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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第二章:出来ればおじさんは目立ちたくない

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110:未完成の地図

六百五十万PVありがとうございます。

感想はちゃんと読んでます。

いつもありがとうございます。

 



「これ、地図って呼んでいい代物なのかなぁ」

「なんていうか、落書きというか書きかけというか」


 六層の地図は、目標物となる木が三本と、階段である所の岩が二個書かれただけの簡素と言わざるを得ない物だった。これだけ描いてあれば間違わずに七層向かえるんだからこれでいいだろ、という制作者の投げやりな意図を感じた。それならせめて各間隔の所要時間位添えておいてほしかった。


「小寺さんたち、これでよく七層にたどり着いたな」


 たしかに、目に見える範囲には木が一本しかない。これを辿るしかないんだろう。一本の木しか見えないので迷い様も無く、視界を常に取りながら木に向かって歩いていく。すると、二本目の木が見え始めた。


「あれですかね、二本目」

「一応一本目にギリギリまで近寄ってみよう」


 一本目の木に止まっているダーククロウが感知しない範囲で近づく。すると、もう一本木が見え始めた。地図の向きとこちらが向かう方向から言って、地図に描いてない木がもう一本存在するようだ。


「あの木って地図に無いですよね」

「あの木は描いてない木だな。描き足しておこう」


 地図に木を書き足して、ついでに順路を描き記していく。こうして地図は出来上がっていくのか。今度六層に来るときはもう少し詳細な地図を持ちたいもんだ。順路に従って二本目の木へ向かう。


「あれ、一本目のダーククロウは無視ですか? 」

「行きながら全部相手すると到着遅れそうでな。時間には余裕を持っていきたい」

「帰りに処理する感じで」

「そうそう、門限ギリギリを攻めるようなことしてもしょうがないしな」


 小西ダンジョンの門限は十九時だ。別にギリギリまで探索する義務を負っている訳でもないんだから、メインミッションである七層が覗ければそれで充分である。


 二本目の木に徐々に近づいていくと、その木は葉が生い茂っていた。このサバンナエリアで木に葉が生い茂るという事は、ダーククロウがそれだけの量ひしめき合っているという事である。


 ワイルドボアの集団が来た。九匹ほどだ。


 俺は正面から来たら受け止めたグラディウスで殴る。斜めから来たら回避。

 文月さんは正面から来たら槍でそのまま貫き、斜めから来たら横っ面をはたきながら回避して次の一手で止めをさす。


 この動きがパターン化できているので、よほどの数が同時に来ない限りは対処できている。ワイルドボアの魔結晶を三つ、肉を二つ手に入れた。


「で、二本目の木までたどり着いたわけですが、あの量どうします? 」

「あー、あれ以上の量のダーククロウ、俺清州で潮干狩りしたわ」

「何をどうしたらダーククロウを潮干狩りするんですか」

「九層に逃げ込むように走りこんできた探索者がいてさ、八層と九層の間に詰まってたのよ、ダーククロウがみつしりと」

「この間一層でスライムがみつしりしてたような感じで? 」


 つい二日か三日前の話なのに懐かしく感じるな。


「そうそう。んで、グラディウス振り回すより熊手振り回すほうが早くて安くて助かるなって」

「はー。また見てないところで無茶しますね」

「んで、七層に戻って俺が羽根を引き受けて、代わりに同額分ぐらいの魔結晶渡して持ち帰ってきた」

「その結果どのくらい羽根取れたんですか? 」

「三キログラム分ぐらいあったかな」


 手で体積を表現してみる。


「よくバッグに入りましたね」

「エコバッグ取り出してそれにも詰めたし、テント入れてある袋に無理やり押し込んだし……」

「査定大変だったでしょうねえ」

「嵩のあるものが探索者にあまり喜ばれない理由が分かったつもりになったよ」

「今ならだれも見てないので詰め込み放題ですが」


 今は良いんだよなぁ。保管庫スキル見てる人居ないから詰め込み放題だし。


「問題は三層に行く前に詰め替えないと怪しまれる事かなぁ。希少スキル持ちは苦労するよ」

「今度何か希少スキル出たらこっちに食わせてこの苦しみを味わわせてやろうとか思ってませんよね」


 他愛もない話をしつつ三本目の木に向かう。道中ワイルドボアの大群に襲われたが、数が多いだけで同時に突っ込んでくるわけではない。間髪入れずにいつもの行動を繰り返すだけでワイルドボアは黒い粒子になり消滅していった。


 これで更にボア肉三つと魔結晶三つを回収した。そろそろ革が落ちそうな乱数をしている。更にワイルドボアの襲撃をもう一度受け、ボア肉三つと革を回収。無事に三本目の木にたどり着いた。


「あの岩だな」

「あの岩ですね」


 木の向こう側十時方向ぐらいに岩が見えている。七層への階段だろう。三本目の木には一羽もダーククロウが居なかった。これは先客がいるのかな?


「先客が居るかもしれないな、ダーククロウが一羽も居ない」

「たまたま……ってほど甘くないですよね」

「まぁ楽が出来るならいいか」

「本番は帰り道にってことで行きましょう」


 階段のある岩に向かって進む。十分ほど歩いたがその間襲撃を受けることも無く岩にたどり着いた。幸運だが不運かもしれない。帰りはわんさか来てくれると便利でいいな。


「最後の木から岩までは近かったですね」

「だからリポップしてない可能性がある。もしかしたらギリギリ見えない位置で移動してたパーティーがあるのかもな」

「じゃぁ七層で鉢合わせするかもしれないですね」


 他のパーティーに出会う前に覚悟というか挨拶をする準備と言うか、そういうものが必要になるだろう。


「会ったら礼儀正しく、な」

「その辺は大丈夫ですよ。安村さんこそどうも潮干狩りおじさんですとか自己紹介しませんよね」

「自分から言い出したことはあんまりない」


 あんまりないはずだ。ないはずだ。


「まぁ、中に入ればわかる事だしとっとと行きますか」

「そうしよう。どのくらい何もないか清州の七層と比較したい」


 さて、スライムが一匹も居ない七層を拝みに行きますか。


 俺と文月さんは階段を下りていく。五層から六層の階段より若干長く感じた。

 たどり着いた七層は、予想よりもちょっと賑わっていた。


 テントがある! 人がいる! これだけでも驚きである。さっきまで無人の荒野を歩いてきたのが嘘のようだった。


 六層側の入り口には、バス停みたいな簡素な立て札に「ゴミは各自で必ず持ち帰ってください」と書いてある。まだ風化している様子がないあたり、ここでは風化しないのかそれとも最近立てられたものであるかちょっと解らない。


「思ったより何かありましたね」

「もっと何もないと思ってた」


 幾らなんでも小西ダンジョンに失礼ではないかという態度かもしれないが、実際四層から先探索者をここまで見つけなかったのだからイメージは間違ってないはずだった。


「ちょっと散策してから一休憩入れるか」

「テントの中には人居るんですかね」

「それも含めて見回るのさ」


 官民共同ダンジョンではないので、清州ダンジョンのようなどでかいテントは無い。キャンプブームが始まる前のキャンプ場のような、寂れたという表現が似合う様相を呈している。


 七層にも地図が必要なんじゃないか?と思うぐらい何もない。きっとあのバス停が無かったらどっちが六層側の階段なのか解らないぐらいであろう。


 清州ダンジョンみたいに商売人屋台と官用テントと一般用の敷地に分かれている訳でもなく、ただテントが四つ、ぽつんと存在するだけのだだっ広い空間がそこにある。


 本当に人が居るんだろうか? 試しに一番近いテントに近寄ってみる。


「二、三日中に戻ります 田中」と看板が出ていた。このテントの持ち主は田中さんと言うらしい。


 人が居なさすぎて逆に治安がいいのだろう。立てっぱなしで地上へ買い出しにでも行ったのか、無人のテントがあるだけだった。もしかして、残りもそんな感じなのか?


「あれ、潮干狩りおじさんじゃないですか」


 と、テントを覗いてうろついていると声を掛けられる。振り向いて顔を確認する。


「あ~、動画取ってた! 」


 誰であろう、俺の潮干狩りの様子を動画にとってネット上にアップして、再生回数を稼いでいた青年だった。久しぶり。


「お久しぶりです。七層観光ですか」

「そんなところ。清州の七層に潜れたんで、こっちも来れないかなと」

「よく二人で来れましたね。六層の途中で引き返してしまう人、小西だと居るんですよ」

「地図も適当だし、たどり着くのは結構骨が折れるね」

「あれ、僕が描いたんですよ」


 犯人居た! 適当な地図描いた犯人目の前にいた!


「ちなみに僕がそのテントの持ち主の田中です」


 犯人は田中。俺覚えた。


「ここに一本木があったと思うんだけど」


 手書きで修正した地図を見せる。


「あぁ、ってことは僕が最初に地図提出してから誰も更新してないって事ですね」

「やっぱりそういう事か……あまりに目印が少なくて辟易してたんだ」

「基本的に地図って公的機関が探索しない限り探索者の手作りのつけ足しで出来てるので、誰も更新しなかったらそのまんまなんですよ」

「つまり、この地図でみんなここまで来れてるのか。ある意味すげえな」

「あれで十分なんでしょう。なにせ小西ダンジョンですし」


 なにせ小西ダンジョンですし。そうだな、なにせ小西ダンジョンだししょうがないよな。


「で、安村さんは一泊していくんですか? 」

「相棒が明日朝から用事があるんで、今日は散歩みたいなもんかなぁ」

「散歩で七層まで来る人、清州でもそう居ないと思うんですが大分強くなりましたね」

「まぁ、色々あったからね」


 そう、本当に色々あったなぁ。ステータスを理解できたしスキルも出たし清州でソロキャンもした。その間にいくらかのモンスターを倒しいくらかのスライムを潮干狩りした。


「とりあえず休憩して、それから出発かな」


 バッグから椅子とエアマットを取り出す。エアマットをササっと膨らませると、文月さんが早速横になる。エアマットの上で軽くゴロゴロした後、満足したのか今度は椅子に座った。


「安村さん、冷えてるの一丁! 」

「あいよ」


 降りてくる前に言ってたとおり、保管庫からバッグにアイスバッグを移しアイスバッグをバッグから取り出す。保管庫に入ってたのでまだキンキンに冷えている。そこからコーラを取り出すと文月さんに渡す。自分も飲みかけのミネラルウォーターを取り出す。


「かぁ~っ! 疲れた体に沁みるわ~これ」

「オッサン臭いぞ」

「いいんですよ美味しいものは美味しいんだから」


 冷えたコーラを飲んでいる文月さんの様子を見て、田中君が羨ましそうにしていた。そして切り出す。


「冷えた水とコーラ。ワイルドボアの魔結晶と交換しません? 」

「コーラと水どっちがいい? 」

「コーラで! 」


 田中君との取引も成立した。コーラ一本が五百円少々で売れた瞬間である。やはり富士山八合目価格は頼もしい。利用すまいと思っていたが向こうから申し出てきたので受けよう。俺は強制していないからな。


「ふ~、小西の七層で冷えたコーラが飲めるとは思いませんでした。重くなかったですか? 」

「ここで冷えた飲み物を用意する為だけに背負ってきた」

「趣味全開って感じでいいですね。安村さんらしい」

「清州ダンジョンなら売れるんだけどね、ここだと買う人そのものが居ないと思ってたから全部自分達用に持ってきた」


 そういいつつカロリーバーを取り出し、サクサクと食べ始める。


「あ、それ三勢食品のですね。バニラ味僕も欲しかったんですけど買えなかったんですよ」

「スライム狩ってるようには見えないけど、必要? 」

「安村さんこそ、スライムに食わせて儲ける算段はしないんですか? 」

「う~ん、そこまで収入増えないからなぁ。一日潜ればそれなりに稼げてしまうし」

「七層まで来る実力があればスライム必死に追いかけるより稼げますからね」


 それなら四層でも十分な稼ぎになるぞ。むしろ四層のほうが多い。ゴブリンのくれるヒールポーションはかなりの収入源だ。


「だから、七層まで逃げてきたという理由もある」

「じゃぁ、宿泊セットは一応持ってきてるんですねえ」

「まあね。文月さんとダンジョン内で合流するまで、一泊するつもりだったから」

「じゃぁ野菜とか持ってきてたりします? 良かったら買い取りますよ」

「いいのかい? 」

「僕は二泊ぐらいする予定なんで、食品はあればあるだけ嬉しいですね。楽しみも増えますし」


 アイスバッグの中に緩衝材代わりに入れていた刻み野菜のパックを渡す。


「お代はどうしましょう? 」

「さっきのコーラ分と込みでいいよ。高いものでもないし」

「やった、今日は肉野菜炒めが食える」

「あーそれ俺が宿泊する時に作ろうとしてた奴だ」


 ネタが被ってしまった、という感じになる。ちょっと悔しい。


「シンプルで美味しいんですよね。ボア肉と合わせるとカロリーもしっかりとれるし」

「後米があれば最高だな」

「米は持ってきてますよ。パックの奴を」


 二人してキャンプ話で盛り上がる。文月さんはまだコーラの余韻に浸っている。もう少しぐらいいいだろう。


「とりあえず三十分ぐらい休憩したら六層に帰りますよ」

「十分注意してくださいね。特にダーククロウには」

「道中かなり集まってる箇所がありましたね」

「えぇ、さすがにあの数は相手にできないので避けて通り抜けるほうが安全でいいかと」

「ご忠告感謝します。何とか抜け出して見せますよ」


 田中さんは自分のテントに戻っていく。おそらく昼食を作るのだろう。火をつける準備を始めたようだ。


「こっちもボア肉でも焼いて食べる? タタキが美味しかったけど」

「それも良いですが、時間的にまだ大丈夫ですか」

「今十三時半だから、五時間あれば帰れるでしょ」


 こっちもバーナーの火を起こし、ササっとスキレットを加熱する。加熱したところに塩コショウしたボア肉を投入。表面を強めに焼いていく。表面に焼き色が付いたところで一旦スキレットからまな板に移し、表面を切って中の様子を確認する。


 良い感じに出来上がっている。清州で作ったタタキと同じぐらいの出来だ。ナイフで切り分け文月さんに渡す。


「さぁ召し上がれ。お代わりはないけど」

「いただきます……美味しー」

「それは何より」


 俺もボア肉のタタキを食べ始める。そういえば醤油忘れてたな。まぁ美味しいからいいか。あっという間に二人とも食事を終える。


 スキレットをペットボトルに入れた水でササっと洗うと、バッグに仕舞う。今日は皿すら使わなかった。椅子とエアマットを片付けると、もう帰る準備は万端だ。


「さて、じゃぁ俺たちは帰りますね。十分お気をつけて」

「そちらもお気をつけて。帰りはダーククロウもリポップしてるはずなんで集団で襲われないようにしてくださいね」

「お気遣いどうも。では」


 七層を離れ、再び六層へ舞い戻る。小西はやはり小西だった。そういう感想である。もっと人が増えると良いんだけどな。



作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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[一言] せっかく持ってきたんだから、テント一式設置していけば? 二人分かは兎も角。 読み直し中でも思った。
[一言] もしかしてダーククロウが試練?になっているのか…。 恐るべしダーククロウ。
[気になる点] >七層を離れ、再び六層へ舞い戻る。小西はやはり小西だった。そういう感想である。もっと人が増えると良いんだけどな。 人が増えたら増えたで獲物の取り合いになってしまうのでは? 混雑した潮…
2022/10/19 10:59 退会済み
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