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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第二十二章:新階層来る
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1101:指輪の行き先

ダンジョンで潮干狩りを

Renta!等いろいろなサイトで発売中です。是非とも続刊のためにもご購入のほうよろしくお願いします。

 今年は涼しくなるのが早い。ここ最近毎年のように猛暑猛暑と言い続けているのがウソのように今日は涼しかった。多分夜半に雨でも降ったのだろう。窓から外を見ると路上が濡れている。


 こういう時は朝から湿度が上がってムワッと蒸し暑い日になるのが目に見えている。蒸し暑い中外で作業するのではなく、ダンジョンの中でかなり湿度が抑えられた環境の中スーツで活動するこっちの身としては、移動の間涼しくしていただいていればそれでいいというのが感想である。


 今日もお祈りをした後朝食、そして昼食の準備。今日は馬肉を細かく刻んで野菜炒めの中にぶち込もうと思う。見た目は多少悪くなるが溶き卵も入れて、しっかり胃に溜まるおかずを目指そうと思う。


 今日は野菜炒めだが、いつものシーズニングから一品選択。保管庫の中から取り出して目をつぶってごそごそと順繰り入れ替えていき、ここだ! と思うところで手を止めて品物を選ぶ。


 醤油バター風味のシーズニングを選択することになった。普段通りに野菜炒めを作る。肉もそこそこの大きさに切って野菜を細かくし、シーズニングが絡まりやすい大きさにしておく。細切りぐらいがいいかな。みじん切りだと食べる時に面倒が増えそうだ。


 細長く切り揃えた具材を炒めて、水分がほどほどになったところでシーズニングを投入。こういう使い方は想定してないだろうから、あまり水分が多すぎる時に入れると味が薄くなるし、水分が無い状態で入れるとダマになって味に偏りが出来てしまう。中々際どい所だがそこは自分の腕を信用しよう。


 味が全体に馴染んだと感じたところで味見。うむ、ちゃんと醤油とバターの香りがする……が、少し醤油の香りが飛んでしまっている気がするので追い醤油をしておく。追い醤油を軽く焦がして風味をしっかり付けた後、バターの香りが飛んでないことを確認して火から下ろして皿に盛り付け一品。


 もう一品何か欲しい所だな……茹で野菜のチーズ胡椒かけとかどうだろう。手軽で簡単でしかも美味しいし疲れも取れる。今日は野菜攻めだな。攻めた分帰りに買い出しに行かなくてはならないが、どっちにしろ買い出しのタイミングでもある。使える野菜は出来るだけ消費して新しいものと入れ替えていこう。


 飯を作ってご飯を炊き終わり、食器もそろえて保管庫にあることを確認した。飯の心配はこれでしなくていいな。さて……


 柄、ヨシ!

 圧切、ヨシ!

 直刀、ヨシ!

 ヘルメット、ヨシ!

 スーツ、ヨシ!

 安全靴、ヨシ!

 手袋、ヨシ!

 飯の準備、ヨシ!

 嗜好品、ナシ!

 保管庫の中身……ヨシ!

 その他いろいろ、ヨシ!


 指さし確認は大事である。嗜好品のほうは俺が気が向いたときに渡すだけにとどめていたが、祭壇も出来たことだしコーラとミントタブレットの供給だけは断たれることはないだろう。他のお菓子もささげていいことになっているし、上手く回って俺の負担を軽減してくれているのは確からしい。今回は無しにして様子見をして、ミルコのほうからアクションを取ってくるのを待とう。どうせ今日は買い出しに行くし、次回以降分として保管庫にとどめておくのが良さそうだ。


 ミルコと顔を合わせる機会が減ったのは少し寂しいが、これもダンジョンの続きのためと思って大人しく芽吹の時を待つのだ。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 いつもの時間に到着すると、芽生さんが着替えて待っていた。どうやら先着していたらしい。


「おはよう、今日も早いね」

「おはようございます。朝から突然ですがギルマスから呼び出しです。さっさと呼び出しの内容を聞いてダンジョンに向かいましょう」


 なんだか今日の芽生さんはやる気に満ち溢れている。合格の知らせを聞いて肩の荷が下りたのか、それともこれまでの自分と向き合って前向きに探索をしていこうという気になったのか、稼げるのが今の内だと腹をくくって稼ぎに走ろうとしているのか。いずれにせよやる気があるのは良い事だな。


「呼び出しってことは多分指輪の件だろうな。とりあえず第一陣出荷ってことだろうか」

「誰に渡すか決めたってことですかね。誰に渡すのかがちょっと気にはなりますが」


 相談しながら二階へ。いつも通り扉をノック三回中へ入る。ギルマスは……書棚の書類を整理していた所らしい。いつも思うんだがこういう事務所の書類棚には何が入っているのか、割と気になる。重要事項なのか日々の報告書なのか、それとも別の何かなのか。もしかしたら特定の探索者の現状なんかについてがまとめられているのかもしれないと思ったが、それこそパソコンで済むよな。


 パソコン上の書類では納め切れない何かが書きこまれているとなると余計に気になる。芽生さんなら今後そういうものを目にする機会もあるんだろうな。そうなると俺も公務員になって見たかったという思いがよぎる。


「お、きたね。お互い時間ももったいないだろうしさっさと終わらせてしまおうか」


 ギルマスの机の周りに立って並び、何を言い出すのかを待つ。


「先日君らから提案された指輪の件、長官が話を付けてくれたらしい。とりあえず三権の長それぞれに指輪を一つずつ渡しておいて、もしもの際の危険が無いようにボディガード代わりに身に着けてもらう、という形になったよ」


 三権の長、ということは衆議院議長と参議院議長、内閣総理大臣、そして最高裁判所長官の四名って事になるな。


「そういうわけで四セット君らに指輪を発注したい。今手元にあるならそれをそのまま受け取る形になるけど、構わないかな? 」

「値段は前に提示された、それぞれ一億円ずつ、ということでいいんですよね? 」


 金額は確認しておく。今回は初回だから送料無料でお安く半額、等ということは言い出さないだろうことは解っているが、収入に直結する問題なので確認は大事である。指さし確認しなくても大事である。


「それで今回はお願いする。もしかしたら次回の納入の際には値段の上下が入り混じる可能性だってあるが、今回はこちらが提示した金額でお願いしたいと思っている。不満があるなら掛け合うが、どうするね? 」


 芽生さんと顔を見合わす。芽生さんは小さくコクンと頷き、それでいいというジェスチャーを送ってきた。四人で八個、八億円。ギルド税引かれて七億二千万。二人で割って三億六千万ずつ。一日の金額記録を軽々と超えてしまった。


「その金額でお渡しします。今ここで渡しても? 」

「念のため混じらないようにそれぞれ出してもらうことは出来るかな。どうせ両方つけるんだからどっちがどっちと混乱しても構わないといえばそうなんだが、まかり間違って同じものを二つ身に着けることが無いようにはしておきたい」

「解りました。では……こちらが物理耐性、こちらが魔法耐性になります」


 保管庫から順番に指輪を出して渡す。ギルマスは「魔法耐性」「物理耐性」とテープを貼り付けてあるビニール袋にそれぞれしまい込んだ。そんな安っぽい袋に入れていいものなんだろうか。


「それ、いいんですか。中身と外身の金額の差異が激しすぎると思うんですが」

「まあ、実際に渡す時はちゃんとした入れ物っぽいものを用意することになってるから大丈夫だよ。流石に高級品だし、これは私が直接長官のところに運んで渡す手はずになってるんだ。君らが直接持っていくとなるとアポイントメントなんかの必要が出て来るし、こっちは業務の一環として行くんだからそのあたりの処理は省けるし、私がここで受け取った時点で査定完了という形になるから今すぐ現金化できる。悪い話じゃないだろう? 」

「そうですねえ、手間というものを考えればそのほうが楽ではありますねえ。でもギルマス、調子に乗って全部の指につけてみて壁とか殴ったり、どっちがどっちか解らなくなるみたいなことはしないでくださいね。こっちはサンプルがあるから見比べることは簡単ですけど、装飾のちょっとした違いしか変わりませんから本気で迷うと大変なことになりますよ」


 芽生さんがギルマスに釘を刺している。言うようになったなあ。


「そんな子供みたいな……やるなら今の内だよね? 」


 そういいつつ、物理耐性のほうの指輪を薬指以外のすべての指に通して、おそらくゴルフコンペの入賞でもらったであろうトロフィーを自分の頭にぶつけ始めた。


「おぉ、痛くないな。何か当たったか? ぐらいの痛みで済んでる。確かに物理耐性の効果があるって言われたら間違いないね」

「それ、外した後痛くなっても知りませんからね。こっちはスキルで覚えてるので同様の効果がありますが、指輪を外したらそれまでのダメージが残るのかどうか検証はまだしてないですからもしかしたら外した瞬間痛みだけリフレインする場合もありますから」

「……それ、行動始める前に言ってほしかったなあ」

「今思いつきましたから。まあ、外したらダメージは無くても痛みは残る、という場合その検証が出来たという証拠にもなりますから一つダンジョンに貢献したということで名誉の負傷としておいてください」


 ギルマスは指輪を外そうか外すまいかしばらく悩んだ後、痛みが収まってそうな時間になるまで着けっぱなしでいることを決めたらしい。


「じゃあ、話は通しておくので査定カウンターで指定金額の分の査定買い取り表を受け取っておいてくれるかな。しかし、一日で八億の売り上げか。ここまでの金額を一日で稼ぐのは君らぐらいだろうね」


 ギルマスは自分のおかげ、というわけではないが小西ダンジョンのギルド税売り上げとしてもかなりのものを得たという実感を感じているらしい。


「まあ、実際は一日に一個出ればいいほう、二個出たらかなり幸運、という程度のドロップ率なのでこれまでの頑張りの成果、と思っていただければ。後、さすがに量産は出来ませんからね。次の納品がいつになるかまでは解りませんが、それまでに溜まってるかどうかも怪しいものでもあるので迂闊にあちこちへプレゼンして注文だけ取りつけて来るようなことは無いように真中長官には連絡しておいてください」

「解った、覚えておこう。というわけで下で待っててくれれば査定カウンターから声がかかると思うから、振り込みを先に終わらせてからダンジョンのほうへ行ってくれると手続きがスムーズで有り難いかな」


 そういうとギルマスは内線で査定カウンターに連絡を入れはじめた。話はこれで終わりらしいので、頭を下げて一礼してからギルマスの部屋を出る。


「八日分の頑張りで三億六千万ということは、今までの稼ぎに更に四千万ほど上乗せされて査定が行われるようになった、ということなんでしょうかねえ」

「そういうことになるな。まあ今は焦る段階でも次へ向かう段階でもない。大人しく毎日を繰り返して指輪の注文があった時にすぐにお出しできるように在庫を残しておく事が必要かな」


 早速査定カウンターの周囲でしばし他の探索者のドロップ品の回収状況を見ている。ざっくり言って二十一層から二十八層周辺の査定が多いことが解った。やはりまだB+探索者はこの時間帯には居ないか、大荷物で帰ってくる探索者は少ない、ということだろう。朝一で帰ってくる組か俺達みたいな夕方組をよく観察しないと正しく探索者のレベル層を測るのは少々難しいのかもしれないな。


 査定カウンターから呼ばれる声が聞こえたのでそっちへ寄っていく。


「ご無沙汰ですねー。ギルマスから話は通ってますのでーこれを支払いカウンターのほうへお願いしますねー」


 指輪の査定分のレシートを渡され、金額を確認する。ちゃんと三億六千万円のレシートを二枚渡された。受け取って帰ってきて片方を芽生さんに渡し、支払いカウンターで振り込みを依頼する。


「なんか今日は儲けましたね」

「多分ギルド側も同じことを考えてると思うんだよな。指輪八個のやり取りだけでギルド税が八千万円も増えた。これだけでもう何処かのダンジョン一つ分ぐらいの運営費は出てしまっているんじゃないかな」


 実際にダンジョン一つに年間いくらかかっているのかは解らないが、地方のほどんど人がいない、昔の小西ダンジョン程度の規模なら本当に賄えてしまえるんじゃないだろうか。


「ギルドが儲かるとどうなるんだろう? 冷たい水がより美味しくなったりそういうアメニティ的な部分も拡充されていくんだろうか」

「これと言って思いつかないですが、リヤカーの数が増えるのは間違いなさそうですね」

「なるほど、そういう利便性をあげていくのはありか。そう言えば今何台あるんだろう? 朝一で来たら台数が全部そろってるわけでもないし、置き場の広さからして二十ほどはあるのは解るんだが実際どれだけあるのやら。っていうかリヤカー拡充はまだ課題なのかな」


 全員が全員リヤカーが必要なほど山盛りのドロップ品を抱えて帰ってくるわけではない。そういう意味ではリヤカーを使っているのはごく一部とまではいかないものの、二十一層から二十八層、三十五層にかけての探索者がメインカスタマーということになる。もしかしたら七層で使ってる探索者も居るかもしれないが、朝夕二回の茂君の間にリヤカーを同じく引いている探索者を見かけた覚えはないのでやはり深層探索のお供、というイメージのほうが強いな。

作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

後毎度の誤字修正、感謝しております。

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そういえばリッチのアイテムも指輪とマントでしたしあれも毎回倒さないといけなくなりそうw 指輪確定ならば寄り道していいくらい美味しいですし今なら楽勝じゃないかな!!マントはどんなモノだったんだろうか? …
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