1107:日常
今日も元気だ外は暑い! でも部屋は涼しい! ついでに寝起きもいい! 今日も良い感じにテンションが維持できている。これもダーククロウスノーオウル枕とダーククロウ布団のおかげらしい。今日もありがとう。
さて、今日も元気に朝食を作って食べる。寝起きが気持ちいいといつもの食事も美味しく感じる。食べたらその後昼食作り、今日の昼食はカツ丼だ。贅沢にオークカツを揚げていくことにしよう。玉ねぎと三つ葉と肉だけのシンプルなカツ丼だが、カロリーと活力は充分に賄える美味しいどんぶり。
チョイと厚切り目に見えるようにオーク肉を二枚にし、塩胡椒をしたオーク肉に粉をはたいて卵をくぐらせパン粉をしっかり付けた後、中温で揚げ始める。筋切りをしなくていいのがダンジョン肉の良いところだな。二枚の大きなオーク肉をしっかり揚げて油を切った後、一口サイズにカットして一旦保管庫へ。この揚げたてのままでいてくれる時間が大事だ。
肉が揚がったら次は煮込みの具を作る。玉ねぎを薄切りにして和風に味付けした調味料と合わせて煮込む。玉ねぎがしんなりしたところで保管庫からオークカツを取り出して一緒に乗せると溶き卵をかけ回す。この状態で煮込まないことで卵が完全に出来上がるのを防ぐ。
そのままご飯をどんぶりに盛り付けて、煮込んだ具をのせて三つ葉を飾って蓋をして丼完成。保管庫の中でじっくり溶き卵が熱で蒸らされる形で良い感じに半トロになるように祈る。
一品だけ……どんぶり専門店ならこれで良いんだろうがダンジョンで飯、となると少し寂しい。とりあえず箸休めの漬物は用意するとして、他に何か……キャベツの千切りは必要だろうな。キャベツの千切りは余っても自分で消費できるので俺の人生の中ではいくらあっても困らない食品の一つとして機能し続けている。
キャベツとカツ丼。それと漬物。物足りなさは少しあるが、カロリーと物量では十分かな。足りなかったらまた何か中で考えるか。バターとキノコはあるし、キノコバターで違う味わいを楽しむという時間的余裕もあるはずだ。
なんだか最近、品目をある程度増やした方がいいのかな、なんてことを考える余裕も出てきた。本来探索には贅沢な悩みなのだろうが、その贅沢を楽しめるほどに持ち物を自由にできるという特典は大きい。ただ、あまり手の込んだ料理を作ったとしてもその作る時間と作る時間で稼げる時間を考えると、本来は高級弁当みたいなものを複数用意して毎日ちょっとずつ食べる、という形のほうが理想的なんだろう。
保管庫のスピードがもっと遅く、もっと速くできるようになったらそれも一考だな。そうなるまでは今のやり方を続けていこう。
柄、ヨシ!
圧切、ヨシ!
直刀、ヨシ!
ヘルメット、ヨシ!
スーツ、ヨシ!
安全靴、ヨシ!
手袋、ヨシ!
飯の準備、ヨシ!
嗜好品、ナシ!
保管庫の中身……ヨシ!
その他いろいろ、ヨシ!
指さし確認は大事である。今日も一億、明日も一億。そろそろ目標分の金額は稼いだだろうか。今日帰ったら一年分も含めて総額をチェックしておこうかな。
今日までの稼ぎで一旦俺の財布のレジを閉めて、今年一年でいくら稼いだか把握しておく。今年から個人事業主になるらしいし、そこをちゃんと把握しておくことは必要だろう。それはそれとして今日も今日とてきっちり稼ぐ。待ってろよダンジョン今日もお金儲けに徹してやるからな。
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芽生さんとギルドで合流すると、レンタルロッカーにエンペラを十パック預けていく。これでこの後中華屋でエンペラを渡してもアリバイが成立する。
「珍しいですね、レンタルロッカー使うなんて。何の気分転換ですか」
小声で芽生さんにいきさつを説明する。
「今日の帰りに中華屋にエンペラを納品する約束してるんだ。その納品する分をレンタルロッカーに入れておいて、帰りに出して納品すれば、家から持ってきている、というアリバイを公式に主張できる。最近どうも人に見られる機会が多いからな。念入れは気が付く範囲でやりたい」
「なるほど、そういう理由なら使うのも問題ないでしょうし、いつもの時間に合わせて行動することにも無理がないですねえ。しかし、お爺さんもエンペラ気に入ったんでしょうか」
「かもしれないな。一応希少部位なんだっけ? そう数が手に入るものでもないだろうし、エンペラがあるなら本体の肉もセットになるだろうから割高の仕入れになる。そこをエンペラだけ仕入れるって形に出来るならお互いに利があるんじゃないかな」
今日の帰りにレンタルロッカーの中身の回収と中華屋に寄る。解りやすい所にメモ書きしておいて忘れないようにしないとな。
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茂君を終えて五十六層まで行く間に先日の顛末をきちんと報告しておく。芽生さんは自分には関係なさそうに感想を述べていく。
「じゃあわだかまりは解消した感じですか。良かったですねえ余計な心残りが一つ減って。今後は仲良く出来そうじゃないですか」
「めちゃくちゃ他人事っぽいけど芽生さんにもちゃんと謝りたいとは言ってたかな。そっちはもうどうでもいい感じ? 」
「そうですね、一円にもなりませんし今更謝られたところでもうどうでもいい感じですね。ただ、謝罪があったということはちゃんと受け取って受け止めておきます。それで終わりですかね。ネチネチと気にしたところで儲かりませんし、今ではオマケじゃなくて立派な恋人兼相棒であると主張できますから」
なんともあっさりしたものだ。やはり気にしても金にならない、といったところだろうか。前向きで非常によろしいと思う。多分うっかり何処かで顔を合わせても相沢君のほうが肩透かしを食らってまたちょっとだけ悔しい思いをする羽目になるかもしれないな。
「さて、いつも通り稼いで帰りましょう。謝罪されてそれを受け入れたんでしょう? ならそこまでです。私も人づてではありますが謝罪の件を又聞きして、それを受け入れました。ならこの件はもう蒸し返さない、それで終わりです」
男らしすぎる切り替え方にちょっとトゥクンってなった。じゃあ俺にとってもこの件は終わりだな。よし、仕事に集中しよう。
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いつも通り五十七層をうろうろして昼食の時間。今日の昼食はキャベツの千切りとカツ丼。カツとじにしなかったらオークカツ定食という所だな。味噌汁がついていたらより完璧だっただろう。
「美味しい。味付けがちょうどいい感じに好きな味付けですね。最早私の胃袋を掴んでいると言っても過言ではありません」
「それは一安心だな。辛すぎたり甘すぎたりすると余計な水分摂取につながるからちょっと微妙な所だった」
「そうですねえ……ちょっと水分は欲しいとは思いますがそういう方向性で水分が欲しいと感じるわけでは無さそうです。キャベツもありますし、水分はほどほどで良いと思いますよ」
いつもより箸の進みがちょっとだけ早い芽生さんに安心して自分も負けじとカツ丼を掻きこむ。キャベツで胃袋に優しさを伝えつつ、きちんとこれは中々美味しく出来たな、と自分に可評価を出せるだけの味付けに仕上がっていることを確認。
流石にサクサク部分は汁に浸かって残ってはいないものの、まだ熱く肉汁が内側から出てくる部分を中心に味わっていく。肉汁が大事、そしてきっちり揚がっているにもかかわらずすこしだけ赤みの残った中心部も食感が変わってこれもまたうまい。
前に行ったとんかつ屋ほどの赤みを残して揚げることこそできてないものの、これはこれで中々に美味しい。揚げる時間や温度の管理など、研鑽が必要だろうな。料理人になるわけではないが、美味しいものを自分が思うレベルの美味しさまでに積み上げようと努力するのは悪いことではないはずだ。
次に揚げ物を作る時は温度と時間を見ながらちゃんとやってみよう。どこかのサイトなんかを見たらコツみたいなものは見つかるはずだ。ちょっとずつ、ちょっとずつでいい。
お腹を満たして満足したところで休憩。今日の午前中の収入にはポーションが二本とモンスター約百体分の魔結晶。午後からも気合入れて探索することにしよう。きょうはまだ指輪を手に入れてない。手に入れるまでが探索だ。
芽生さんは食後の休みにと探索雑誌を読みふけっている。今のうちに少しだけ眠って体をいたわっておくか。
「ちょっと三十分ぐらい眠る。スノーオウル枕なので睡眠欲だけ解消しておく」
「解りました。その間索敵ともしもの警戒はしておきますね~」
芽生さんに了解をとるとスノーオウルの枕を取り出し眠る。満腹で眠くなったのもあるだろうが、眠い時に我慢して眠気の絶頂が戦闘中に来ても判断力が低下して問題になるからな。休める時に休むのが一番いい。
◇◆◇◆◇◆◇
午後からは戦場を五十八層から五十九層に移しての戦いだ。五十九層ではまだスキルオーブが二つ落ちる可能性がある。石像からは出ないものの、戦ってきた量からしてリビングアーマーもガーゴイルも同じくドロップする機運が高まっているのは確か。ここで何かしらを二つ手に入れておけば後が楽になるだろう。
今日あたりに何か出そうだな、という考えを元にして戦っているので、物欲センサーが働いているのは自覚している。でもその中ででも定められた確率や決まったドロップというものは動かしようがないようで、リビングアーマーから【物理耐性】のオーブを手に入れることが出来た。
「というわけで早速芽生さんに覚えてもらおう。これでお互い【物理耐性】は多重化されたな」
「後は【魔法耐性】もう一個拾えればお互い防御は多重化されてもう一つ安心できるところですね」
というわけで芽生さんに渡して芽生さんが「イエス! イエス!」発光して元に戻って無事に儀式は完了。早速圧切の峰で頭をポコンと叩いてみるテストをしたが、感触はあるものの痛みや後に残る感覚はない模様。これ、不感症になったりはしないよな。
「さて、今日は一つ出たところだし、いつも通り時間までに指輪を一つ見つけて帰ろう」
「期待はせずに行ったほうがいいですね。一日に二個もオーブを拾うなんて贅沢は無いでしょうし、狙ったオーブが出るとも思えませんし」
そのまま探索を続行し、前言の通り次のオーブは出ず、指輪とポーションをいつもの量だけ手に入れて帰るという単調だが確実な収入を得ることのできた探索になった。
帰りの七層でちゃんと茂君も回収し、査定カウンターで本日分の稼ぎを受け取る。本日のお賃金、一億千百四十二万円。今日も一億稼いで帰ってこれたぞ。
さて、レシートを芽生さんに渡したところでレンタルロッカーへ。今朝放り込んだエンペラを持って爺さんの所に行かないとな。
レンタルロッカーはちょうど帰りの人が多いのか、そこそこの混みよう。そんな所へ普段立ち寄らない俺が来たおかげで若干場がざわつく。
「安村さん珍しいね、レンタルロッカー使うなんて」
「ちょっとそこの中華屋に納品する品物があってね。探索の間邪魔だからここに入れておいたんだ」
軽く説明をするとそれで納得したのか、それ以上言及はされなかった。多分肉類を納品するんだろうな、という予想がみんなの頭の中を駆け巡っているらしい。
そんな中で取り出したエンペラにみんなの注目が集まっている。
「安村さん、それは? 」
真横のロッカーを借りていた探索者が俺に直球で質問をぶつけてきた。五十六層まで潜り込んでいるのは周知の事実なので変に隠したりごまかしたりする必要もないだろうな。素直にここは答えておこう。
「これはもっとダンジョンの底のほうのドロップ品。いわゆるエンペラって部分らしい。すっぽんなんかではよく食べられるらしいけど、肉そのものじゃなくてエンペラ部分だけがドロップするんだ。もしかしたら今日明日あたりで中華屋に行ったら先着で何かしら食えるかもな」
「なるほど……ちょっと味に興味があるな。気が向いたら行ってみるよ、いい情報をもらった」
「そうすりゃ爺さんも喜ぶだろうさ。じゃあお疲れ様」
バッグにそっとエンペラを全部しまい込むとレンタルロッカーを後にする。芽生さんは休憩室で待ってくれていたらしく、いつもの冷たい水を飲んでくつろいでいた。
「お待たせ、行こうか」
「中華屋行くんですよね? ついでにご飯も食べていきましょう。ごらんのとおりバスの時間にはかなりの余裕があります」
ダイヤを見ると、丁度バスが出ていってしまったところらしい。昨日に引き続きバスのダイヤに縁がないな。まあ夕食を考えてなかったのもちょうどいいし、二日連続中華というのも悪くないだろう。
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続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。
後毎度の誤字修正、感謝しております。