1117:探索者会談
ダンジョンで潮干狩りを
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家に帰ってひとしきりの作業を終わらせた。夕食は……ジャンクなものを食べたのでちょっと落ち着いたものでも良いな。いっそのことお茶漬けでさらさらっと片付けて軽いもので済ませる、という手も有りだな。
コンビニで漬け物セットを買ってくるとパックライスを温めその上に漬け物とわさび、刻みのりとゴマを振りかけてぬるめのお茶を注ぐ。ここ最近で一番の手抜き料理とも言えるお茶漬けが出来上がった。さらさらっとと言いつつ、パックライスはそこそこの量があるのでお腹には溜まる。
食事が終わったところで風呂を沸かしている間に昼間思いついたタスクを実行しておく。
レインを交換した東西ダンジョンの探索者全員向けに動画とモンスターの報告をしておくことにしよう。自慢ではないが、お互いの進捗確認ということで情報を交わしておくのは悪くない。
「こんばんは。小西ダンジョンでは無事に六十五層までたどり着けました」
しばらく放っておくと反応があった。どうやら鳩羽さんが最初に気づいたらしい。
「お疲れ様です。こっちはやっと五十六層へ到着しました」
鳩羽さん、チャットは標準語なんだな。チャットも関西弁だと思いこんでいたが、一々方言で書きこむのが面倒なのか、それとも実は標準語が喋れる人だったのかもしれない。これはこれで意外性の男だな。
「お疲れ。こっちは五十七層で動く鎧に少々苦戦中。物理攻撃が効かねえでやんの」
新藤竜也君も反応があった。ということは東西パーティーとも今は地上にいるってことなのか。悪くないタイミングで話を始められたことになるな。
「パーティーにいた全員に……ということは進捗報告会の始まり? 」
新藤那美さんも参加してきた。後は南城さんと芽生さんか。芽生さんの反応が無いということは既に寝てしまっているか、何か忙しい作業に追われている可能性はある。もしかしたら外出してまだ帰ってない可能性もある。真っ直ぐ帰るとは言ってなかったし、まあタイミングが悪いということはしばしば発生するものだ。事前に何時ぐらいから会話を始めるとかも知らせてないからな。今思えば伝えておけばよかったな。
「大梅田は五十六層までは潜ってます。今は五十五層でインゴットの補充兼今後の探索を進めるための地力付けに周回してるところですね」
南城さんもログインしてきた。これで芽生さんだけが居ないことになるが、芽生さんは見てるだけで話してないだけかもしれないしこのまま続けよう。別に仲間はずれにする意図があって会話をしている訳ではないし、気が付いたらその内ログを追って何か話すことがあれば会話に参加してくるだろう。
「動く鎧は本体は鎧では無くて、鎧の内側にへばりついている黒い霧みたいなものが本体の様です。鎧の部分を吹き飛ばして内側から焼き殺すイメージでやれば比較的楽に倒すことができると思います」
「安村さん達はその先の先にも行ってるってことか。進捗が早くて羨ましいね」
「相棒が夏休みなので集中的に潜っていられるんですよ」
本来毎日ダンジョンに潜っていられる東西探索者パーティーでも五十六層まで抜けてくるのがやっと、というところなのか。大梅田ダンジョンと高輪ゲートウェイ官民総合利用ダンジョンはどれだけ広さがあるんだろうな。
「それだけ進捗が早いのはやっぱり小西ダンジョンが狭いから? 」
「それもあると思います。階段間最短距離で結ぶと一階層一時間ぐらいで到着できる距離ではありますから」
「深いとそれだけ儲かるのかな」
那美さんからの連投に少し考える。
「モンスターの密度によるかと。広くても狭くても一時間当たりにどのくらいモンスターと出会えるかでドロップ品も変わりますし。ただ、あまり階段から離れると荷物が一杯になった後一時荷物を下ろしに行くのが面倒ではありますね」
保管庫があるから大丈夫、とは言えないので適当にお茶を濁しておく。
「しかし、小西ダンジョンは深いね。底はどのあたりにあるんだろう? 」
南城さんが最下層はまだ見えないのかと質問してくる。一回見たとは言えないのでここもお茶を濁しておくべきところだろう。
「ダンジョンマスターに会うたびに出来るだけ深くしてほしいとは言ってるんですが、いまのところまだ底は見えてませんね。むしろ我々が潜っているダンジョンよりも先に踏破しそうなダンジョンが有りそうですよ。ダンジョン庁も次に踏破するべきダンジョンを見定めたようですし」
「それは初耳。どこ? 」
お、食い付いた。この情報はまだ出回ってない情報らしいな。
「去年の……いつだっけ、秋か冬かその辺だったとは思いますが、別荘地にダンジョンが出来てた話を耳にされたことは? 」
「その話は覚えてるな。試しに潜ってくれないかって打診が来てたのでうちから二パーティー派遣した覚えがある。たしか十五層まで潜ってエレベーターだけ設置してそこで撤収した」
竜也君が記憶していたらしい。どうやら下見は土竜が行っていたようだった。なら話は早いんだろうな。
「最下層に到着次第予定を決めてダンジョンの中を出来るだけ空っぽにして踏破する予定とかなんとかギルマスが漏らしてた」
「そうか、あっちでやってくれるのか。しかし、最下層を潜ってる俺達よりランクが上に上がっていくというのは少し違和感があるというか納得できない所があるな」
竜也君の言う通りではあるが、その辺をダンジョン庁としてはどう考えているんだろうな。
「ダンジョン庁に請求したらAランク申請通してくれそうではあるよね。三十八層踏破でAランクになったパーティーが少なくとも二ついて、我々はそれより深く潜っていてもB+ランクってのはバランスがおかしい、四十九層あたりに到着した段階でAランクとみなしてもいいのではないか……ぐらいのことは問いかけをしてみてもいいかもしれない」
「ダンジョン庁でも決めかねているんだと思いますよ。我々三パーティーから請求したらAランクに成れるであろうことは間違いないですが……同時に要らないしがらみも増えそうですね」
「要らないしがらみって具体的には? 」
鳩羽さんが南城さんに質問している。
「Aランク探索者としてテレビに出たり雑誌のインタビュー受けたり、ダンジョン庁のために営業活動をしなければならないと考えられるから、それに引っ張られて探索が出来ないのは今の我々にとって収入的にマイナスでは? 」
南城さんの解説にしばし全員が無言化する。
「たしかに、潜ってるほうが金は稼げる。ただ、探索者という職業についてもっと世に広めるならランクを上げて広報活動をしたほうが良いってこともわかる。難しいところだな」
「今度踏破される予定のダンジョンのAランク保持者にそういう広報活動を任せておいて、私たちは先行者利益を得てのんびりするというのも手ではありますよ。どうせ後一、二年で他の探索者も追いついてくるでしょうし、そうなった場合ダンジョン庁としてどういう手を打ってくるか、というのは気になる所ではあります」
各ダンジョンで最下層まで踏破された場合、か。その場合順次踏破なりダンジョンマスターと相談して、新しい形の、熊本第二ダンジョンみたいに既存の形にこだわらないダンジョンを作り上げるか、それとももっと別の形のものをそれぞれ作り始めるのか、既存のダンジョンをもう一回建てるのか。ダンジョンマスター次第という所だろうな。
「そういえば安村さん、リーンという小さな女の子をご存じではありませんか? 」
「ご存じでありますよ。もしかして彼女がそちらにお邪魔しましたか」
南城さんからリーンについて問い合わせが届いた。やはり南城さんのほうにもお出かけしていたか。
「なんというか、自由な娘ですね」
「あれでダンジョンマスターということらしいですから、ダンジョンマスターも色々ですよね」
「安村さんのほうにも来たんですか、あの娘」
「むしろこっちが先でそっちが後、ということになると思います。何度か四十二層あたりで出会ってますよ」
鳩羽さんは多分なんでこっちにもリーンが来ているのかについては南城さんから伏せられているのだろう。
「フリーになったダンジョンマスターは各ダンジョンを自由に歩き回れるらしいですからね。掲示板でも目撃情報があったようですし、本当に自由に色々と歩き回っているのだと思います」
「こっちでは目撃情報はないな。那美は見たことは? 」
「ない。かわいいの? 」
写真をアップして姿を共有しておく。
「私が居ない間に楽しそうなことをしてますねえ、ずるいです」
芽生さん、遅れて反応。そしてリーンの撮影した画像を数枚アップしていく。
「かわいい……もっと無いの? 」
那美さんには中々のヒット作だったらしく、もっとちょうだいと芽生さんにせがんでいる。
「ちょっとまってね、個人のほうへ送るから」
あっちはあっちで楽しくやっているようだ。そのまま交流を続けていてもらおう。
「次のダンジョンが踏破されたらまた新しいダンジョンが生まれるんでしょうかね? 安村さんはそのあたりどう思ってます? 」
「そうですね、時間差と場所の変更はあるかもしれませんが、また新しいダンジョンが出来ると思います。おそらく場所が悪いとダンジョンマスターにも告げていると思いますので、もっと違う場所……今よりは交通の便が良さそうな所へ移設、という形になる可能性は高いんじゃないでしょうか」
「ダンジョンの数とダンジョンマスターの数は同じってことでええんですか? 」
「つまり欧州のほうでは仕事をしてないダンジョンマスターが複数人存在する、ということでもあるでしょうね」
海外勢はどうなってるんだろうな。さすがに俺がコメントを受け付けて海外の人居たら出てきてくれ見たいなことを言いだすのは保管庫の逆利用みたいな感じで気が引けるんだが。とりあえず国内のことだけ考えてればいい感じかな。
「ともかくだ、現状小西ダンジョンが一番深くまでまで出来上がってるって確認できたってことでいいのか? 一応その報告ってことだろう? 」
「そうなる。ただ他のダンジョンの進捗も気になったんでちょっと聞いてみたかったんだよね」
「ちなみに六十層のボスは倒したのか? 」
「倒した。詳しくは……伏せておいたほうが良い? 」
「そうだな、そのほうが楽しみが増えるし攻略し甲斐がある。六十層があるかどうかも解らないが、五十七層があるって事は六十層までは用意されてると考えていいということか。全員のレベルアップが大事そうだな」
土竜としては全員でのボス攻略をしておきたいらしい。ここから全員の平均の強さを引き上げて一気に先へ進もうという話だそうだ。
「とりあえずですね、ダンジョンは現状入手している情報だと百階層まで作られているダンジョンが世界のどこかにある、ということはダンジョンマスターが確認されています。なのでテンプレに沿ったダンジョンというのは作られ続ける限りそこまでは存在する、と考えていいと思いますよ」
「それも小西ダンジョンのダンジョンマスターからの情報ですか? 」
「そうなります。なのでこのダンジョンの数字の法則、四層ごとにマップ変更、七層ごとにセーフエリア、十五層ごとにボス、二十四層ごとに謎の巨大オブジェクト、というのは続いていくのは確実だと思われます」
◇◆◇◆◇◆◇
いくつかその後も会話を済ませ、良い時間になった。そろそろ風呂に入らないと湯が冷めてしまう。話すことは話したし、聞きたいことは大体聞けた。時間もそこそこ遅いしそろそろ失礼しよう。このままだと延々と語っていそうだ。
「さて、明日もあるのでそろそろ寝ますね。情報共有出来て有り難かったです」
「こちらこそ。お疲れ様でした」
「お疲れ様ですー」
「お疲れ様、おかげで良い情報を得られた」
「私もそろそろおねむの時間ですかねえ。明日も潜りますし失礼します」
芽生さんは那美さんとリーンの画像で盛り上がってたようだが、ちゃんと両方の情報に目を通してくれているだろうか。既読スルーでもいいのでこの会話は残しておくべきものとして認識しておこう。
挨拶は済ませたのでレインの着信表示をオフにする。これでこの後会話が続けられていても反応せずに済む。一方的に情報を流しただけのような気もするが、こっちはこっちでちゃんとやってるぞ、というポーズと他のダンジョンではどうしているのかについてはざっくりとだが伝わったしこんなもんだろう。
さて、明日も六十五層だ。昼食は何にするかな……先日のワイン煮を作っておいて一晩冷蔵庫で寝かせてグッと味を染み込ませておくのも有りだな。風呂に入る前に作るだけ作って冷蔵庫に放り込んでおくだけでも良いから今からやってしまうか。
塩胡椒した馬肉をオリーブオイルでニンニクを炒めたフライパンに移してよく焼き目を付け、鍋に移すとキノコを適当に刻んだものとあえてみじん切りにしたタマネギを一緒に入れて他の調味料と赤ワインを振りかけ、風呂に入っている間じっくり煮込む。煮汁が無くならない内に一旦火から下ろしておく。後は一晩寝かせて朝になったら最終調味をして終了。さあ明日の朝を楽しみにしておこう。
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後毎度の誤字修正、感謝しております。