1102:待ちかねオーブきたる
今日も元気に入ダン申請。そしてリヤカーを引きいつもの茂君を刈り取ると、五十六層へのボタンをポチ。エレベーターが静かにダンジョンの深層へと向かっていく。そんな中で時間つぶしの雑談。そろそろ高速エレベーターが欲しい。半分から四分の一ぐらいの時間でここまでたどり着いてくれるような直通があればなおいい。
「さて、今日も指輪の発掘とスキルオーブの回収、そして毎日の資源調達を始めていくぞ」
「そういえば、結衣さん達もそろそろ五十七層へ向かってもいい頃合いだとは思うんですがどうなんですかねその辺」
結衣さん達の進捗が気になりだしたらしい。確かに、五十六層へ到着してもうしばらく経つ。毎日潜って稼げとは言わないものの、リヤカーの有無を見る感じ結構な頻度で潜っていることは確認されているのでそれなりの戦力強化は出来ているんじゃないかと考えられる。
「五十七層へ行くのはそう難しくはないけど、自分達も飽きるほど五十五層で潜ったからな。むしろ飽きてきたから五十七層へ潜りだしたというイメージのほうが近い。飽きるまでそのままレベルアップに専念してもらってもいいんじゃないだろうか」
「それもそうですね。私たちの時と違ってインゴットを保管庫に溜めこむ必要も有りませんから毎日の収入には事欠かないでしょうし……何か飲み物ください、コーヒーか何か」
要求されたのでペットボトルのブラックを渡す。季節的に熱いものを飲みたくないのでいつもの保温ポットのものではなく、コンビニでも売っている値段の安い奴だ。そのままキャップを開けるとコクコクと飲み始めた。
「保管庫が無い分階段から離れてグルグルと回りっぱなしにというわけにはいかないだろうが、ちょこちょこ階段との往復をしながらリヤカーにドロップ品を積んでいくような形ならそれほどの負担にはならずに戦っていけるとは思う。全員が隠蔽を持ってない分戦闘密度も中々高いものになりそうだしな」
結衣さん達は自分達なりに頑張っているだろうし、スキルオーブのドロップを目的にするにしろ、高橋さん達との勝負をすることになるだろうが五十五層の戦闘密度は五十九層に次ぐものになっている。新しいスキルも売ったことだし、力となるものもそれなりになっていると考える。
あまり早く追いついてこられても最下層がもう出来上がってしまっていることを隠しきることを考えてももうしばらくここでしっかり金を稼いでスキルを稼いで実力をつけていずれは五十七層にも潜るようになるだろう。飽きるまではそのまま稼いでいてもらおうかな。そのほうがギルドのためにもなる。
「まあ、あっちもあっちで五十五層に飽きたらこっちへ向かってくるようにはなると思うよ。そうなった時にまたお互い情報交換ってことでいいんじゃないかな。今のところ狩場が被ってお互いに美味しい思いが出来ない、ということにならない間はそれぞれで行動すればいいと思うよ」
「結衣さん達も指輪を拾えるようになれば防御力強化になりますし、道中で耐性スキルを拾える可能性もありますからちょうどいい感じになるとは思うんですけど」
「それこそ五十五層で試してみて物が出たら移動、という形になってるんじゃないかな。まあまだ五十五層にとどまっているところを見ると、一定の成果と言えるものがまだ出てないんじゃないかな。それに五十七層では最近【硬化】が出たばかりだし、もう片方のスキルオーブを狙うだけってなればまた面倒くさい作業をさせることになるな。こっちも売りつけた【硬化】を使ってみての感想を聞きたいし 、タイミングが合えば出会いたいところかな」
五十六層に着いてリヤカーを設置。他にリヤカーは二つ。思い当たるパーティーも二つ。最下層に常時リヤカーが持ってこれているということは、リヤカーの数もそれなりに多く用意されてきているということになるだろう。折り畳み式であるし置き場所には今のところ困ってない様子。
今度ギルマスに何台あるのか聞いてみるのもいいな。全てのパーティーに行きわたるほどの数があるとは言い難いが、今のところ借りれるか借りれないかギリギリのラインあたりを攻めるよりは多めに在庫を保有しておいて常に一個二個いつでも借りられますよ、という形にしておいたほうが探索者にとってもダンジョン庁にとっても儲けは確実なものになるだろう。
ダンジョン側にとっても魔素を搬出するという主目的を確実に実行し物量を確実に持ち帰ってくれることで目的達成までの時間を短くすることができる。その分だけダンジョン消滅までの時間が短くなるのは仕方ない所だ。
そういえば、進捗で言えば今は何%まで搬出が終わったことになるんだろうな。全てを吸い上げるというわけではないだろうが、思ったより多めに搬出することが出来た、なんて話になればこっちとしても仕事をした気分になれる。
今のところ仕事が出来たという実績は口座の中身で判断するしかないが……たしか魔結晶の形で搬出するのが一番効率がいいと前に言っていたようなような気がするので高級な魔結晶はそのまま持ち出すのが一番いいんだろう。
「さ、今日も気合入れて探索に挑むとするか。今日は何が出るかなと」
「何でも良いから出るものは貰っていきましょう。働いた分のお小遣いみたいなものですから」
◇◆◇◆◇◆◇
五十七層に入ってしばらくして、モンスターの居なくなる回廊部分に入る前あたりでリビングアーマーから、ポロッとスキルオーブが出た。
「お、スキルオーブだ。これで五十七層ではしばらくスキルオーブは出なくなるな」
「【硬化】をもらったばっかりですからね。これは完全に通り道としての役目に集中してもらいましょう」
「一応指輪も出るからな。そういう意味では気を抜いて回るのは少々もったいないが……と、さて何が出たかな」
スキルオーブを拾い上げ、脳内音声さんのお告げを聞く。
「【物理耐性】を習得しますか? Y/N 残り二千八百七十八」
「ノー。【物理耐性】らしい。どっちが先に覚える? 」
芽生さんに確認。共同戦果なので一方的に覚えるのはよろしくないからな。どんな仲であってもそこの確認は大事だ。
「ちょっと前に【魔法耐性】を先に覚えさせてもらったので今回は洋一さんが先で良いんじゃないですかね。覚えたら試しに軽く殴らせてください。どのくらいまでならイテッて言わないか興味があります」
「そんな物騒な試し方はしてほしくないんだが……まあ、全力の芽生さんにぶっ叩かれても効果が無いような形になるなら確かに効果はあるだろうな」
次回【魔法耐性】が出たら俺、【物理耐性】が出たら芽生さん、という取り決めをしたところで再度スキルオーブを持ち直す。
「【物理耐性】を習得しますか? Y/N 残り二千八百七十七」
「イエス! 」
「あなたは既に【物理耐性】を習得しています。それでも習得しますか? Y/N」
「イエス! 」
いつも通りスキルオーブが沈み込んでいき、俺が発光する。いつも通りの発光だが、熱くは無いし相変わらず不思議な感覚だ。もう慣れたと思っているが、毎回なんだかこう、湧き上がるような。多分スキルオーブにもある程度の魔素が含まれていて、その魔素の変換回路みたいなものが体に仕込まれて行っているんだろう。
一分ほどで光りが消えて元に戻る。その瞬間、頭の上に槍が降ってきた。ゴチンという重さと感覚はあるが、痛みは覚えない。
「今の威力で何ともないって事は相当に強化されてますね。今度トラックにでも轢かれてみませんか? 」
恐ろしい提案がなされる。
「そういうチャレンジはせめて原付から順番に問題ない所を探っていくとかそういう感じで頼みたいし、どうせならギルドの公式記録として残したい部分もあるからな。しかし、物理耐性二個って本当に効果があるかどうかわからんな。覚える前に一発同じ威力で殴られておくべきだったな」
「前向きな評価ですね。試しに石像とステゴロで殴り合ってみますか? 私リングサイドで観戦しますよ」
「それも有りかもしれないが、負けるかもしれないことを考えるとあまりうれしくないな。やはり保険は保険だ。それに今は指輪もあるしな。ここまで来れば物理耐性は一つ持ってれば充分、みたいなところかもな」
とりあえず、一億相当のスキルオーブを拾えたのでそれを込みとすれば今日の収入はこれから指輪を拾えなくてもすでに十分な金額は稼いだ、ということになる。既に三億六千万稼いでいるのだから更に五千万ほど追加されたことになる。
だんだん金額がバグってきたな。そもそも、芽生さんの夏休みに入っていくら稼いだんだ? 帰ったらちょっと計算しておくか。今年のこれまでの分も含めて一体いくら稼いだことになるのか。
二、三回戦闘を終えた後回廊に入って休憩時間。ギルマスと会話していた分いつもよりちょっと遅めになったが昼食の時間になる。
「今日の野菜炒めは一味変えてみた。感想のほどを存分にぶつけて来てもらいたい。物理耐性の力できっと弾き飛ばせる」
「ほほう、それは楽しみですねえ」
野菜炒めと茹で野菜のチーズ胡椒かけを取り出し、炊飯器からご飯を盛るとそっとお出しする。芽生さんの感想が気になるがまずは自分で一口。
茹で野菜はまだチーズもしっかりと蕩けていて美味しい。茹で加減もちょうどいい。まだ湯気が立っているので食べごろほどほどって感じだ。
野菜炒めはダマにならずにうまく絡まってくれた分実に良い感じに体に染み込むように食として彩ってくれる。醤油バターの香りがあたりを漂い出した。これでニンニクをマシにしてしまっていたらもう今日は他人と会えないが大満足な食事だったに違いない。
「今日も美味しいですねえ。カロリーも控えめですしでもお腹に溜まりますし箸が止まりません。これは良い感じですね。醤油バターは自前ですか? 」
「自前も足したがメインはシーズニングだな。野菜炒め用に調味されてるのから更にマシさせた感じ。シーズニングだとバターの風味は充分あったが炒めてる間に醤油の香りが少々飛んでしまったので足した。その反応を見るともう一度作っても問題なさそうだな」
「一緒に炒められてる肉も美味しいですね。柔らかさを保ったまま口の中できちんとほぐれてくれます。お肉は馬肉ですかね? 」
正解だ。このままだと芽生さんにほとんど食べられてしまいそうなのでこちらも負けじと箸を伸ばす。今日も美味しくご飯が食べられる。
「これは全然関係ない話なんだが、海外だと米をおかずに他のものを食べる、という現象に違和感を覚えるらしいな」
「国によっては肉が主食で米は副食もしくは主菜ってことになるんでしょうか。その様子だとご飯でワンクッションして食べるという行動にも疑問が湧きそうですね」
「そうらしい。美味しいからいいけどもし今後他国の人と一緒に食事することがあったら覚えておくと良いらしいよ」
そういいつつ野菜炒めを米でワンクッションしながら食べる。ここは日本式で良いのだ。しばらく他国の人と会食をする予定もないので美味しく食べられる方法で食べて過ごすことに誰も苦情は申し立てないだろう。
「今日はお肉少な目でローカロリー路線ですね」
「ハイカロリー路線で行くなら肉を焼くが、そっちの方が好みかね? 」
「いえ、今日のところはこれで。足りなくなったら自分の夕飯や後日に摂りなおしますので」
今日はいいらしい。まあ明日明後日とは野菜炒めではなくしっかり肉を使ったレシピの予定なので明日で良いなら明日、ではあるが……芽生さんの肉付きを考えるに、カロリー不足で動けなくなることはないだろう。
「なんか今失礼なこと考えませんでしたか? 本当にローカロリーで大丈夫ですよ」
伝わってしまったらしい。無言で野菜炒めを口に入れつつ誤魔化すも、ジトッとした目線がこちらを見据えている。しばらくして不満が解消されたのか、黙々と食事を再開した。やはりローカロリー路線では物足りないのか、野菜炒めは半分以上が芽生さんの胃袋に消えていった。やはり食事は余るぐらい作って夕食に残りを食べるようなイメージで作っておいたほうが色々と都合がいいようだ。明日はキッチリ腹に溜まるものを作ろう。
少なめの食事だったが水分はきちんととる。食後のペットボトルコーヒーを飲みつつ、雑誌を読みふけって胃袋が落ち着くまでの時間を待つ。今日は焦って仕事をする、という感じではない。このまま落ち着いたペースで行こう。
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