1084:中華屋でエンペラを
ダンジョンで潮干狩りを
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久しぶりとまではいかないがしばらく訪れてなかった中華屋ののれんをくぐる。爺さんは……うん、今日も元気に鍋を振っているな。良い感じの時間だからかお客さんはそこそこ。時間的にはこれから混むのかもしれないという具合でお客さんは少な目。頼みごとをするならチャンスでしかないな。
「久しぶりー」
「兄ちゃん達か。久しぶりだな。もっと頻繁に通ってくれてもええんだぞ? 」
「相棒が夏休みだからね。潜るのに集中して中々これなかったことにしておいてくれ」
「私のせいにしないでください」
芽生さんからブーイングが飛ぶが、無視して爺さんに土産を渡す。
「これお土産。新しい食品を仕入れたんで差し入れ」
土産のエンペラを受け取ると、爺さんは興味深そうにしばらく眺める。
「エンペラだけか。身は無いのか? 」
「残念ながらそこだけがドロップ品らしい。なのでそいつを美味しく出来るかどうかも聞いてみたいところなんだが……どうだろう? 」
「ふむ……身がセットなら鍋で豪華にドサッとお出しするのがウチ流だとは思うが、しかしこれだけのエンペラだ、本体はさぞでかいんだろうなあ」
エンペラの大きさから亀の大きさを推測しているらしい。まあ、大体その推測は正しいと思うが。
「どう? なんかできそう? 」
「そうだな……二品はパッと思いつく。その次はちょっと一手間かかるだろうな。とりあえず二品分、作ってみようじゃねえの。ただ追加で何か注文頼むぞ、こっちも売り上げがかかってるからな」
今日は金払って食っていけと念押しをされた上で何か作ってくれるらしい。とりあえずいつも通りカウンター席に座って二人分の水とおしぼりを自分で運ぶと、メニューと相談し始める。
すると、お通しと言わんばかりにすぐに一品目が出てきた。早くね?
「まずは一品目、湯引きしただけのものだ。酢味噌で食うと良い……って、このぐらいなら兄ちゃんがもうやってそうではあるな」
「まあね。一応何回か食べてはいる」
「じゃあ二品目に期待しながら待っててもらおうか。後、追加でエンペラがまだあったら貰おうかな。今後の研究として少し確保したい」
バッグから出したふりをしながら更に三パック、爺さんに渡す。
「今持ってるのはこれで全部かな。追加の一品があるなら是非期待したいところだけど」
「そうだなあ……一品当たりの量は少し減るが、二品に増やせるがそっちにするか? 」
「色々食べてみたいでーす」
「……との事なので、二品に分けてもらおうかな。期待して待ってるよ」
「任せとけ、今一品思いついたからそれを試す。あくまで試食品だからな」
試食品と言いつつ、それなりに自信はあるのだろう。エンペラを三パックぶら下げて厨房に下がっていった。
「さて、エンペラが届く分だけ胃袋を開けつつ、食べたいものを何か適当に探すか。昼食も中華風だったから中華が被ってしまったな」
「まあまあ。じゃあ私は軽めに野菜炒めでも注文しますかねえ」
「ふむ……やはり俺は唐揚げは外せないな。後は餃子、半分こしよう」
「じゃあそれで」
次の料理が出てくるのを待ちながら適切に湯引きされたエンペラを酢味噌和えでコリコリと頂く。やはり職人の手による湯引きは丁寧な形で作り上げられており、自分で作ったものとは一味違うな、という感覚を覚える。芽生さんはコリコリ感にご満悦だ。
やがて、二品目が運ばれてくる。ある程度の大きさにした後に粉をはたいて唐揚げにしたらしい。唐揚げが被ってしまったな、唐揚げは今回はなしにしておこう。
「三品目はご飯ものになるが、それより繋ぎに何注文してくれるか決めたか? 」
「餃子と野菜炒めで。ご飯ものが来るならそれをつまみにしながら楽しみに待つよ」
「解った。三品目はシメに出すことにしよう。それ以外を先に作ることにする」
爺さんは再び厨房へ戻っていった。あまり分厚くつけられてはいない小麦粉なのでサクッとカリッと行ける感じがする。早速一口……これはこれはこれはこれは。
いわゆる芯の部分はコリコリさを保っているが、外側の噛むとサクッと広がる食感もいい。外側にコリコリ感はなくしっかり火が通ったことにより柔らかくなっておりそのまま蕩け出るように口の中で広がっていく。これは胃に来るな。酒のみじゃないけど酒が欲しいと思ってしまった。
「これはいけるな、ヤバイうまさだ。酒が飲みたい気分にさせられる」
「ほっほう、これはあれですね、いけますね」
二人して語彙力を一時的に消失させられた。これは三品目の……多分中華粥だろうが、それが無くてもこれで満足……いや、満足するには量が足りない。もっともっと食いたいと思ってしまう。これだけをひたすらに食べ続けるだけでも不満が出なさそうなこの味、このコリコリ感、このサクサク、この、あぁ、語彙力が無くなっていく。
二人してあっという間に平らげて、もう無いのか……としょんぼりする。
「これはあれですね。定期的に材料持ちこんでお金払ってでもまた作ってもらいたい一品が出来ましたね」
「そうだな、このためだけにエンペラを仕入れてきてくれと言われても二つ返事で了承してしまいそうな自分がいる。しかし、今日は酒が無くて良かった。もし酒があったら【毒耐性】が許すギリギリまで酒を飲んでしまう所だった。注文してなくて正解だった」
「今から飲んでもいいんですよ?家までは送りますから」
「いや、家に帰ってからやることがあるからな。ここは残念ながら我慢だ」
うむ、今日はともかく明日もあるしまだ連勤初日なんだ、こんなところで酒飲んで翌日に残すのはよくない。今日のところはとにかく我慢だ。体にいい我慢をしよう。
箸休めというわけではないが、餃子と野菜炒めが届いた。これで腹を繋いで三品目が来る前にほどほどに満足しておくか。
「お昼も野菜炒めでしたがお夕飯も野菜炒め。お通じにもよくて何よりですね」
「昼夜と野菜炒めなのは気にしないんだな」
「作り手と味付けがまるで違うのでこれは別料理です。なのでノーカンです」
腕の差をきっちりと指摘されてしまったが、あっちは本職、こっちは趣味兼勉強中の身だ。俺も勉強させてもらうつもりで今は餃子を主食に野菜炒めをつつかせてもらおう。
うむ……やはりプロの味付けか。美味しい、箸が進む。今すぐにでもご飯が欲しい。しかし、ご飯はシメと言われてしまったのでおかずで腹を満たしていく。決して不味いわけではないのだが、物足りなさを覚えながらの食事になる。早く三品目は届かないのか。
餃子もいつものウルフ肉でそこそこの脂を皮の中に蓄えている。噛むと出てくるこの水分と脂分のいい感じの濃さがまたいい。やはりここの餃子はどの肉で作っても美味しいな。
餃子を一皿食べ終えて、芽生さんの野菜炒めをつまみ食いし、俺の野菜炒めに足りない味わいは何なのかを考えながらの食事。うーん、今回は変わり種だったのが大きな違いか。やはり豚に限らず何らかの肉は入れておいたほうが味わいは増すな。あれはあれで美味しかったとは思うのだが。
しばらくすると三品目のエンペラ食品が運ばれてきた。シンプルな卵中華粥だ。具はネギと卵と貝柱、それにエンペラを細かく刻んだものが載っている。目に見えない具材は他にもあるかもしれないが、香りからするに生姜は使われているな。
「お腹に優しい中華粥だ。エンペラがいい具合に溶け出して美味いはずだ」
爺さんの説明もそこそこに、早速食べ始める。貝柱の旨味がまず届き、そしてしょうがのピリッとした感じが舌に届く。そして、その後口全体をうっすらとエンペラのお肌に良さそうな栄養素が覆っていく。鶏ガラだしがしっかりと米の中にも行きわたっており、この具が邪魔だなあというものが無く、それぞれの具が自己主張しながらも全体の統一感を整えている。
もっとエンペラを前面に押し出してくるのかと思ったがそうではなく、エンペラが中華粥の美味しさを全体的に底上げしているような感覚。こういう粥は食べた事なかったな。たった一品加えただけでこんなにも滋養がありそうなものとしてグレードが上がるものなのか。これはエンペラがすごいのか爺さんの腕がすごいのか。
なんだか今日一日の疲れまで持って行ってくれてしまいそうなこの美味しさ、ほっこりする。気が付けば食べ終わっていた。あぁ、楽しい時間はすぐに過ぎ去ってしまうのだな。もうちょっと食べたかったという心残りを覚えるも、お出ししたエンペラがもっと贅沢にあれば美味しい商品として定番高級メニューとして加えられることもあるのだろうか。
俺では作れない味を確かに爺さんは一つのサンプルとして教えてくれた。これを一つの目標として料理の腕を上げろということだろうか。ともかく、満足できた。量はともかくとして質として満足だ。これから帰って調べものしてお泊り、ということを考えると、このエンペラの滋養は中々に必要なものだったのではないか。
「ふー、美味しかったですね、流石お爺さんです」
「中華屋としては定期的に仕入れておきたいものになるかどうかはともかく、美味しく調理できるというのが解っただけでも大収穫だな。これを一つの目安に何か美味しい一品料理に高められるように努力してみよう」
すべて食べ終わったところで会計。爺さんはニコニコ顔で支払いを受け取る。
「エンペラだけなんて久しぶりに調理したが、腕は落ちてなかっただろ? 」
「あぁ、色々ヒントをもらった気がするよ。自分でも作ってみようという気になった」
「出来れば家で食って行ってくれると助かるんだがな。あれは一パックいくらするんだ? 頻繁に拾えるならそれなりの値段で買い取りたいところなんだが」
爺さんも食材として気に入ったらしい。さて、いくらという値段はまだ付けられないぞ。
「ダンジョンの底のほうのドロップ品だからまだ値段は付けられてないんだ。値段が付いたらまた教えるよ。あの美味さならまた食いに来る。特に唐揚げが良かったな。次回頼む時は酒も頼みたくなるぐらいだ」
「あれは俺もつまみ食いして気に入った。晩酌のお供にも最適だろうし客単価が上がりそうで悪くない。兄ちゃんが良ければ、だが定期的に仕入れたい商品でもあるな」
「考えておくよ。今のところギルドでも買い取りが始まってないから溜めこんでる最中なんだ。また持ってくる。いくらかかるか解らないから支払いは後日まとめてって形でも問題はないと思うが」
そういえばこれ、いくらするんだろう。馬肉と同じぐらいかな? それともやはり大きさがある分ほかのすっぽんのエンペラなんかと比べての値段を提示すればいいのだろうか。その辺も含めてギルドの査定価格を参照するしかないな。
「まあ、値段が決まったらその価格をおしえるから、それから値段の話にしよう。今日は飯も作ってもらったし、お土産でもあるしね」
「そうか、解った。じゃあまた食いに来てくれよ」
中華屋を後にする。今日は指輪も二つ出たしリーンにも久しぶりに再会したし、色々あった日だったな。まぁ、この後もいくつかイベントみたいなものは控えている。まず家に帰ったら熊本第二ダンジョンの様子を調べることになるし芽生さんもオプションでついてくる。
芽生さんは美味い中華を喰えてご満悦の様子である。そのまま機嫌よく家まで来るだろうから……多分着替えは把握してないが我が家のほうに用意してあるのだろう。結局掃除した時も部屋には立ち入らなかったからな。
「そういえば先日家の掃除をした時に思って結局やらなかったんだが、部屋の掃除は定期的にしておいたほうがいいか? それとも自分でこまめに来て掃除する? 」
「あ、特に散らかしている自覚は無いので自由に立ち入ってください。引き出しの中とかに探りを入れたりしない限りは問題ないです。ほこりも舞うでしょうし、洋一さんの好きなタイミングで掃除しちゃってください。もし洋一さん目線で散らかってるという話になった場合はどこまでが散らかっているかと判断するかを協議する必要がありますね」
芽生さん的には片付いてる、ということらしい。その言葉を信用して、家に帰って早速掃除の手を入れさせてもらうか。
家の近くのコンビニでおやつになりそうなものを見繕うと、自宅へ。ミルコ用の追加のお菓子も買ったのでこれからオッサンと女の子が二人でお菓子食べながら何やら楽しそうなことをする、という具合に見られているのかもしれないな。
家に着き、早々と片づけを終わらせると、早速芽生さんの部屋に掃除機片手に立ち入らせてもらうことになった。
芽生さんの部屋は俺の目線で言う所だと充分に片付いているという判断をすることが出来たのはホッとしておけるところだろう。ただし、割と閉めっぱなしにしていたので部屋がムッとしていたのはご愛敬だった。
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後毎度の誤字修正、感謝しております。