1094:鑑定スキルの真骨頂
ダンジョンで潮干狩りを
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南城さんは今移動中とのことなので、少し落ち着ける場所に移動してから再度向こうから連絡するという話になった。おそらくカフェか何処かに席を持ってそこで鑑定、という話になるんだろう。
数分後、かけ返しのレイン通話が来たので受け取ると、南城さんがコーヒー片手にくつろいでいる姿が見て取れた。
「もしかして、ダンジョン帰りだったりしましたか」
「いえ、今日はオフだったのでちょっと色々買い物に出かけてついでに食事も済ませて帰る途中でしたよ。なのでお気になさらず」
ギルマスを画面のほうに寄らせてこっちには何人か居ることを証明する。
「初めまして、小西ダンジョンギルドのギルドマスターをしてます坂野です。本件はダンジョン庁からの依頼という点も含まれていますので、鑑定料が必要ならいくらかお支払いする用意はありますが、その辺はどうなっているのでしょうね。なにせ【鑑定】スキルを持っている人と出会うのはあなた含めて初めてのことですから」
ギルマスがお仕事モードで会話をする。貴重な一シーンだと、芽生さんが横でギルマスの真面目な顔の写真を撮っている。
「ということは、文月さんも同じ部屋に居る感じですか。まあ、雑談は後でもできますから先に鑑定の話をしましょう。鑑定料は結構です。ただし鑑定した内容については当方でも共有していくことと、鑑定した物品について詳細情報をもらえること、これが条件ですね。飲んでいただけますか? 」
要するに、鑑定はするけどそれがどこでどう落ちてどんなモンスターから出るのか、といった情報を共有してくれるならそれで代金代わりにしよう、という話らしい。
「と言ってるけど、どうするの? 」
「いいですよ。お互い情報の取引、ということでしょうし、本来ならいくらか支払うのがお礼としては適切だと思っていた所を情報共有だけで済むならお安いものです。いずれは自分たちの役に立ててもらうことにもなりますし断る理由は特にないですね」
芽生さんもうん、うん、と頷いている。こっちの準備と覚悟は良い、ということらしい。
「ちなみにですが、通話の画面越しでも鑑定って出来るものなんですか? 間違えて自分のスマホを鑑定するだけで終わった、みたいなことになったりはしませんか? 」
気になったことをあらかじめ聞いておく。これでスマホの型番や製造場所が読み上げられるってオチは今のうちに回避しておきたい。
「答えとしては両方ですかね。スマホに集中してればスマホの鑑定が、画面の奥に見える物体に照準を合わせればその物体の鑑定が出来るといった具合です。なのでわざわざこっちに運んでくる必要は無いですね。最初は無理だったんですが、私も【鑑定】スキルがいくらかレベルアップした、ということでしょうかね」
なるほど、希少スキルはみんなレベルアップするのか。と、すると【採掘】もレベルアップするんだろうな。手掘りでダンジョンを開拓できるようになったりするのだろうか、等とよそ事を考える余裕すらある。
「では、今回鑑定してもらうものはこちらになります」
スキルオーブを画面の中央に出す。南城さんはやはりスキルオーブか、といった表情をしている。
「スキルオーブですか。つまりスキルについてどんな効果があるのかお知りになりたいと、なるほどなるほど……」
南城さんが画面をじっと見つめてどうやら鑑定を行っているらしい。
「ちなみにこれ、何処でドロップしたんですか? 私も初見のスキルオーブなので出所が知りたいところですね」
初見なので新しく増えたスキルオーブなのか深い所のスキルオーブなのか、そのあたりをハッキリさせたいらしい。
「ギルマス、この場合正直に話してしまうのが筋、ですよね」
「そうなる。向こうがきっちり筋道を通してくれているんだからこっちでやっぱナシね、とか言うのは不誠実だね」
「では、正確に。五十七層に出てくるガーゴイルという見た目そのまんまの鳥型の石像に擬態して出てくるモンスターからドロップしました。名前からして体の部分を硬化させてしまうスキルなんじゃないかと当たりは付けていたんですが、いざ覚えるとなると少し戸惑いがありますし、使い勝手が自分の戦闘スタイルに適うものかどうかも解りませんから自分で覚えるよりももしかしたらよりふさわしい相手が居るかもしれないので自分で覚えるのを控えた、というのが一点。もう一つは、初出のスキルならギルドのデータベースにも内容が保存されることになると思いますのでダンジョン庁のためにも一点。そして、譲り渡す際の金額で今後の基準が作られるでしょうから、その基準作りのためにギルドでの売買を行えるなら行いたいというのが一点、というところですね」
こちらから出せる情報はすべて出してしまう。それがお互いの条件なら、こっちで考えうる最大限の情報を伝えておいた上で、南城さんが何処までの情報を教えてくれるかを期待するものだ。
「大体は解りました。では、結果からお伝えします。これは意識的に体の一部分を硬化、つまり硬くすることができるというスキルですね。ピンポイントで肉体のバリアを張り攻撃を防ぐこともできるでしょうし、逆に攻撃時に例えば拳の先を装備含めて固めることで威力を増す、という使い方もできるようです。安村さんはスキル主体で戦うようなスタイルならあまり向いていないスキルかもしれませんね」
文字通り体を硬化させて攻守に応用できるスキルか。意識的に切り替えながら戦えるなら非常に有用なスキルである所は伝わったが、今のところぜひ欲しい、というスキルではないな。
「その戦い方に思い当たる人物が二名ほどいるんでそっちに渡してみるのも一つ有り、ということですかね。さていくらで売りつけようかなあ」
「攻守両方に使えるというのは非常に便利ではありますが、これがスキル耐性を持つかどうかまではちょっと不明な所ですね。実際に使ってみて受けて見て、スキルに対しても効果があるかどうかの実験は必要でしょうが、物理耐性を意識的に部分的に発動できるのは間違いないと思います」
平田さんか高橋さんか、両方に話をつけてみてどっちが引き取るか、というのをさせてみるのも有りだとは思う。しかし、いくらになるんだろうな。物理耐性がセットでついてくると考えると中々に便利な物にはなりそうだが、高すぎてもいまいち効果がないと言われてもこまる。うーん、悩むな。
「しかし、安村さんも久々に会ってみたら中々に色々スキルを拾ってるみたいですね。まだ見たことのないスキルが生えてるのが見えてますよ」
そういえばあれからかなりスキルを拾って二人で覚えたからな。
「こっちは二人ですからね。拾った数も貰った数もありますが、そろえて効果のあるスキルはできるだけそろえるようにしながら頑張ってるところですよ。そちらの進捗はどうですか」
「まだ追いつけてない、というのが正直な所ですね。ただ、そろそろ終わりが見えてきたような気がするところでもあります。だんだんダンジョンの作りが雑になってきている印象が見受けられますので、もしかしたら近いうちに最下層までたどり着いてしまうかもしれません」
ふむ、大梅田ダンジョンも最下層付近まで来ているんじゃないかという空気は持ち始めている、ということか。小西ダンジョンが一番深くて凄いんだぞ、とは思わないが、何処のダンジョンもエレベーターのおかげで進捗が早くなりすぎて作成が追いついていないという所も考えていかなければならないということになる。これも技術の進歩の代償という奴か。
本来なら数年かけて到着される予定だった階層まで一気に潜り込んでいるところを考えると、ダンジョンというものは彼らの予想よりも攻略が早くされてしまう。そういうことになってしまうんだろう。これからは新熊本第二ダンジョンみたいにいろんな形やモンスターの配置される、画一的から離れたダンジョンづくりが行われていくのだろう。
それぞれのダンジョンマスターが思い思いのモンスターや、場合によってはトラップなんかも仕掛けたりしながら数多くのダンジョンが作られていくんだろうな。楽しみでもあり、そしてちょっと怖い所でもある。ただ、極悪トラップダンジョンに挑んで楽しめる探索者が居るかどうかはまた別の話になっていくのだろうな。
「坂野です。一応そちらのダンジョンのギルドマスターからも通達は出ているとは思いますが、もし最下層にたどり着いた際にはダンジョンマスターとの相談の上でもっと深くまで作ってもらうように念押ししてもらえるようお願いできますか」
「聞いてます。こちらも今更河岸を変えて活動するのも厳しいですからね。その点安村さん達は河岸を変えても環境を整えるのは比較的楽そうでいいですね」
「いやあ、人前では使えないスキルなのは確かですからね。そちらみたいに大手を振って使える代わりにこうやって私たちの時みたいに時々お世話になる苦労や荷物を散々動かす手伝いに回されるのを考えると、ここで細々とやっていくのが一番かと思ってますよ」
ギルマスがこっちに向かってえ? 何で知ってんの? という顔でこちらを見ているが、詳しい説明は通話が終わった後でもいいだろう。
「では、お時間を使わせてしまって失礼しました。今度はもっとお手軽で気軽な用事でレインを送ることにしますよ」
「そうしてください。事務的な話だけだと寂しいですからね。ではまた」
レイン通話が切れた。とりあえずこっちのタスクは無事に完了したみたいだ。
「向こうの南城さんだっけ、【保管庫】のこと知ってるの? 」
ギルマスが今更ながらそのことについて質問してくる。そういえば説明してなかったような。
「去年の年末に発電施設の実験公開パーティーがあったじゃないですか。あの時に出会って、その場で【保管庫】スキルを所持しているのを既にみられてるんですよ。口止め料代わりに情報交換としていろんなダンジョンマスターから常にダンジョン内の行動を監視されていることを伝えておいたので流石に公言はしてないとは思いますが、そんなわけで彼には私が【保管庫】を持っていることがバレてるんですよ」
「その話、長官にはしてないよね? 二人だけの秘密って奴かい」
「まあ、ここで今話したということで四人の秘密ってことになりましたが、今のところ実害がない辺り秘密は守られてるということになるんでしょうね」
もし広まっていたら一度所持者の顔を拝みたいと小西ダンジョンに訪れる探索者も増えていただろうし、今のところ俺が疑われているのはダンジョンマスターと仲が良い説ぐらいのものなので、大きなネタバレイベントみたいなものは発生していない。
一応スレッドのみんなも気遣って俺を生暖かく見守ってくれているらしいので、俺のほうからダンジョンマスターはこんな奴なんだぜ! と発表しない限り宣伝要素は薄いだろう。
「そういえばネタバレついでに聞きますが、ダンジョンマスターに関する質問集めコーナーってどうなったんです? 」
「あれはね……っと、あったあった。色々あるよ。見た目から好きな物からダンジョンを何でこんな所に作ったとか、およそ我々が君らに託したような内容の文章から身近なところまでいろいろ意見を入れてくれた。後は情報をまとめて発表するぐらいのものだけど、それがどうかした? 」
「いや、作っただけ作って情報を公開しないのかな、と思って。芽生さんちょっと意見まとめて、表に出せそうな話を分類しておいてくれないかな。これもOJTの一種だと思って」
芽生さんに話題を振っておく。俺は俺でちょっと一仕事する必要が出てきたので芽生さんにその間にやっておいてもらいたいことがあるのだ。
「それは構いませんが……あ、そのスキル結衣さん達に売りつける気ですね。帰る前に捕捉出来たら万々歳だと」
「そういうこと。ちょっと下で調べて待ち構えて来るよ」
ギルマスルームを芽生さんに任せて、一旦一階へ下りる。外に出てリヤカーの番号を見て、結衣さん達が借りて行っていた番号を探すと、まだ戻ってきていない。駐車場のほうへ行ってみると、結衣さんの車はある。ということはまだダンジョン内に居るか、今こっちへ帰ってくる最中なのだろう。
支払いカウンターに一応言付けをしておこうかな、と支払いカウンターへ向かう前に、査定カウンターで結衣さん達の姿を見つけることが出来た。今日は色々とタイミングよく進む日だな。こんな日があってもたまにはいい。毎日だとちょっと作為的な何かを感じることになるが、そうはなっていないのでベストな選択ができるよう祈っておこう。
作者からのお願い
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続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。
後毎度の誤字修正、感謝しております。