1111:ガチンコ五十二層ヌルヌルバトル
ダンジョンで潮干狩りを
Renta!等いろいろなサイトで発売中です。是非とも続刊のためにもご購入のほうよろしくお願いします。
五十二層に下りた。索敵が以前に比べてパワーアップしたので、索敵範囲も広がっている。おかげでどのぐらいの範囲のモンスターがこっちに向かって動いてきているかがうまく脳内マッピングできている。
モンスター分布を索敵で見比べてみると五十一層と同じか少し多いぐらいの密度だが、反応して近寄ってくるまでの距離が五十一層に比べて遠くからやってきている。索敵をしっかり鍛えたおかげなのかもしれないが、五十二層のモンスターは五十一層と同じにもかかわらず探知範囲が広いらしい。この階層まで同じような現象は確認されていないので、ここ特有のギミックということなんだろうな。
同時に複数モンスターが襲ってくるというわけではないが、一匹か二匹ずつとはいえ対処にもたつくとドンドンモンスターが溜まってきて対処し得なくなる可能性は見えている。しかし、今の俺と芽生さんの戦力なら問題なく戦えることも証明済みである。
つまり、ここから先は疲れを感じるまでひたすら戦い、疲れを感じたり魔力の使い過ぎで眩暈がしたらドライフルーツを齧り、ひたすらその間戦い続けるという持久力を試されるマップになる。
「俺も久々に来るが相変わらずモンスターがバラバラと散らばってるマップだな」
「でも、反応して早速こっちについて来てる辺りは変わりませんね。しいて言うなら前より遠くのモンスターが近寄ってくる分難易度はかなり上がっているとは思うんですけど」
多分階段を背にしても裏側から回り込んでいるモンスターが居るんだろう、芽生さんが俺に背中を合わせるような形で立ち位置を変えた。これはとっとと進むべきなのか、それとも一旦止むまで足を止めて迎撃をし続けるべきなのか。前はどうやってたっけな。
「前ってどうやってたっけ? 近寄ってくるモンスター一掃してから牛歩だっけ? 」
「確かそんな感じでした。引き付けて戦って多分前よりドロップが散らばりやすくなってるのがネックですかね。範囲収納で拾える近さぐらいまでは引き付けますか」
少し待つと、霧の視界にも現れてくるようになったモンスター相手に早速迎撃にかかる。シャドウバイパーもシャドウバタフライもシャドウスライムも、皆同じように固まってグループ行動をするわけではなく、一定範囲内のモンスターはみんなこっちへ興味を示すかのように索敵で赤く光ったままにじり寄ってくる。
シャドウバイパーは噛みつかれる前に雷撃で蒸発させ、シャドウバタフライも鱗粉がまき散らされる前に雷撃で撃ち落とし、シャドウスライムは暇があれば至近にまで近寄らせてバニラバーする。出来ない場合は雷撃でとそれぞれ対処方法を考えながら運用する。うん、五十一層に比べて戦闘時間というものは長くなったが、戦闘する方法はかなり楽、というよりワンパターンになった。
ワンパターンに落とし込める間は楽が出来る。楽が出来るということは意識を飛ばして何処かへ行ってしまってもまだ大丈夫なモンスターの強さだということが解る。とりあえず今日はこの戦い方で運用を試して、もっと行けると感じるなら明日からは移動距離を伸ばす感じでいこう。
移動距離が伸びればその分探知される範囲も上がり、より高密度なモンスターとの戦いが出来て、結果的に収入も増える。
五十二層に来るまでに魔力の出力を良い感じに調整してワンパンの境目を確認し終えたので後は一匹に一発ずつ、慎重に打ちこんでいくだけで終わる作業的探索のお時間になる。五十三層への階段方向へ移動しつつ、こちらへ向かってくるモンスターを迎撃するだけの簡単なお仕事。
必要なのは二つ、ちょうどいい火力と素早いドロップ品回収と持久力。あ、三つだった。
「さて、思い出しながらちょっくら運動と行きますか」
「ちょっくら、で済むと良いんですけどね。しばらく連戦になるのは確定事項ですか」
「まあな。でもダイエットにはよかろう? 」
「そう、かも」
◇◆◇◆◇◆◇
三時間ほど戦ってちょっと休んで移動して、進んだところでモンスターがまた大量に寄ってきて……を繰り返すぬめりの有るようなバトルをひたすら続けた。結構頑張ったが、眩暈を起こすほどまで連続で戦い切ることも無かった。そこまで集中力を要しなかったのも幸いだったのかもしれない。
いい感じの時間になったので四十九層へ戻る。鱗粉は五十七個回収できた。帰り道でもう十個は集められるだろう。これだけの鱗粉でどのぐらいの甘味料になるかは解らないが、少なすぎると言われることはないだろう。収入のほうも……うん、中々悪くない収入にはなってるはずだ。
クールダウンをするように五十一層から五十層を抜け、四十九層まで戻ってくる。鱗粉はさらに追加されて六十九個になった。四十九層に上がってきたところで二人ともウォッシュ。スーツも体も綺麗にして、残り香が無いかどうかチェック。チェックよし。
しかしこの鱗粉、一袋何グラムなんだろう。十グラムぐらいは……あるかも。十グラムと仮定すると、これが五百万倍甘い、つまり砂糖換算で言えば五十トン分の量ということになる。一グラム当たりの糖分単価は砂糖と等倍まで薄めると考えてもほぼゼロ円にまで原価を下げることができる。これは甘味料の世界には革命的な品物であることは間違いないらしい。企業が合同で管理する会社を設立して買い取って研究を始めるほどのものではあるな。
甘味料でもただ甘いだけじゃなくて、ほのかにフルーツの香りがするとか、人工甘味料らしいほんのりとした苦味が残るとか色々あるんだろうが、こいつの場合どうなんだろうな。舐めて見ないと解らないが、濃縮物をそのまま舐めると刺激が強すぎるんだよな。
「なんか味見したくなってきたが、砂糖の五百万倍も甘いもの食べたら死ぬよな、普通」
「まあ、人間の感じられる限界量を超えた甘さでしょうから、最悪ショック死するか二度と甘さを感じられない体になったりはしそうです。ですから、くれぐれも自分で実験しないでくださいね」
芽生さんがジト目でこちらを見る。そんな目で見つめられなくても自分で実験をしたりはしないぞ、俺だって自己実験する場合の閾値は心得ている。
「早くこいつをふんだんに使ったスイーツとかいうのを味わってみたいものだな」
「そのためにも鱗粉集めを頑張らないといけませんね。あと数日は甘味まみれになるとしますか」
エレベーターに乗って荷物を仕分けし、七層まで上がって茂君を狩って、一層。今日も忘れずに行き帰りの茂君を処理できた。今在庫は二回分ほどある。緊急で泣きついてこられてもすぐに対応できるだけの量は充分にある。
この夏休みは稼ぎも多かったが、ダーククロウもしっかり補給していた。なんだかんだで通っている日はほぼダーククロウを朝夕狩っているので毎日二キログラムずつ羽根が溜まっている。そして毎週卸しているわけではないので羽根は溜まる一方。ちょっと前に納品したばかりだし、他の探索者の納品もあって羽根の在庫にも余裕はあるらしい。次に怪しくなってくるのはもっと涼しくなってきてからだろう。
いつも通り退ダン手続きをして査定カウンター。今日は荷物はちょっとしたものだが重さとしてはそう多いわけではない。シャドウバイパーの牙の個数とシャドウバタフライの袋数がそこそこ、というところだろう。五分ほど待って査定が終わり、結果が出てきた。今日のおちんぎん、七千四百二十八万六千円。五十九層に比べておおよそ三割減という所か。
少なくなるのは承知していたとはいえ、指輪を拾ってる前提で言うと昨日までの半分の収入ということになる。探索者の稼ぎとしては少なくはなったものの、仕事をしたという達成感は変わらず存在する。しかし、結果は半分とすると、やはり無理をしてでも五十九層あたりをぶらぶらした方が精神的に、そして金銭的には健康にいいのかもしれないな。
いや、違うな。その稼ぎを維持するよりもメンタル的な刺激を受けるために久しぶりに五十二層に潜ったのだ。いくら稼いでるとはいえやる気が出なければ意味がない。そのやる気を補充するために今日潜った、という風に考え直すべきだろう。そのためにわざわざ収入の少ない所へ潜って、普段のようにしている方がメンタルにも悪くないんだということを思いなおすための一喝を今日入れたのだ。そう思うことにしておこう。
着替え終わった芽生さんに結果を渡すと、上下逆さまにしたり左右にしたりしてうーん、と少し悩んでから、まあこんなもんですかねえとつぶやいて支払いカウンターへ向かった。芽生さん的にもやはりちょっと少ないと感じる所らしい。
「まあ、久しぶりの戦いと運動量とカロリー消費を見込んでこのぐらいなら許容範囲ですね。明らかに少ないわけでもないですし……いやでも少ないは少ないですね。やっぱり五十九層で夢を追いかけるほうがもうちょっとこう……」
一人で何やらぶつぶつ唱えている。芽生さん的には少し不満の残る結果になったらしい。だが、収入は収入だ、と顔を上げると支払いカウンターに並びに行った。
その間に休憩室で冷たい水を補充。今日もしっかり働いた。最高効率で働いたわけではないが、社会的に価値のあるであろうと感じる部分で仕事が出来たので有意義だったとは言えるだろう。
うーん、しかしこれを数日続けるかはちょっと悩みどころだな。なにせ初日で既に課題というか自分たちの心の贅肉は見えてしまった。後はこれを程よくダイエットして、モチベーションにいかにしてつなげるかを考えていかなければならない。ともあれ、流石に初日で飽きたんで元に戻ります、ではなんともギルマスに相談したのが勿体ないことになってしまう。さてどうするべきか。
「何やら考え事をしているご様子。この芽生ちゃんに相談してくれてもいいんですよ。ちゃんと相棒してるところを見せつけてやらないといけませんから」
誰に見せつけようとしているのかは解らないが、これは確実に芽生さんにも関係があることなのでざっと話すことにした。
「そうだな、簡略して言うなら自分たちの発言や行動がいかにぜいたくな悩みをしているかが一日で解ってしまった、という所だろうか」
「それは五十九層に飽きた、という意味も含みますよね。私は今日一日結構動き回りましたが、やはり結果としては正直少し物足りない感じがしました。やはり五十九層の旨味には勝てませんね」
素直にもっと稼げるところで戦いたいと伝えてきたので、それは俺もそう、と相槌を打っておく。
「とりあえずあと二日ぐらいは鱗粉集めに精を出そう。それだけの納品があればギルマスも相談をうけた甲斐はあった、と納得してくれるだろうし、こっちも本来の仕事に戻ることになって誰も損しない未来が待っていると思う」
久しぶりにろくろを回しながら説明していく。芽生さんもろくろに手を添えながら何かを広げるような手つきでこちらの作業を手伝い始めた。多分茶碗か何かを作ろうとしているのだろう。
「そうですねえ。流石に今日で飽きたんで通常業務に戻ります、はギルマスに失礼に当たりますし、ギルマスから鱗粉について一言あったって事は、どこかしらの流通経路で鱗粉の需要が高まっているけど丁度その辺を納品している探索者が居ないのかもしれません。五百万倍に希釈して砂糖と同等の効果がある甘味なら、一パーティーで三日分もあれば……そうですね、砂糖換算で九千トン分ぐらいの製造量に達することができると考えられます。それだけあれば一製品二製品流通させるには充分な量になると思いますよ」
「それだけあれば当面は大丈夫と言えるか。じゃあ明日明後日は今日と同じ経路をたどろう。流石に三日程度でスキルオーブが出るとは思わないし、もうすでに誰かが出してて空箱を探っている状態なのかもしれないし。そっちのほうには期待しないってことで、純粋に自分の索敵と持久力のテストとしてグルグルと回ることにするか」
方針は決まったのでさっさと帰る。今日の夕食は何にしようかな。今日はバスのダイヤにかなりいいタイミングで帰ってくることが出来たので家に着くまでの時間もそれなりに短縮されている。帰ってから作るでも良いし……そうだな、気になった一品があったんだった。早速それの味見を兼ねて作ることにしよう。やることがあるってのはやっぱり大事だが、それに追随だけのやる気を見いだせないと物事はうまく回らない、と再認識させられる今日だった。
作者からのお願い
皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。
続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。
後毎度の誤字修正、感謝しております。