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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第二十二章:新階層来る
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1104:納品

 今日も快調なエアコンの涼しい風に誘われて起きる。もう少し踏ん張ってくれれば涼しくなり始めるはず。流石に買ってまだそれほど時間が経ってないので今壊れたら初期不良で修理に来てもらえるのでタダで直すことができるが、不快さと再び戦うことになるので是非このまま数年何事もなく働き続けてほしいなあと願う所である。


 寝起きのスマホに着信。芽生さんからだ。「大学の用事が緊急で発生しましたので今日いけません」とのこと。今日は一人か。何層いこうかな。たまにはカニの納品に精を出すことも悪くないかもしれない。そろそろ四十二層に到着する新規B+も居るだろうし小寺さん達や相沢君達も到着して居てもおかしくはない。


 一応順路というかある程度の地図はギルドに渡してあるので、B+探索者用に販売されていればそれを参考にして探索を続けているはずなので自分達よりも明らかに早いペースで到着して居てもおかしくはない。実力が伴っていればの話になるが、今彼らがどのくらいの強さなのかは知る由もない。


 男子三日会わざればというが、三日どころの話ではないのでもしかしたらサクッと四十九層あたりまで到着できるだけの実力が身に付いてしまっていても不思議ではない。


 実際の所三十五層、四十二層まで到着している新規B+のパーティーというものは小西ダンジョンに限定しなければちらほらと見受けられるので、こっちでもそろそろ、もしくはとっくに、という可能性はある。


 考え事をしながら朝食を作り、食べ終わった後昨日のプリンの残り一つを食べることにする。ギリギリ今日まで持つというプリンを保冷材でグルグル巻きにした状態で保管庫で冷えていてもらったので、賞味期限を気にする必要はそれほどない。朝から甘いものを食べる幸せというものを満喫してからいつものローテーションに戻ることにしよう。


 昨日も食べたがやはりこのプリンは美味しい部類に入ることは間違いない。名古屋コーチンの卵黄を使用したという卵の味とバニラビーンズの香り、そしてほのかに乗せられている生クリームもしっかりした甘さが付いていていい。カラメルは苦過ぎず、ちゃんとプリン本体と絡めて口の中に入れることで一体感を増す。


 何よりも普通に作ったら型崩れしそうなほどトロトロの柔らかさがいい。スプーンですくってもちょっと傾けただけでとろとろとこぼれて行ってしまいそうなほどに柔らかい。決して作りかけであるとか失敗したとかではなく、そのとろとろさがウリなんだそうだ。朝から糖分を過剰摂取することで脳がぎゅるるるると回転を始める気がする。これだけ美味しければ六百円も納得だ。


 後味もフワッと何処かへ行き、くどさが残ったりしないのも良い。また買いに行こうかな、と思わせる逸品であるのは確かだ。今度はコーヒー風味が残っていたら是非食べたいな。ここにコーヒーのフレーバーが乗っかった場合口の中でどのようなハーモニーを奏でるのか楽しみだ。


 しっかりとカロリーを摂取したところで今日の昼食を何にするか考える。あんまり手の込んだ料理である必要は無いのでせっかく新しく手に入れた食パンだ、サンドイッチ風にして持っていくのが一番いいだろう。具は何にしようか。とりあえず考えながらまずサラダで一品サンドイッチを作ったところで、最近連日にわたって仕事をしていることを考え、疲れを取ることができることをメインに考えて馬肉と行こうか。


 馬肉を刻んで叩いてミンチとまではいかないものの、細切れ肉風に仕立てると白ワインとバターとレモン汁で合わせソースを作って一緒にして、ソースがそこそこ蒸発するまで焼き続ける。


 出来上がった馬肉からはワインとレモンのいい香り。これを千切りキャベツで挟み込むとサンドイッチみたいになるように斜めに切れ込みを入れておく。断面は……うむ、良い感じだ。後は卵でもう一つサンドイッチを作ってサンドイッチ計六個、食パン三枚分とちょっと量は多いが良い感じの料理が出来上がった。馬肉のほうはまだ味見も何もしてないが、多分マズイということはないだろう。


 食事の準備も出来たところで今日も元気に出かける準備だ。洗い物を済ませて……プリンの容器はどうするかな、とりあえず何かに使うかもしれないから置いておこう。もしかしたら自分でプリンを作りたくなった時に器として再利用する可能性もある。その時まで残しておこう。貧乏性だがなんかこういう高級プリンは器も含めての代金であるような気がしてくるので困る。


 柄、ヨシ!

 圧切、ヨシ!

 直刀、ヨシ!

 ヘルメット、ヨシ!

 スーツ、ヨシ!

 安全靴、ヨシ!

 手袋、ヨシ!

 飯の準備、ヨシ!

 嗜好品、ヨシ!

 保管庫の中身……ヨシ!

 その他いろいろ、ヨシ!


 指さし確認は大事である。圧切と柄の持ち替えにも慣れてきたし、直刀が入っているかどうかを確認する必要は今のところ無いかもしれないな。そう言えば圧切を五十九層以外で使ったことがまだない。今日は四十二層あたりに顔を出してドウラク相手にちょっくら切れ具合を試しに向かうか。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 ふと、出かける前に最近羽根の納品に行ってないことを思い出す。羽根のほうは大丈夫なんだろうか? 一応連絡を付けておいたほうが良いだろうな。


 朝早くから電話をかけるのもためらわれるので店の開店時間に合わせるようにこっちも出動しておいて、店の駐車場から電話で確認して納品、という形にしよう。流石に余っているということはないだろうが、緊急で欠乏していたらレインに連絡が来るはずだ。来ていないということはそこまでひっ迫していない、もしくは他からの納入である程度の在庫は確保できているということになる。


 念のためいつも通りにダーククロウ十五キログラムとスノーオウル四キログラムを車に積み込み、先に布団の山本の駐車場に到着しておくことにした。


 駐車場に到着してしばし時間を潰していると、俺の来訪を見つけた山本店長がドア越しにノックしてきた。


「おはようございます。納品のご連絡は無かったかと思ったのですが」

「おはようございます。確かにそうなのですが、最近寄りついていなかったので在庫のほうが心配になりまして。時間ももったいないですし先に到着しておいて店が開いたら確認の電話と共にお邪魔しようかと思っていたんですが、在庫のほうは大丈夫ですか? 」


 お互いに挨拶をしつつ、在庫の探り合いをしておく。値段は前回納品した時に確定させているので同じ量を持ってきたつもりである。


「そうですね、そろそろお願いをしようかと思ってたタイミングではありますのでちょうどいいと言えばそうなります。納品していかれますか? 」

「せっかく来ましたし、お渡ししていこうかなと。この後ダンジョンにも潜るつもりですので」

「解りました。では早速検品のほうを始めさせていただきます」


 いつも通りの流れで検品、計量、金額の算定と納品が終わり、麦茶と羊羹を頂く。


「この夏はどうですか、探索のほうは順調ですか」


 雑談ついでにこっちの進捗について聞かれる。ここで実はダンジョンの底まで行ってしまって今作ってもらってる真っ最中なんです、なんてうっかり喋った日には何処から情報が漏れたのかという話になりかねない。


「最近は稼ぎのほうに重点を置いてまして。深く潜ることよりも高いドロップ品を稼げるところに向かうほうが多いですね。朝夕とダーククロウの羽根を収穫して、間の時間は奥深い所まで向かって稼いで、といった感じです」

「左様ですか。そういえばなのですが、安村様はダンジョンマスターにも会ったことがあるのですか? ダンジョンにはそれぞれダンジョンマスターという人物? が存在すると耳にしたのですが」


 ここは、会ったことはあるとはっきり言ってしまっても良いところだろうな。新規B+はもとよりその前からB+であることは周知の事実ではあるし、そのB+が全員ダンジョンマスターとの面識や知識があることは公表されている話だ。下手に隠す必要もないだろう。


「そうですね、何度か会ったことはあります。中々気のいい人ですよ」

「それはそれは。私たちにとってはダンジョンも未知の世界ですがそこの管理者という話のダンジョンマスターなんてまず会うことはありませんからね。会ったことで変わったこととかそういうものもあったりするのですか? 」


 変わりまくりである。実際ダンジョンマスターに会ったおかげで今も探索者を続けている、という意味では非常に大きい存在だ。


「そうですね。おかげでスノーオウルの羽根まで手に入った……という話になりますからかなり大きかったと言えますし、山本店長も大きい飯の種を手に入れたことになるのではないでしょうか」

「なるほど、そこまでですか。これは私もダンジョンマスターに何かお礼をしなくてはいけないところかもしれませんね。なにかありますか、そのようなお礼になるようなものは」

「では、普段頂いている羊羹、これを代わりにダンジョンマスターにお供えしておくことにしますか。最近うちのダンジョンではダンジョンマスターにお供えものをして受け取ってもらう、というシステムが出来上がったので直接お礼を言う訳ではありませんが、間接的に感謝を示すような形での貢献は出来るようになったのですよ」

「なるほど……先ほどこの後ダンジョンに向かわれるとおっしゃっていましたし、今一本お渡ししますので代わりに届けておいていただくようなことは可能でしょうか? 」

「承りましょう」


 羊羹を一本手土産に持たされる。今日のお菓子は羊羹で良いな。コーラも渡すとしてカロリーとしては充分だろう。


「間違いなく届くように手配しておきますので、ご心配なく」

「よろしくお願いします。ダンジョンのおかげで儲けさせていただいてますのでこれぐらいはさせていただく存じます」

「では、ダンジョンのほうに向かうとしますのでこの辺で失礼させていただきます」

「はい、本日はありがとうございました」


 一通りの手続きを済ませて早々と布団の山本を出る。ダンジョンに着くのは……昼かな。車を飛ばし気味に家に帰ると車を置いてダンジョンへ。気を取り直して、さぁ行きますか。


 ◇◆◇◆◇◆◇


「今日はお一人で昼からなんですね」


 ダンジョンについたところで受付嬢と雑談。今日は同じ時間に入る探索者も少なく後ろがつかえてないのでたまにはこういう時間も取れる。芽生さんが隣にいると早く潜って一グループでも早く倒せばその分収入になりますからとっとと行きましょう、という方向性の圧力がかかるので中々そうはいかないが、たまにはこういう時間も悪くない。


「所用があるそうで今日は一人なんですよ。休みでも良かったんですが結局いつも通りってことで」

「そうですか、どうぞご安全に」


 念のため七層にも立ち寄っていつものランニングスタイルで茂君を確認したが、茂らない君あたりで確認すると茂っていなかったので今回はパス。十分ほど時間を費やしたがこれは大事な無駄だ。ほかのパーティーが茂君を狩っているということが確認できた。これが他の、布団の山本以外への供給であっても構わない。ちゃんと茂君が利用されているという確認が取れただけでも儲けものというもの。


 そしてやはり、朝夕の時間は俺のために空けてくれてあるような気がしてきた。なんだか申し訳ない気持ちもあるが、たまたまこの時間に稼いで帰って上がって飯兼溜めこみとして一旦家に帰って、午後からも家から通ってダンジョンへ来ている、という探索者もいるという可能性を見せつけてくれた。その情報が得られただけでも充分な戦果と言えるだろう。


 さて、大人しく四十二層へ向かおう、今日は久しぶりのカニうまダッシュだ。他に探索者が居るかどうかは解らないが居ないなら思う存分にドウラクを狩れる。視聴者にも中々人気らしいコンテンツだし、今更一番強い所で苦戦を強いられる姿を見せるよりも、サクサクザクザクと複数の敵を葬り去っては次々へ移動するスピーディー感のほうが見ていて気持ちのいいものなのかもしれない。


 少し暇な時間が出来たので探索雑誌を読むが、来月になればこの記事にも三十一層以降のルポが並んでいくのだろうか。記者と探索者の二足の草鞋を履きながらの活動は中々大変だろうが、そこまでまだいけてない探索者への道筋を見せていくという点では新規B+探索者の活動報告は早く奥を出せるもの勝ちのレースだ。全ての探索者雑誌を購読している訳ではないのでどの雑誌が最先端をすっぱ抜くかまでは解らないが、読者として後追い人の活動記録を読むのを楽しみにしていよう。

作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

後毎度の誤字修正、感謝しております。

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― 新着の感想 ―
祭壇に寄らないって事は、直接渡して感謝を伝えるのかな?
羊羹、そのまま渡したら丸かじりも有りうるなw
カニうまダッシュを見た相沢くんの反応が気になるw
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