1100:ギルドマスター会議
ダンジョンで潮干狩りを
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そういえば1100話でした。
side:ダンジョン庁ギルドマスター会議
毎月の定例会議が始まる。毎月の各ダンジョンの収支報告の後、今回は全員で悩んで考える議題がいくつかある。その中の一つに、ダンジョンマスターについての扱いが含まれていた。
ダンジョンマスターについてどこまで情報公開しても良いものか。各ダンジョンで足並みをそろえてダンジョンマスターについての情報がそろえられている訳ではない。何処のギルドもダンジョンマスターについて情報を得ることについては一貫していて、出会える機会があるならそこでそれぞれの個人情報や関心を寄せるものやその場にダンジョンを作った理由など、各ダンジョンで子飼いにしている探索者に情報を集めるように頼み込んではいる。
ただ、ダンジョンによってはそもそもまだ十五層までたどり着いていないダンジョンも存在する。そういうダンジョンには近郊の探索者に依頼という形で一定期間そっちのダンジョンで生活をしてもらい、ダンジョンマスターに出会うことが出来れば出会い、そして情報を集めたりエレベーターを設置してもらったり様々な取り組みを試みてはいるものの、今のところうまく回っているダンジョンは残念ながら少ないと言ってしまってよい所だろう。
それならば、と既にダンジョンマスターとある程度友好関係を繋いでしまっているギルドに対して情報公開と他のダンジョンの情報があればそれについて教えてくれ、と聞きまわっているギルドマスターもいる。
今のところうまく回っているのは三大ダンジョンと呼ばれる高輪ゲートウェイ官民総合利用ダンジョン、大梅田ダンジョン、清州ダンジョン、それに加えて小西ダンジョン、更に最新の報告により、前回設置されたダンジョンとダンジョンマスターが同じだと確認された熊本第二ダンジョンの五カ所であった。
この五カ所についてはおおむねダンジョンマスターとの緩やかな交流が続けられており、それぞれのダンジョンから上がってくる情報や交流、袖の下などによってダンジョンの向こう側、つまり来訪者が居た文明の情報や文明レベル、文化、スキルや魔法についてなど、様々な情報がギルドマスターより長官に向けて集められており、他国が何処まで掴んでいるのかは解らないが、ダンジョンの向こう側の情報を持っている国として国際ダンジョン機構の中でも日本は重要な立ち位置を示すことが出来ている。
「さて、今回の報告によって三十層を突破して新たにダンジョンマスターと出会う機会を得たダンジョンもある。今日を機にあらかじめお互い知っておくべき情報とこれから知るべきである情報を共有したいと思う」
長官である真中が音頭を取り、それぞれのギルドマスターに口頭で、文章が残らない形での伝言を行う。勿論録音は自由だが、一応機密情報にもあたるため漏れた際はそれなりの罰則を用いていくということもあり、ほぼすべてのダンジョンにおいて聞き取りでの情報の共有という形になった。
主な議題は一番発見が新しい、長野県内の別荘地帯にあるダンジョンについて攻略、踏破する形で動こうという話である。まだいつまでに踏破する予定であるとか、誰が踏破を担当するのかなどは決まっていないが、ダンジョン担当のギルドマスターには最下層を発見しだい最下層にたどり着いた探索者に栄誉として踏破の準備をするとともに、内部に拠点を構えている探索者に対して踏破の予定があるから私物や設置物があるならば早めに撤収するようなマニュアルを作り上げることがここで示された。
踏破すると決めた後は計画的に踏破できるようにという前回前々回におけるダンジョン踏破の手順を明確にするためのものである。後日マニュアルの形で各ギルドに配布させる予定ではあるが、一週間ほどの猶予期間を持ってその間に内部の探索を控えるなり撤収準備を進めてもらうなり、探索者に連絡して回ること等が共有された。
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「さて、話し合いとしてはここまでだけれど、他に何か共有しておくべき話やここが我がダンジョンの売りである、といったお買い得情報はあるかな? 」
真中の口調がかなり砕け始めた。ここからは雑談兼お互いのダンジョンのとりとめもない話をやり取りして、ほほえましくも真剣に話し合いの場を設ける時間である。
一から十まで真剣では肩が凝る。冗談を言い合いながら雑談している方が大事な情報が出やすいし、なによりリラックスできる環境は頭の回転もよろしくなるので奇策や妙策が出やすい、というのが真中の弁である。
「では、失礼ながら小西ダンジョンよりご報告申し上げます」
坂野がまず一番の声を上げた。小西ダンジョンは自他ともに認め、ダンジョンマスターもある程度自覚している程度に探索者側であるダンジョン庁との距離感が近いダンジョンである。そこからの発表となると今度は何をしでかすのかと一同の期待は高まった。
「小西ダンジョンではこの度、二十一層に探索者が誰でもいつでもダンジョンマスターにお供えものが出来るように祭壇を設えました。小西ダンジョンのダンジョンマスターであるミルコ氏にも了解はとってあります。もっと身近な形でダンジョンにはダンジョンマスターが居てダンジョンを管理しているんだぞ、ということをアピールし、我々としてもしっかり稼がせてもらっているのだからお礼位したい、という探索者側の気持ちというか、アンケートの結果というか、もっとダンジョンマスターについて情報が欲しいという意見に対してのギルド側からできる一つのご報告の形になります」
ここで一息つく。コーヒーを少し啜り、喉を滑らかにしてからそのまま続けて報告を続ける。
「流石に町おこしのキャラクターみたいに等身大パネルを設置したりすることは出来ませんでしたが、ギルドの建物内部に名前、見た目、好きな物等解る範囲で伝えられるように情報提供はしております。今回の祭壇設置はその中の意見である間接的でも良いからダンジョンマスターと交流を得ることが出来ないのか、という意見を採用いたしました。二十一層に設置した理由といたしましては、二十一層のエレベーター近くにちょうどいい場所を選定して確保してくれていた探索者が居たため、そこにお願いして場所を開けてもらいその場所に設置したことになります。好きなものがコーラとミントタブレットという情報が行きわたった結果、ギルドのすぐ近くにあるコンビニでは常時コーラが売り切れになるほどには好評なようで、どれだけ飲めるのかは解りませんがかなりの数の物資がダンジョンマスターの手元に流れ込んでいる形になります」
「お供えと言われますが、具体的にどのような形でダンジョンマスターの手元に行きわたっていることを確認しているのですか? 」
疑問の声が上がる。毎回姿を現して回収して去っているのか、それとも別の何かがあるのかが伝わっていない、ということだろうなと坂野は察した。
「ダンジョンマスターはぶっちゃけて言うと物質転移に近い形の能力を所有しております。それによって自分自身だけでなく、ダンジョン内にある物ならば手元に呼び寄せることができるようです。ダンジョンマスターとのつながりを維持してくれている探索者曰く、お供え物をして手を二拍叩いておけば気が付いたときに回収している、今までは自分に注目されていたのですぐに回収して行ってくれているが、今のところは何やら忙しいらしく、合図と実際に手元に引き寄せる間にラグが生じている、とも言っていました」
今のところ小西ダンジョンが最下層までたどり着いてしまっていて、続きを作ってもらっているというのはこの場では真中と坂野しか知りえない情報である。若干回りくどい言い方になったが、これでおおよそ伝わるだろうと思っている。
「ということは、祭壇以外でも手を二拍叩いてお供え物を用意しておけば何処でも回収できるということになりませんか? 」
鋭いギルドマスターからの質問が飛ぶ。
「えぇ、ですので、ダンジョンマスターからしても様々な場所であっちこっち監視しながら回収するよりも、二十一層でまとめて回収してもらうほうがあちらの手間を煩わせずに済むだろうというこちらからの配慮になります。二十一層に設置した理由としては、最短十五層ボス突破でダンジョンマスターと出会えることと、それにはCランク相当の実力が必要なこと、それらを総合すると本来十四層に設置するのがベターな場所だとは思います。しかし小西ダンジョンは十四層にエレベーターが無いため、移動についても一手間探索者にかけてしまうことと、二十八層では今度はBランク以上の探索者しか立ち寄れないため不公平感が出ないための中間的な処置と考えていただきたい」
「なるほど、そのやり口は他のダンジョンでも通用しそうなのでしょうかね」
「どうでしょう。お互いに符丁を決めているならスムーズなやり取りができる可能性は高いとは思いますが、小西ダンジョンの場合……まぁ言ってしまうと特定の探索者なら呼べば来る、といった具合まで関係が進んでおりますので、今回はその特定の探索者以外に対してのフォローという面が強いですね」
「しかし、その方法だと祭壇で本当にこちらの想定している運用がされているかどうか確認できないのでは? さすがの我々もボスを倒して二十一層に行く、という手順を踏まなければ確認できないとなるとメンテナンス等が出来ない事になりますが」
坂野はその質問を待ってましたという姿勢でモニタに向きなおす。
「そこで、掃除道具だけ搬入させてもらって探索者に自主的に掃除してもらえるようにしてあります。掃除した様子をスマホで撮影してもらい、綺麗になっている状態が確認できればエレベーター代の補填としていくらかギルドから出す、というかたちで常設依頼を置く形になりました。複数の探索者に一日に依頼達成されてもいいような金額にしてますし二十一層に立ち寄るついでに自主的に掃除もしてもらえるように、という探索者の良心に訴えかけることになりますが今のところは綺麗に扱ってもらっているようですし、妙なものを奉納したりする探索者も今のところいないようです」
「もしかして、なんだが。その特定の探索者ってのは熊本第二ダンジョンのダンジョンマスターとも面識があるのでは? こっちでの話で酒を肴に聞きだしたところ、小西ダンジョンの探索者からどういうダンジョンを作るほうが面白そうかという話で相談をしたことがあると言っていました」
熊本第二ダンジョンのギルドマスターから質問がなされた。
「多分、ですが同一人物かと。去年この月例報告に参加してもらった彼らのことかと思います」
「やはりか。だとすると今の熊本第二ダンジョンが妙ちくりんな構成のダンジョンとして再稼働を始めたのは彼らのおかげ、ということになりますな」
「その件については私にも直接連絡が届いたことがあるね。ダンジョンマスター側にこちらの通信規格について教えることでダンジョン内でも通信ができるようにならないか、ということで私にもこっそりやってたようだよ。尤も、途中でちゃんと報告しに来たのでおとがめは無し、ということになったが。どうやら通信ができるようになったことでこちらを驚かせる算段でもしていたようだね」
真中が会話に乱入する。
「ということは、真中長官は熊本第二ダンジョンが再設置された段階で通信ができるようになっていることを知っていたということですか? ずるいなー自分だけ知っててニヤニヤしてたってことですか」
「そういうわけでもないんだ。実際にどの段階で何処のダンジョンが設置されたところで通信ができるようになるかまでは解らなかったし、こっそり忍びこんで生配信されるまでは本当にできるかどうかは解らなかったんだ。それに、事前に通信できるようになっていることを公表することは出来なかった。なんで通信できるとかそんなことまで知ってるんだ、なんて突っ込まれたら言い訳のしようが無かった。当時はダンジョンマスターについてまだ緘口令が敷かれている時期だったし、どうしてもこちらから公開する、という形にはできなかったんだよ」
何だよ知ってたのかよーという空気が場を支配する。
「ということはこれからのダンジョンはみんな通信ができるのがスタンダードになっていくんですかね」
「熊本第二ダンジョンをモデルに作っていくならそうなるだろうね。ドロップ品やモンスターを選択して配置、ドロップさせることができるようになったという知識が我々にもたらされたのは良いところかな。他のダンジョンが出来る際にも、海外も含めて今後を考えていくなら他の国で活動してるダンジョンマスターも参考にしに来るかもしれないし、しばらくいろんな話題を振りまいてはくれそうだよね」
話し合いはいつもより一時間延びる形になった。ほぼ雑談と言いつつかなり重要なことを話し合っているのは事実である。今日も仲良くギルドマスター会議は終わった。
作者からのお願い
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