1079:延長戦
ダンジョンで潮干狩りを
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マツさんのゲル
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帰還勇者の内事六課異能録
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充分休憩した後、それぞれのパーティーで動き始める。
まず、結衣さん達にここまでの分け前を折半した分と合流前に渡された分のインゴットを返す。
「ここまでありがとうございました。おかげで戦闘にも参加できて身軽に動き回れました」
横田さんからはかなり丁寧にお礼を言われた。荷物が重くて戦闘に参加できない、というのは結構なストレスだったんだろう。自分も心地よく戦闘に入ってちゃんと荷物持ち以外でも役に立てるんだという証明がしたかったんだな。
五十層から五十二層はドロップ品が軽いとはいえ、五十三層からのインゴットを背中に積んでいく作業は結構骨だ。保管庫が無ければすべてのインゴットを放棄してでも前に進まなければいけない所だった可能性はある。
「こっちも戦闘人数が一人増えたおかげでかなり楽な直進が出来ましたからそこはお互い様って事で。秘密を知っている者同士、出来るだけ楽な探索をしていこう、というのが俺の方針ですので」
素直な感想を述べておく。荷物の引き渡しは済んだし休憩はしっかり取った。隠蔽はOFFにしてあるのでここから先は今までより密度の高い、そして儲かる探索が出来るようになるだろう。インゴットはここまでで六十個ほど入手している。これだけで千二百万。重さはリヤカーに預けるので問題なし。前みたいに一トン溜めこんだりしない限りは大丈夫だろう。
もし他の材料が必要になったらその都度取りに行くつもりではあるが、必要になったとして自力で取りに行く必要がありそうなのはシャドウバイパーの牙ぐらいか。石原刃物で要求されたら出すぐらいで後は査定経由で市場に流すほうが経済的に健全と言えるな。
「さて、休憩終わりとして、今日の分をもうちょっと稼ぎに参ろうか。ここで和んで終わりにするのはちょっと時間が勿体ない、今日も今日とてしっかり稼いだぞというのを実際の金額で示す必要も有るしな」
「そういうわけで結衣さん、私たち行くからねー」
「いってらっしゃいー、お引越しありがとねー」
ブンブン手を振る結衣さんを尻目に、再び五十五層へ上がる。
「さて、隠蔽付けっぱなしをすっかり忘れていた二人ですが、外すとあれだけの儲けになるのはちょっと想定外でしたね」
「隠蔽OFFであれだけ稼げるなら五十九層よりも実際に査定できる金額では上になりそうだ。これは思わぬ鉱脈を見逃してたな」
「早速寄ってきましたよ。流石に索敵範囲が広くていらっしゃる」
階段下りて歩くとすぐモンスターが引っかかる。これは迂闊に遠くまで出かけると時間がかかってなかなか帰って来られない奴だな、注意しないと。
いきなり二グループを引っ掛けたが、それぞれで一グループずつ対処。全力雷撃一発でまとめて吹き飛ばせるようになった俺にとっては不都合はあまりないが、芽生さんはどうかな、うまく手数で押し切れるかな。
一発でベータ型もろとも消し飛ばしてドロップを拾いに行くと、拾いに行く過程でまた一グループ引っ掛ける、といった具合に次々にモンスターが来る。これは五十二層なみの連戦を強いられることになりそうだ。
できるだけ近づけてから全力雷撃をお見舞いして、撃ち漏らしたら更に雷撃追加で対処。いまのところはこれで五匹までは問題なく対処できる。そしてここの階層最大の一グループはアルファ型三匹ベータ型二匹の五匹態勢。つまり、俺の持ち分としては充分に対処可能であると言える。芽生さんのほうに気を配り、撃ち漏らしが発生しそうならこっちでカバーリングをかけるようにしていこう。
「ここはなかなか楽しいですね。これで経験値が美味しいなら魅力的な狩場です。指輪集めに飽きたらちょくちょく来て集団戦を楽しむのもいいかもしれません」
一時的にモンスターの襲撃が止んで喋る暇がある内にすり合わせ。お互い戦力的に相手をすることは難しくないようだ。
「五十九層では隠蔽OFFにしようがONにしようが壁の都合で寄ってくることはないだろうから、こういうだだっ広いマップでしか使えない手だが……というか本来これを相手にしなきゃいけなかったんだよな。そう考えると随分ズルをしてしまったようにも感じる」
「今更ですよ。それより、時間目いっぱいまで狩って帰りましょう。結衣さん達と楽しく狩りしてた分でもしっかり稼げてはいると思いますが、二人だけの時のほうがより稼げます」
「それは間違いないな。頑張っていくか」
◇◆◇◆◇◆◇
午後五時になってそろそろ階段まで戻るか、ということになったので隠蔽をONにして少なめのモンスターリポップと探知範囲の中、真っ直ぐ階段まで戻る。
「在庫にしておくインゴットは三十もあればいいかな。三十キロフルに使わないと作れないような武器や防具を要求する可能性は低いし」
「そうですね、まだこの槍が持つ間は……いや、危うくなってから新しく作るよりも早めにお願いをしに行ったほうが良さそうですね。私も一品穂先を作ってもらいましょうかね。次行くとき教えてください。私も作ってもらうことにします。ちゃんと実費で」
流石に二人そろって材料持って来たんでこれで作ってください、では石原刃物の経営が怪しくなる。毎回現物で作ってくれというのは申し訳が無い所なので芽生さんには相場を教えてもらう意味でも、ちゃんと現金で払ってもらう所は払ってもらって、次回以降の基準を作ってもらわないと。
ちゃんとお金を払って経済を回して、社会に貢献していく必要があるだろう。俺の収入もそういう風に回していかないと経済が委縮してしまう。
階段まで戻ってくると、階段周辺でグルグルと少しずつ戦っている結衣さん達が見えた。どうやら今日一杯頑張るつもりでいるらしい。向こうが気づくと手を振ってきたのでこちらも振り返す。こっちはもう帰りますよ、という意思は通ったらしい。
階段を下りて五十六層。リヤカーに今日の成果物を、インゴットから順番に載せていく。インゴットもちゃんと在庫の分を残して全部積み上げたが、やはり重量というか密度があるものを乗せたおかげか、いつもより重厚感がある。
「重そうですかね? やはりインゴットは荷物としては厳しい範囲ですか」
「そうだな。でも乗り切らないほど集めた訳でもないし、このリヤカーは三百キログラムぐらいまでなら耐えてくれるからまだまだ積めるほうではある。宿泊分までは保証しないが一日頑張った分ぐらいなら余裕で載せきれるだろ」
「洋一さん的にはしばらくはその予備だけで問題ないと思ってるんですか? 」
「三十個あればなあ。買い取り単価で言えば六百万の原価分の材料だ。例えば武器一品あたり一キログラム使ったとしてもざっと三十本できる。充分でしょ、フルプレートアーマーを作るでもない限りは」
「まあ、たしかにそうですが。足りなくなったらまた取りに行けばいいということですね」
「その時こそ、午前中だけ五十五層で、という手段は取れるしな。市場に供給が欲しいからもっと持ってきてくれって言われても、その時は結衣さん達も動員できるわけだし考えてるよりも早く多く供給することは難しくないと思ってるよ。自分たちが必要になった時に即出せる分量はこれだけ、という点では三十個は悪くないラインだと思うな」
お中元にインゴットという可能性は無い。他の肉はあいさつ回りのお中元に利用させてもらっているし、自分たちで消費するから、という理由である程度なあなあを付けてもらっている。しかしインゴットはちゃんと持ち歩くだけの説明が必要だ。その辺を芽生さんが納得してくれるかどうかである。
「解りました。最悪私が作る時に材料が足りなくなってもすぐに運んでこられるように、ということにしておきます」
「そう思っていてくれるとありがたい。我々にとってはたかが六百万だが世間様では六百万も! だからな。Bランク探索者が一日頑張って稼げる金額が精々三百万ぐらいだから、いかに上位層とBランク帯、そしてB+ランク帯に資産の乖離が有るかがよく解るな。これはいずれ是正されていくかもしれない」
正直、先端を走りすぎて稼ぎ過ぎているという意識はある。だったら派手に使えよという話なんだが、今のところまだ派手に使う部分の”派手に”の部分が自分の中で納得できる落としどころを見つけられていないし、使う前に溜まって行ってしまうのだ。何かしら面白いことにチャレンジするということは必要かもしれないな。
例えば人工ポーションの研究開発を進めている会社に投資してみるとか、そういうのもいいかもしれない。ただ、これはダンジョンの目的に相反することでもあるのでダンジョンよりである俺の意識としてはちょっと向きづらい方面の話だ。
ポーションと魔結晶でドロップ査定金額のほとんどを稼いでいる身としては、人工ポーションの製作によるコストの格下げやポーションの価値の激減によって査定金額が下がり、奥へ行ってもそれほどの収入にはならないのだからほどほどのところで稼いでいればいいか、と奥へ向かわない探索者も出てくることだろう。そうなっても一向に構いはしない。というかそのほうが現状ではダンジョンマスターにとってもダンジョンを踏破させたくないダンジョン庁にとっても有り難い話にはなるに違いない。
そういう意味では、マリモの種の成果物が社会に広まりやすいほうからポーションが値崩れしていくのは良いことなのか悪いことなのか、いまいち判断に困る所ではある。ドロップする場所がそこそこ奥、四十五層帯であることもそれに輪をかけているが、どうも勝ち逃げするような形になって申し訳ない気分で一杯だ。
七層に着き茂君を回収すると地上に戻って退ダン、査定カウンター。今日はいつもより荷物が重く数があるので査定もちょっとだけ長かった。
今日の稼ぎは一億とんで七十一万円。キリのいい数字にはなったからまあいいか。
着替えて帰ってきた芽生さんにレシートを渡して支払いカウンターに並ぶ。
「結衣さん達のお手伝いをしてこの金額ですか。やはり、五十五層の……おっと、ここでいうのは不味かったですかね」
「他人の居ない所でこそこそと話そう。餌をばらまいて無理させて怪我をさせることにもなりかねん」
「そうですね」
振り込みをお願いして休憩室で水をもらい、端っこのほうで二人話し合いを始める。周りに聞こえないぐらいの音量だが、【身体強化】でしっかり聴覚をこちらに向けなければ聞こえないぐらいの声の大きさを心がけつつ今日の反省会だ。
「結衣さん達が居てもこの金額は美味しくないですか? しばらく五十五層に通うのも有りですかねえ」
「でも、五十九層は指輪のドロップ査定無しでほぼ同程度の金額を稼いでいる。指輪がいくら査定になるかは解らないが、そっちの金額が相当な金額になりそうだからな。なにせ探索者じゃなくても効果のある指輪だ。金で買えない貴重な人物を守るためには億出したって安いぐらいだぞ」
芽生さんが自分の指にはまっている二種類の指輪を眺める。下手な結婚指輪よりよほど高いからな。ちょっとうっとりしている気がしないでもないが、薬指に着けてないあたり分別はわきまえているものと考えられる。
「これ一つで億ですか……ちょっと信じられないですね」
「そういえばいつになるんだろうな、これの査定開始するの。もしかしたらサンプル品を誰が売ってもらうかで競争してるかもしれないし、国家としても国家元首に一つ二つ装備させておいて暗殺に備える、ぐらいのことはしそうな気がする」
「森本総理にお渡しすることになるんでしょうかねえ。流石に貴重品だからタダでよこせとは言わないですよね? 探索者もそれが叶えば職業の大切さが伝わって満足だろうみたいな感じで奪い取られそうな気がしますが」
「後は良く殴られてそうな両院の議長向けかな。それ以外の需要だと敵が多い企業の社長なんかが買い求めそうではある。サイズフリーではめるだけで安全が買えるなら一億なんて安いもんだろ。広まったら一気に需要がうなぎのぼりするのは間違いないな」
それも含めて中々話に上がってこない、という可能性もある。迂闊に口に出してパニックが起こるようなことは避けたいだろうからな。
「とりあえず今日のところはお疲れ様、というところで。今日の夕飯何にしようかな」
「あ、お夕飯にするんでエンペラ一つください。あのコリコリがかなり癖になってしまったところです」
言われたとおりに一パック渡し、さて自分は何食べようかな。エンペラの酢味噌和えコリコリあんかけご飯なんかも悪くない気がするな。俺も美肌おじを目指すか。
「とりあえず明日からはいつも通り五十九層を回るって事で。指輪の在庫は何個あっても困りそうにないからな」
「そうですね、五十五層は美味しいですが忙しすぎるのもネックですし、自分のペースでサクサク戦闘が出来る意味では五十九層のほうが楽ではある、というところです」
「さ、いつまでもだべってないで帰ろう。おかげで夕食も決まったことだし作る品物の方向性が見えてきた」
バスの時間になったので移動を始める。洋一さんもエンペラですか? という声を横で聞きながら駅まで戻り、別れた後家に帰り、宣言通りにエンペラの酢味噌和えを水溶きカタクリで軽く温めてあんかけ風にしたものを食べた。
味は中々だった。コリコリという食感がとろみと共に喉に流し込まれて行き、嚥下が非常に楽だった。後はビタミンCもたまには取らないといけないな、ということでコンビニでビタミンC飲料を飲んでしばらくはこれで大丈夫だろうということにした。自分にとっては珍しくシンプルな夕食だったと思う。
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後毎度の誤字修正、感謝しております。