんと別れて自宅へ。付いてくる、と言われたらそのまま買い物に付き合ってもらう所だったがそうはならなかった。そういうデートでもよかったんだけどな。まあいいや、とりあえず買い物に行こう。数日分の食料とお菓子とコーラも一緒に買いこまないとな。さ、出かけよう。
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後毎度の誤字修正、感謝しております。