1097:掃除屋21
ここからまた新章です、よろしくお願いします。
ダンジョンで潮干狩りを
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「祭壇の定期メンテナンス、ですか」
「ざっくり言うとそうなる。頼めるのが君らぐらいだからお願いするんだけどね」
朝、いつもの時間にダンジョンに来て、さぁ今日も気持ちよく探索をするかというところで受付でギルマスから呼び出しがあったことを告げられる。
「とりあえずギルマスのところへお願いしますね。細かいことはそちらで相談お願いします。こちらでは安村さんが到着次第来てもらうようにと言伝しか預かっておりませんので」
なんだろう? とギルドの二階のギルマスの部屋で来て見て開口一番がこれである。ちなみに芽生さんは今日明日あたりに二次試験の結果が届くだろうとかで、念のため休みにしたらしい。俺も休みでも良かったんだが、最近やることはやり切ってしまって家に居ても暇なので一人でのこのことやってきたところを捕獲されたということだ。
いつも通りよっこいせとソファーに座るとギルマスもこっちに来て座り始めた。一応書類も用意してあるので、ギルドからのクエスト、という形にはなるらしい。
「完全に探索者の自己の精神に任せてるとはいえ、ミルコ君にお供え物をする場所が汚かったりすると失礼にあたるし、そんな所に置いてある食べ物を自由に持って行ってくれていいと言っても具体的にどのくらい綺麗にすればいいのか、あたりも考えると安村さんの考える清潔レベルでいいから定期的に綺麗にしてほしいというところなんだけどね」
「今更って感じはしますが、ダンジョンマスターが存在すること、そしてお菓子とコーラとミントタブレットを喜んで受け取ってくれることはこのダンジョンにおいては、ですが周知の事実です。むしろ、掃除してきてくれたのを写真に収めて提出することで定期的なギルドからのクエストとして全体に周知して、行いたいものが行うような形にすればいいんじゃないですかね? 」
わざわざ俺の手間を省くために、そしてダンジョンマスターというものを自分の都合で私有していないということを証明するためにこういうシステムを作ったのだ。それが掃除まで俺がやらなければならないとなったらせっかくのお膳立てが台無しである。
「正直、掃除をするのもゴミの片づけをするのも苦ではないです。ただ今の自分の稼ぎからするとその掃除やメンテナンスの間にいくらギルド税を稼ぎあげるかどうかを考えると、そこの部分をダンジョンマスターについて深く知っているパーティーの間で秘匿しておくより、みんなのダンジョンマスターなんだからみんなで綺麗にしていく、という形にしておいたほうが良いと思うんですが」
「なるほど、そういう考え方のほうが合理的、か。確かに言われる通りかもしれんな。具体的にどのぐらいという形でハッキリ出せる話ではないが、Bランクになりたい探索者にとっては得点稼ぎとしていくらかの便宜を図ってやってもいいかもしれんな。うん、そのほうが前向きに努力してくれるような気がするし、掃除のついでにお供え物をして帰って来れるようになっているのは悪くない話だな」
どうやら掃除洗濯を押し付けられる事態は回避できそうだ。ギルマスは書面に目を通して直すべきところをチェックしてはペンで記入している。
「そういえば今更なんだが、なんで二十一層に設置したのかを疑問視する声も出ているそうだよ。どうせみんなが知ってることなら七層でも良かったんじゃないか、とか」
たしかに、万人向けに開放するなら七層のほうがより多くの人に訪れてもらうことができるのは間違いない。ただ、小西ダンジョンの現状と探索者の腕を考えるに、七層に置くよりも二十一層に置く方が色々と理屈付けができるのは確かだ。
「七層は今では通過点ですからね。理由なくわざわざ七層にまでお供え物を届けに来るのは面倒でしょうし、その点二十一層はBランクでもCランクでも通りかかる場所ではありますから、ダンジョンの人口密度の都合上あそこにした、というのが正しいでしょうね。二十八層だとBランク以上が独占という話になりますからそれはそれで反発を招くでしょう? 」
どうせちょうど良いところを見つけて着地点としておかねばならないのだ。なら、十五層でゴブリンキングを倒してダンジョンマスターとの謁見権利が発生するという所を考えても、そこより奥には設置されていてもおかしくない、という辺りが俺の目の付け所だ。
「確かに。そういう点ではCランク以上なら誰でもアクセスできる二十一層のほうがより都合が良かった、ということだろうかね? 」
「おおよそそんなところです。じゃあDランクはどうしたらいいのか? という点では、上から目線で申し訳ないのですが頑張ってCランクになってゴブリンキングを倒してエレベーターを使えるようにして、それからよそ事に手を出せるようになってほしい、というのが個人的な意見ですね」
「ちゃんと二十一層であることも理由があったんだねえ。そういう目線で言うならば、CランクBランクを目指すにも目標や目的が有ったほうがよりやる気が出るだろうし、さっきの意見は確かに自分たちがCランクBランクであるという自覚も芽生えるだろうし、こっちからははたきと雑巾あたりを用意しておけばそれで充分かな? 」
一応掃除をするという名目というか、そういう気概はあるんだぞ、というポーズはとらなきゃいけないからな。そういう意味で掃除用具を設置しておくぐらいのことはしておいたほうが良いだろう。
「そうですね、所詮プラスチックの机にそこそこ安物の祭壇ですからこまめにする必要もなく、気になる人が居たら掃除してあげてぐらいの気持ちで良いんじゃないでしょうか。おそらくダンジョンの性質上ホコリなんかも積もりにくいでしょうし、誰かがうっかり祭壇を汚してしまっても掃除するための道具としてはそれだけあれば充分かと。後で何か問題が出た際はその時に順次対応していくということでいいんじゃないでしょうか」
「そうしようかね。費用はこっちで持つから適当にそれっぽいものを用意しておくから、準備できたら掃除用具の運搬だけ頼んでもいいかな? 」
「それぐらいなら喜んでやりますよ。準備できたらいつでも声をかけられるようにしておいてください」
ここまで言われると祭壇がどんな状態になっているかは気になるな。今からちょっと見に行くか。どうせ今日もお供え物はするんだし、本当に清掃が必要になっているのかどうか確認しないといけない。実際に掃除としてどんなものが必要になるのかを確認するためにも、一旦確認しておくことは必要だろう。
「とりあえず現地確認だけ頼んでもいいかな? 本当に掃除が必要かどうかはともかく、ちゃんと運用されているかは大事だし、変なものを置いたりしてないかどうかのチェックは必要だと思うからね」
たしかに、食いかけのラーメンだったり焼肉のおすそ分けだったり、そういうものは置かないようにと祭壇のところに据え付けたマニュアルには記載してあるが、すべての探索者が読んでいるとは言い切れない。比較的治安の良いとされる小西ダンジョンでも一人二人そういう奴が出てこないということはまずないだろうし、ささげられているから、という理由で誰も手を付けずにそのまま冷めてしまったりカビが生えたり、放置されている可能性を考えると早めに手を打っておくことは悪くない。
「じゃあ、この紙は常設依頼という形で貼り付けておくことにしよう。ギルドとしても、ダンジョンの特定の場所だけでも定点観測できるようになるという意味では大きな第一歩だ。熊本第二ダンジョンほど自由にダンジョンの中を覗けるわけではないけど、毎日とは言わず定期的に情報が上がってくるのは大事だ。ついでにどんなものが供えられていたかをチェックできればより面白いかなあ」
ギルマスは書類を取り上げるとペンで記載されている内容を書き直している。BCランク向けのクエスト……というほどでもないが、みんなで使う場所はみんなで綺麗にしましょうの精神はまだ小西ダンジョンでは効果的であるらしいことを確認するためのものと考えれば、今後の運営の参考にもなる事だろう。
さて、俺もダンジョンに向かうか。
◇◆◇◆◇◆◇
再び入ダン手続き。話は終わりましたかと問われたので無事に終わりましたと報告し、受付嬢を安心させたところでいつものリヤカーを引いてまずは茂君。そしてそのまま二十一層へ下りた。
二十一層にはもう自分たちの居住地はない。代わりに今は祭壇と呼ぶには少々寂しいが、プラスチックの机の上に神道式の小さな祠を設置した。ダンジョンマスターが神様とイコールではないが、ダンジョン内に限定すればそうそう外れてもいないだろう。
ギルドの建物には「ダンジョンマスター情報」なる掲示場所が設置され、ダンジョンマスターの名前や特徴、好物について記載されている。町おこしのキャラクターの等身大パネル……というところまではいかないが、身長このぐらい、という記載はされているものの、ギルマスの不確かな情報が元なので多少ぐらつきがあると思う。実際に身長測らせてくれというわけにもいかないしな。
一応ミルコには好きに出たり出なかったりしてもいいよとは伝えてあるものの、目撃情報がそれほど出回っていない所を見るとダンジョンマスター間の取り決めみたいなものがあってそうそう一般探索者の目の前に出ないように、という形なのだろう。俺の前にちょこちょこ出てくるのは【保管庫】の所持者であり、他のダンジョンマスターからも監視が出来るという情報が俺にまで伝わっているから、いわばみんな知ってるからセーフ的な所があるんだろう。今こうして祭壇の前に向かっているところも誰かに目撃されているのは間違いない。戦闘シーンじゃなくて日常シーンの一コマ、という形か。
階段を登り切り、前に自分たちのテントがあった場所に祭壇は設置……というより割と乱雑に置かれていた。パッと見るが、その間に汚れていたり変なものが置かれている、という様子はない。どうやらちゃんとマニュアルを読んで、その範囲で物のやり取りをしておいているようだ。
祭壇を確認すると、自分のバッグから冷え冷えのコーラとミントタブレット、そしてお菓子を供え、パンパンと二拍鳴らす。
しばらくして、いつも通りシュッと消え去る。マニュアルも一緒に机の上に置いてあったが、マニュアルについてはちゃんとここに据え付けてある物なので持っていかない、という判断がされているのだろう。祠についてはどう考えられているかは解らないが、まあ机とセットで置かれたので食べ物ではないから要らない、程度の認識かもしれない。
念のため、机の上にウォッシュをかけておく。多少の汚れや塵が残っていたのか、若干の黒い粒子が発生するにとどまった。これだけ綺麗に扱われてるなら掃除も必要ないんじゃないかとも思うが、ギルドとして定点観察をしたい場所としての掃除クエストの発注、と考えれば一日に何回もクエスト達成の確認が出るんだろうけどそれを確認するのも大変そうだな。
今後支払いカウンターが少し忙しくなるだろう、という思いと共に二十一層を後にする。さて、今日は何層に潜ろうかな。久々のカニうまもいいし甘味集めも良い。さてどうするかな。
とりあえず今日は……甘味の気分だ。半地下に戻りリヤカーを持ち直すと、四十九層のボタンを押す。
五十一層をグルグルと回って甘味の補充。最近ようやくこの甘味のコストパフォーマンスの高さと危険度が周知され始め、間違ってもそのまま舐めたりしないことや現状特定の会社が買い求めてこの甘味を基にした食品事業が回りだしたらしい。
ダンジョンアイテムがちゃんと機能する形で、しかも耳目に触れる範囲で循環しだしたという所を鑑みるに、自分の仕事がきちんと周囲に活かされていると感じ取れることは悪くない。
一日にとれる個数には限界があるものの、実際に食品として使う際には何十万倍にも希釈して扱われるものだから、実際問題査定価格はかなり安いんではないかという疑問が湧く。
しかし、実際に甘味として利用できるように実験、確認、そして実食し、食品材料として扱っていく間には何十人もの手を渡って利用されていくのだとしたら、最初の値段としてはこのぐらいのものなのかもしれない。米だって最初に農協に納品する価格は市場価格とはかなり離れているものだしな。
とりあえず、四十九層に着いたら飯だな。まだホカホカなはずのご飯が俺を待っている。それが終わったら休憩して、今日もしっかり稼ぐぞ。
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後毎度の誤字修正、感謝しております。