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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第二十一章:夏休み、あー夏休み、夏休み
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1089:試し斬り

ダンジョンで潮干狩りを

Renta!等いろいろなサイトで発売中です。是非とも続刊のためにもご購入のほうよろしくお願いします。

 和やかに会食と情報交換が終わり、それぞれ食事を終えたので食休みと食事の間の雑談タイム。いくらサンドイッチで軽めだったとはいえ、ここから二十分歩いて五十七層に向かってそこから真っ直ぐ五十九層、となると前みたいに腹痛を起こしてしまうのは馬鹿らしい。まだ仕事らしい仕事は何もやっていないが、休憩はしっかりと取らなくてはな。


 食事ついでに色々とD部隊について聞くことが出来た。現在小西ダンジョンは特例措置として一分隊で一小隊分の権限を付与されていることや、食事はちゃんと防衛省からレーションの形で配給されていたりしていることなど、後お給料の面なんかも聞けた。


 端的な感想を言うと申し訳ない気持ちでいっぱいになる、という所だろうか。D部隊は通常任務としてダンジョン探索を命じられているという形になるので、ドロップ品をどれだけ持って帰ってもお給料は変わらないらしい。芽生さんの今後については一概には言えないが、ドロップ品を持ち帰れないという都合が発生するような環境に置かれるかどうかはD部隊の運用をそのまま適用する場合、公務員としての給与以外には発生しそうにないということらしい。


 官制探索者という新しいカテゴリが新設されてそれに沿った別枠での適用がなされる場合はまた別だろうけど、という前置きをしてのことだが、あの真中長官のことだから収入としてはギルド税さえ入ってくるなら子飼いの部下のお小遣い稼ぎにはとやかく言わない可能性が高い。むしろそれを餌にして職員配置を増やしていき、何時でも何処でも潜れるような部隊の創設まで考えているんじゃないか、という話らしい。


「じゃあ私も訓練教官役として他のダンジョンに配置される可能性もあるってことですよね? 」

「確かにそれもあるだろうね。ただ、文月さんの場合ダンジョン庁の最重要機密の一部分という認識をされているだろうから、そこから機密が漏れないようにそれなりの配慮はされると思っていいんじゃないかな。それに、お給料の面で不満があるなら安村さんにドロップ品を全部押し付けて自分は普通に給与だけ受け取るって方法もある。その場合ダンジョンでの活動実績という面ではあまり評価を上げられないだろうけど、君らは今のところ一蓮托生だろう? ならどっちがどの名義で税金を払っていくか、ぐらいしか変わらないだろうし、コンビを解消する様子もなさそうだからね。ダンジョン庁の対応が悪ければ成果で遺憾の意や不満のフを表明していけばいいと思うよ」


 芽生さんはしばらく考え込み、なるほど……という感じで自分の思考の中に潜り始めた。


「最悪気に入らなければとっととやめてしまうというのも一つの手だ。でもせっかく入庁するんだから仕組みや内部の様子を自分のものとして取り込んでおいて、安村さんの探索の手伝いになるようなことを身に付けておけばきっと君自身のためにもなるよ。組織人としてのふるまい方というのかな、そういうものは持っていて無駄になることは無いはずだからね」


 一同がうんうんと頷いている。ここにいる半分ぐらいは組織人としての経験があるらしいし、俺自身も孤立はしつつも二十年ほど組織に身を置いていた人間だ。二十年保持し続けた程度の保身術みたいなものはある。それを学んでからやめるのでも問題ないだろうということだ。


「まあ、来年にならなきゃわからない話ですからねえ。そもそも本当に内定が出るかもまだ解りませんし、もしかしたら五十六層まで潜ってることを正直に話した面接の段階でとんでもない嘘吐きだと思われて弾かれているかもしれません。その時は洋一さんにちゃんともらってもらいますかねえ」


 おっと、流れ弾が飛んできた。だがまあ、現状正直言って断る理由は何もない。今はただ年月が過ぎるのを待って彼女の就職が成功したのかどうかを確認する以外にやり過ごす方法はないのだ。それまでの我慢、いや我慢ではないな、なんというか急に居づらくなったな。


「まあ、どんなに短くても契約は卒業するまでだからな。その後どうするかは今後にまたゆっくり決めよう」

「あ、誤魔化した! ずるい! 」

「タイミングとか覚悟の量とか色々あるんだよこっちにも。それに今日はガヤの量が多いしな……と、そろそろ移動を始めるか。流石にいつまでもくっちゃべっていてはお互いに儲からない」

「そうですね、女性側からのアプローチを何とか誤魔化すためにも我々は居ないほうが都合がいいでしょうから後はお二人で存分に話し合ってください」


 高橋さん達は装備を整え直すとさっさと五十五層に上がっていった。流石に練度が違うというか、準備が早い。即応というにふさわしい逃げ足の速さで行ってしまった。


「むー」

「その時が来たらちゃんと言う。それまで待て」


 若干膨れている芽生さんをなだめながら五十七層の階段へ向かう。さて、ここから新武器お披露目だ。保管庫に仕舞ってあった圧切を取り出して本格的になじませる訓練を開始しないとな。


 五十七層への階段を下りる前にミルコへのお供え。赤福を含めたいくつかのお菓子とコーラとミントタブレット。いつもの用意に生ものを混ぜ込んで今日は渡す。


「箱の物はお早めにお食べください」


 パンパン。シュッと消えるお菓子たち。これでよし、と。


 ◇◆◇◆◇◆◇


「今宵はわが剣も血を求めておるわい」

「まだお昼ですよ」


 日本刀を持って一度言ってみたかったセリフを呟いて、無事に芽生さんに突っ込みをもらったところで五十七層。下りてしばらくして出会ったガーゴイルに一閃。力もあまり入れずにさっくりと切れてしまった。やはりガーゴイルでは手ごたえの感想を言うにはもろすぎるな。ここまではまあ織り込み済みだ。


 次にリビングアーマーに向けて切り込んでいく。リビングアーマーも謎の合金……おそらくダンジョニウム合金の中の何かで出来ているんだろうと今なら考えられるが、それと相対して自分を斬らないように注意しながらもリビングアーマーの槍を避けつつ、肩のあたりに一撃を加えてみると、これもまたスルッと斬れた。こいつは中々気持ちいいな。


 雷切とは一味違った手元の感触。人を斬る快感を味わうではないが、金属を斬っているという感覚があまりなく、どちらも肉を斬るようにという表現が近いのか、スルリと刃が入っていく。これが現状最適化されたダンジョニウム合金のなせる冶金学の成果、という所だろう。


「中々良いお手前で」


 切れ味に若干驚きつつ、芽生さんも自分の当たり分を冷静に倒しながらこちらの切れ味を気にしている。


「これは芽生さんも気に入るかもしれないぞ。本番が楽しみになってきた」

「快感に見入られたりしないでくださいね。人斬りになったりダンジョンで他の人を襲いだしたら全力で止めますからね」

「それは大丈夫だろう。あくまで今はかたき討ちの時間だからな」


 モンスターでは満足できなくなってそのうちに人を斬りたくなってきて……という奴だろうか。現代日本人にもそういう輩は数年に一人か二人ニュースで見かける程度であり、少なくとも探索者の間でそういう話を聞いたことはない。


 Cランクになった時点で渡された冊子で、探索者が起こすスキル犯罪については一般犯罪と同様に扱われることはないって奴だな。秘密裏に裁判を行われて判決が出て、もう二度とシャバの空気は吸えないという話を思い出す。


 この場合スキル犯罪ではないとしても、どのような扱いをされるかは気になる所ではある。だからと言って試すというわけでもなく、試す相手がいるわけでもなく、そもそもそういう気持ちにはならないので全然セーフではある。


 むしろ色んなモンスターを斬って見てどのぐらい変わるのか、という点を気にしてみたいな。アルファ型はベータ型はどうか。亀は、ワニは。スケルトンは兜割りの要領で上から下まで綺麗に切断できるのか。試し斬りの相手はいくらでもいる。


 現状一番硬いであろう亀と石像を相手にするのが性能試験としては好都合な相手だろう。特に石像には武器一本ダメにされた恨みがあるので、こいつだけはこれでスパッと切り刻んでやりたいと思っている。後一時間半ほどで晴らせると思うと足取りも軽くなるな。


「よし、良い調子だ。このまま五十九層まで行こう。決着の時だ」

「まあ、予備の武器で相手出来ている点で決着を付けなくても勝ちは決まっているような気がしますが」

「やり返すために新しく誂えたんだ、しっかりと石像には報いを受けてもらわないとな」


 気分も段々上がってきた。この調子で五十九層まで一気に駆け下りていく。もちろん、切り刻んでいくことはするものの道中は出来るだけ効率的に戦うためにスキルもきっちり使っていく。道中は手早く確実に。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 五十九層に着いてリビングアーマーとガーゴイルを相手にしつづけること十分、ようやく積年……というほどでもないが、恨みの相手が現れた。


 今日も全身に無駄なくついた均整の取れた石でできた筋肉でマッスルポーズを取ったままの石像が目の前に立っている。こっちに気づくと、美しいランニングフォームでこちらに向かってくる。こっちも圧切で応対する。


 石像が拳を握って殴りに来る。サッと躱すと腹に向けて圧切を当て、引き切る。石像はそのまま刃の通った通りにスパッと切れ、石像は上半身と下半身が泣き別れになった。石像も簡単に斬れてしまうか。まぁリビングアーマーも斬れたことだしある程度予想はできていたが、もう少し勢いをつけて重さを乗せて切らなければいけないかもと思っていた分まだ思ったよりも余裕がある。


 流石の性能、と褒めたいところだ。念のため圧切のほうを確認してみるが、刃が潰れているとか反りが伸びているとかそういう感じはないし重さの感覚が変わったなどの異常もないらしい。素人目に見えてこれでだめになったらせっかく作った武器もまたダメにされる、ということになっているところだが、さすがダンジョン産の物質だけあって頑丈に出来ているらしい。


「どうですか、多少なりとも恨みは晴らせましたか? 」


 処理の終わった芽生さんがこちらに寄ってきて、刃の具合を見ている俺のほうに来る。芽生さんも刃をざっと見ているが、何処も指摘しない辺り芽生さんの目線から見ても問題みたいなものはないんだろう。


「恨み百倍というからな。頑張って百体ぐらい倒したいところだな。そこまでしなくても金は稼げるとは思うが、とりあえず百体斬って問題が無ければ目的は達したということにしよう。早ければあと一週間ぐらいで目的は達せられるかな」

「じゃあ石像百体を目標にするということで。しばらく五十九層に居着く理由が出来ましたね」


 石像百体。それだけの期間があればさすがに金も溜まるし、もしかしたらスキルオーブの一つぐらいは出るだろう。なんだかんだでこの階層にもここ二週間ほど滞在していることになる。出るならそろそろ、もしくは高橋さん達がもう出してしまった後か。でもそれなら一言あるかもしれないからな。よほど珍しいスキルのドロップでなければ教えてくれるとは思うが。


 さて、あと二時間ほど五十九層には居られる計算になる。その間の石像はこっちで請け負って、圧切の耐久試験の時間にさせてもらおう。


 この五十九層……というより大理石マップでは石像からはスキルオーブは落ちたが、他の二種類からはまだ落ちてない。こいつらが何を落とすかちょっと興味深い。新規のスキルがあるのか、それとも既存スキルなのか。まあ、石像百体倒してる間にぽろっと落ちたらまた確認することにしよう。


 また一人、また一人、と石像が湧いている地点を通るたびに圧切で切り刻んでいく。どうやらしっかりと勢いがついていれば頭から尻まで真っ二つにすることもできるらしい。何処を斬っても致命傷、というほどのことはできないが、心臓だけをそのまま突き切ることで最小手数で倒すことも試みたが、やはり心臓をえぐられると石像とはいえ人間を模しているだけあって倒せるのは確実だということが解った。


 この切れ味なら各モンスターのどの部分さえ潰せば倒せるのか、つまり弱点は何処までかということを知るにも程よく活躍してくれる。例えばガーゴイルは頭部が弱点としては既に解っているが他の部分ではどうだろうということを確かめるためにも、そのままプスプスと差し込んで一発で黒い粒子に還っていく部分が何処にあるのか、という探りを入れるには充分な活躍をしてくれた。


 解らないのはリビングアーマーだ。一応鎧の内部にスキルをぶち込むことで倒せることは確認できているが、鎧のどの部分まで破損させることで倒すことができるか、という面では今まで中々確認できなかった。試しに心臓部を一突きにしてもまだリビングアーマーは動く。やはり、鎧の内側に何かしらの黒い粒子のへばりつく部分があって、それが一定量以上剥がされると倒すことができる、という想定で良いのだろうか。それとも黒い粒子化している体内組織に一定以上ダメージを与えないとだめなのか。まだはっきりとしたことは解っていない。


 地図ができている階層でもまだ解らないことは多い、そう感じる一幕だった。

作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

後毎度の誤字修正、感謝しております。

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― 新着の感想 ―
これダンジョン産素材の武器も探索者と同じで、ダンジョン内に入ると強度とかその辺がパワーアップするとか実はあったりして
> 申し訳ない気持ちでいっぱいになる」 成果回収されちゃった。 もしスキルオーブに消費期限が無かったら、勝手に使ったら怒られるレベル 収益ウハウハで笑いが止まらないお上も、予算主義だから次年度以降の予…
いっそダルマにして観察してみるとか……
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