1088:会食
ダンジョンで潮干狩りを
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芽生さん達の商談が終わった。思ったよりはちょっと長かったため、少し汗をかいた。汗を拭きつつウォッシュ。スーツには気を使っているものの、この圧切だとうっかり切断してしまってもおかしくはない。動き方に加えて体に当たらないようにうまく使えるかどうかは俺の腕にかかっている。
「お待たせしました。ついでに槍の注文もつけてきました。材料はまだ残ってるらしいので安心してお任せ出来ますね」
まあ足りなくなったら今度はちゃんと査定価格で購入してもらうことにしよう。そこの切り分けは今後はきちっとしておかないとな。
若干予定より遅れたが、石原刃物を出る。バスの時間があわなかったのでそのまま地下鉄駅まで歩き、幾度かの乗り換えを経由して小西ダンジョンの最寄りの駅までたどり着く。バスは……タイミングが悪く出てすぐだった。今日もタクシーを使おう。タクシー乗車場まで向かい、停まっていたタクシーに声をかけると、前回お世話になった運転手だった。
「おや、この間ぶりですね。今日も小西ダンジョンまでですか? 」
「えぇ、一つお願いしますよ」
「解りました。すぐ出します」
二つ返事で乗せてもらうと、そのまま小西ダンジョンまで続く。
「前回は持ち歩いているように見えませんでしたが、立派な剣ですね」
バックミラー越しに見えたらしい。せっかく話題を振ってくれたので答えておく。
「今日はこいつを手に入れたばかりでね、早速ダンジョンで使うことにしてるんですよ」
「なるほど、では午前中は受け取りに行っていた感じですか。大層金がかかってるようにも見えますが」
「まあ、それなりにはね。命を預ける武器ですから」
ぽんぽんと剣に軽く触れてやってこれからよろしく頼むぞ、という気持ちを込める。しばらくするとバスを追い越した。高い金を払った分だけの価値が今出た、と実感するところである。
「バスに乗り遅れたおかげでバスを追い越せた。何分かこれでお得になったな」
「その数分で稼げる金額を考えると中々金銭効率のいいことになりましたねえ」
「そんな数分の差で稼ぎに差がでるんですか。探索者は儲かるんですね」
タクシーの運転手もこっちの財布の内側を知りたそうにしている。
「まあ、バス代とタクシー代を天秤にかけても儲けのほうに傾く程度には稼がせてもらってますよ」
「それはそれは。ご商売……でいいのかな? 上手くいっておられる様子でなによりです。こっちも運び甲斐がありますよ」
ダンジョンについたので料金を払って下車。予定通りとまではいかないがまあそもそも今日圧切を取りに行く予定自体が急だったので多少のプラン変更は仕方ない。午前中に稼げたであろう数千万の分をこれからこいつで取り戻しにいく、と考えれば自然と力も入ろうというもの。
入ダン手続きを済ませるとリヤカーを引いて真っ直ぐ五十六層へ。いつものクロスワードを解きつつ芽生さんととりとめもない会話に相槌を打ちながら、老化防止に心血を注ぐ。
「とりあえず今日は試運転だし、あまりギアを上げずに行こう。ちゃんと切れるかどうか、よく切れる以外に何か問題は無いか、石像相手でも切れるか……特にこれだな。今回特注で作ってもらった理由の一つが石像へのリベンジだ。きっちり切り刻んで前直刀への手向けとしたい」
「まあ私はいつも通りですかね。石像へきっちりリベンジ果たせるように祈ることにします。多分あの切れ味なら問題なく石でも切れるとは思いますが、実際に何度か切って見て、刃のほうが持つかどうかはちゃんと検証しておくべき課題だと思います。切れはするけど何十体か倒したら研ぎ直し、なんてことではコスパ悪すぎますからね」
「たしかにそうだな……ただ、せっかくの試作品でもあるし、壊れるまで使い倒してみてこれをこれだけここまで使い倒したら切れなくなりました、と報告して次回の武具製作に向けてのデータを集めることも大事だろう。ここはいっちょ百万捨てたと思って好き放題切り刻むことにしておくよ」
「さすがに無いとは思いますが、折れた欠片がこっちに飛んできて怪我、なんてことだけは無いようにお願いしますね」
保管庫に一旦しまい込んである圧切には午後から盛大に活躍してもらう。それまではちょっと不思議空間でゆっくりしていてもらおう。後一時間ぐらい、保管庫の中で言えばほんの四十秒ほどの間だけじっとしてもらうだけだからな。まずは五十六層に到着してご飯の時間だ。
五十六層に到着すると、小西ダンジョン上位二パーティー、要するに高橋さん達チームTWYSと結衣さん達が揃って会食をしていた。
流石に机の高さや椅子などはバラバラだが、お互い楽しそうに食事をしていた。昼時がかぶった……という割には、高橋さん達が五十六層にまで上がってきているのは珍しい。なんぞあったのだろうか。
「お、安村さん。これからお昼ですか? それとももうお済みですか? 」
「これからですけど、珍しい取り合わせですね。高橋さん達は何故五十六層へ? 」
居ちゃいけないなんて理由はないが、普通に理由として気になる所ではある。
「実は上のほうから命令をもらいまして……あまり大きな声では言えませんが、ダンジョニウムインゴットの銃弾や砲弾の弾頭としての有効性評価をするための分量が防衛省内で必要になりまして。そのために加工用としてサンプルを出来るだけ持って来いと言われてまして。今のところここまで潜って取りに行けるのが我々だけのようなのでその指令に従って五十五層へ潜っている訳です」
「それ聞いても良い話だったのかな? 軍事機密に当たる話だと思うんですが」
「その辺は聞かれても答えて大丈夫ということにはなってますし、安村さんもそれを耳にしたところで言いふらしたりはしないでしょう? 一応ここの階層ぐらいまでは機密の塊ですからね。ここにいる時点で多少はお互いに知ってしまう情報もあるって事で一つ外部に漏らさなければ大丈夫ということにしておいてください」
なるほど、そういう意味か。なら、これはサンプルとして見ごたえのあるものになるかもしれないな。
「とりあえずこっちもご飯にするか。食べながらでもできる話だし、こっちも見せたいものもあるし」
机を更に並べて皆で食事。思えばこの三パーティーが揃って顔を突き合わせるということは過去には無かった気がする。結衣さん達がそこまで下りてこれたという意味でもあるが、高橋さん達と俺達が揃って五十六層に戻ってきている、という意味でも珍しい取り合わせである。
「結衣さん達もD部隊の皆さんも五十五層ですか。確かに修行場としては悪くない所ですよねえ」
「しばらくここで戦ってるけど今までが上がらなかったのか、ここがよほど厳しい環境なのか、みんないい感じに【身体強化】がレベルアップしてるのよね。でも不思議。スキルオーブを取っている訳ではないのになんで【身体強化】だけ勝手に上がっていくのかしらね」
たしかに不思議に思う所ではあるが、俺なりに推測は立っている。
「【身体強化】はすべての人間が生まれながらにして持っているスキルで、他のスキルはダンジョンに借りているスキルという形になっている。だからスキルオーブを介さなければスキルの強さは一定以上上がらないけど、最初から自分で持っているならいくらでも伸ばすことができる。借り物か自分のものか、その違いだと思うよ」
ふわっふわのたまごサンドをほおばりながら解説して見せる。
「安村さんとしてはそういう認識なわけですか。でも言われてみればそうなのかもしれませんね。借り物じゃないからこそ鍛えれば鍛えるだけ上がっていくと」
「最初から数えてるわけじゃないからどれだけ自分が強くなっているかはちょっと解らないけど、スキルオーブを多重化させたときの感覚と【身体強化】の上がった感覚は割と似ている。そんな気がするんだよね」
「確かに自分もそれは思いました。でも、そうなると【身体強化】の上がり幅とスキルオーブ一つ当たりの上がり幅はかなり差があることになりますよね? こう、【身体強化】のほうが小刻みに上がっていくというか」
「まあ、一気にドバっと上がるよりは小刻みに上がって行ってくれる方が解りやすいし、着実に力をつけているという指標として考えやすいからそのほうがありがたみみたいなものはあるかな。後何回来たらどのぐらい行けるか~みたいなのは考えたりもするし」
実際問題、【身体強化】にも多重化という概念を当てはめると今の自分の多重化レベルはいくつになるんだろう。スキルオーブと同じ上がり幅では計算できないとしても……そういえば南城さんは他人がどのスキルを持っているかも鑑定できるんだったな。彼からはスキルの多重化レベルも見えているんだろうか。一つ気になることが増えたな。
「そういえば、安村さんが見せたいものとは? 」
「これです、新しくダンジョニウム合金で作ってもらってきました。これで食事が終わった後五十九層で試し斬りです」
食卓に刃物を見せびらかしつつ、刀身を抜いて見せつける。どうだ羨ましかろうというつもりはないが、せっかく作ったのだから誰かの目には留まって欲しいし石原刃物の宣伝も込みでやっているのでその分の働きはしてもらわないといけないな。
「ほほう、ダンジョニウムの合金ですか。触ったらそれだけで切れそうですね。よほど固い敵がおるんですかな? 」
「それは……もしかして石像対策ですか? あいつは魔法が利かない上に中々硬いですからね。そうなると、武器を一本ダメにされたとか」
「そうなんですよ。予備の直刀はあるにはあるんですが、ちゃんとお金も使っていかないといけないなということで特注で作ってもらいました」
「それでも、一日潜ればおつりが来るんでしょう? もっとお金をかけてもいいぐらいじゃないの? 」
結衣さんから更に金をかけろと言われる。これ以上何処に金をかけたらいいんだろう?
「もうスーツを二着ぐらい仕立てるぐらいしか今のところ使い所が思い浮かばないな。後は何だろう? 」
「安村さんの場合雷の剣使ってる分消耗が少ないですからな。ワシでもガントレットは小西ダンジョンに潜り始めてから二、三回は換えてまっせ。コレも使い始めてまだ一週間ぐらいですが」
そういえば、前見た時と色合いというか輝き方が違ってる気がする。新しいガントレットのようだ。
「みんなちゃんと使う所には使ってるんだなあ。見習わないと」
「洋一さんは溜めこむことに関してはスペシャリストみたいなところがありますからね。食材にしてもドロップ品にしても、私が把握してないものがかなりの量保管庫に眠ってそうです」
芽生さんから目ざとい意見が飛び出す。たしかに、芽生さんが居ない間にソロで潜って拾ってきている量は結構な量になるし、スノーオウルの羽根にしてもかなりの量、布団の山本に卸すために数か月分の在庫が眠っている。
「そんなことは、あると思う。実際五十層周辺で出た分のキュアポーションも査定にかけてないから数十本単位で眠ってる」
「そんなに溜めこんで使うあてでもあるんですか? 」
「念のため、かなあ……新しい階層で毒持ちが居たら【毒耐性】だけで追いつかなくなった時用、ということにはしてあるけど」
「我々の場合荷物を最小限にするためにそういうものは出来るだけ持ち歩かないようにはしているんですが、さすがのチートスキルってところでしょうね。我々も小隊に一人はいてほしいぐらいですよ。セーフエリアから離れて荷物を持ち歩くにもドロップ品がカニの身やインゴットみたいに重たいものが多いと身動きがとり辛くなりますからね」
高橋さんが羨ましそうにこっちを見るが、分けてあげられるものなら分けてあげたいというのが本音だ。ただ、本来なら高橋さん達みたいな国に所属する探索者が持っているべきスキルである、という意味では譲ってあげたい気持ちも……
いや、ないな。今更このスキル無しで深層を潜ろうとしても無理がありすぎる。やはりこのスキルは俺のものだ。死ぬまでかダンジョンがなくなるまでか、俺がダンジョン探索者を引退するその時まではそのまま使わせてもらおう。
「その代わり、安村洋一探検隊という番組のメイン探索者を無断配信されることになりますし、それほどいい思いが出来るわけでもないですよ。他の階層を巡ってる探索者でこれの存在を知ってる人はいないわけですし、彼らにバレないように色々と試行錯誤を巡らせてきてますから。まあ、その結果のリヤカー導入だったりなんなりで、結果的に他の人にもそれなりの利益配分はさせてもらってはいるとは思いますがね」
「あぁ、リヤカーも安村さんの鶴の一声で導入されたんでしたっけ。我々もその思い付きのおかげで楽ができているのでありがたみが増しますね」
「リヤカー増えましたもんね。最初は一台だけだったのに一台が二台、二台が十台、十台が二十台……その内熊本第二ダンジョンみたいに潜るパーティーの数だけご用意されるようになるんじゃないですか? 」
熊本第二ダンジョンはそんなに数多くリヤカーを用意しているのか。流石に外側の様子までは知らないからな。今度また実況で外の様子を流すような配信があればよく観察することにしよう。
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後毎度の誤字修正、感謝しております。