1090:小満足と査定開始
ダンジョンで潮干狩りを
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二時間半きっかり五十九層に居続け、ちょっとした満足と身体強化のレベルアップを得た。この武器ならこの先の階層でも問題なく戦っていける。もし物理で有効ではないモンスターが出た時はスキルを混ぜ込み、物理のほうが有効な相手には圧切で文字通り圧し切る。
今のところ五十九層では圧切一本と雷撃さえあれば事欠かないので問題は無くなった。元々新しい直刀でも充分に戦うことは出来たのだが、より確実に殺せる武器として圧切が攻撃手段として並び立ったので、火力は上がったと言えるだろう。
ただ一つ不満点があるとすれば、他の武器のようにスキルを纏わせて雷切のようにスキルと物理の混合攻撃という手段が取れなくなるので、その時は大人しく雷切だけを使うか、新直刀に任せる、という形になるだろう。それが必要になった時にまた考えることとする。
「とりあえず今日はここまでだな。残りは明日以降ということで」
「指輪も出ましたし、午後出勤の割には悪くないペースでしたね」
ポーションの出方こそ鈍かったものの、いつもの指輪をちゃんと一つ手に入れられた。換金は出来ないがいつもの収入源としては計上できる。査定にかけられるのが楽しみだ。
「帰りは茂君寄ってくよ」
「行きは石原刃物に寄っていた分パスしましたからね。頑張って走ってきてください」
五十六層まで戻り、エレベーターの前まで到着。いつも通りリヤカーに荷物を載せて七層へ。今日は朝一の茂君こそなかったものの帰りの分は収穫していく予定だ。
「明日からもしばらく五十九層だ。指輪も溜まってきたし、もう一つずつぐらい装備しておくか? 」
「そうですねえ。指にフィットするとはいえ四つもゴテゴテつけるのはあまり趣味ではないんですが、安全のためと思うと着けておいたほうが無難でしょうね。五十七層に下りる時に装備していくって形で良いんじゃないですか? とりあえず今の一つはお互い装備しっぱなしにしておくということで、追加装甲みたいなものだと考えれば悪くない気はします」
明日からはもう一つずつ追加装備していくということになった。実際問題、指輪一つずつと両耐性で六十四層までは無難に戦えていることを考えると要らない余裕ではあるが、無いよりはあったほうがマシ、というところか。
出来れば五十九層五十八層あたりでスキルオーブを出して、耐性をもうちょっとそろえておきたいところ。防御力はいくらあっても困らないからな。物理耐性二つと魔法耐性一つ。最低でも魔法耐性のほうはもう一つ出しておきたいのが正直なところ。
石像からのドロップ狙いなら六十層でひたすら回るというのも一つ手だが、石像が必ず出るから、という理由以外で六十層を回るのはモンスターのリポップ頻度と広さからしてあまりお勧めのコースにできないのが現状だ。やはり効率という意味では五十九層以上のものは今のところ考えられない。
「そろそろ鎧の破片も査定に上がってくれると嬉しい所なんだがその辺どうなってるんだろう。一度聞いておくほうが良いのか、それとも情報が上がってくるまでお預けにされておくか。流石に数が溜まってきたからそろそろ査定に出さないとまたエレベーターを上下して査定……という形になるからな。かといってドウラクの身の時みたいにレンタルロッカーを借りっぱなしにしておくのも最近の小西ダンジョン事情を考えると難しい。早く来ないかなー査定」
「さすがに五十六層の査定が始まってまだ二週間ですからね。それよりずっと前にサンプルを渡してあったはずではあるんですがねえ。やっぱり鉱物とか金属に関するものは時間がかかるんでしょうか」
金属に関するもの、か。確かにダンジョニウムの査定にあれだけ時間がかかったと思えば、その合金である可能性も高い。含有量を調べてそこから……いや、そもそもダンジョニウムの合金なのかどうかも怪しいんだったな。でも色からすると混じっていてもおかしくはないんだからそろそろ結果を出してくれてもいいんじゃないかなあ。その辺どうなってんのよダンジョン庁君さあ。
七層に着いて茂君を刈り取ると、一層に上がり退ダン手続きをして出る。今日はそれほど稼げなかった日だが、それでも他の探索者からすれば十分に稼いでいるだろうと言われる額は稼いだと思う。
査定カウンターでいつも通り査定依頼。
「安村さん、ギルマスから伝言です。六十層まで可能、とのことです」
なんというタイミングの良さ。これで今日中に一回分は運べるか。これはもう一回潜って時間ギリギリまで粘って一回分軽くしてから帰ろう。
とりあえずの査定金額を受け取ると、着替え終わった芽生さんに説明、戦闘が無いならそのままでいいということで、荷物を持ったまま再びダンジョンへ。今回は三十五層ではなく四十二層を目指す。流石にまだ四十二層までたどり着いた探索者は居ないだろうということを確認しに行く。居なければ四十二層へ、居たら下へ行くふりをして上へ戻りつつリヤカーに荷物を載せていく。
「しかし、教えてくれるなら行きに教えてほしかったですね」
「確かに。朝から潜っていたわけじゃなかったし、受付に言づけておいてくれたらよかったのにな。まあ今更言っても仕方がない。大人しく今日と次回に分けて運ぶことにしよう」
四十二層に到着、そのまま誰も居ないことを確認すると上昇。無駄な往復時間を要したが、目隠しには必要な行為である。とりあえず鎧の破片の重さを確認して、三百個ほどをリヤカーに載せておく。もしこれでリヤカーがパンクしたら乗せ過ぎたということにしておこう。
一層に戻り、ちゃんとリヤカーが動くことを確認するとそのまま査定カウンターへ。六十層のドロップ品、ということで鎧の破片をちゃんと認識してもらうことが出来た。
「鎧の破片はいいとして、指輪のほうはどうなんですかね。直接気軽にポロンと査定カウンターに預けるって形にしてしまうんでしょうかね? 」
「どうなんだろうな。現物があるからとはいえ、その辺の指輪を渡して偽物と判断される可能性もあるだろうし、ちょっとギルマスに聞いておくべき案件かな」
明日朝ギルマスに確認してから、ということになった。それまでは値段も解らないが、そもそも希少ドロップでもあるのだし社会的に大きな波及を及ぼしそうな品物である。別口で扱われる可能性も考えておかないとな。
一層に着き、重たいリヤカーを背負って査定カウンターへ。事前にもう一回査定に来ますと伝えておいたのが良かったのか、時間ギリギリに重たいものを持ち込んでも問題ないといった対応をされた。やはり根回しは大事である。
今日の分を二回分合わせて九千六十六万六千円の収入になった。ちょっと不吉な数字を挟むがたまたまだよ、たまたま。
芽生さんがこの数字に気づくかどうかはわからないが、とりあえず明日からの収入に関してはいつも通りすべての物品を査定に回す、って事でうまくいきそうだ。やっと重たい荷物を半分下ろすことが出来た。あと百五十ほどある鎧の破片、これを明日の査定に回す。それで在庫は綺麗に解決だ。
問題は指輪だが、今二人で装備している分を含めて十一個ずつ存在する。このうち四つは自分たちで使うとして、残り七個ずつ合計十四個。これの査定に関してギルマスに相談しなければならない。おそらく市場に回すと壮絶な奪い合いになるであろうこの耐性指輪、スキル一つ分とまではいかなくとも三分の一でも効果があるなら身に着けておくだけでも文字通りステータスになる。そんなものを市場にばらまくのが果たして正しいのか、それとも他の探索者がこの指輪を市場に流し始めるまでしばし待つべきか。
悩みはギルマスに解決してもらうことにしよう。ダンジョン庁としての意見や意向があるならそれに従って流すべきだし、それだけ重要なアクセサリなら国家的に重要な肩書や経歴、もしくは大事な席に座る人物が身に着けておいてしかるべきだとも思う。ダンジョン探索者こそ最前線を行き来するのだから装備しておくべきという主張はともかくとして、一般市場に流す場合はまた別だ。
いつもの冷たい水をもらいながらバスの時間を待つ。帰りのタクシーでも拾えればそれで帰れるんだがそういうわけにもいくまい。大人しく最終便から二番目の遅いバスで帰ることにしよう。
「さて、帰って……今日はいつもより遅いから帰ったらすぐ寝るかな。明日はギルマスに一声かけてから行くから」
「解りました。多分指輪の件ですよね? 」
指輪、と聞いてピンとくる探索者も居ないだろうが、場所が場所なので小声で話す。周囲に人が居ないことを確認しての小声。これで聞き取れる人はほぼ居ないと考える。水を飲み終わり、バス待ちをする。
「いくらになるか値段の根拠がサッパリ解らないし、市場にそのまま流すより必要な所に必要な分だけまずは回してもらいたいというのが本音かな。例えば暗殺されそうな人とか」
「そんな物騒な人は……まあ確かにそれなりには居るでしょうが、自称暗殺されかかってる人なんかには高値で売れそうではあります」
「まあそれはそうなんだが、そういう商売をしたくはないからな。ちゃんと出すべきところにまず出荷する、というところから始めたい。まずは良く殴られてる両議院議長あたりだろうかな」
国会中継では法案が通ったり通らなかったりするたびに他の議員から殴られてる印象が強い。その時にこの指輪を身に着けていればきっと痛くないし、殴ったほうも痛い思いをするだろう。殴ったほうだけ骨折して殴られたほうはピンピンしているような図を思い浮かべる。
「そういう意味では森本総理あたりにも一品プレゼントしたいところですね」
「国民の代表だからな。預けてある最初の一セットはもうそういうことになっているかもしれないぞ」
とりあえず渡しておくならそこ、ということになるだろうからな。下手な金持ちが金に物を言わせて買い取りに来る可能性もあるが、あらかじめ予約されているということにして供給先を絞るような形にしておけば問題ないだろう。それに、多少の金に釣られるほど少ない資産でもない。芽生さん辺りに任せておくと一番高く買い取る所に売りましょうと笑顔で言いそうと最初に思ったのは内緒だ。
バスが来たのでバスに乗り、帰り道に差し掛かる。流石にダンジョン周辺に比べて、駅に到着するまでは暗い。こんな時間に帰るのは久しぶりなのでちょっと新鮮である。
窓辺から見えるのは民家の明かりがちらほらと、終わりかけのガソリンスタンドの明かり、そして寄った覚えのあるとんかつ屋。まだ営業続いてたんだなここ。このまま続いてるとまたふらっと立ち寄りたくなるかもしれない。他人の作ったとんかつが食べたくなったらまた来よう。
駅について芽生さんと別れる。流石に連泊はしないらしい。家に帰ると今日一日が何だか長かったような感覚を覚える。朝から予定がいろいろ詰まっていたし試し斬りも出来た。今後は試し斬りを本斬りに変えて石像をズタズタに切り刻んでいくことになる。明日が楽しみだ。
さて、明日の楽しみの前に今日の楽しみ、夕食を何にするか。あまり時間のかかるものは食べたくないのでコンビニでサッと済ませてしまうことにしよう。後はビタミンCを補充しておけばカロリーバランスはなんとかなる、うん、なる。そういうことにしておこう。
家近くのコンビニでパスタと菓子パン一つとビタミンC飲料を確保するとミルコ用のお菓子を何品か都合してから家にそのまま帰る。そういえば、芽生さんの洗濯物を取り込んでおくんだったな。ちゃんと言われたとおりにベッドの上に畳んでおけばいいのかな。
芽生さんの部屋に入り、洗濯物が干してあるのを見る。上下と下着……下着か。芽生さんの下着……中身をありありと想像できるからこそ下着が映えるのであろうな。下着に執着する性的嗜好をお持ちの方は下着の大きさや種類からそれを身に着けている相手を想像して悦に浸るんだろうか。
俺は……あまり何とも思わんな。やはりシチュエーションとそれを身に着けている人と下着がセットにならないと息子は元気になってくれないらしい。息子に聞いても反応がない所を見ると、やはり本体のほうを大事にしたいという意見は同じくしているようだ。
丁寧に下着も畳むとベッドの上にそっと並べておくと、上から布をかぶせておく。次にいつ来るか解らないが、その時に埃が積もっているようでは意味が無いからな。いつまで放置されててもいいようにしておかないと。さて、これで頼まれごとはいいかな。さて、飯を喰おう。コンビニ飯とはいえきちんとカロリーを取って栄養を取って明日に備える。今日はいつもより一時間ほど残業したので目に見えない疲れがたまっている可能性もある。早めに風呂に入って早めの就寝といこうか。
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