1069:夏の布団屋は忙しい
ダンジョンで潮干狩りを
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真っ直ぐ五十六層まで戻ってきてエレベーターで七層へ。エレベーター内で荷物の整理をする。
「そういえば、今はめてる分も含めて指輪は何個になりましたか」
芽生さんが荷物整理ついでの質問をしてくる。ええと……
「今倉庫に入ってるのが三つずつ。それからダンジョン庁に預けてあるのが一個ずつだな」
「なるほど、じゃあ私たちでもう一つずつつけてしまうという選択も有りなんですね」
自分の中指に一つずつつけている指輪を着けたり外したりしながら本当に効果があるのかどうかを確認している。ダンジョンマスターのお墨付きだからそこは信用していいと思う。
「今のところ苦戦してないから増やす予定はないが、もう一つずつつけて確実に防御力をマシにしていくか? 」
「それもそうですが、私【魔法耐性】二つ分になったじゃないですか。その分魔法耐性の指輪は必要ないのかなって。つけておいたほうがいいんでしょうかね」
「邪魔になって仕方ないなら外しておいても問題ないかもな。確かスキルに比べて三分の一ぐらいの効果だと言っていたし、芽生さんは今魔法耐性二つと三分の一の硬さを身に付けていると言える。リッチの弾幕を気にせず殴り込みにいけるかもしれないな」
この五十七層から五十九層でしっかり指輪とスキルオーブで耐性を付けてからリッチに挑む。そういう作りになっているのかもしれない。よく出来てると感心はするな。ただ指輪のドロップ量が少なすぎることと、リッチのあの魔法の威力に対して何個指輪を着けていけばいいのか、という点にはまだ一考の余地はある。リッチが身に着けていた指輪の数を考えればなおさらだ。
七層に着き、ダッシュで茂君を回収すると一層へ。地上に出ると退ダン手続きをして査定カウンター。いつも通り仕分けられたドロップ品を……と言っても魔結晶とポーションだけなので査定はすぐ。五分かからず結果が出てきた。今日のお賃金、一億千百七十万円。かなりキリのいい数字だ。
着替えに行った芽生さんを待ちながら保管庫からバッグ経由でスマホを取り出し、何か着信が無いか確認すると、布団の山本から連絡が来ていた。どうやらダーククロウの羽根の在庫がいよいよヤバいらしい。まだ時間はあるし、ちょっと遅くはなるものの今日中に急いで届けたほうが良さそうだな。
そのまま電話で連絡をする。すると、到着するまで店を開けておいてくれるとのこと。これは今日中に納品してその足で夕飯を探しに行くのが良さそうだな。
着替え戻ってきた芽生さんにレシートを渡す。
「布団の山本から緊急で納品してくれと連絡があったので急ぎで置いてくるよ。どうやら半休を使わなくても良さそうだ」
「需要があるのは良い事です。張り切って置いて来てください。要らないと言われて在庫の山を抱えるよりはよほど経済に貢献してますから……いや、でもその場合だと朝晩の一時間を五十九層に費やせるのでそのほうがお金になるのでは? 」
「朝は昼食のタイミングがあるからともかく、晩はそうかもしれないな。三十分で……大体一千万ぐらい変わるから大きいな。そう考えるとこっちに時間を割いてもらうのはちょっと申し訳なさがあふれてきた」
俺の都合に芽生さんを付き合わせることになってしまっているのだよな。そこは素直にありがたさを受け入れておこう。
支払いカウンターで振り込みを依頼すると、ギリギリでバスの時間に間に合ったので二人飛び乗り、そのまま駅で別れると電車に急いで飛び込む。この時間は本数がそこそこ多いので何処に乗っても最速で最寄り駅までたどり着くことが出来る。
駅に着いたら走って自宅へ着き、荷物も着替えもそのままに保管庫からエコバッグに十五キログラム分のダーククロウの羽根と、四キログラムのスノーオウルの羽根を積み込む。今回は価格改定から初めての納品だ。多少値段のやり取りをしなければならない。手元の請求書の値段の欄は空白にしておいて持って行って向こうで手書きで書くことにしよう。まずは店に急がないとな。
三十分普段ならかかる距離を二十分で急ぎ到着。まず店に入り店長に挨拶。
「ご無沙汰してます。相棒が夏休みに入ったおかげで毎日通っているところでこちらも中々に忙しくて来るのをすっかり忘れておりました。わざわざのご連絡ありがとうございます」
「いえ、こちらこそ言ったその日に納品してくださって助かります。正直なところ今日入って来なければ明日からのお客様にはしばらく待っていただくか、通常の羽毛である程度嵩を誤魔化した布団をお勧めするところでした」
「後、毎度のことなんですが八月に入りまして価格改定のほうが行われまして、ダーククロウのほうは値段の動きは無かったのですがスノーオウルの羽根のほうは大きく価格が下がることになりました。今回はその金額の相談も込みでやっていこうと思います」
そう、今回はダーククロウの羽根の値動きが無かったのだ。前回の値上げで他のダンジョンで意欲的に狩られているのかどうかまでは判断できないが、現在の値段を変更しなければならないほど需要が湧き上がってこなかったということなのだろう。
スノーオウルのほうはこれからB+探索者が増えていくことで希少性が失われていくことを見越しての値下がりであるということは公式見解として出ている。今回の価格改定は一般にも広くギルドの査定料金が解放されたため、山本店長もスノーオウルの羽根の金額については納得しているところだろう。
「まずは品物の確認をいたしましょう。値段交渉はその後、ということで」
「左様ですね。すまないが数人来てくれ」
店長の声でいつもの店員さんたちが車のほうへ集まってくる。ダーククロウの羽根とスノーオウルの羽根、それぞれ別に運び入れるように頼む。解ってますよという顔をしながらみんな次々に車から羽根を運び出していく。
納品が終わったところで商談スペースに行くとよく冷えていそうな麦茶といつもの羊羹が用意されていた。毎回これが楽しみな所はちょっとある。
「では、改めて。今回はスノーオウルの羽根に関しての値段交渉を行おうと思います」
羊羹を一口でいただいて麦茶で流し込んだところで話を切り出す。
「確か百グラム当たり三万円がギルドの査定価格でしたね。ギルド税が引かれて安村様の手元に残るのは二万七千円ということになりますがそこは間違いございませんね? 」
「合っています。細かい値段交渉をするつもりはないのではっきりと言いますが、今まで充分稼がせてもらっておりますのでそれほど高い値段や現状維持を主張するつもりはありません。かといってギルドの査定価格そのままで取引を続けるのはダンピングになる可能性もありますのでいい落としどころを探そうとは思っていますが」
お互いが、相手はいくらぐらいを望んでいるんだろうと顔色を窺い合う。
「では、この辺りでどうでしょう? キリのいい数字ですし、そこまで大きな損はないとは思いますが」
山本店長が出してきた金額は四万円。ギルド査定価格からは一万円、実費で言うと一万三千円の上乗せということになる。今回持ってきたのは四キログラムなので百六十万円、ダーククロウの羽根と合わせると二百十四万円が今日の取引価格ということになるのかな。
正直金額は割とどうでもよかったりする。今までかなり高値で購入してもらっていた部分もあるし、ここで布団の山本に大きく利幅を取らせることで店に対しての見えない投資という形で提供するのも悪くないだろう。
「解りました。では、今後半年間はその価格で行きましょう……と、結果が来ましたね」
店員が今回の重量と品質についての情報を紙に書いて持ってくる。
「最近はちょいちょいダーククロウの羽根を持ってきてくれる個人探索者もいましてね。大きく品質を五段階に分けて評価して、それで値段を設定させていただいているようにしているのですよ。安村様の今回の品質は文句なしの最優秀品質とさせていただいていますので、金額は今までと同じように百グラム三千六百円の取引とさせていただいてもよろしいでしょうか」
「品質に関しては御社の判断に任せていますから。私に出来ることは出来るだけ良い品質のままここまで運んでくる、それだけです。ご満足していただけなら結構なことです。では、それぞれの重さは……」
計量してくれた重さ通りの重さと金額を書きこみ、電卓で計算、想像した通りの金額が出てきた。
「安村様がお持ちくださる品質を最高品質と仮定してのこの金額なので、他の探索者の持ち込んだ羽根の金額などはこれを基準にして判断していきたいと思います。品質が悪ければその分金額は安くさせていただくつもりなのでそこは一応御内密の取引金額ということにさせていただければよいかな、と考えております」
「わかりました。その言葉重く受け止めておきます」
どちらの羽根も品質良くこれからも頼むよ、ということだろう。保管庫に入れっぱなしで放っておいてあるにせよ、これ以上ない品質のまま積んで持ってきているのだからこれを基準にして悪い状態を作る、というほうが確かに合理的だろう。
からくりを話すわけにはいかないが、摘み立てほやほやをいかに維持するかというのはトップシークレットということにさせてもらっているのだ。その分良い品物を取引できるならこっちも向こうも納得の落としどころができたことになる。
「さて、夕飯がまだなので私は早々とで失礼かもしれませんが失礼します。山本さんにも閉店ギリギリに荷物を持ちこんでしまってどうも申し訳ありませんでした」
「いえいえ、明日からの営業が無事にできるとなれば多少の残業代ぐらいは出せるぐらい当社も儲けさせていただいております。最近は探索者さんのお客様も増えまして。自分では取りに行かないが寝心地を試すにはちょうどいいと、少量ですが貸し布団も回させていただいております。おかげさまでそちらも好調でして」
なるほど、買うのはためらうけど一晩いくらなら試してみてもいい、という点では貸し布団というのは効果的らしい。そして明日からはどうやって眠ればいいんだと悩ませて購入に走らせるということか。中々考えてるな。そしてその効果は絶大らしいことは羽振りの良さを見ればわかる。今後もお互い儲けていけばいいな。
「では、お疲れ様でした。また失礼します」
「はい、またよろしくお願いします。本日はありがとうございました」
笑顔で見送られて布団の山本を出る。さて、今日も二仕事終えた。終えたと思ったら腹が減ってきたな。ミルコのお菓子も無くなったことだしスーパーへ買い出しに行こう。今日の夕飯はスーパーの弁当だ。
胃袋からは、仕事終わったならそろそろこっちも仕事をさせろと催促の脈動が始まっている。これは中々の時間勝負だぞ。いつもの三点セットと夕飯、そしてお菓子。今日は決めたものだけを買おう。ミントタブレットもそろそろ在庫が尽き始めている。これも箱で買いこまないとな……後はコーラはまだ在庫があったはず、と頭の中と記憶にある冷蔵庫の中を照合させながら、いつものスーパーへ。
いつもの三点セットを無事に確保すると弁当コーナーへ。布団の山本に寄っていた分普段より遅い来店となったため、弁当はそれほど種類は残っていない。牛丼は最近店で食べたから無しとして、後は焼きそば弁当と鮭弁当、それからいくつかのおにぎりが残っているだけだな。
おにぎりか……簡素だが腹に溜まって手軽で食べながら移動できる方法もあるな。大きめに握って具をたくさん詰め込んだ爆弾おにぎりを家で作って持っていく、そういうのも有りだな。メモに残しておこう。
今日の弁当は焼きそば弁当とツナマヨおにぎり、それから賞味期限の近いはずの牛乳で胃袋を満たすことにしよう。明日のレシピはごった煮だ。ついでに具材も仕入れておくか。何が良いだろう。
人参マイタケブロッコリーとちょっと一風変わったものを入れてみるか。味が喧嘩しそうだが、多分中華出汁を加えれば全部中華として食材が立ち上ってくるはずだ。中華風のごった煮。中華であることを主張するように隠し味にシュウマイを放り込んで豚肉の味付けで深みを出そう。
さて、明日からはスキルオーブ狙いの毎日になる。流石に昨日出たから今日は出ない、とも言い難いのがスキルオーブだ。狙って出すことは難しいが数を回せば必ず出る。明日もしっかり五十九層を回って数をこなしてスキルオーブが落ちるようにちょっと狙ってやってみるか。
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後毎度の誤字修正、感謝しております。