1096:突撃!自分のダンジョンマスター
ダンジョンで潮干狩りを
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「さて、お話の途中ですが芽生ちゃんからご連絡です。ネタがまとまりましたんで皆さんで確認のほうをお願いしたいのですが」
芽生さんが何やらギルマスから依頼されていた情報の取りまとめが終わったらしい。全員でギルマスのパソコンの周りに集まる。
「アンケートの結果をまとめた所によりますと、一番はやっぱり名前ですね。後は性別、年齢、見た目……容姿にまつわる話が多いですねえ。多分、知らない内にすれ違っているかも、という情報が各地に流れてますのでその噂も含めての情報になるとは思いますが、どんな格好をしているかは一番気になっているところだと思われます」
芽生さんがかけても無い眼鏡をクイッとして発表する。
「他には好きな食べ物とか主な生息地……これは何層あたりに居るのか? という意見を取りまとめた言葉なので少々語弊があるかもしれませんがおおよそ外れてはいないはずです。その次が出会う手段、方法に関しての意見が集中してますね」
皆考えることは大体同じってことか。
「この中で公開できる範囲だとすると、名前と見た目と性別……あれで実は女だったとか、両方だったりとかはしないよな? 」
「一人称僕ですし、男の子? 人? でいいんじゃないですかねえ」
「後は生息地は小西ダンジョンのどこか、で良いと思うわ。実際私たちもどこにいるかはサッパリだし。ダンジョンの何処かにダンジョンマスタールームみたいなものがあってそこから色々監視したりしているのは間違いないでしょうね」
「出会う方法は……わしらは呼び掛けてお願いして気が向いたら出てきてくれるってイメージなんですがそれであってますんやろか」
「細かい用事がある時と、各セーフエリアに到着した時は自分から出向いてくれたり、そうじゃなかったりするけど。後はガンテツみたいに他のダンジョンマスターが紛れ込むこともあるからな。それについての情報は……期待されてないようだから省いても良さそうだ」
ワイワイと情報を基にして、新浜パーティーも参加しての情報の収拾となった。ここに居るのは全員ダンジョンマスターと面識がある。考える側面や方法はある程度人数が居るほうが意見も出やすいしそれぞれ考え方が違うので思ってもみなかった解決策が提示されることもある。俺とギルマスと芽生さんだけで考えるよりも広い視野で見れることだろう。
「お供え物に関する制限はどうしようね? どこでもどこからでもお供えして手を二拍したら出て来るとは言え、ダンジョンのあちこちで両手をパンパンしている構図はあまり面白くないだろうし、そのたびにミルコの手を止めることになるだろうからな。そのあたりどうするべきか、ってとこだな」
うーんと、みんなが腕を組んで頭を傾け、解決法を探す。
「何処かのセーフエリアにお供え用の祭壇を用意して、そこに並べてもらって、ミルコに好きなタイミングで持って行ってもらう、というのが着地点になりそうですな」
「そうね、一切禁止ってやるよりはまだ柔和な所になりそうだけど、問題は何処に作るかよね? 」
「場所を提供するだけなら……そうだな、二十一層と二十八層なら俺達のテントを片付けてその空きスペースに放り込むことは出来る。そういう理由ならテントを片付けて持ち帰っても問題ないし、場所も中々悪くない。最短でCランクでダンジョンマスターに出会う権利が発生することから考えても、二十一層に設置するのが良い落としどころかもしれん。ちょうどエレベーターの真上だし、一番高い所でもあるし、気分的にもダンジョンマスターに近い場所ってイメージを作り込むこともできるな。どうでしょうこの案」
ギルマスに一つの案として提しておく。まずは案有りきだし、何もないからと言ってそのまま何もしなければ、何のためのアンケートなんだよと言われるところではある。
「悪くないと私は思うよ。ただ、テントの撤去と設営の手伝いを頼むことになるけど、そこはいいのかい? 」
「まあ、二十一層に持ち込んでる荷物はエアマットとテントだけですからね。バッグに収まるサイズですし、違和感も無いかと。ただ、簡易テーブルを用意して、出来るだけ持ち運びしやすいものを用意してもらうことと、お供え物のルール作りが必要になるでしょう。生ものと賞味期限が近いもの、調理済みのもの、それからダンジョン産のドロップ品をお供えしないこと等々です。ざっくりとイメージを固めたら後はやるだけでしょうね」
「他の案は何かあるかな? 一応候補をいくつか作って真中長官に確認してもらって、これなら問題ないだろうというラインを見定めてもらう必要が出て来るね」
いくつか案が出る。二十一層ではなく三十五層ならまだ人もいないし、高山マップであることから山の上にある神社的なシチュエーションが作れてそのほうが良いとか、ただB+でないと登山できないことからあまりユーザーの意見を反映できていないのではないか、という案。
それから、そもそもダンジョンマスターにお供え物という考え自体が小西ダンジョン独自の考え方なのでそれ自体どうか、という話。とりあえずミルコの解っている範囲の個人情報を公表するだけでも良いんじゃないかという案。
どこまでユーザーフレンドリーにするかの線引きもなかなか難しい所ではあるが、いろいろ議論をしてみた結果、最初の案である個人情報をある程度公開した上で、その個人情報に沿ったお供え物なら受け取ってもらえるかどうかはわからないが二十一層に祭壇を設置してそこに一つの祈りの場を設けておくのが無難ではないかというところに落ち着いた。
「じゃあ安村さんにはテントの撤去と同時に祭壇の設営をお願いできるかな。今日明日って訳じゃないが、それっぽい一式を買いそろえた時点で声をかけようと思うのでその辺はよろしくお願いするよ」
「先にテントを撤去して他の探索者のテントが据え付けられては大事故ですし、他の探索者にテントの撤去を任せるのも問題になりそうですからね。その点は了解しました。意見を出した以上そのぐらいはやらないとね」
何時頃手筈が整うか解らないが、少なくとも夏休み中に終わらない、という可能性は低いだろう。二、三日中には話題がまとめられてそこから発注、到着、設置と何段階かに分けられていくはずだ。それでもまだ充分に時間はある。
「よし、じゃあこの方向で長官には許可を取れるように何とかしてみよう。小西ダンジョンだからできる気軽さ、というのもあるかもしれないし、物珍しさにダンジョンへ寄ってくる探索者も居るかもしれないしね。この調子でまた今年も……いや、今年は既に去年以上の黒字が確約されてはいるんだけどね」
そうだろうな。毎月頭におおよその稼いだ金額を確かめてはいるものの、現状ですら去年の七倍近くの金額を稼いでしまっている。その分ギルド税もかなりの収入になっているはずだ。他の大きめのダンジョンよりも黒字幅が大きくなっている可能性だって低くない。ちょっとだけ、各ダンジョンの収支報告が楽しみではある。
とりあえず今日は用事が全て終わったとして、解散になった。いつもよりちょっとだけ遅い時間になったが、今日もいつも通り稼げたということにしておこう。明日も明後日もそのままの流れで同じように稼いで行くことを念頭に入れて着実に稼いで行こう。
◇◆◇◆◇◆◇
五日後。一通りの品物が揃ったとして朝から祭壇を運び込む作業に従事することになった。結衣さん達も手伝いとして駆り出されている。一応バッグの中には最初のお供え用のコーラとミントタブレット、それからいくつかのお菓子が既に用意されているので、第一号の仕事はできるはずだ。
荷物と一緒に二十一層に下りる間にエレベーターの中でミルコを呼びだし、ある程度の事情を話しておく。このやり方のほうが色んな探索者が各階層好きなタイミングで設置しに来るよりは効率的だしミルコも手間が省けるだろうということなど、メリットについて伝える。
「そんなわけで、他の探索者からもアクセスしやすい所にミルコのお供え用の荷物置き場を作ることになったんで、そこに置かれたものはミルコの好きなタイミングで持ち出していいということになったよ。俺では気づかない食べ物とかも貰えるようになるかもしれないぞ」
「それは楽しみではあるけれど、安村は別に構わないのかい? 僕にお供え物をするという特権を奪われてしまうことになるけど」
そういいつつミルコは少し興奮している様子だ。多分俺からはもらえないが他の探索者がくれるかもしれない、探索者が食べているような物の中で気になっていたものとかそういうものがあったのかもしれないな。
「別に特権というわけではないし、お菓子を理由に便宜を図ってもらってたわけでもないからな。俺としてはこれでミルコがよりダンジョンづくりに邁進してくれる燃料になってくれればいいとは思ってる」
「そうかい。じゃあこっちとしてはご相伴に与ることにしようかな。いつ頃から始まるか解らないけど、楽しみにしておくよ」
そういうとミルコは転移していった。ほぼ同じタイミングで二十一層にたどり着いたので、エレベーターから祭壇用の荷物を下ろして建物の最上階まで持ち運ぶ。
二人分のテントとエアマットを片付け、祭壇を設置する準備が整うと、早速机を並べて貼り紙をし、注意事項をまとめたマニュアルを机にくくりつけておく。マニュアルを作ったのは芽生さんだ。
後処理と設置をしている間に祭壇づくりの荷物第二陣が到着したので机の上に並べていく。ダンジョンマスターは神様ではないので祠は必要ないだろうという話だったが、せっかくなので置いておいたほうがありがたみが増すかもしれないしそれっぽさが出るということで、お守りやおみくじを祭る用の小さいものを用意してくれたらしい。後で値段調べておこう、確かこういうのは結構お値段が張るはずだ。
プラスチックの机の上に小さな祠。なんだか重大事故の跡地みたいになってしまっている感はあるが、ダンジョンの中だからいいやということにしておいた。これは下手な探索者用のテントセットよりも金がかかっているな。
荷物が全部そろったところで改めてコーラとお菓子とミントタブレットを並べる。周りで休憩していた探索者の中には、何かあったのかと顔を出し始めた者もいる。そうやって自然に広がってくれるといちいち説明する手間が省けて助かる。
お供えが済んだところでみんな並んで両手をパンパンと二拍。ミルコは早速反応してくれたらしく、シュッとお供え物たちは彼方へ消えていった。後ろで歓声が上がる。
「今のはなんだ、何をしたんだ? 」
「詳しくはここに全部載ってますので参考にしてください。一応地上にも注意書きというかそういうのが始まりました、と提示はしてありますので」
「解った。このマニュアルは据え置きということでいいのか? 」
「ええ、ここに置いといてくれるとありがたいです。初めて使う人向けのものなので」
設置用のマニュアルを試しに見せると、仕事は終わりとして撤収することにした。後は残りの人が上手いこと運用してくれることを願おう。
一通りの作業を終えて一層に戻り、ギルマスに祭壇が無事に作られたことと、ミルコには事前に話を通しておいたこと、それから既に目撃者がいるので徐々に広まっていくのではないかと報告をしておいた。いつもの探索に戻る。今日もまだ見たことが無いかもしれないが重要な人物に届けるための指輪の採取に出かける。
芽生さんの夏休みも半分が終わった。残り半分で後いくら稼げるのか楽しみではある。それだけギルド税も支払うことになるし、来年の確定申告ではかなりの金額が持っていかれることになるだろう。金稼ぎ目的での探索はこの夏休みで一段落してくれるとありがたいかな。
この後はミルコが作ってくれているはずの最新で最深のダンジョンを攻略しつつ、ダンジョンの目的に沿って魔素を地上に運び出し、魔結晶を運び出して発電用の燃料として大量に持ち出す必要がある。
ダンジョンが出来て四年。まだダンジョンには知るべき点、そして解明すべき点は多いが、ダンジョンマスターの公開という一つの手順を公開したことでダンジョン庁という組織の風通しは多少良くなった気がする。
このままうまいこと回ってくれると良いなあと思う次第である。入ダン手続きをし直してリヤカーを引いて一層に入ると、いつも通りスライムがぽよぽよと出迎えてくれている。久しぶりに思い立ち、熊手を片手に握るとそっと手を添えて抑え込み、プツッと熊手を核に向けて素早く掻きこむと、靴の裏でパンと割る。
何百回何千回と繰り返したこの動作。全てはここから始まったんだったな。ダンジョンで潮干狩り。今ではもう潮干狩りをのんびりしている暇は無くなってしまったが、初心は忘れてないはずだ。今日も精一杯探索を楽しもう。
ここでこの章は一区切りです。ここまでありがとうございました。
明日もまた続きが始まります。
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続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。
後毎度の誤字修正、感謝しております。