1098:合格可否
ダンジョンで潮干狩りを
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「なるほど、そういう経緯で常設依頼ですか。一日に複数回目撃される内容でもありますし、それで千円はギルドの出費としては痛いかもしれませんがその分は私たちが稼いでいますし、そのぐらいでダンジョンマスターの機嫌が伺えるなら一日に何回報酬を支払ってもおつりは来ることにはなるでしょうね」
次の日、いつも通り五十六層へ向かうエレベーターの中で芽生さんと雑談。昨日の祭壇の掃除の話について共有しておく。自分たちも千円欲しいとかではなく、そういうシステムが出来上がっているので祭壇で何か見かけても問題ないし、わざわざ自分たちが出掛けなくても誰かが掃除してくれている、ということをギルドのほうで確認してもらえるのは大事だという話をしておく。
「自治の一つの形としてはありだとは思ったんでBCランクの小遣い稼ぎというかエレベーター代の節約としてもちょっとしたものになるしな。それに定期的に手入れというわけではないが掃除する機会はないよりはあったほうがいいし、変なものを祭壇に供えて無理やりミルコに渡そうとしたり酔った勢いで酒なんかを奉納しても困るからな。その点、ギルドとして綺麗にしておいてくれと依頼しておけばよほどのことがない限りは安心安全で過ごせると思う」
「手放しでもある程度大丈夫な環境が整えられてくれるのはありがたいことですねえ。ミルコ君へのお供え物も自分で今まで賄ってきた分を分散してくれることになりますから。でも大丈夫ですかねえ、お供え物されすぎてミルコ君太ったりしませんかねえ」
一日一回しかお供えが出ない、というわけではない。複数のパーティーが最初は物珍しさ目当てで奉納しに来る者も居るだろうし、ゲン担ぎとして毎回お供えしてから出かけるパーティーも居るだろう。そういう意味では神社を一つ建立したのと同じか。
「前に太らないって言ってた気がするし大丈夫じゃないかな。コーラも冷え冷えじゃなくても自分で冷やして飲み頃で楽しむぐらいはしてるだろうし」
「まあ、ダンジョンマスターなら物を温めたり冷やしたりは自由に出来そうですが、飲み頃というのを教えてあげるのも必要かもしれませんね。キンキンに冷えたコーラは大事ですからね」
流石に二十一層まで全員にキンキンに冷えたコーラをお供えしてその場ですぐに二拍して回収させろと無理強いするわけにもいかないからな。その点はミルコの飲み頃を探す努力と楽しんでくれているであろうお菓子の山で納得してほしいものだ。
「まあ、その分顔見せする回数も減るかもしれないが、ダンジョンを無事に作ってくれると思って大人しく日々の糧を稼ぎにいくとしよう」
「そうですね。今はひたすら時間を稼いで、お金を稼いで、指輪も数を集めて一気に個数を要求されても問題ないように手筈を整えておきますか」
「そういえばそっちはどうだったんだ。ちゃんと通知は来たのか? 」
芽生さんが依頼内容について相談したその場に居なかったのは公務員試験の二次試験の結果が到着するかどうかの確認のためである。落ちたら落ちたで家庭に入るとは言っていたものの、せっかく受けた試験、合格しているならそのほうが良い。社会勉強としても大事だ。
「はい、芽生ちゃん無事に合格しました。この調子なら四月から国家公務員です」
腰に片手を当ててブイサインを決めて合格報告をしてくれた。胸を張って堂々としている様は頼もしいというよりもかわいい。
「それは何よりだ。公僕として任務を忠実にこなしていってもらいたい」
「またダンジョン庁訪問して今後について打ち合わせをすることになるとは思いますのでちょこちょこお出かけする機会は増えると思いますが、その時はちゃんと一報入れるのでよろしくお願いします」
「さてそうなると、今後どうしていくかの相談もしないとな。一応保管庫内緒契約は三月までだ。契約更新はそのあたりの情報が出そろってからでも遅くはないな」
今後たとえば他のダンジョンに潜らなければいけないとか、研修のために東京方面のダンジョンに潜る必要が出て来るとか、仕事の都合で転勤……なんて可能性もある。その時俺もついていくかどうか、それとも一時的に別行動としておいて、後日自由が得られた時に合流するのかなど、考えることは色々ある。
「そうですね、私だけ特別に……とわがままを言える立場では無いのは理解してます。もし他のダンジョンに飛ばされて他の同僚とパーティーを組んで行動、となると洋一さんを呼び寄せて一緒に潜ってもらう必要性は薄れますからその場合は出張みたいな形になるとは思いますが、もし実力が乖離しすぎてるので一人で潜って帰ってこい、というような場合には一緒に来てほしいとお願いすることになるかもしれません」
今解ってる情報だけですべて語りつくすことはできないが、ちゃんと自分の立場をわきまえて、理解してその中で最善手を取ろうとする姿勢はあるらしい。
「そうですね……まずは真中長官の本心というか考えというか、何のために自前の部隊……米軍で言う所の海兵隊みたいなものですかね。それを持とうとしているのか。その辺を教えてもらうことが必要でしょうね。ただ自分の動かしたいように動かせるコマが欲しいのか、それともギルド税以上のものを自分の懐に入れるために組織するのか、それとも特定のドロップ品の需要を満たさせるために行動させるのか。今のところそのあたりが伝わってくるような話は無いのですが探りを入れて情報を共有しましょう。その上でどう動けば、どう意見すれば真中長官が納得する、もしくはより良い意見として受け入れてもらえるのかを考えなければいけません」
D部隊以外にダンジョン攻略パーティーを公的機関の中に持ち始めるのか、か。そういえば何でか、という核心の部分について聞いたことは無かったな。俺は年齢的に今更公務員というわけにもいかないだろうし収入も減るだろうし、なかなか難しい所だろう。
ただ芽生さんはまだかろうじて方向修正が利くのでその辺をうまく調整できるような仕組みを何か考えているのか、その辺をよく知りたいところだ。大事な相棒でありパートナーであるところの進路相談だ、ちょっとぐらい親心みたいなものが混じってしまっても仕方がないだろうな。
「しかし、実際問題何する部署なんですかねえ。面接待ちの間に少し話をしましたが、ダンジョンに潜ったことが無い人材も結構居ましたし、やっぱりダンジョン庁というくくりで募集したものの、実際は裏方仕事に徹する子たちと表舞台でダンジョンに潜っていく人たちと、それぞれ違うんでしょうか」
「ふむ……たしかにここ一ヶ月のダンジョン庁の忙しさを考えたら人員配置をし直す意味でも人手は必要だろうし、横のつながりで商社や企業に顔が利きそうな人物を雇ったりすることもあるだろうけど、芽生さんの場合はどういう……この際育成方針という言い方をするが、どうやってOJTというかダンジョンに関わっていくかは謎のまんまだな。最悪芽生さん一人放置されて一人で潜ってきてなんて事にもなりかねないし」
「それはさすがに困りますねえ。その場合は小西ダンジョンに所属を移してでも洋一さんに頼ることにしましょう。契約更新ですよ。ダンジョン庁をやめるか洋一さんが体力的に探索者が出来なくなるまで一緒に潜るという形のほうがダンジョンにもダンジョン庁にも私たちの財布にも悪影響を及ぼさなくて済むはずです」
最悪の場合ダンジョン内での行動はすべてダンジョン庁の収入として確保されるような場合だったら全額俺の収入にしてしまおう、という腹づもりのようだ。
「しかし、その仮定で話を進めていくとそうなると芽生さんの評価というものが非常に低いものにならんか? 」
「そこはほら、適度に私がもらっていくことでごまかすという形で一つ」
「今現在の収入状況はダンジョン庁に筒抜けなんだから、いきなり収入が減ったら気が付くとは思うし、紐づけみたいな形になってる俺の収入が増えたらそこからバレていくんじゃないかと思うんだが」
芽生さんは腕を組んで考え始めた。やはり収入の点で譲れないものはあるらしい。今年でさえ既に夏休みだけでも二十億近い収入を得ている芽生さんなのである。それがただの公務員給与で満足するはずがないし、そもそも最初のスカウトの段階で真中長官は実際にダンジョンで金儲けしながら給料受け取らない? と言いだしてきているのである。その辺はうまくやるような仕組みを確立しているとは思っている。
探索者が副業になるかどうかが焦点、というところだろう。
「やっぱり内定なしってことにはならないですよね? 稼げないならわざわざ公務員になる意味がないような気がしてきました」
「ここまでお膳立てしてもらっているのだから少額ではないとはいえ、金の話で揉めるのは厳しいと思うぞ。もう一生分以上稼いでいるんだからそのぐらい日本国に貢献しろ、と言い出す官僚の二、三百人は居るだろうしな。まあ、長官直々のスカウトがあった時も金稼ぎながら公務員しない? と言い出してはいる訳だし、問題化してから解決法を見つけ出すというのも一つだ。実際に収入を得ながら探索者兼公務員として働いて、何で公務員が副業してるんだ問題だろ、って話題が吹き上がってから実際に周りがどう動いてくれるかを考えるでもいいさ、まだ時間は半年以上ある」
問題というのは実際の運用を開始してから起きるものだ。今のうちに出来る限りのことをして問題を洗いざらい上げておいていざ問題が発生したら事前対策で、事前対策外の問題が出たらその時に対応してマニュアルを刷新していく、という形になるだろうとは予想している。芽生さんの収入不安は織り込み済みなのかどうなのか、その辺はどう考えているのだろうか。
もしかしたら問題が起きるのをあえて待ち望んで、そこから対応を迫っていく、という半ば脅しみたいなやり方で探索者の立場を保証するような仕組みを作るのかもしれないが、そここそ真中長官がどうしたいか、という部分にかかってくるだろうな。
「そうですね、実際にどうするか、どうなるか、どうしていきたいのか。それを決めるのも私たちってことになりますか。先送りしても問題なさそうなのでこの話題はこの辺にしておきましょう」
「というわけで今日も指輪を一個、出来れば二個、確保しに行こうじゃないか」
「おー」
というわけで五十六層に到着。いつも通りリヤカーをその辺に放置し……うん、他にも二台リヤカーがある。結衣さん達も高橋さん達もちゃんと探索活動に勤しんでいるようだ。
そういえば、高橋さん達の目線から見て、ダンジョン庁長官直下の探索者というのはどういう風に目に映るんだろうな。自分たちの仕事が減って通常業務に戻れると考えるのか、ダンジョン探索という楽しみを奪われるかもしれないと考えるのか。
高橋さん達の給与体系も気になるな。ダンジョンは一応極地扱いだから日本国内に居るけど出張手当がつくとか、賞与に今までギルド経由で防衛省に納めた金額のいくらかがキックバックされるような仕組みになっているとか、ちゃんと休暇は取れているのかどうかとか。そういう内情を俺はまだ何も知らないな。ネットで探せばそういうのは出てくるものなのだろうか。
仕事を始める前に気になることが増えてしまった。いかんいかん、集中するようにしないとな。集中してる時のほうが色んなもののドロップ率は高い傾向が俺にはある。よそごとを考えていると大抵希望はかなわない。今日も目的の指輪を探しに今から潜ってドロップさせるには考え事はいったん横にのけておいて、探索のことだけを考えるようにしよう。
しかし、高橋さん達ちゃんと今の給与で納得して活動しているんだろうか、という点に関しては頭から抜けず、昼食をとるタイミングまで頭をもやもやとさせたままだった。そのおかげか、午前中はポーションのドロップもあまり好調ではなく、いまいちな稼ぎを記録することになった。
午後からは集中しよう。本番はこれからなんだからここからの稼ぎですべてが変わってくる。
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