1070:しつこい夏風邪? それともお疲れ?
マツさんのゲル
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こちらもよろしくお願いします。
昨日の夕飯はちょっと食べ過ぎたかもしれない。おにぎり無しでもちょうどいい感じだったような気がする。まだ胃が少し重い感覚が残っているのはいつもより夕食が遅かったからだろうか、それとももしかして夏風邪の予兆だったりするのだろうか。眠りに関しては問題ないが少し体が重い気がする。
念のため熱を測ると、自分の平熱より五分ほど高い体温を示していた。風邪の始まりって奴かな。ここはアレだな。朝食を少し肉マシにして英気を養うと共に、余っている在庫のキュアポーションのランク2あたりを飲んで気合を入れなおすことにしよう。普通の風邪なら多分これで問題なく体調は回復するはずだ。もし回復しなかった場合は昼食のタイミングでランク3を飲んで確実に治しつつ、普段通りの行動がとれるように努めていく。
もったいないという気持ちがあるのは貧乏性だからだろうな。ただ、その一本で一億近い収入を確実に手に出来るならこれは使ってもいい消耗品だ。キュアポーションのランク2とランク3は一人で五十一層あたりを回っている時にシャドウスライムから散々巻き上げたものが査定されないまま保管庫に眠っている。出番があるとすればまさに今この時だろう。
ポーションを飲むと腹が減る。前に調べたが、ざっくり言うと体の修復機能や免疫能力やその他いろいろを一時的に向上させるためにカロリーを使おうとするため、たとえ満腹であっても空腹感を覚える、というのが今の見解らしい。なので実際には太って脂肪がたっぷり詰まっているような肉体をしている人であっても同じく空腹感を覚える。
これは生理的にどうしようもないので、満腹時にポーションを飲むのはお勧めできないとされている理由だ。そして、実際の今の俺を見ると……かなり仕上がってきたな、とちょっと満足できるぐらいには体を絞れて来ているので、実際にカロリーを使うのは間違いなく、足りなくなったカロリーは筋肉からも搾り取られることになるだろう。そうならないためにちょっと多めの朝ごはんということになった。
ボア肉を焼いた後焼肉のたれを振りかけて、それを食パンにキャベツと一緒に挟む。朝から肉とは贅沢だが、今から飲むポーションにそのカロリーをほとんど取られることを考えると本当にこれで足りるんだろうかと少し不安が残る。まあ飲んでみて足りなかったらカロリーバーで調節していく方向で行こう。
食卓に食事が揃ったところでポーションを一気に飲む。胃袋から体に直接染み込むように感じられるポーションの感覚の後、胃袋が激しく暴れ出した。空腹のサインだ。早速いつもより少しだけ遅い朝食を食べよう。今日は肉に卵に野菜にとバランスも良い。きっとうまい具合にペース配分されて全身に栄養とカロリーが届いてくれるだろうと信じる。
一気に胃袋に食物を押し込んだことで、胃袋は栄養が来たと感謝の踊りを踊っている。それと同時に腸も活動を始め、朝のお通じを気持ちよく出すことが出来た。キレもいい。尻を拭かなくてもいいぐらいに良い出しっぷりだ。ちゃんと拭いて確認はするが、紙にほとんどつかないぐらいの綺麗さを維持していた。なんだか今日は良い事がありそうな気がする。
昼食は中華風味付けのごった煮だ。昨日は爆弾おにぎりにしようか悩んだが、今の体調を考えるとおにぎりで済ませるよりもちゃんとしたものを作って胃袋に入れ、その後の動きを見て疲労がたまっているのか、それともただの風邪で快調に過ごせるようになったかを判別しないといけない。その場で予定を変更できるのも作る側の強みだな。
まず材料をざっくりと切りそろえると中華風調味料を水で溶いたものと鶏ガラスープを鍋で沸騰させ、そこにまず火の通りにくいものから入れていく。肉が入るのはご愛敬だが、その肉も鶏ガラスープによりすべてが中華になっていく。
肉の表面の色が変わる程度に火が通ったら人参、ピーマン、キャベツ、白菜、マイタケ、ブロッコリーと具材を入れていき、スープと掛け合わせて味が全体に馴染むようになったら砂糖酒醤油ごま油などで風味付けをして、最後に水溶き片栗粉でとろみをつけて、とろみが消えないうちに鍋から下ろして一皿に移す。中華風で味をまとめるのは初めてだが、味見をして……うん、悪くないな。こんなものだろう。
これで昼食はヨシ、ご飯が炊けるまでニュースでも見て待つか。
B+探索者が増えつつあるという記事。第一号は八月二日付で早速B+ランクに昇級し、その足で三十一層へ向かったという話と、それにまつわるインタビューが載せられている。
彼ら曰く、いつかB+ランクが解放されることを考えて、出来るだけのことをして回ったのがいい方向に転じた。ボス討伐はさすがに一パーティーでは難しかったので他のパーティーと組んで執り行い、各パーティー順番に討伐報酬を得ることで納得した等、裏話をちょいちょいと話してくれている。
ギルド税納付のほうをきちんと終えていたということは相当二十九層で鍛えたパーティーに違いない。今回の昇級はどこのダンジョンでも均等に行われたため、しばらくは各ダンジョンでの昇級のための調査や報告、昇級手続きで混雑する可能性がある、とのこと。もう数日前のネタなので真新しさこそないものの、思い当たるパーティーたちは無事に昇級して三十五層へ向けて旅立っているんだろうな。
小西ダンジョンの三十一層は結構な難所だ。橋の上を一時間近く戦闘をぶっ続けで行って通り抜ける必要がある。同じタイミングでB+ランクになったパーティーと合同で進むのが安全な手段と言えるだろう。そのまま一回で三十五層までたどりつけるかどうかはわからないが、そろそろB+ランクの新規参入者が増えて一週間になる。三十五層の様子を見に行くのも面白そうではある。
が、まあその様子はギルドの建物内で聞き耳を立てるなりの方法で仕入れていくことにするか。自分たちの探索の足を止めてまで進捗を入手する情報でもない。こっちに質問があるなら俺達が普段帰ってくるタイミングを見計らって話しかけに来るだろうしな。
炊飯器から飯炊き終了の音が流れてきた。時間もちょうどいい感じ。さて今日もお出かけするか。
柄、ヨシ!
直刀、ヨシ!
ヘルメット、ヨシ!
スーツ、ヨシ!
安全靴、ヨシ!
手袋、ヨシ!
飯の準備、ヨシ!
嗜好品、ナシ!
保管庫の中身……ヨシ!
その他いろいろ、ヨシ!
指さし確認は大事である。そういえばそろそろ武器に関して連絡があってもいいころだ。その場合は一人で行くか芽生さんも見学に来るのか一応聞いておいて、それから向かう事にしよう。電車とバスで。
◇◆◇◆◇◆◇
「やっぱり風邪なのかな。夏風邪をひくとは年齢のせいかな」
「朝キュアポーションのランク2飲んできたって言ってましたよね。それでもダメって事は厄介な風邪はランク3が必要ってことなんでしょうか」
どうも熱っぽい気がする。現在の場所は五十七層。昼飯前のこのタイミングでちょっと魔力の使い過ぎにも似た、眩暈の片りんらしきものが出始めた。朝合流した段階で芽生さんには今日はなんだか風邪っぽいということをちゃんと報告しておいたので、その流れで茂君も問題なく狩りここまでたどり着けたのだが体のほうが少し言うことを聞かなくなってきたらしい。
「これは昼食時にランク3を投入だな。それでも明日まだ体調が悪いようなら本格的に病院で受診だ。厄介な病気にでもかかって無ければいいけど」
「ランク3を飲んでそれでもまだ黒字になる我々の収入って本当に収入なんですかね。桁三桁ぐらい間違ってたりしませんよね? 」
たしかに。キュアポーションのランク3はそれだけで七十二万円の価値ということになっている。それを気軽にエナジードリンク感覚で飲んで探索をすることになるのでいかにインフレが激しいかが解る。
「まあ間違っていたとしても困るのはダンジョン庁の出納係と財務省と国税庁だけだ。気にせず行くとしよう」
「ランク3飲んでご飯食べて、それでも調子悪いなら早めに上がって午後の内に病院を受診してしまうという方法もありますよ。そうするのも悪くないんじゃないですか」
芽生さんが体を気遣ってくれている。年齢のせいか、それとも純粋に体調が悪いのか。まだ判断はつけられないが、たしかに僅かな体調の悪さでうっかりが出てその結果ダメージを負う、という可能性はここではまだ存在する。そうなる前に撤退するというのも考えの一つだろう。
「とりあえずお昼まで頑張って戦って、お昼にランク3のキュアポーションを飲む。それでしばらく様子見ってことで。もしかしたらだけど、キュアポーションじゃなくてヒールポーションのほうかもしれないからな」
実は風邪とか病気では無くて疲労がたまっていてそれが原因で体調不良になっている、という可能性はある。連勤が知らない内に見えない疲労を溜めこんで……という普段自分が気を付けているパターンだ。それが今回現れたという可能性は捨てきれないな。
「とりあえずいつもの休憩場所まで行こう。何かするのはそれからだな」
これなら体温計ぐらいは保管庫に入れておくべきだったな。医療的器具をすべてとまではいかないが、簡単な怪我はポーションで治ってしまうし、自覚症状の薄い体調不良なんかを判断する器具……体温計以外にも血圧計なんかも所持しておいて損はないだろう。今度ホームセンターに寄った時にでも購入して保管庫に入れておこう。
五十七層での戦闘は体調が多少悪い中でも問題なく戦い続けられることを確認しつつ、回廊のいつものキャンプ地まで来た。ここで昼食とする。
昼食の準備をして食べ始める前にキュアポーションのランク3を用意し、キュポッとキャップを開けて腰に手を当て、グイッと飲み干す。身体の中にしみ渡っていく感覚と共に朝感じた空腹がまたやってくる。これで治らなかったら今度はヒールポーションのランク3だな。
空腹を催し軽い飢餓状態になっているであろう身体に早速米と中華風ごった煮を入れ始める。腹が減っている分より美味しく感じるのは米のブランドの良さもあるだろうが、ごった煮を美味しく作れたという自己満足もあるだろう。
「今日のはまた一風変わって美味しいですね。洋一さんは空腹でしょうから余計に美味しく感じることでしょう」
「まさにその通りだな。ご飯を少し多めに炊いて来てよかった。食が進んで仕方がない」
モニュモニュとしっかり咀嚼し、早くエネルギーに変わるべく体に消化促進の合図を送り、しっかりと消化を始めた胃袋が嬉しそうに動いている。食事とはこうあるべきだな。
「さて、それで治らなかったら次はどうしますか、ヒールポーションのランク3あたりでも飲んでみますか」
「それもありだが、ちゃんと医者にかかったほうが良いかもしれん。まだ健康診断の結果も返ってきていないし、潜在的な病気なんかにかかっていた場合は問題だからな。少なくとも咳とか痰は出てないから風邪の線は消しても良いと思う。後はどんな原因があるかを探るには俺の頭の中では無理だ、餅は餅屋に任せようと思う」
「そうですね、もしかしたらですが、ここ数日連続で潜ってるせいで疲労がたまっているのかもしれません。疲労抜きにヒールポーションは効果があるかどうかはわかりませんが」
「疲労か……ただの疲労ならドライフルーツ二枚ぐらい体に入れておけば魔力の回復も込みでちょうどいい感じになるかな」
食事が終わった後にドライフルーツを一気に二枚摘まみだすと、口に含んで噛む。すると、いつもよりも激しい暑熱感に襲われる。その後の清涼感がとても心地いい。やはりこれはあれか、風邪っぽいのもそうだったが疲労も溜まっていたのかもしれないな。
「……いつもより美味しい。やっぱり疲労だったのかな」
「私も一枚貰いましょう。若いとはいえ洋一さんと同じだけの負荷を身体にかけているので私のほうにも疲労がたまっているのかもしれません」
芽生さんがドライフルーツを齧っていつもの感覚に悶えている。ちょっと目の保養になった。
「久しぶりに食べると効きますね。これ私にも疲労がたまっていたってことなんでしょうか」
「そうかもね。何にせよこの後いつも通り動いてみて、問題が無かったら原因は疲労の蓄積による過労状態ってことになりそうだ。それならそれで問題なしということで、明日また同じことが起きるようなら朝の時点で連絡入れて朝から病院に行ってみることにするよ。今はそうだな……念のため寝ておくか」
机にもたれかかると、アラームをセットしてガチ寝モードに入る。これで寝てる間に汗を……汗かきそうだな、スーツの上着は脱いでおくか。スーツの上着を保管庫に仕舞うとワイシャツ一枚になって改めて枕を出し、枕に頭を任せて眠ることにする。
「おやすみなさい、私はモンスターが来ないように警戒しておきますね」
芽生さんが代わりに警戒してくれているらしい。モンスターが来ない場所とは言えここはセーフエリアではないので芽生さんにすべてを任せることにする。短い時間だがしっかり眠って体調のほうを元に戻すのも探索者の務めだ。今はしっかり眠って後に疲れを残さないようにしておこう。
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