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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第二十二章:新階層来る
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1119:馬肉のワイン煮

 六十三層まで戻ってきて昼食の時間だ。今日の料理はローテーション外のレシピとなる。食欲についてまだちょっと怪しい感じのする部分があるのであまり肉肉しいものは控えるようにしている。


「今日はちょっと手間をかけて一作品作ってみた。昨日の夜から仕込んだ美味しい食事になってると思うから素直な感想を聞かせてほしい」

「お、それは楽しみですね。何を作ったんですか? 」

「馬肉の赤ワイン煮込みだ。キノコと玉ねぎとキャベツと、後何入れたっけな。まぁ、味はしっかり確認したしマズイということはないと思うよ」


 早速鍋から移して味見をしてもらう。一口食べると目を輝かせるように見開き、ハグハグと食べ始めた。どうやらお気に召したらしい。


「このワインの風味が堪りませんね。あと味付けが浮いてないのが好印象です。失敗すると塩胡椒の味だけが浮いてしまったりするのですがちょうどいい感じの溶け込み具合でナイスです、それから、えっと、キノコの旨味が肉にも移ってよりおいしさを引き立てています。これはご飯が進みますね」


 ごはんを盛り付けて渡すと、煮込みの具をワンクッションして食べ始めた。芽生さんがこれだけ美味しいと言ってくれたなら、ローテーションに加えることも考えておこう。美味しさを引き立てるには一晩寝かせるのが必要だが、一晩寝かせるのをうまく保管庫で応用できないかを考えておこう。


 自分でも食べてみるが、赤ワインの風味が具材に移っているものの、ワインのアルコール分はもう完全に飛んでいるがワインの旨味は残っている。それが肉にしっかり沁み込んでいて肉の味をより際立たせる。


 野菜にもしっかり沁みているので最後の一滴まで美味しく食べることが出来そうだ。ご飯にワンクッションを忘れずにして楽しく味わうことにしよう。申し訳程度のサラダとある程度野菜が被ってしまっているが、味わいが全然違うので別料理だとカウントしてやってもいいぐらいだ。


「これは、バゲットがあっても良かったかもしれません、バーナーで軽く焙ったところに沁みさせて食べるのも一興でしたね」

「次回考えておく。今回はさすがに手持ちにバゲットがなかったからな」


 普段から考えると料理が一品しかないというところについてはちょっと物足りなさを感じるところではあるが食事としては充分な量を用意してはいる。馬肉はたっぷり使ったし野菜も結構入れた。炊飯器のご飯も多めに炊いた。中々悪くない食事だったと思っているし、俺自身も満足できた。これはまた作ろう、他の肉でも応用が利くかどうか試してみるのも悪くないだろう。


 食事が終わって休憩。今日の休憩はワイワイ雑誌を見るでもクロスワードをやるでもなく、二人そろってガチ寝モードに入った。アラームを仕掛けて、それぞれ用の枕を取り出し昼休憩の仮眠をとる。ウォッシュをかけた後の机に枕を放り出し、椅子に座った姿勢のまま枕に突っ伏す。おやすみ。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 アラームが鳴ってシャキッと起きる。スノーオウル枕の良いところは短い睡眠でも満足感を得られるところだ。芽生さんの分、返さずにそのまま保管庫に放り込んでおくほうが良かったかもしれない。そうすれば二人ともスッと寝てバチッと目覚める効果的な休憩が取れたかもしれない。


 こっちがバチッと目覚めるのと対照的に、芽生さんはぬるっとした感じで目覚めてきた。こうゆっくりと寝る姿勢から起きる姿勢に逆戻りするような、そんな感じの目覚めだった。


「ちゃんと寝れた? 」

「午前中の疲れは取れたと思いますよ。午後からもしっかり行きましょう」


 水魔法で張った膜に顔を突っ込んで器用に洗うと、そのまま水を蒸発させ何事も無かったかのようにストレッチを始める。あれ、俺でもできるのかな。


 試しに生活魔法の範囲で水を生み出し、そこに顔を漬けてよく洗う。その後蒸発させて……うむ、ダンジョン内では何とかなるな。これが外でも同じことができるかどうかはわからないが、中々寝起きの目覚まし代わりには気持ちがいい、今後も練習を兼ねてしばしば使っていこう。


 ストレッチをして体を軽く動かしてこれから探索の準備。あちこちぶらぶら、息子もぶらぶら。今日も全身の動きは好調。芽生さんも自分であちこち体の具合を確かめている。その間にミルコへのお供え物をして、手を二拍。無事に届いたことを確認すると休憩セットを保管庫に仕舞い、出かける準備も万端。


「さて、目標の六十五層への階段間の地図の完成と、時間があったら六十六層をちょっと巡って地図を埋める。目標はこの二点だ。第一目標である地図が完成したらそれでまず満足、というところにしておこう。まだ二回目のマップだし、それほど手ごたえがない相手と解っているとはいえまだ慣れたとは言えない。一つずつ確実にタスクをこなしていこう」

「午前中の成果がきっちり実入りとして査定してもらえる分気が楽になったのは確かですし、もしうまくいかなくても最低限の稼ぎは出来るようになった、ってことで安心できますからね」


 六十四層から六十五層に抜ける。まだ地図は手放せないが、地図片手に倒せないモンスターでもなくなったので安心して通り抜けられる。午前中も同じ道を少し回ったので一部は頭に入っている。後は高速化と効率化だな。


 スキルメインに戦いを進めることにする。ロックタートルは一発雷撃を入れて首を引っ込めたところで近接で、ワニはスキルでさっさと潰すことができるようになったのでどっちも気軽に倒せるようになった。


 芽生さんのほうはワニはスパッと切り込みを入れてそのまま突きあげて銛漁のように倒し、亀は頭に槍を突き入れて魔法矢乱射で今のところ納得できる戦い方としてやっているらしい。


 この行動を後は素早くこなして歩く速度を速めることで効率化していく。この階層だけ回るならそれもありなんだろうが、今求められているのはこの下の階層での活動時間をいかにして増やすかだ。そのためには通り道である六十四層も素早く行動できるようにしないとな。


 前回は一時間かかった六十五層への道のりは、今回は五十分で歩き抜けることが出来た。これはもうちょい短縮できるな。


「さて、思ったより早く着きましたね。慣れてきたってことですか? それとも、飽きてきた、ですか? 」

「まだ慣れてきた、だな。四十分で行けるようになったら飽きてきた、でいいと思うよ」

「効率化はまだまだですか。精進します」


 少し悔しそうな表情をするも、やる気がみなぎるように見える芽生さん。うん、やる気があるのは良い事だぞ。帰り道にもう一度挑戦していこうな。


「まあ、物事はそうそううまくいくものではないよ。場所にもよるしな。二種類の敵ではなく一種類の敵しか出ないようなルートをたどれるなら話は別だが、このマップではそれができそうにない。カニうま島四十三層みたいにドウラクしか出ないとか、そういう場合は戦い方を変えなくていいから自然と早く出来るし同じ姿勢同じ力具合同じ速度で狩れるようになる。ここはまぁ、一匹あたりにどれだけかかるかを短縮していくしかないな」

「じゃあとりあえず今の五十分を基準にしていきましょう。早くなるか遅くなるかはその日のモチベーションとやる気と体調管理と日々の努力の差、ですね」

「そんなところかな。さ、本番作業行くぞ」


 六十五層への階段を下りて、六十六層への階段を探すではなく、まだ歩き通していない場所を探していく。この階層は階段から左右に伸びた道がぐるりと円形に回って中央部を避けるようにして反対側の階段へたどり着くようになっている。


 また、ちょっとした高低差があり六十五層から六十六層にかけてはゆるやかな下りの坂道になっている様子。ゆっくりと、ほんのちょっとなので気が付かないと解らない範囲ではあるが、徐々に下って行っていることに気づけば、仮に迷子になったとしても上を目指すか下を目指すかでどちらかの階段にたどり着けるようにはなっている。


 迷宮マップにあった小部屋経由の近道はないかと前回の帰り道にざっくりとだけ確認したが、今回はそのあたりの調べを進める所だ。


「さて、時計回りに横道を探したり小部屋を回りながら行こう。戦闘時間は無理せず、まず慣れることと相手の攻撃パターンを読み切る感じで行こう。時間は昨日より長く取ってあるし、最悪階段周りを二周して終わりでもいいからその次の日に楽にできるようにふるまっていこう」


 小部屋と通路だけで構成されているとはいえ、前も通ったが小部屋はそれほど多くご用意されていない。曲がりくねってモンスターというのはいつもの迷宮系マップの特徴だが、こちらも似たようなもの。そして小部屋が少ないということはサナダムシの登場回数は少ない。小部屋かちょっと広い道でないとサナダムシは生息していないため、こいつが本当に魔結晶以外には何も落とさないかどうかはまだ判断出来ていない。


 三鎖緑球菌君は雷撃と魔法矢で淡々と処理できているようになってきたので、徐々にペースは上がってきている。いい傾向だ。そして階段への順路以外の横道も徐々に埋められていっている。


「良いペースですか? 」


 芽生さんが進捗確認。


「良いペースですね」


 それだけ答える。このペースを維持できればちょっとだけ昨日より多くドロップ品を持ち帰ることが出来て、より楽しく探索が出来ていることになる。醤油差しは相変わらず落とすが、保管庫に入れておけば潰れることも漏れることもない。安心安全なダンジョンの旅をお約束いたします。


 三鎖緑球菌君を芽生さんと代わりばんこに倒していく。地図作りだからとどちらかに任せて、というか芽生さんに倒すのを任せて俺は地図作りに集中、ということもできなくはないが、自分自身もまだ最速で倒す方法を見付けられていないのと、順番に倒していくことで頭の切り替えをちゃんとしていくイメージを自分の中に作り出すことが出来て、そのほうが気が紛れやすいというのも理由としてはある。


 それ以外の理由としてはこの色の壁ばかりに集中していると若干目に狂いが出そうだ、ということぐらいか。オレンジ色とピンク色の混じった、胃カメラを飲み込んだ映像をひたすら見せ続けられるようなこの感覚に慣れ切ってしまう自分がちょっと嫌になりそうでもある。歩きにくさに配慮してヒダや段差こそないものの、油断をしていると曲がり角を見逃したり分かれ道を普通に直進して、過ぎ去ってから「あれ、今横道あったよね? 」と気づくことも時々ある。


 地図にばかり目をやっているとそういう罠に陥ることがあるため、出来るだけ二人とも敵にも地図にも気を張っていられるようにするための措置である。それぞれ確認し合うことで地図が確実に更新され、マップも確実に埋められていく。そのやり取りを楽しみながら進む。


 サナダムシはやはり、ただの通路部分には出現しないであろうことがここまでの行程で確認された。分かれ道の真ん中に湧いていることはあるものの、いわゆる通路部分には出現しないし出てきても一匹だけ。もしかしたらミルコが突貫工事で作ったためにモンスターの出現条件の処理が甘く、本来ならもうちょっと湧きが多いのがデフォルトなのかもしれないが、そのあたりは不満ではなく、モンスターに慣れるためにはちょうどいい感じになっている。


 小西ダンジョンのモンスター難易度としてはそこそこ簡単に見えるが、この更に下の階層では同じ法則が通用するかどうかはまた別の話であるのでここは現状で納得をしておこう。


 とりあえず、ここでポーションがどれだけの確率で落ちるか、そこで完全にこの階層のお値段が決まる。今のところざっくり感で言う所、二倍違う。ポーションドロップ率の感じから言って、マップが変わるごとに二倍、もしくはポーションの種類変更という形でずっと進んできている。その法則に間違いが無ければ、地下水道マップの二倍というこの感触も間違いではないだろう。


 今のペースで換算すると一時間でモンスターに三十匹ほど出会うことができる。地下水道マップでは一番濃いところである六十四層で一時間に六十ほど出会うことが出来た。なので、ドロップ率としてはほぼ同じぐらい、という換算が出来る。ただ、そもそもドロップ品が出るかどうかと、ドロップ品を査定にかけられるかどうか、そしてドロップ品の値段から考えると、六十四層のほうが六十五層よりも少しだけ美味しいということになる。


 誤差と言い切るほど小さい価格比較ではないが、こっちはまだ慣れてない六十五層ではあるし、マップ最終層で難易度もそれなりに高く設計されている六十四層と、マップ最初である六十五層を比較するのはあまり適切ではないと言えるだろう。


 ただ、六十五層と六十四層が誤差レベルでしかないということは六十六層の密度だともうすでに六十五層を抜いてしまうのでは? という気がしてくる。これは実際に計測しないと解らないが、楽しみな結果になりそうだ。


 二時間ほどかけて六十五層の調査を終えた。この階層はシンプルで非常にわかりやすい。曲がりくねりすぎた道も無いし、小部屋の奥に抜け道があったりもしない。最近無いぐらいのシンプルさでもって作られている。もしかしたら突貫で作らせたせいでそうなっているのかもしれない。だとするとこの先の階層もそれなりに解りやすいマップになっているのかもしれないな。歩き抜けるにはそこそこ時間がかかるのがネックだが、とっとと通り抜けたい芽生さんにとっては有り難いことだろうな。

作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

後毎度の誤字修正、感謝しております。

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> 肉肉しいものは控える」 そうかな > 後何入れたっけな」 隠し味を失念ちゃうおじさん > バケット」 高級食パンならある > 寝る姿勢から起きる姿勢に逆戻り」 起きる姿勢から寝る姿勢に逆戻り…
駄目だw自分で言ってしまったせいで安村と芽生さんが白血球に見えてきた、、、 高橋さん達はキラーT細胞になるのか、、、リーンは血小板、、、ミルコがヘルパーT細胞、、、 他作品を引き合い出して申し訳…
サナダムシ、ドロップあるとしてどんなもんを落としますかねー? 球菌君が謎のウイルスだっただけに想像なんもつかんなあ
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